「今後10年で、今とは全く違う社会・経済に身を置くことになることに疑いはない」──。
家庭の冷蔵庫やコンビニ、大谷選手のユニフォーム。自民党「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」が5月19日に公表した提言は、こうした身近な話題から、中小企業のキャッシュフロー、企業の信用、融資といったビジネス領域までを接続しながら、“次世代の金融”の姿を描き出している。
PT、そして提言の狙いはどこにあるのか、何を最も重視しているのか、座長を務める衆議院議員の木原誠二氏に聞いた。
AI×オンチェーンが描く次世代金融
──提言は、かなり踏み込んだ印象を受けた。どのような反応があったか。
木原氏:かなりの反応があったが、「いずれこういう時代が来る」ことは、皆さん、理解しておられる。反応は大体3つくらいに分かれていて、1つは「かなり踏み込んだ提言だ」というもの。2つ目は「網羅的な提言だ」、そして3つ目が「スピード感がある提言」という感じだった。
──冒頭に具体的な利用例が記載されている。ステーブルコインは決済に注目されがちだが、後半では、ビジネスでのDvP決済や売掛債権のオンチェーン化などまで踏み込んでいる。
木原氏:今回の提言の最大の目的は、ステーブルコイン、トークン化預金、RWA(現実資産)のトークン化など、各企業がさまざまに、しかし、バラバラに取り組んでいることの全体像を示すこと。そのため、冒頭に「こんな世の中になる」ということを示した。「自動化」「連結化」「24時間365日化」が実現した世界をビジョナリーに記載した。
──自民党「次世代のAI・オンチェーン金融構想PT」の発起人である平将明議員は、木原議員に座長を依頼した理由を「金融とテクノロジーの両方に精通し、当局と議論できる政治家でなければ進められない」と語っていた。
木原氏:私自身はこの10年余り、特に直近4年は、資産運用立国の実現を提唱・推進してきた。まずはNISAの拡充に始まり、その後は資産運用業の改革に取り組み、ひと区切りついた。他方、ブロックチェーンについては、2014年から取り組んできて、資金決済法の2019年の改正で暗号資産の位置づけを定め、2021年の改正でステーブルコインの位置づけを明確化した。さらに暗号資産の規制法の金融商品取引法への移行も道筋が見え、こちらもひと区切りついた。
「次は何か?」 と考えると、決済まわりが浮かんだ。今年のダボス会議でオンチェーン金融やトークン化の話題が注目を集めたことも決定的だった。
金融主権をどう守るか

──ブロックチェーンに関心を持つようになったきっかけは?
木原氏:2014年のマウントゴックス事件は衝撃的だった。黎明期で注目を集めていたビットコインが、東京を拠点とする暗号資産取引所から流出した。その後も流出事件が続き、危機的に感じた。同時に、ブロックチェーンという技術に関心を持った。金融はこれまで、中央集権的なものだったが、分散化されたシステムは実に面白いと感じた。
──今回の提言では、日銀当座預金のトークン化にも触れている。特に重視したことは。
木原氏:5つぐらいある。まずは、10年後、20年後の世界観を、多少の飛躍はあっても見せること。
2つ目は、金融は成長産業だということ。金融は成長を支えるインフラと言われるが、金融そのものが成長産業であり、AI×オンチェーンがもたらすイノベーションで、金融から新しい産業を起こせることを示したい。
3つ目は、世界でオンチェーン化が進展していくと、日本の金融主権、通貨主権が脅かされることになる。金融主権、通貨主権をしっかり確保できるようにする必要がある。
4つ目は、その際にアジアと連携すること。アジアでは日本は貿易相手国として大きな位置を占め、日本円での決済も半分近くを占める。
5つ目は、どれか1つに決め打ちしないこと。例えば、ステーブルコインも、トークン化預金も、CBDC(中央銀行デジタル通貨)もバランスよく追求していく。
日銀当座預金のトークン化について言えば、トークン化預金にせよ、ステーブルコインにせよ、最終の決済尻である日銀において、何らかの形でオンチェーン化が進まなければ、オンチェーン化は完結しない。年内に論点を整理し、一定の方向感を示してほしいと考えている。
二重投資をどう乗り越えるか
──今回の提言は6月に策定される「骨太の方針2026」にも盛り込まれると聞いている。提言に政府全体を巻き込んでいくために考えていることは。
木原氏:提言には、政府与党の一角である自民党としての意思が盛り込まれている。そして、「年度内には方針を示して欲しい」などと明示しているので、それは政府としても無視はできないと考えている。ただ、こうした取り組みは、予見可能性が必要になるので、政府の方で五カ年計画のようなものを作ってくれるとさらに良いと考えている。
──一方で、メガバンクは生成AIへの取り組みを活発化しているものの、記者発表などから、まだ「オンチェーン金融」という言葉は出ていない。伝統的金融機関は、まだ保守的なところがあるだろうか。
木原氏:個社の話には触れないが、日本のメガバンクが世界的なIT大手と協業するという動きも出てきている。こうした動き自体が、かつての伝統的金融機関では考えられないことだ。確実に変わってきているのではないか。
IT大手との協業はおそらく、ある種のプログラマビリティの提供を目指していると思われ、前進だと思う。今回の提言も、一方にAIがあり、もう一方にオンチェーン金融がある。この2つがシナジーを生むことによって、新しい世界観が拡がっていく。
日本の金融機関においては、すでに我々が「AI×オンチェーン」と言い出す前から、メガバンクが独自のブロックチェーン基盤を開発するなど、水面下でいろいろ取り組みが進んでいる。提言の重要な役割という点に戻ると、国が方向感をしっかり出すことで、そういう水面下の取り組みが表に浮上するきっかけにもしていきたい。
──従来のシステムと、新しいオンチェーン金融のシステムとの「二重投資」の問題も提言は指摘している。国が方向感を示すことは、二重投資を乗り越える後押しになるだろうか。
木原氏:そう考えている。金融の安定性にとって、システムは非常に重要だ。ここが揺らぐことがあってはならない。第一義的には、今のシステムを守っていただくことが重要だが、国が方向感を示し、新しい取り組みを同時に進めていくことが大切だ。
ある日突然、新しいシステムにスイッチすることはないので、 一定期間、あるいは、ずっと両方が併存するかもしれない。したがって、国がサポートしていくことは必然だと思う。その意味で、提言では金融を18番目の成長投資分野とすることを謳っている。
銀行はプラットフォーマー化する

