国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」が、10月27日で発行から1年を迎えた。
この1年で、JPYCの使い道は大きく広がった。
ローソンではPOSレジでの決済実証が行われ、物流大手のAZ-COM丸和は協力会社約2300社への支払いにJPYCを導入すると決めた。
ソニー銀行やLINE NEXTなど大手との連携も進んだ。海外では米サークルのオンチェーン為替基盤「StableFX」のパートナー通貨に採択されたほか、韓国のUpbitなどの取引所でも取引が始まった。
JPYC社の岡部典孝社長は、事業の展開が「思った以上に早かった」と振り返る。数年かかると見ていたことを、1年目で次々に発表できたという。
JPYC社は9月、累計発行額が100億円を超えたと発表した。それでも岡部社長は、流通について「率直に、伸びてないな」と語る。社内で掲げていた目標に対しては、4分の1ほどの規模にとどまるという。
何が想定を上回り、何が壁になっているのか。岡部社長に聞いた。
NADA NEWSはこの1年、JPYCの動きを報じてきた。各テーマには関連する過去記事を添えている。あわせて読むと、1年の流れがより立体的に見えてくるはずだ。
「数年かかることが、1年で」
Q:発行から1年を迎えた。振り返って、どうだったか。
思った以上に早かった。数年かけてできるかなと思っていたことを、1年目でいろいろと発表できた。特に海外での利用は、正直2年目以降だと思っていた。
JPYCは、誰でも許可なく使えるパブリックチェーン上で発行している。だから我々の知らないところで、Upbitで取引できるようになった。それが追い風になり、銀行とも本格的に組む話が次々に進んでいる。
使われ方も想像を超えた。
ガスレス決済(ブロックチェーンの手数料を利用者が負担しない決済)を真っ先に導入したのはウズラの卵屋さんだったし、お米がAIエージェントによって取引されたり、量子コンピューターの利用料を払えるようになったりもした。
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「率直に、伸びていない」
Q:一方で、数字はどうか。累計発行額は100億円を超え、流通量は現在約30億円超となっている。
率直に、伸びてないなと思っている。取引高は悪くない。
ドル以外のステーブルコインの中では、円建てはユーロに次ぐ3位か4位につけていると思う。ただ、金額としては満足していない。
やってみて実感したのは、100万円制限の厳しさだ。
アステリアさんは10億JPYCを持つと言ってくれているが、何回にも分けて当社に送金し、少しずつ残高を増やしている。そのくらい気合を入れないと、企業が1億JPYC以上を持つのは難しい。
社内で目標にしていた数字と比べると、4分の1くらいの規模感だ。ただ、ドルを含めたステーブルコイン市場全体も、ここ1年ほどは約3000億ドル(50兆円弱)で横ばいだ。

アメリカの金利が高く、ステーブルコインを持たなくても国債を持っていればいい、となっているのだと思う。その中では、ある程度健闘しているとは思う。
(編集部注:JPYC社は資金移動業のうち、1回あたり100万円以下の送金を扱う「第二種」の登録業者だ。このため、JPYCの発行・償還は1回100万円が上限となっている)

