店頭のレジからAIによる送金まで──ステーブルコインが企業のお金の動かし方を変える【イベントレポート①】

国境や銀行の営業時間の制約を超え、24時間365日リアルタイムで資金を動かせるステーブルコインの普及が、世界で進んでいる。さらに、生成AIやAIエージェントが人に代わって商品やサービスを探し、決済まで自律的に完結させる「エージェンティック・コマース」が現実味を帯びてきた。企業の決済や送金、キャッシュマネジメントの構造は、転換点を迎えつつある。

NADA NEWSを運営するN.Avenueは9月28日、「AI時代、企業のお金はどう動くのか──ステーブルコインが変える決済・送金・財務」と題したイベントを開催した。基調セッション「ステーブルコインは企業のお金をどう変えるのか」には、JPYC代表取締役の岡部典孝氏、Circleカントリーマネージャーの榊原健太氏、Startale Japan代表取締役CEOの手塚孝氏が登壇した。

円建て・ドル建て、3者が語った現在地

JPYCの岡部氏は、昨年10月の発行開始から約1年で、累計発行額が110億円を超え、流通残高は30~40億円規模になったと報告。9月17日には韓国のUpbitが取り扱いを始め、直後の半日で約23億円が発行されたという。

国内では、HashPort Walletを通じたポイント交換から企業利用が広がり、LINEアプリへの対応などに及んでいるとした。

Man wearing glasses and a dark hoodie speaks into a handheld microphone on a stage backdrop with geometric yellow shapes.
〈円建てのJPYCを発行するJPYC社代表取締役の岡部典孝氏〉

Upbit上場時には、JPYCの一時的な価格急騰も話題になった。この点について岡部氏は、流動性が足りなくなり、JPYCが一時4円近くまで上昇したと振り返った。韓国の報道によると、基準価格より10%以上高く買った韓国の投資家は約2.1万人に上った。このうち約7000人(33%)は、売却して利益を確定したとされている。

岡部氏は、ステーブルコインは法定通貨に連動するよう設計されているが、二次流通の価格は需給で動くと説明。1円を下回った場合は償還によって戻る設計だが、上振れへの備えは手薄で、100万円の送金制限があるJPYCでは解消に約1日かかったと説明した。

Circleの榊原氏は、2025年3月にSBI VCトレードとともにUSDCの国内展開を始めたとし、9月半ばに自社のレイヤー1ブロックチェーン「Arc」を立ち上げたと紹介。

Startale Japanの手塚氏は、6月に発行が始まった国内初の信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」を紹介。発行体はSBI新生信託銀行で、SBI VCトレードが流通を担う。

ただ、現状は信託受益権に関する相続税法と所得税法上の課題があり、完全なパブリック流通には至っていない。金融庁から税制改正要望が出ており、財務省が受け付けていることから、早ければ来年4月のパブリック流通を目指すという。実現すれば、100万円の取引制限がない状態で、機関投資家の取引やオンチェーン金融の入り口になるとした。

円とドルは両方必要、ステーブルコイン同士の接続が鍵

企業の用途について榊原氏は、今年を「ユースケース元年」、来年を「本格運用元年」と位置づけた。主な用途はグループ間の資金管理、越境送金、RWA(現実資産)のトークン化、既存事業の裏側の決済(セトルメント)のステーブルコイン化だとした。

Man in a navy suit speaks into a handheld microphone on a stage, with a second man in the background and a curtain behind them (conference setting).] ,
〈ドル建てのUSDCを発行するCircleカントリーマネージャーの榊原健太氏〉

3者は、円建てのステーブルコインが存在する必要性についても言及した。

手塚氏は、現状のステーブルコインの99%はドル建てだとしたうえで、円の取引にドル建てを使い、為替ヘッジをすると約300bps(約3%)のコストがかかると指摘。ニーズはあり、課題は社会実装だとした。

岡部氏は、AIの経済圏でも日本円が必要になると見ているとしたうえで、実際のニーズとしてキャリートレード、ドル依存を避けるための通貨分散、高市政権の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針 )」に明記されたオンチェーン金融を挙げた。

榊原氏は、円とドルは両方必要で、ステーブルコイン同士がオンチェーンでつながることが目指す世界だと語った。同社のトークン化MMF「USYC」を例に、24時間365日で出し入れでき、イールドも得られると紹介。海外の金融機関からは、時差のある東京市場で24時間決済が可能になる点や信頼性の高い円建てステーブルコインへの期待が寄せられているという。

手塚氏は、米国ではRWAの半分弱をトレジャリー関連が占めるとし、ステーブルコインやトークン化MMF、担保化、イールドが横串でつながる「RWAプレイブック」ができていると説明した。

