2026年7月23日(米国時間)、分散型取引所(DEX)を運営するUniswap Labsが、規制対象資産向けの新しい取引標準「Permissioned Pools」を発表しました。トークン化されたファンドや証券など、投資家を限定する必要がある資産を、適格性の検証をプール自体に組み込んだ形で取引できるようにするものです。ローンチパートナーとしてSuperstate、Securitize、Dowgoの3社が参加しています。
今回は、Permissioned Poolsが投資家の適格性をプロトコル層で検証する仕組みと、BlackRockのファンド「BUIDL」対応から続く許可制取引の整備の流れ、そしてDeFiの法整備が政策課題に挙がった日本市場への示唆について解説します。
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トークン化資産の拡大と、AMMの外にあった規制資産の取引
株式・ファンド・債券などの資産をブロックチェーン上のトークンとして発行する「トークン化」では、大手金融機関の参入が続いています。BlackRockの機関投資家向けファンド「BUIDL」のように、米国債などを裏付けとするトークン化商品は既に機関投資家の間で取引されています。
市場の先行きについて、Uniswap Labsは今回の発表で、トークン化資産市場が2030年までに11兆ドルに達するという推計(The Blockが報じたARK Investの見通し)を引用しています。またCoinDeskの報道によれば、米銀行大手Citiのレポートは、トークン化証券が2030年までに5.5兆ドル規模に成長すると見込んでいます。出所の異なる複数の推計が、いずれも今後数年での市場拡大を予想している状況です。
一方で、こうした資産を取引するオンチェーンのインフラには制約がありました。Uniswapの中核であるAMM(Automated Market Maker:自動マーケットメーカー)は、流動性プールに預けられた資産を数式に基づいて自動で交換する仕組みです。誰でも取引に参加できるパーミッションレス(許可不要)な設計を前提としています。
これに対し、証券などの規制対象資産では、発行体が投資家の適格性を確認し、承認した相手にだけ保有・取引を認める管理義務があります。誰でも参加できるAMMと、参加者を限定しなければならない規制資産は、そのままでは両立しません。
実際、規制対象資産のトークンの流通は、発行体側の管理の中で閉じてきました。BUIDLの場合、トークンの移転先はSecuritizeが管理するホワイトリストに登録済みのウォレットに限定され、購入や換金は同社の窓口を通じた直接の手続きで行われます。公開の取引所には上場しておらず、AMMの共有流動性にも接続されていませんでした。
Permissioned Poolsの仕組み
Permissioned Poolsは、Uniswap v4の拡張機構「hooks(フック)」を使った標準です。hooksは、プールに外部のスマートコントラクトを接続し、スワップ(交換)の前後や流動性の追加・削除の前後といった決まった時点で独自のロジックを実行できる仕組みです。2025年1月31日に公開されたv4で導入されました。
Permissioned Poolsのhookは、発行体が管理する許可リスト(allowlist)をスワップのたびに照合します。流動性を提供するポジションを作成する前にも、ウォレットが許可リストに載っているかを検証します。承認されていないウォレットからの操作は、この検証を通らないため実行されません。
例えば、トークン化ファンドの発行体がPermissioned Poolを立ち上げる場合、発行体は適格性を確認した投資家のウォレットを許可リストに登録します。投資家がスワップを実行すると、hookがリストを照合し、登録済みであれば取引が成立します。リストにないウォレットは、同じプールに対して取引も流動性提供もできません。
Uniswap Labsは、こうした検証が「フロントエンド(取引画面)ではなくプロトコルレベルで」行われる点を特徴として挙げています。検証がプール自体に組み込まれているため、どの画面や経路から取引しても同じ検査が適用されます。許可リストの管理権は発行体が持ち続けたまま、承認された投資家がUniswapを通じてオンチェーンで取引・決済できる設計です。
資産の保管には、v4のvirtual accountingという仕組みを使います。交換に必要な計算はUniswap側で実行しつつ、許可制資産そのものは発行体側の許可制コントラクトに保持したままにする設計です。
