ビットコインという名前は聞いたことがあっても、実際にどんなものかはよく知らない、という方は多いのではないでしょうか。
そのビットコインなどの暗号資産(仮想通貨)について、2026年7月、制度を大きく変える法律が成立しました。法律上の扱いが変わることになり、それに伴って税金の仕組みも変わることが決まったのです。
金融庁が2025年夏に始めた専門家による話し合いの段階からこの制度変更を追ってきた筆者が、何がどう変わるのかを解説します。
◆そもそも暗号資産とは何なのか
暗号資産とは、インターネット上でやりとりされるデジタルなお金のようなものです。
円やドルのように国が発行しているわけではなく、世界中のコンピューターが記録を共有し合うことで成り立っています。その代表格が、2009年に登場したビットコインです。
かつては「仮想通貨」という呼び名が一般的でしたが、2020年に法律上の正式名称が「暗号資産」へと変更されました。ニュースなどでは分かりやすさを優先して「暗号資産(仮想通貨)」と並べて表現することが多いです。
日本ではこれまで、暗号資産は「支払いのための手段」として位置づけられてきました。買い物の代金を払うためのもの、という扱いです。そのため、電子マネーなどと同じ「資金決済法」という法律で規制されてきました。
◆変わったのは「どんなものとして扱うか」

ところが実際には、暗号資産は支払いよりも投資の対象として使われるようになっていきました。値上がりを期待して買い、値上がりしたら売る。株式に近い使われ方です。
この現実に合わせて、政府は暗号資産の位置づけを変えることを決めました。
2026年7月15日、暗号資産を「金融商品」として扱う法律の改正案が成立しました。
株式や債券と同じ「金融商品取引法」(金商法)という法律の枠組みに移すという内容です。
金融商品として扱われるようになると、投資家を守るためのルールが加わります。
以下、主なルールです。
- インサイダー取引の明確な禁止: 公表前の内部情報を用いた売買が禁止されます。
- 発行体の情報開示義務: 暗号資産の発行側に対し、年1回の情報開示が義務付けられます。
- 無登録販売業者への罰則引き上げ:
・拘禁刑の上限: 3年以下から10年以下へ厳罰化
・罰金の上限: 300万円以下から1000万円以下へ増額
こうした罰則強化の背景には、無登録での販売がすでに問題になった実例があります。
2026年2月、高市早苗首相の名前を冠した暗号資産「SANAE TOKEN(サナエトークン)」―特定の人物や話題にちなんで発行される、いわゆる「ミームコイン」と呼ばれるタイプの暗号資産です―が、登録を受けないまま販売されていた疑いが浮上し、金融庁が調査に乗り出す事態に発展しました。
▶関連記事:高市首相、SANAE TOKENへの関与を全面否定──「全く存じ上げません」
高市首相自身は、自身や事務所が発行・取引を承認した事実はないと説明しています。プロジェクトは中止に追い込まれ、価格も急落しました。
片山さつき金融担当相は同年6月の国会答弁で、この件について金融庁に損失の相談が3件寄せられていることを明らかにしています。
今回の法改正は、こうした無登録での暗号資産販売に対して、より重い罰則で臨む体制を整えるものといえます。
◆税金は最大55%から約20%へ
多くの方に関係するのは、税金の話でしょう。
現在の制度では、暗号資産を売って得た利益は「雑所得」に分類されます。
雑所得は給与などほかの収入と合算して税率が決まる仕組みで、これを「総合課税」と呼びます。

