​「予測市場」は日本で成立するのか──その可能性と制度・ビジネスの論点とは【N.Avenue club 3期10回ラウンドテーブル・レポート】

大統領選や経済指標、戦争などの国際情勢まで、米国ではさまざまなテーマを対象に予測市場が急拡大している。Polymarket(ポリマーケット)やKalshi(カルシ)など大手だけでなく、数多くのプラットフォームが誕生。予測市場は複数の国・地域で規制が強化されているにもかかわらず、プラットフォームの累計取引高は増え続けており、4月の1,500億ドル強から、5月26日時点で1,730億ドル超に増えているという。

一方、日本では賭博や金融規制との関係から、本格的な普及には至っていない。しかしPolymarketが、日本参入に向けて代表者を起用、2030年までの規制認可取得を目指すと報じられるなど、今後、動きが活発化していく兆しもある。

こうした中、日本のWeb3ビジネスを加速させる一助となることを目指すN.Avenue clubは、2026年5月のラウンドテーブルで予測市場にフォーカス。予測市場を「投機」の対象ではなく、「情報市場」としてとらえ、日本における制度設計やビジネスモデル、今後のユースケースの可能性について議論する場を設けた。

N.Avenue clubは国内外のゲスト講師を招いた月1回の「ラウンドテーブル(研究会)」や、会員企業と関連スタートアップや有識者との交流を促す「ギャザリング」などを開催している。ただし、ラウンドテーブルは会員限定のイベントのため、5月の様子の一部をレポートする。

Tané 六人部氏:AIエージェントに最適化したオンチェーン予測市場robinを展開

最初に登壇したのは、予測市場robinを運営するTané 創業者兼CEO、六人部生馬氏だ。ソフトバンクやUBSを経て、メガネEC「オーマイグラス」なども起業した六人部氏は、予測市場を「不確実な未来の計量化」と定義。世界中で予測市場が注目されている理由を3つに分類、規制が明確になっていること、大型調達と急成長を実現していること、信頼できるメディアと提携・連携していることだと述べた。

六人部氏はまた、2大プラットフォームであるPolymarketとKalshiについて違いを説明。いずれも累計20億ドル超を調達しているとした上で、Polymarketは海外拠点+ブロックチェーン基盤でグローバルに展開、1.4億ドルの罰金を払いながら運営継続して拡大したと紹介。一方のKalshiは、創業者がMITの数学エリートで規制遵守の意識が極めて強く、「真正面からライセンスを取る」戦略などと説明した。

六人部氏率いるTanéが運営する予測市場・robinの特徴についてもアピール。その特徴は、AIエージェントに最適化している、スマートコントラクト上に構築されたオンチェーン予測市場であること。六人部氏は、人間のユーザーではなくAIエージェントの取引に最適化している点について、日本では金銭を直接賭けることが「グレーというかほぼ黒」だからとした上で、人間がリスクをとる前提を外し、AIエージェントの予測競争として情報市場を成立させるとの考えを示した。

慶應 坂井氏:規制設計上の最難関は、結果に影響を与え得る「スーパーインサイダー」

次に登壇したのは、慶應義塾大学教授でメカニズムデザインをなどを専門にする坂井豊貴氏。

坂井教授はまず、予測市場は「人権概念」「株式会社」と並ぶ人類史トップ10の発明だとした上で、その正体は「人間を部品とする予測マシン」であるとの考えを提示。世論調査・多数決の三つの欠陥(真剣味の欠如/虚偽回答/情報の重みの均一化)を、金銭インセンティブ、あるいはLMSR(対数市場スコアリングルール/Robin Hanson提唱)と呼ばれる自動マーケットメーカーで克服する仕組みとして整理した。

坂井教授はLMSRの具体的な活用事例として、社内予測市場に関するサービス・Signalsを紹介。これは大企業・巨大メーカーで採用が進行し、悪いニュースが上にあがらないという組織病理に対する新たな情報獲得ルートとして機能すると強調した。

また、結果に影響を与え得る当事者が参加する「スーパーインサイダー」こそ規制設計上の最難関と指摘し、この問題を、安部公房の小説『第四間氷期』から「第四間氷期問題」と呼んでいると紹介した。

gC Labs 安積氏:金融庁との協議踏まえ、6月リリースのヨソクヒロバがポイント型になった背景

最後に登壇したのは、gumiグループのgC Labs取締役・安積侑希氏。同社は6月に予測サービス「ヨソクヒロバ」をリリースするという。

安積氏は、Polymarketなど海外で流行っている形式をそのまま日本で行うと、賭博罪の要件に該当する可能性が高いとして、日本で実現するには「金銭を賭けないポイント形式にするか、金商法の範囲内の予測内容で金融商品とするかのいずれかになる」と説明。Kalshi型のモデルについて金融庁とも意見交換を行った結果、法規制が必要と判断し、スピード重視でポイント制を選んだとの経緯を明かした。

ヨソクヒロバの仕組みは、ポイントA(無償・予測用)/ポイントB(交換専用)のデュアル設計で賭博罪を回避し、ランキング・称号・コメント・運営Pickupなどのソーシャル設計で金銭インセンティブの弱さを補完するというもの。また、日本ユーザーになじむ「ポイ活」テイスト+スマホ縦型UIを採用したという。

さらに、データをニュースメディア、金融機関・取引所、エンタメ企業などに提供する構想に触れ、まずグノシーとの連携について紹介した。さらには、APIによるPaaS(Prediction as a service)化、東南アジアなどへの展開まで射程に置いていることも明かした。

プロ以外の予測市場参加者を増やす方法は?

セッション終了後は、参加者らがいくつかのテーブルに分かれて議論を交わした。設定されたテーマは、「もし規制がなかったら、予測市場は自社でどのようなサービスに活用できるか」と、「規制に準拠するなら、どのような要素を活用できそうか」だった。

ディスカッション終了後、各テーブルの代表者が議論の内容を共有。「日本で広げるには、やはり証券会社と組むのが有力だろう」「お金をかけられれば情報の質が高まるはずで、やはりインセンティブ設計が重要だ」といった意見が挙がった。

また、予測市場への参加者をどう広げるかも論点となった。プロや当事者にとっては参加する意義が明確である一方、一般ユーザーの参加を促すには、ギャンブル以外の動機や価値をどのように提供するかが課題だとの指摘もあった。

N.Avenue club事務局は、Web3ビジネスに携わっている、または関心のある企業関係者、ビジネスパーソンへの参加を呼び掛けている。

毎月開催しているラウンドテーブル、次回6月のテーマは「地方創生」。企業リーダー向けの参加応募枠(抽選)を設けており、応募を受け付けている。

|文:瑞澤 圭
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑

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