この標準はオープンソースとして公開され、従来のパーミッションレスなプールと並存します。今回の発表ではローンチパートナーも明記されましたが、そのうちSuperstateは標準の設計に協力し、Securitizeは許可制トークン規格「DS Protocol」で発行したトークンの取引対応を進めたとしています。Dowgoは許可制トークンのイーサリアム標準「ERC-3643」との統合を開発し、EUのDLT Pilot Regime(分散型台帳を使う市場インフラの実証制度)の認可取得後に利用を開始するとしています。
BUIDLのUniswapX対応など、規制資産のオンチェーン取引を巡る動き
Uniswapのインフラで規制対象資産を扱う取り組みは、今回が最初ではありません。2026年2月には、Uniswap LabsとSecuritizeが、BlackRockの機関投資家向けファンド「BUIDL」を、見積もり照会型の取引の仕組み「UniswapX」を通じて取引できるようにしています。
ただし、2月の仕組みで適格性を確認していたのはプロトコルの外側でした。Securitizeが事前に投資家を審査し、ホワイトリストに登録を行い、取引自体は登録済みのマーケットメーカーが提示する見積もりから最良のものを選ぶRFQ(Request for Quote:相場提示依頼)方式で成立させるような仕組みとなっていました。今回発表されたPermissioned Poolsは、プロトコル内で投資家の適格性を確認する仕組みとなっており、ここが異なる点です。
トークン自体に検証を組み込む方式も先行しています。前述のERC-3643(T-REX:Token for Regulated EXchanges)は、ウォレットをオンチェーンのID(ONCHAINID)に紐付ける規格です。トークンを移転するたびに、受け手の適格性とコンプライアンス規則への適合を検証します。今回のPermissioned Poolsは、検証をトークン側ではなく取引の場であるAMMプール側に置く点で、これらと補完し合う位置づけです。
許可制トークンの発行を担う事業者も増えています。Securitizeは2026年7月2日にニューヨーク証券取引所へ上場し(ティッカー「SECZ」)、上場初日には自社の普通株をSolanaとAvalanche上でトークン化しました(上場時点で約2.95億ドル相当、RWA.xyzのデータ)。発行体が主導する株式のトークン化が、取引インフラの整備と並行して進んでいます。
考察
今回の発表からは、規制対象資産のオンチェーン取引が、アプリケーション層の運用で参加者を絞る段階から、プロトコル層に検証を組み込む段階へ移りつつあるという流れがうかがえます。発行体にとっては、自前の取引基盤を作らなくても、管理義務を保ったままAMMの流動性と自動執行を利用できる選択肢が増えたことになります。
一方で、パーミッションレスな取引を代表してきたUniswapが許可制の標準を整備したことは、DeFi(分散型金融)の性質の変化としても読めます。許可リストは発行体が一元管理するため、この仕組みで実現するのは「誰でも参加できる取引」ではなく、「共有プロトコル上で自動執行される、参加者を限定した取引」です。機関投資家が求めているのは検閲のなさよりも、仲介コストの削減と24時間動く自動執行のインフラである、という需要の所在を映した設計と考えられます。
日本でも、DeFiを制度に位置づける議論が動き出しています。自民党の「次世代AI・オンチェーン金融構想PT(プロジェクトチーム)」(座長:木原誠二氏)は2026年5月19日、トークン化預金・ステーブルコインの活用拡大や資産のトークン化推進を盛り込んだ提言を政調審議会で了承しました。続く7月15日には、暗号資産を資金決済法から金融商品取引法に移し、インサイダー取引規制を新設する改正金融商品取引法が成立しています。
こうした整備の次の課題として挙がっているのがDeFiです。2026年7月13日のWebX 2026のセッションでは、自民党金融調査会事務局長の神田潤一議員が「日本の中でも、既存の金融と並行してDeFiの世界が広がっていく。その法整備を、いよいよ本格的にこのあと2、3年でやっていかなければいけない」と発言しました。
今後のDeFi法制化の議論では、投資家保護の管理を取引所・仲介者・プロトコルのどの層で担うかという設計論が論点になると考えられます。発行体が管理権を保ちながら分散型インフラを利用する今回の形は、その参照例の一つとなる可能性があります。
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