「誰が誰にいくら払ったか」を隠す──zERC20 v2が始動、入出金はスクリーニング

暗号資産を安全に保管していても、別の場所から氏名や住所、暗号資産サービスの利用履歴が漏れることはある。

10月には、ハードウェアウォレットを提供するKeystone(キーストーン)が、公式サイトへの不正アクセスにより、2万5964件の氏名、連絡先、配送先住所、注文情報が流出したと発表した。秘密鍵やリカバリーフレーズは流出していない(同社はその後、端末の真正性を検証する認証鍵も盗まれたと公表)が、暗号資産を保有している可能性の高い人物を特定できる情報が第三者に渡った。

こうした情報漏えいそのものを、ブロックチェーンのプライバシー技術で防げるわけではない。個人とウォレットアドレスが結び付けば、パブリックブロックチェーン上の残高や支払い履歴まで、個人にひも付けて追跡される可能性がある。企業がステーブルコインで支払いを行う場合も、取引先や支払額、ウォレット残高を競合他社などに知られかねない。

zERC20 Limitedは11月4日、暗号資産の残高や送金履歴を外部から見えにくくする「zERC20 v2」をメインネットで公開した。

パスキーで開き、ガス代用トークンも不要

zERC20 v2では、USDCやETHなどのトークンを1対1で「z」版のトークンに変換し、プライベート残高として保有する。

zERC20の利用者間で送金した場合、誰が誰にいくら支払ったかはパブリックブロックチェーン上に表示されない。入金時の送り主と金額、出金時の出金先と金額は公開されるものの、その間のプライベート残高でのやり取りは見えない設計だ。

利用者は専用アプリをインストールする必要がない。ブラウザ上でアカウントを作成し、Face IDや指紋などのパスキーで開く。

既存のウォレットや暗号資産交換所から、使い捨ての入金アドレスへトークンを送ると、プライベート残高に反映される。送金や出金の際は、取引を中継するシステム(リレイヤー)が利用者に代わってトランザクションを送信し、送るUSDCなどから少額の手数料を受け取る。このため、手数料の支払いに使うETHなどを別途用意する必要がない。

ローンチ時点では、Ethereum、Base、Arbitrum One、BNB Smart Chain、Polygonの5ネットワークに対応する。ETH、USDC、BNB、POL、JPYCを基にしたラップトークンを利用でき、zJPYCはPolygonで対応する。

なお、zJPYCとzUSDCはzERC20が独自に提供する非公式のラップトークンで、JPYC株式会社とCircle(サークル)は、提供や共同開発、審査、推奨に関与していない。

不正資金との混在をどう防ぐか

プライバシー機能には、マネーロンダリングや制裁回避に利用される懸念がつきまとう。

zERC20は、入金元と出金先のアドレスをChainalysis(チェイナリシス)でスクリーニングする。問題があると判定された入金はプライベート残高に反映せず、送り主への返金だけを認める。

制裁対象などのアドレスを登録するオンチェーンのブロックリストも設ける。リストに入ったアドレスはzトークンの送受信やラップ、アンラップができず、ハッキング事件などの際にもアドレス単位で凍結できる。リストの変更はすべて公開される。さらに、すべてのプライベート送金と出金をアテスターサーバーが確認し、条件を満たした取引だけをブロックチェーンが受け付ける。

一方、利用者は「ビューキー」を使い、会計士など指定した相手に残高や取引履歴の閲覧権限を付与できる。閲覧権限を使っても、資金を移動することはできない。法的な要請があった場合に限り、指定された監査人が承認手続きを経て、対象口座の履歴を確認できる仕組みも備える。この場合、ビューキーを使ったことが公開ログに残る。

つまり、誰からも追跡できない完全な匿名化ではなく、一般には非公開としながら、必要な場合に限って監査可能にする設計だ。

プライバシーは「秘密鍵」だけでは守れない

zERC20はゼロ知識証明(ZK)を使い、送金元や資金の由来を公開せずに、取引が正当であることを証明する。運営会社が利用者の資金を動かせないノンカストディアル型で、プロトコルの変更には、独立した外部の署名者を含むマルチシグを採用したという。

もっとも、プライバシーが完全に保証されるわけではない。公式ドキュメントも、入金直後に同額を出金するなど、金額や時間に特徴のある使い方をすれば、第三者に取引を推測される可能性があると注意を促している。

なお、2026年2月に公開された初代のv1は、11月4日にラップとプライベート送金を停止した。v1からの出金は2027年4月30日まで可能で、資金を引き出してからv2に入金し直す必要がある。

秘密鍵やリカバリーフレーズを守るだけでは、暗号資産に関するプライバシーを守ったことにはならない。個人情報の流出と、ブロックチェーン上に残り続ける取引履歴が組み合わされば、保有資産や取引関係まで知られる恐れがある。

zERC20 v2が提案するのは、ブロックチェーンの透明性をすべて捨てるのではなく、「誰に何を見せるか」を利用者側で制御する仕組みだ。ステーブルコイン決済が日常や企業取引に広がるほど、プライバシーは付加機能ではなく、決済インフラに必要な基本機能になっていく。

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|文:NADA NEWS編集部
|画像:リリースより

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