合算した所得が多い人ほど税率が高くなります。住民税を合わせた税率は最大で55%ですが、これは給与などと合わせた課税所得が4000万円を超える場合に適用される最高税率です。
つまり55%は、誰にでもかかる税率ではありません。ただ、暗号資産で大きな利益が出れば、その分だけ合算後の所得が押し上げられ、より高い税率の段階に移ってしまいます。利益が出るほど、そこにかかる税率も重くなっていく仕組みだといえます。
一方、株式の売却益にかかる税率は約20%で一定です。同じ投資なのに扱いが違う、という不公平さが長く指摘されてきました。
新しい制度では、暗号資産の売却益にも株式と同じ「申告分離課税」が適用され、税率は20.315%(所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%)になります。
この内容を盛り込んだ改正所得税法は、2026年3月31日にすでに成立・公布されています。
損失が出たときの扱いも変わります。これまでは損失を翌年に持ち越すことができませんでしたが、新制度では3年間繰り越して、その後の利益と相殺できるようになります。
◆いつから変わるのか——ここが分かりにくい
「もう法律が通ったなら、すぐに税金が安くなるのでは」と思われるかもしれません。ここが最も誤解されやすい点です。
税率を下げる法律は成立していますが、その効力が発動する条件は、金商法の改正が実際に「施行」されることです。法律は成立しただけでは動き出さず、施行日を迎えて初めて効力を持ちます。
今回の改正は、公布から1年以内に施行されると定められており、2027年中の施行が見込まれています。
新しい税率が適用されるのは、その施行日を含む年の「翌年」の1月1日以降に行った取引です。つまり、2027年に施行されれば、2028年1月1日以降の取引から新しい税率が適用される計算になります。
つまり、いま暗号資産を売って利益が出た場合の税金は、これまでと変わりません。
▶関連記事:【スクープ】暗号資産、分離課税施行は「2028年1月」か
◆「すべてが20%」ではない点に注意
もう一つ押さえておきたいのが、新しい税率がすべての取引に適用されるわけではないということです。
対象になるのは「特定暗号資産」と呼ばれるものに限られます。おおむね、国内の取引所で取り扱われている暗号資産を指しますが、その具体的な線引きは、これから国が定める細かいルールで決まる部分が残っています。
加えて、国内の暗号資産取引業者(Coincheck、SBI VCトレード、bitFlyerなど)を通じて売却したものであることも条件です。

この点は、法案を可決した国会自身も念押ししています。
金商法改正案が可決されたとき、衆参両院の委員会は「附帯決議」と呼ばれる申し送り事項を法案に付け加えました。
これは法律そのものではありませんが、政府に対して運用上の注意点を伝える公式な文書です。
この附帯決議の中で、申告分離課税の対象は「暗号資産取引の一部にとどまる」という趣旨の一文が盛り込まれました。
税法を専門とする泉絢也税理士は、NADA NEWSの連載でも、海外の取引所やDEX、個人間での取引などは引き続き総合課税(先ほど説明した、ほかの収入と合算して税率が決まる仕組み)の対象になりうると指摘しています。
【DEX(分散型取引所)とは】
取引所という運営会社を介さず、スマートコントラクトによって暗号資産の交換を自動で行う取引所のこと。利用者は資産を取引所に預けず、自分のウォレットで管理したまま直接取引できる点が大きな特徴。
<NADA NEWS用語集より>
損失の相殺にも制限があります。損失を相殺できるのは、分離課税の対象になる「特定暗号資産」同士の取引に限られ、株式の利益と暗号資産の損失をぶつけることはできません。同じ20%の分離課税でも、別々の枠として扱われるためです。
また、暗号資産を預けて報酬を受け取る「ステーキング」やコンピューターの計算で報酬を得る「マイニング」で得た収入は、この枠の外に置かれています。
◆これから何を見ておけばいいか
暗号資産を持っている方も、これから検討する方も、当面注目すべきは施行日がいつに定まるかという点です。施行日が決まらないかぎり、新しい税率が使えるようになる時期も確定しません。
暗号資産が金融商品として扱われるようになったことに合わせて、暗号資産を組み込んだETF(上場投資信託。複数の資産をまとめて、証券取引所で株式のように売買できるようにした金融商品)を国内でも作れるようにするかどうかが議論されています。
【ビットコインETFとは】
実際のビットコインを裏付け資産として保有し、その値動きに連動するよう設計された上場投資信託のこと。証券口座を通じて株式のように売買できる手軽さが特徴で、米国ではすでに承認・上場されている。
<NADA NEWS用語集より>
実際のビットコインを裏付け資産として保有し、その値動きに連動するよう設計された上場投資信託のこと。証券口座を通じて株式のように売買できる手軽さが特徴で、米国ではすでに承認・上場されている。
日本では今のところ、暗号資産を組み込んだETFを国内で作ることは認められていません。
暗号資産がこれまで金融商品として扱われてこなかったためです。今回の制度変更によって、こうしたETFを将来的に認めるための土台が整ったと受け止められています。
実現すれば、証券会社の口座を通じて暗号資産に間接的に投資する道が開ける可能性があります。
◆おわりに

暗号資産をめぐる制度は、「決済のための手段」から「投資の対象」へと位置づけを移す、大きな転換点を迎えました。
ただ、税率が下がるという分かりやすい見出しの裏側では、対象となる銘柄の線引きや損失の扱いといった細かなルールが、これから固まっていく段階にあります。制度が本当に動き出すのはここからです。
|文:栃山直樹
|画像:Shutterstock、NADA NEWS編集部制作