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「ムーンしない」と言い残し機内へ
Q:9月17日、韓国のUpbitで取引が始まり、価格が1円から大きく離れた。あの日、何が起きていたのか。
私はアメリカからの帰りの機内にいた。
搭乗前にUpbitの告知を見て、「JPYCはムーン(急騰)しません」と言い残して飛行機に乗ったのだが(笑)、降りたら様子が一変していた。社内には数カ月分の申し込みが一気に届き、朝4時まで対応したメンバーも多かった。
価格が下に外れる事態には備えていた。償還が殺到するので、そのための事業継続計画(BCP)は用意している。
だが、上に外れることは普通は考えない。1円で発行と償還を続ける以外、打つ手がないからだ。
DEX(分散型取引所)に持っていけば2円、3円で売れるので、皆「早く発行してくれ」となる。それでも、マネーロンダリングに使われないよう、本人確認などの基準は崩せない。
急なことで人も増やせず、平時の体制のまま、皆が長時間働いて対応した。
Upbitと、DEXのUniswapを合わせて1日に350億円ほどが取引されたと思うが、大きな事故なく乗り切れた。
Q:流通量は一時40億円を超えたが、30億円に戻った。
銀行に置き換えると分かりやすい。預金20兆円の地銀が1日で40兆円に増え、しばらくして33兆円に減ったら、普通の銀行はたぶん潰れている(笑)。
乗り切れたのは、シリーズBで70億円弱と多めに資金を調達していたからだ。
多すぎると見られたかもしれないが、手元資金の大切さを改めて感じた。今回の逆回転に対応できたことで、安心して使ってもらえる面もあると思う。
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店が割引をためらう理由
Q:利用を広げるため、10月には公正取引委員会への情報提供を公表した。狙いは何か。
「JPYCは利用者にメリットがない」という声を多くもらっていた。
JPYC払いで割引や送料無料にする店もあるが、まだ少ない。聞き取りをすると、クレジットカードやコード決済の加盟店規約を気にして、割引をためらう店が多かった。
何をどう割引するかは、本来は当事者が自由に決めることだ。
公取委は数年前、現金払いの割引を禁じることが独占禁止法上の問題になりうるという報告書を出している。
ステーブルコイン決済にも同じ考え方が当てはまると考え、情報提供した。意見交換の詳細は控えるが、基本的な考え方は共有できたと感じている。
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100万円規制、この秋が山場
Q:伸び悩みの一因である100万円の制限は、緩和される見通しはあるのか。
金融庁の研究会資料には、ステーブルコインの制度を「点検・検討」すると書かれている。

行政用語としては、暗に見直すという意味だと思う。議題に入っているのは間違いない。
ただ、落としどころはまだ見えないので、事業者や業界団体から提案していく必要がある。
勝負はここ1、2カ月だ。政策はだいたい秋に議論し、年明けから国会で審議する。
10月から12月に議論が進まなければ、たぶん1年遅れる。
資金決済法はおおむね2年に1度改正されているので、今きちんと意見を差し込めば、来年の改正に間に合う可能性がある。
Q:法改正が必要になるのか。
必ずしもそうではない。100万円という上限は政省令で定められているので、理論上は金融庁の裁量で変えられる。早ければ来年春に新しいルールになる可能性もあると思う。
たとえば「1回あたり100万円」の「1回」とは何か。発行、二次流通、償還のどこに制限がかかるのか。こうした点を緩めてもらう道もある。
10月21日には、国土交通大臣が訪日客の消費税免税にステーブルコインの活用を検討すると表明した。それくらいの国策だ。
2022年に法律ができた当時は、リブラ(2019年に米フェイスブック〈現メタ〉が発表したデジタル通貨構想)の話もあり、まず規制をかけて小さく始めてもらおうという意識があったと思う。
今は世界中でオンチェーン金融を推進する流れになり、日本も通貨主権を守るためにデジタル化が必要だという空気に変わった。
不必要に厳しくする必要はない、と訴えていきたい。一定の手応えはある。
▶関連記事:井林国土交通大臣、訪日外国人免税にステーブルコイン活用検討を表明
Q:海外のステーブルコインにも同じ制限がある。
外国の電子決済手段、USDCなども100万円が上限だ。USDCが無制限に使えればドルが一気に広がり、円のステーブルコインが育たない、という配慮はあるのだと思う。
だが逆に、JPYCとUSDCを100万円ずつしか交換できないなら、JPYCも広がらない。不合理に厳しすぎるところは、少しずつ緩められるはずだ。
Q:国内の取引所でJPYCを扱う場合にも影響するか。
する。国内の交換業者がJPYCとビットコイン(BTC)の取引ペアを作ろうとしても、100万円の制限がかかるという見方が、実務上は少なくない。
それでは事業者も利益を出しにくい。緩和か明確化をしてほしい。
年末までの議論は、世論が後押しになる。ぜひ報じてほしい(笑)。
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2年目は「発行残高10倍」
Q:2年目の目標は。
世界中の取引所で、もっと扱われるようにしたい。
国内の電子決済手段等取引業者にも取り扱ってほしい。国内の登録業者はまだ2社(SBI VCトレード、コインチェック)だが、業界団体を通じて各社とは密に連携している。
実際にどうなるかは各社の事業計画次第だ。対応するチェーンも増やしていく。
発行残高(流通量)は今は数十億円の単位だが、最低でも数百億円にしたい。年10倍くらいは成長しないといけないと思っている。
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|文:栃山直樹
|トップ写真:岡部典孝社長(JPYC社提供)


