日本国債(JGB)のオンチェーン化について、「何を」「どこまで」変えるのかが、かなり具体的になってきた。
昨日、日本国債をトークン化する方式として「振替国債」を活用する方針が報じられた。10月22日、Progmat(プログマ)が主催するデジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)は、69組織が参加するワーキンググループの「中間整理」を正式に公表した。
今回明らかになったのは、「振替国債を使う」という結論だけではない。
既存の国債としての法的性質を維持したまま、DLT(分散型台帳技術、いわゆるブロックチェーン)と同期する「オンチェーン管理口座」を新設し、24時間365日動く新システムで管理する。
さらに、レポ取引(国債などを担保に、金融機関が短期資金を貸し借りする取引)では、既存市場を全面的に作り替えるのではなく、中央清算機関(CCP)を介さない相対取引に残る照合・決済・担保管理をオンチェーン化する。
なぜ「振替国債」なのか
国債はすでに電子化されている。日本では、日本銀行を振替機関とする国債振替決済制度のもと、国債の保有や移転は電子的に記録されている。
NADA NEWSでも、「すでに電子化されているのに、なぜ国債をオンチェーン化するのか──Progmat齊藤達哉氏に聞く」という記事を公開している。
今回のWGで議論されたのは、そこからさらに「何をトークン化するのか」だった。
トークン化の候補となったのは、日銀の国債登録簿で管理される「登録国債」、社債・株式等振替法に基づく「振替国債」、そして振替国債の引き渡しなどを請求できる権利を別途トークン化する「紐付権利」の3方式。
中間整理は、その中で「振替国債そのもの」をオンチェーンで管理する方式を主案とした。
理由の一つが税制だ。
金融機関などが保有する振替国債には、利子に対する源泉徴収免除の仕組みがある。一方、登録国債や、振替国債に紐づく別の請求権をトークン化する方式では、そのまま同じ扱いを受けられず、税制改正などが必要になる。
さらに、紐付権利型では、既存の振替国債と同じ担保価値を維持できるか、第三者に権利を主張するための対抗要件をどう満たすかといった論点も残る。
中間整理は、法改正・税制改正の負荷や既存市場との整合性を踏まえ、振替国債そのものをオンチェーン化する方式を比較優位と整理した。
国債の性質は変えず、「管理方法」を変える
具体的な仕組みとして示されたのが「オンチェーン管理口座(OC口座)」だ。
銀行や証券会社などの口座管理機関が、DLTと同期するOC口座を新たに設ける。既存の振替国債をOC口座に移すことで、振替国債としての法的性質は維持したまま、管理方法だけをオンチェーンに切り替える。
齊藤達哉氏は22日に公開したnoteで、この処理について「新しい国債を二重に発行する処理ではない」と説明している。既存口座で管理していた振替国債の一部を、同じ投資家名義のOC口座へ振り替え、その対応残高をDLT上で表現する仕組みだ。
WGは、24時間365日稼働してDLTと常時同期する新システム上のOC口座記録を、振替口座簿の「正本」とする構成を主案とした。既存の口座管理システムは、開局時間中にOC口座のデータを「写し」として取り込み、周辺システムや保存用ファイルへの連携に使う。
つまり、現在の金融インフラを全面的に置き換えるのではなく、オンチェーン部分を新たに追加し、既存システムへの改修影響を抑える設計だ。
まずは、日銀と直接口座を持つ1つの口座管理機関と、その配下で完結する取引から始める。その範囲であれば、日本銀行のシステムと直接連携せずに処理できる。
口座管理機関をまたぐ取引については、DLT上の情報を起点に、振替機関(CSD)である日本銀行へAPI連携し、既存制度上の記録が完了した後に移転を確定する方法などを並行して検討する。
狙うのは「集中清算の外側」
国債をオンチェーン化する目的は、新しい金融商品を作ることではない。
WGが主に狙うのは、日本証券クリアリング機構(JSCC)などの中央清算機関(CCP)を介さない相対取引だ。中間整理では、日本の国債レポ市場を250兆円超と試算する。
また、日銀の短期金融市場サーベイなどをもとに、資金調達サイドでは約4割が非CCP取引として残ると整理している。この非CCP領域では、海外の金融機関やファンドなども参加し、照合や決済、担保管理にアナログな処理が残る。
今回のWGでは、DeFi(分散型金融)のような全面オンチェーン化ではなく、既存の取引チャネルや契約を残し、約定後の照合・決済・担保管理などの「ポストトレード」をオンチェーン化する。
「24時間化」だけが目的ではない
24時間365日動かせることは重要だが、それだけではない。例えば銀行などは、日銀の日中当座貸越を使って日中の円資金を調達できる。そのため、「数時間だけ資金を借りられる」こと自体を価値にしても、既存インフラとの差は出にくい。
WGがより大きな効用を見込むのは、日中当座貸越を使えない非居住者やファンド、日銀ネットの開局時間外、クロスボーダー取引、外貨調達などだ。
こうした領域では、必要になるかもしれない資金や担保をあらかじめ余裕を持って確保する「Just in case」型の運用が残る。国債と決済手段をオンチェーンで接続し、必要な時に必要な分だけ資金・担保を動かせれば、「Just in time」型の資金・担保管理に近づくとしている。
Canton Networkで「実際に動かす」
11月のキックオフを目指す第二期では、こうした設計を実際に動かす。
Progmatは、Canton Network(カントン・ネットワーク)上に、検証用のトークン化国債(tJGB)、トークン化預金(TD)、ステーブルコイン(SC)を発行・管理できるサンドボックスを構築し、国内外の複数のレポ・担保プラットフォームと順次接続する。
同ネットワークは、規制対象の金融市場向けに設計されたブロックチェーンで、取引参加者ごとに情報の開示範囲を制御できることなどを特徴とする。
第二期では、検証用の画面や処理を使いながら、イントラデイ取引、クロスボーダー取引、資金・担保の横断管理などのユースケースを検証する計画だ。
米国ではすでに国債・レポ市場のオンチェーン化が進んでいる。
Broadridge Financial SolutionsのDLTを使ったレポ取引は、2026年7月の平均日次処理額が3650億ドル、月間処理額が8兆ドルに達した。米DTCCも、DTCで保管する米国債などを対象としたトークン化サービスを準備している。
日本のトークン化市場はこれまで、不動産STなど個人投資家向けの「新商品」が中心だった。一方、今回の取り組みは、すでに巨大な市場を持つ国債を新商品に変えるのではなく、既存の機関投資家取引のうち、集中清算の外側に残る決済・担保管理を効率化することを狙う。
「資産をトークンにする」段階から、「市場をオンチェーン化する」段階へ。今回の中間整理は、その方法論を具体化したものと言える。
【次に読む】
» すでに電子化されているのに、なぜ国債をオンチェーン化するのか──Progmat齊藤達哉氏に聞く
» 三菱UFJ、日本国債レポのオンチェーン化を実証へ──振替口座簿を更新する設計と、翌日物に偏る国内レポ市場【MCB FinTechカタログ通信】
» 「国債のトークン化」がゴールではない──Secured Financeが見る「金融市場の配管」の進化とは
|文:増田隆幸
|画像:Adobe Stock


