スペインの優勝でサッカーW杯が幕を閉じた。私にとっても、怒涛の1カ月強が終わった。
特に6月30日午前2時キックオフの「日本対ブラジル」の後は、W杯に加えて、京都でのIVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWS、JBW Summit、WebXとイベントが続いた。
「4年前も、こんなに慌ただしい夏だったか?」と考えてみたが、思い出せない。
先週、このコラムでは、JPモルガンの「Blockchain Deposit Accounts(ブロックチェーン預金口座、BDA)」が、日本円、豪ドル、香港ドル、中国人民元、シンガポールドルを追加し、合計8通貨に対応したというニュースを取り上げた。
IVS CRYPTOで、ステーブルコインやトークン化預金、金融資産のオンチェーン化などを議論してきたが、このJPモルガンの動きは「オンチェーン金融」がすでに実装段階に入っていることを示している──そんな問題意識を書いた。
その後も大きなニュースが続いた。私自身も、オンチェーン金融の進展をイベント会場から速報として伝えた。
・JPYSC、年度内1000億円規模へ──「ステーブルコイン単体のビジネスはない」渡辺氏
・SBI、オンチェーン対応の最先端取引所構築へ──24時間365日取引・即時決済・ステーブルコイン対応を構想
・金融機関が国債のオンチェーン化を求める理由──鍵は「余分な担保」
・世界の10%、300兆円市場を築けるか──セキュリタイズ小林氏、日本のRWA市場に危機感
・暗号資産ETF、銀行・ゆうちょにも広がるか──SBI朝倉氏、日本型市場を展望
などだ。
また、一方で、大きなトレンドにとどまらず、より生活に身近なところでオンチェーン金融が進展しつつあることを感じさせるニュースもあった。例えば、NADA NEWSでも以下のようなニュースを取り上げた。
・ローソン、JPYC決済を8月に実証へ──POS連携で国内初=日経
・JCB、Circleとステーブルコイン活用で協業検討──USDCで社内資金移動の実証も視野
国内大手企業によるステーブルコイン決済や活用への取り組みは、ここへ来て、一段と加速してきている。
一方、グローバルの動きはさらに早い。
・DTCC、トークン化証券の本番取引開始
・BlackRock、暗号資産と伝統的金融の融合加速へ
・Visa、ステーブルコイン基盤「VSP」発表
ビッグプレイヤーは、矢継ぎ早に次の動きを始めている。W杯では、特にベスト8以降の試合で、日本と世界とのギャップの大きさを実感させられた。オンチェーン金融では、この差は縮まるのだろうか。
それでも、日本が確実に前進していることは間違いない。
最近、フリージャーナリスト・コンサルタントの林信行氏が「シリコンバレーの無責任さは、日本や欧州にとってチャンスになり得る」という趣旨の投稿をXで続けていた。
規制や信頼を競争力に変えられれば、日本には別の勝ち筋がある、という視点だ。
私も、この考え方はオンチェーン金融にそのまま当てはまると思う。
今回、IVS CRYPTOをはじめ、いくつかのイベント取材でその思いを強くしたことは、オンチェーン金融は「1つの技術やプロダクト」だけでは成立しないということだ。
これまで別々に見えていたニュースが、「オンチェーン金融」という一つの金融インフラとしてつながり始めている。
ステーブルコインやトークン化預金は、お金を動かす。
MMFは待機資金に利回りを与える。
国債は担保になる。
ETFは機関投資家を呼び込む。
24時間365日動く市場がそれらを支える。
法制度が全体を支える。
一つひとつを見れば、まったく違うニュースに見える。しかし全体を俯瞰すると、それらは「オンチェーン金融」を構成するために、相互に必要不可欠なものだ。
この1カ月で、もう1つ印象が変わったことがある。
数年前まで、ブロックチェーンの未来を熱く語るのは、スタートアップやクリプト関連企業が中心だった。今、その主役は銀行、証券会社、資産運用会社へと広がっている。
議論の中心は、ブロックチェーンの優位性などではなく、どうすれば次世代の金融インフラを実装できるのかに移っていた。
とはいえ、まだ完成した世界ではない。
流動性は十分とは言えない。制度も整備の途中。相互運用性やユーザー体験など、解決すべき課題も数多く残っている。
それでも、この1カ月で私の見方は変わった。「オンチェーン金融」は、遠い未来の話ではない。
1、2年ではまだ、大きな変化はないかもしれない。だが4年後、2030年にサッカーW杯の100周年記念大会が行われているとき、私たちが日々触れている金融の世界は、きっと変わっているはずだ。
4年後の夏、私たちはどんな未来について語っているだろう。
|文:増田隆幸