──国のサポートがあると、銀行も新しいことに積極的に取り組みやすくなるということか。
木原氏:提言は、銀行の姿そのものを変えようとしている。つまり、お金を貸す、預かる、決済するという機能の提供にとどまらず、例えば、商取引における契約、デリバリー・配送、貿易における船荷証券などにかかわる実務も決済とともに提供する。決済、あるいは送金機能を起点にして、その周辺も銀行がオンチェーンで提供する。
日本には、中小・零細企業が数多く存在する。すべての企業活動がオンチェーン化することは、コスト面から見ても難しいであろう。だが、オンチェーン化を可能にする新たなサービスを決済を起点に銀行が提供することで、多くの企業がオンチェーンのメリットを享受できるようになる。ある意味、銀行が「プラットフォーマー化」していくイメージを持っている。
──オンチェーン金融の進展によって、銀行の機能が削がれていくという捉え方もあるが、逆にプラットフォーマーとして機能を広げていく可能性がある。
木原氏:かつて銀行は、各地域に支店があり、行員が地域の中小企業を訪れて、あるいは個人宅を訪問して会話をしていた。今はそうした動きはなくなり、銀行に地域の情報が集まらなくなってしまった。オンチェーン化することで、銀行に再び、いろいろな情報が集まり、その情報を活用して、小口の融資などもできるようになるだろう。
資産サイドでも、さまざまな資産のトークン化が進めば、トークン化された資産をベースに貸し付けが可能になる。まさに金融は成長産業であり、イメージはダイナミックに変わっていくと思う。
ライバルはデジタル人民元

──提言では、「アジアでの主導権確保」や「AI・オンチェーン金融アジア政策対話枠組み(仮称)」の創設も掲げている。シンガポールなどが強力なライバルになりそうだが、主導権の確保には、どういう取り組みが必要だろうか。
木原氏:ドルベースのステーブルコインは利用が伸びている。トークン化預金も、JPモルガンが注力している。日本企業がドルベースのステーブルコインやトークン化預金の経済圏に吸い取られてしまわないようにするには、円ベースのものを用意しておくことは非常に重要。そしてその時、日本の強みが生かせるのが、アジアだ。アジアは貿易の取引高も多く、半分近くは決済に日本円が使われている。ここにしっかり展開していくことは非常に重要になる。
シンガポールは金融面では強力なライバルだが、貿易で見ると存在感は小さい。日本にはリアルな世界での強みがあり、それを活かしていきたい。
むしろ我々のライバルになるのは、「デジタル人民元」だろう。今後、量子暗号通信にデジタル人民元が乗るようなことが起こってくれば、ますます脅威になる。中国と喧嘩をする必要はないが、アジアの国々に、別の選択肢を用意しておくことが重要になる。
──「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」は4月に発足し、きわめて短期間で提言をまとめた。世界の動きに対する危機感があったのか。
木原氏:日本を代表する商社が、JPモルガンのオンチェーン決済サービスを使って国際送金を行うとのニュースが3月末にあり、かなり驚かされたし、「危うい」と感じた。
JPモルガンは、世界中に支店を持っており、その規模に日本の銀行は及ばない。日本企業がJPモルガンのドル預金口座を利用するようになれば、国内から預金が流出していく可能性もある。国内の銀行の「信用創造」機能にも影響が及びかねない。
あのニュースが私にとっては、提言とりまとめを急いだ一番のきっかけになった。
|インタビュー・文:増田隆幸
|撮影:NADA NEWS編集部



