金融機関が国債のオンチェーン化を求める理由──鍵は「余分な担保」【WebX 2026】

「国債をブロックチェーンに載せる」と聞くと、新しい金融商品の話のように思えるかもしれない。

しかし、金融機関が国債のオンチェーン化に期待しているのは、国債そのものを変えることではない。取引の安全を支える「担保」の管理方法を変え、金融市場全体の資本効率を高めることだ。

7月14日、「WebX 2026」のパネルセッション「国債×ブロックチェーン:オンチェーン化が変える日本の金融インフラ」には、Ava Labsの平田路依氏、デジタルアセットの東郷太郎氏、三菱UFJ信託銀行の西澤明男氏、SMBC日興証券の磯野太佑氏、JPX総研の明間俊宏氏が登壇。国債のオンチェーン化が金融市場にもたらす変化について議論した。モデレーターは、Progmatの齊藤達哉氏が務めた。

なぜ金融機関は「余分な担保」を積んでいるのか

金融機関の間で株式や債券、デリバティブなどを取引する際、万一、どちらかが決済できなくなっても取引が滞らないよう、国債や現金を「担保」として預ける仕組みがある。今回の議論の中心は、その担保を、より効率よく管理・移転する仕組みだった。

現状では、担保を必要な場所へ、必要な時間に自由に動かすことが難しいため、金融機関は必要以上の担保を保有するなど、資金を効率よく活用できないという課題がある。

JPX総研の明間俊宏氏は、担保の入れ替えを例に現在の仕組みを説明した。

Man in a blazer and red J-LENS shirt speaks into a handheld microphone on a stage, with one hand raised gesturing to the audience.
JPX総研の明間俊宏氏

例えば、100億円分の国債を担保として預けている金融機関が、その担保を別の国債や現金に入れ替えたいとする。

このとき、先に今の担保を引き上げてしまうと、取引を支える担保がなくなってしまう。そのため、まず新しい担保を追加し、そのあとで元の担保を引き出すという順番になる。

つまり、100億円分の担保を入れ替えるだけでも、一時的には200億円分の担保を用意しなければならない。

明間氏は、ブロックチェーンを活用して担保の受け渡しを同時に行えるようになれば、こうした「余分な担保」を減らせる可能性があると説明した。

担保の移動には時間的制約も

もう一つの課題は、担保を動かせる時間が限られていることだ。

証券やデリバティブの取引時間は年々長くなっている。東京証券取引所でも、上場デリバティブの祝日取引が始まるなど、市場は取引できる時間を広げている。

一方で、担保の受け渡しは、日銀や証券保管振替機構(ほふり)など既存の金融インフラの営業時間に合わせて行われる。

つまり、市場が開いていても、必要なタイミングで担保を追加したり引き出したりできるとは限らない。

そのため金融機関は、「あとで担保が足りなくなるかもしれない」と見越して、必要以上の担保を預けておく必要がある。

明間氏は、国債のオンチェーン化によって担保をより柔軟に移動できるようになれば、こうした時間的な制約を緩和し、「余分な担保」を減らせる可能性があると説明した。

削減すべきは事務コストではなく資産コスト

Male speaker in a dark suit holding a microphone on stage at a conference, with a branded backdrop and logos behind him.
三菱UFJ信託銀行の西澤明男氏

さらに、三菱UFJ信託銀行の西澤明男氏は、国債のオンチェーン化による最大の効果は、事務作業の効率化だけではないと指摘した。

銀行は国内外の清算機関やデリバティブ取引など、さまざまな場所に担保を差し入れている。それぞれで担保不足を防ぐため、余裕を持って国債などを保有しているが、それらを必要なタイミングで別の用途へ振り向けることは容易ではない。

もしブロックチェーンを活用し、必要な時間だけ担保を差し入れたり引き上げたりできるようになれば、分散している担保を一体的に活用できる可能性がある。

西澤氏は、そこで削減できるのは「オペレーションコスト」ではなく、「アセットコスト」だと説明した。

余分に保有している担保を減らせれば、その資産をより高い収益を生む運用へ回すこともできる。オンチェーン化は、金融機関のバランスシート運営そのものを変える可能性があるという。

「新しい国債」をつくるわけではない

Man in a light gray blazer speaks into a handheld microphone on a stage at a conference, with sponsor logos in the backdrop and a large screen above him.
デジタルアセットの東郷太郎氏

デジタルアセットの東郷太郎氏は、「国債のトークン化」という言葉が誤解を招きやすいと指摘した。

検討されているのは、ブロックチェーン上だけで流通する新しい種類の国債を生み出すことではない。国債としての権利や性質はそのままに、保有や移転の管理にブロックチェーンを活用する構想だ。

東郷氏は、こうした基本的な考え方は米国と日本で共通していると説明した。

また、SMBC日興証券の磯野太佑氏は、ブロックチェーン技術は開発競争の段階にあり、パブリック、プライベート、コンソーシアム型など複数の方式が競争しながら発展していくことに意味があると指摘。Ava Labsの平田路依氏は、金融インフラとして利用するには、プライバシー保護や法令順守を組み込んだ設計が不可欠との考えを示した。

ステーブルコインの次は「オンチェーン担保」

セッションの最後には、2030年時点でオンチェーン化された国債の規模についても議論が交わされ、登壇者からは数兆円から100兆円規模まで幅広い見通しが示された。共通していたのは、重要なのはオンチェーン化された国債の残高だけではなく、担保として何度も利用されることだという点だった。

これまでオンチェーン金融では、ステーブルコインやトークン化資産が注目を集めてきた。しかし、それらを支える担保資産もオンチェーン上で柔軟に動かせるようになれば、金融市場全体の資本効率は大きく変わる可能性がある。

国債のオンチェーン化は、新しい金融商品を生み出す取り組みではない。金融市場の裏側で動く「余分な担保」を減らし、資本効率を高めるためのインフラ改革が、本格的に動き始めている。

|文・撮影:増田隆幸

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