支払いの瞬間まで資金を運用する財務変革──ステーブルコインとトークン化ファンドが拓く24時間即時決済の未来【イベントレポート②】

ステーブルコインによる24時間365日の即時決済と、ブロックチェーン上で流通するトークン化ファンド。この二つを組み合わせて、企業の資金管理を変えようとする動きが出てきた。決済が速くなるだけでなく、支払いの直前まで利回りのある資産で資金を運用できる可能性があるためだ。

NADA NEWSを運営するN.Avenueは9月28日、「AI時代、企業のお金はどう動くのか──ステーブルコインが変える決済・送金・財務」と題したイベントを開催した。イベントレポート前半に続き、本稿では、セッション2「ステーブルコインは企業の資金管理をどう変えるのか──決済から余剰資金運用まで」の模様をお届けする。

登壇したのは、デジタル資産の発行・保管・送金を担うプラットフォームを提供するFireblocksの日本法人営業責任者(Sales Director)の牧野剛氏と、三井住友信託銀行の I&T戦略企画部上席調査役の多治見和彦氏。ステーブルコインとトークン化ファンドの組み合わせで、企業のキャッシュマネジメントがどう変わるかを語り合った。

四半期760億ドル規模に広がるB2B決済、ファンドのトークン化で資金運用が変わる

セッションの冒頭、牧野氏はFireblocksの立ち位置から説明。同社はJPYCやサークル、テザーのようなステーブルコインの発行体でも、銀行でもない。事業者の業務をバックエンドで支えるインフラ提供者であり、創業からの取引額は16兆ドルを超え、200超のブロックチェーンに対応しているという。

同社のデータでは、ステーブルコインの処理量は2025年を超えたあたりから急増し、現在は月間400億ドルを超える規模に達している。牧野氏は、用途別の内訳を四半期ベースで示した。最大はB2B決済の760億ドルで、加盟店決済が190億ドル、クリエイターやギグワーカーへの支払い・送金が130億ドルだった。

牧野氏は、投機ではなく実際の資金が動いていると強調。仕入れ先への支払いや運転資金など、企業の資金管理そのものがこの規模で動いているという見方を示した。海外では、国際送金サービスを手がけるウェスタンユニオンの米ドル建てステーブルコインの基盤をFireblocksが提供している。日本のオンチェーン取引額は前年比120%増で、APAC上位5市場の中で最も速く伸びていると紹介した。

多治見氏は、同行がセキュリティトークンで国内初の取り組みを重ねてきたと説明した。ただし、いずれもプライベートブロックチェーン上で完結し、ステーブルコインで決済できるものではなかったと明かした。米国では暗号資産、ステーブルコイン、セキュリティトークンの順に市場が立ち上がり、最初からオンチェーンで資産と代金を同時に受け渡す(DvP)環境が整ってきた一方、日本ではステーブルコインの残高がJPYCを中心に伸びているものの、セキュリティトークン側の整備はこれからだと分析した。

Two men in suits sit at a panel; the man on the right speaks into a handheld microphone while the other looks at a laptop in front of him.
〈三井住友信託銀行の I&T戦略企画部上席調査役の多治見和彦氏(右)〉

国内市場の成熟を待っていては遅いと考えた同行は、外国籍のファンドをトークン化する計画を進めている。コードネームは「コメット」で、Cはケイマン籍のCである。多治見氏は、外国法であれば整備された先行事例に沿ってファンドを発行できると説明。今年中のローンチを目指し、外国法の下での事務プロセスを学びながら設計している段階だという。

支払いの瞬間まで余剰資金を運用、ステーブルコインとトークン化ファンドの即時DVP決済

続いて議論は、ステーブルコインとトークン化ファンドを組み合わせる意義に移った。多治見氏は、企業がグローバル送金や企業間決済で使うために、ステーブルコインを常時大量に保有するようになるという見通しから話し始めた。ステーブルコインは保有しているだけでは利息がつかない。そこで、利回りのあるトークン化ファンドを保有しておき、決済が必要になった時にステーブルコインへ換えて支払う運用を提案。ファンドはKYCが必要で渡せる相手が限られるが、ステーブルコインは流通性が高く、決済に向いているという役割分担である。

通常の投資信託は、換金までにT+2とされる時間がかかる。多治見氏は、流動性が高まればT+0が可能になり、アトミックセトルメント(同時決済)でぎりぎりまで利回りを得られると述べた。数十億円から数百億円規模の決済を行う企業なら、年間で見過ごせない金額になるという。海外では、フランスのスタートアップが、中堅・中小企業のキャッシュマネジメントにステーブルコインとセキュリティトークンの交換を組み込んでいると紹介した。