少額・高頻度は銀行送金より有利、使い分けと補完の関係

議論は、銀行送金とステーブルコインの違いに移った。

岡部氏は両者の違いについて、少額で多頻度の送金ではステーブルコインが強いと指摘。JPYC社が出資を受けたAZ-COM丸和ホールディングスのような物流企業では、ドライバーへの支払いが早いことが人材採用にもつながると紹介。ステーブルコインが適した業界や活用法があるとの考えを示した。

榊原氏は、Circleの「Circle Payments Network」を紹介。仕向け銀行と被仕向け銀行をステーブルコインでつなぐ仕組みで、銀行送金とは対立ではなく補完関係にあるという。銀行送金が機能している今、「なぜステーブルコインを活用する必要があるのか」と問われることが多いが、AIエージェントが企業で使われるのは2〜3年後でも、備えは来年度の計画から始める必要があり、現状維持自体がリスクになると語った。

手塚氏は銀行送金に対する優位性として、24時間365日のT+0、コストの圧縮、プログラマブル性の3つを指摘。銀行の担当者からは、トークン化預金との違いをよく尋ねられるという。手塚氏によると、その答えは「オープン性の違い」にある。トークン化預金は銀行のネットワーク内に閉じるが、ステーブルコインはオープンに拡張できる。メガバンクの専務からは「君たちは僕たちの敵だ」と言われたというエピソードも明かし、会場の笑いを誘った。

Man in a dark shirt and blue blazer speaks into a handheld microphone on stage, gesturing with his hands against a curtain backdrop.
〈円建て信託型のJPYSCを手がけるStartale Japan代表取締役CEOの手塚孝氏〉

手塚氏は銀行送金とステーブルコインについて、ユースケースに応じて適材適所で使い分けていくものだと語った。

AIに決済を委ねる時代へ

セッションの終盤、岡部氏は、人間が資金を扱うこと自体が危うくなる時代に入りつつあるとの見方を示した。電話で騙されて、上場企業の経理責任者が10億円を振り込んでしまった事件を例に、人間が資金を扱うリスクを指摘。今後、「攻撃にAIが使われるようになれば、防御もAIで行う必要がある」とした。人間よりAIにお金を扱わせる方が安全だと企業が判断する時代が遠からず来ると確信していると述べた。

榊原氏は、x402などのAIエージェント決済プロトコル上では、USDCが99%超とのデータを紹介。自社内に閉じず、業界全体で横断的に協力し、小さな範囲から成功事例を積み上げることが重要だと呼びかけた。

手塚氏はGoogleで広告事業に携わった経験から、予約型だった広告が変動費ベースのデジタル広告に変わった歴史を挙げたうえで、決済でも同じことが起きると主張。視聴分数に応じた課金などのマイクロペイメントが、プログラマブルなステーブルコインで可能になると予測した。今後5年で、景色は大きく変わるとの見方を示した。

Four men in business attire pose on a stage, holding a 'NADA NEWS' sign with a blue tech-themed backdrop behind them.
〈左から、モデレーターを務めたNADA NEWSの副編集長の橋本祐樹、岡部氏、榊原氏、手塚氏〉

AIエージェントとウォレット・決済基盤をつなぐ

基調講演の後には、「AIエージェントはどこまでお金を動かせるのか」をテーマに1つ目のセッションが行われた。登壇したのは、HashPort代表取締役の吉田世博氏とデジタルガレージの清原三雅氏。ウォレットと決済事業者、それぞれの立場から自律型決済の現状と課題を語った。

吉田氏はHashPortの事業について、ステーブルコインの決済アプリを、ユーザー向けの「HashPort Wallet」と加盟店向けの「HashPort Wallet for Biz」の両面で提供していると説明。ウォレットのダウンロード数は116万で、JPYCを決済に使う国内ユーザーの8割超が利用しているとした。Pontaやau PAYとも連携し、3500万人のau PAYユーザーからも利用されていることにも触れた。

同社は9月末、AIエージェントとウォレットをつなぐ「HashPort Wallet MCP」をリリースしている。ClaudeやChatGPT、Geminiなど利用者が使うAIエージェントにウォレットを接続し、「送金しておいて」と自然言語で指示すれば実行できる仕組みだという。

Conference room audience watches a presentation; projection screen shows a six-panel slide with Japanese text and a NADA banner on the left.
〈HashPort代表取締役の吉田氏は、ローソンの店頭で行われた決済実証について振り返った〉

同社は8月には、コンビニ大手のローソンの店頭でステーブルコイン決済の実証を行った。HashPort WalletのQRコードをスキャンし、POSに連動した金額を承認すれば支払いが完了する。吉田氏は、既存のPOSシステムにステーブルコイン決済が溶け込んだと解説した。

デジタルガレージは、子会社のDGフィナンシャルテクノロジーを通じて、決済代行事業を手がける企業だ。支払拠点に代わってカードやQRコードなど複数の決済手段をまとめて導入・処理する事業で、年間の取扱高は約10兆円、決済支払拠点数は130万以上、決済手段は40以上に上る。清原氏は、ステーブルコインもその一つに位置づけていると説明した。

清原氏によると同社は8月末、JCBと組んでローソンで訪日外国人を想定したUSDC決済の実証を行った。HashPort Walletのように利用者が使うウォレットに対し、こちらは店舗側の受け入れを支える立場だ。

同じ8月には、オープンな決済プロトコル「x402」に対応した「Stablecoin Payment Service(SPS)」を始めている。最初の導入先はJCB。決済支払拠点は、既存の決済手段を追加する形でAPIをつなげば、ステーブルコインでの支払いを受け付けられ、日本円で受け取れる。対面決済から始め、将来的にはAIエージェント同士の決済にも対応する方針だという。

責任分界点とKYA、誤送金と身元確認の課題

こうしたステーブルコイン決済が実用化する上での壁は何か。

吉田氏は大きく2点を挙げた。1点目は規制で、特に論点となるのが利用者やエージェント、ウォレット事業者の間で責任の範囲を分ける「責任分界点」だという。自身が副会長を務めるJCBA(日本暗号資産ビジネス協会)では先日、「ウォレットAI部会」が発足し、KDDIやSMBC日興証券、Visaなどと議論を始めたとした。

Man in a dark blazer speaks into a handheld microphone at a panel, with a curtain backdrop and a second person partially visible on the right.
〈吉田氏は、ステーブルコインの普及には「責任分界点」の議論が欠かせないと指摘〉

例えば、「一昨日送金した先に、もう一度送金して」といった抽象的な指示をエージェントがどう汲み取るのか。誤送金が起きたとき、責任を誰が負うのかは、まだ曖昧だという。

2点目に挙げたのが、エージェント自体の安全性。吉田氏によると、チューニングをしていない状態で曖昧な指示を出した場合、エージェントの実行精度は「コンビニの店員さん」程度と社内で言われているという。銀行窓口の水準には届かず、ガードレールが十分でなければ大きなインシデントが起きうるとして、警鐘を鳴らした。

受け入れる側の課題として清原氏は、KYA(Know Your Agent)の問題を挙げた。エージェントが誰の代理で、有効な指示のもとで支払おうとしているのかを、事業者は気にしているという。背景にあるのは、悪意のあるエージェントへの懸念。人間にはDIDなどで認証を与える動きがあるが、強制力や正確性はまだ見えていないと説明した。

決済の技術そのものは整ってきており、普及に必要なのはルールメイキングだと清原氏は続けた。直近の事例が、MetaのパーソナルAI「Muse」だ。報道によると、AmazonがMuseによる自社サイトへのアクセスを遮断した。テックジャイアント間の調整が進んでいないことが、普及の壁になっているとの見方を示した。

実用化はどこから始まる?

セッション終盤では、決済にステーブルコインを活用する必要性がテーマになった。

清原氏は、航空券の予約やECサイトでの購入など人間の決済を代替するだけならクレジットカードで成り立つと指摘。一方で、AIエージェントに「AppleやMicrosoftのトークン化株を買ってポートフォリオを調整して」と指示するようなM2M(マシン・トゥ・マシン)の場面では、既存の決済網は使いにくいとし、少額決済ができ、24時間365日動くオープンな基盤が必要だと訴えた。

Two men on a panel: one speaks into a handheld microphone while the other looks on, with a white banner and wooden wall behind them.
〈デジタルガレージの清原三雅氏は、M2Mの時代ではステーブルコインの有用性が高まるとした〉

清原氏は直近の事例として、x402の取引データではエージェントがLLMの利用料を払う例が多いと紹介。個人向けでは、「儲かる」というインセンティブが働く投資領域から広がると見通した。

Three men posing indoors, holding a NADA NEWS sign, with a blue-lit screen showing Japanese text in the background.
〈左から、モデレーターを務めたNADA NEWS編集長の増田隆幸、吉田氏、清原氏〉

吉田氏は、最初のユースケースは企業間取引だと予測。物流会社を例に、毎日の荷物の個数に応じた支払いをエージェントがとりまとめ、ステーブルコインで一括して払えば、経理の出納業務を置き換えられると語った。

◇◇◇

セッション2「ステーブルコインは企業の資金管理をどう変えるのか──決済から余剰資金運用まで」の模様は、後半に続く。

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|文・編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑
|トップ写真:JPYC岡部氏、Circle榊原氏、Startale Japan手塚氏が揃った基調セッション

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