牧野氏も、実用化している例があると応じた。ブラックロックのBUIDLを使った仕組みがその一つで、アジアでも実証が始まっており、今年から来年にかけて商品化が進むとの見方を示した。ブロックチェーンのメリットは、預金とファンドを同じ台帳に載せて決済を速められる点にあるという。何千億円もの資金を持つ企業ほど、メリットが大きくなりやすいとも述べた。これまでコストとして見られがちだったブロックチェーンの活用が、収益を生む仕組みになり得ると牧野氏は指摘。一般的な事業会社の財務部門が、まず検討すべきユースケースになるとの認識を示した。

24時間動き続けるグローバル資金管理、鍵管理のカストディ基盤とAI自動化による統制

資金が24時間動く環境で、誰がどう管理するのだろうか。

モデレーターを務めたNADA NEWS編集長の増田隆幸の問いに、多治見氏はまず裏付け資産の事務を挙げた。同行のファンドの裏付けは米国債で、事務コストは通常のファンドと変わらない。将来、国債そのものがオンチェーンで流通すれば、事務は格段に楽になるという。国内にも、そうした動きを狙う事業者や検討する政府がいると説明した。

Panel discussion on stage with three speakers and a large screen displaying 'QUESTION 2' and Japanese text, audience watching in a conference hall.
〈モデレーターを務めたNADA NEWS編集長の増田隆幸(左)〉

鍵の管理については、資産の性質で対応が分かれるとした。ファンドは、KYC済みの特定の投資家にしか流通しない。鍵が漏れて別の相手にトークンが渡っても、その相手を排除して再発行(ミント)できる可能性があり、そのためのルールづくりが必要だという。

一方でステーブルコインや暗号資産では、こうした救済は通用しない。多治見氏は、投資家の鍵を管理する仕組みが不可欠で、トークンのカストディは発行と並んで重要な役割になると指摘。同行は先日、デジタル資産を管理する信託会社になる予定のJADAT(ジャダット)を100%子会社にすると発表している。ここでも鍵管理は重要で、Fireblocksのようなソリューションを健全に運用できるかが鍵になるとの考えを示した。

牧野氏は、24時間化によるリスクは、9時から17時の業務と本質的に変わらないとの見方を示した。鍵を流出させない、社内システムに侵入の痕跡がないか常に確認する、といった対応は同じだからだ。むしろ24時間動く金融商品は、日本で実装できれば世界で戦える強みになると述べた。

運用の自動化については、海外のフィンテックがAIを使ってオペレーションを自動化している例を挙げた。米コインベースも、運用やオペレーションの一部がすでにAI化されているとみられるという。牧野氏は、まず人がルールを決め、そのルールの範囲内の処理をAIや自動化が担う形を示した。たとえば、取引先をホワイトリストで管理し、取引額は100万円以下、時間帯は9時から17時までと設定する。範囲内の取引は自動で処理し、閾値を超えた場合はアラートを出して、人が承認する。Fireblocksでも、自動化機能の提供は約1年半前から始まり、今年5月にはAIを使った機能を実装した。AIエージェントの決済規格「x402」にも参加しているという。

「へこたれないタフさ」

終盤、話題は実用化に向けた課題に移った。多治見氏は、トークン化ファンドを裏付けにしたステーブルコインの発行が広がれば、オンチェーンで完結するため、AIによる自動化もしやすくなると展望した。ただし現状では、外国籍ファンドの運用を担うのはアイルランドの現地法人で、時差がある。打ち合わせは日本の夕方から夜に行い、現地は朝になる。24時間の運用は、今の段階ではすぐには実現できないという。国債などの資産もオンチェーンで発行・流通する形に進めることが必要で、そのためには起爆剤になる動きも要ると語った。

牧野氏は、事業会社が導入する場面の課題を挙げた。新しい業務であるため、どの業務フローで統制するかを整理する必要がある。会計監査への対応も詰めなければ、実証から実務には進めない。財務部門と情報システム部門のどちらが担い、誰が運用するのかという議論も欠かせない。そのうえで、一番の課題は、モチベーションを持って進める人が社内にいるかどうかだと述べた。

Man in a dark blazer speaks into a handheld microphone on a stage, while another man sits nearby with a laptop visible on the desk behind them.
〈牧野氏は、モチベーションを持つ人材が社内にいるかどうかが鍵になるとした〉

多治見氏もまた、「へこたれないタフさ」が必要だと応じた。会計や税務、事務プロセスの面では、やってみて初めて気づく問題が出てくるとし、社内に先行事例がない中で海外事例を参考に進めるしかないとした。

牧野氏は「起業家マインドとまでいかなくても、新しいことに挑戦するマインドセットが要る」と力説。社内で仲間を増やし、誰がどのような権限でお金を動かせるのかを、初期に整理しておくことが重要だと語った。キャッシュマネジメントやトレジャリーマネジメントの導入が具体化した時に、スムーズに入りやすくなるという。

Three men in suits posing for a photo in front of a blue backdrop with a NADA NEWS sign and Japanese text behind them.
〈左から、増田、Fireblocksの牧野氏、三井住友信託銀行の多治見氏〉

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|文・編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑
|トップ写真:Fireblocksの日本法人営業責任者の牧野剛氏

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