国債も投資信託も、すでに電子化されている。紙の証券を手渡して取引しているわけではなく、既存の金融インフラの上で、保有状況の記録や決済が電子的に行われている。
では、なぜ今、そうした国債や投資信託をあらためてブロックチェーン上で扱おうとしているのか。
NADA NEWSでは、ST特集の関連企画として、Progmat代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏と「オンチェーン金融」をテーマにしたXスペースを今後定期的に開催する。
第1回となる今回は、「Progmat齊藤さんに聞く!いま知るべき『オンチェーン金融』の全貌」と題し、オンチェーン金融の現在地と、国債・投信など既存の「振替証券」をオンチェーン化する意味を聞いた。
「オンチェーン金融」は新しい話ではない
「オンチェーン金融」という言葉は、最近、よく目にするようになった(我々も積極的に使っている)が、齊藤氏は、取り組みそのものは「新しいものではない」と話す。
同氏が前職の三菱UFJ信託銀行でブロックチェーンを金融ビジネスに活用する取り組みに関わり始めたのは2016年。すでに10年前から、現在「オンチェーン金融」と呼ばれている領域に携わってきた。
齊藤氏は、オンチェーン金融を大きく「DLT×金融」と捉える。DLTとは、Distributed Ledger Technology(分散型台帳技術)の略称だ(ブロックチェーンは、DLTの一種だが、ほぼ同義で使われることが多い)。
金融サービスとDLTを組み合わせ、新しいビジネスを生み出すのか、あるいは既存業務を効率化するのか。最近になって「オンチェーン金融」という新しい名前が付いたものの、取り組んでいるテーマは連続しているという。
一方で、この数年で焦点は変わってきた。
これまで日本では、不動産を裏付けとしたセキュリティ・トークン(ST、デジタル証券)が「資産のトークン化」をけん引してきた。
だが齊藤氏は、不動産STも実際には「不動産そのもの」をトークン化しているわけではないと述べる。正確には、不動産を法的な器に入れ、その持分である証券をDLTで管理している。
つまり、もともと行われてきたのも「証券のトークン化」だった。
そして今、その対象が不動産などを裏付けとする証券から、国債、株式、投資信託へ広がり始めている。
新商品ではないからこそ「なぜDLTなのか」が問われる
ここで大きな違いが生まれる。
不動産STは、個人投資家向けの「新しい金融商品」を実現するための手法としてDLTが活用された。
一方、国債はトークン化しても国債のまま、投資信託は投資信託のままだ。権利の記録にDLTを使ったからといって、商品そのものが変わるわけではない。
だからこそ齊藤氏は、既存の証券では「真の意味で、何のために権利記録にDLTを使うのか」が問われると説明する。
その答えとして挙げたのが、「ポストトレード」だ。
証券取引では、売り手と買い手が条件を合意して約定した後も、実際に証券と資金をそれぞれの当事者へ移す必要がある。
さらに取引量が大きくなれば、複数の売買を相殺するネッティングや清算などの処理が必要になる。
こうした約定後の一連のプロセスがポストトレードだ。
国内市場は、すでに効率化されている
ただし、日本の金融市場のポストトレードが非効率なわけではない。
むしろ齊藤氏は、株式や国債など主要市場では、既存インフラによってすでに相当程度効率化されていると指摘する。
株式や投資信託では証券保管振替機構(ほふり)、国債では日本銀行が、証券の保有や移転を電子的に管理する「振替」の仕組みを担い、清算では日本証券クリアリング機構(JSCC)などの中央清算機関(CCP)が機能している。
こうした仕組みでは、複数の取引をまとめて差し引きし、最終的に必要な分だけを決済することで、必要な資金や証券を抑えている。
「そこにおいては、わざわざ権利記録にDLTみたいな仕組みを持ち出す意味っていうのは、そんなにないんですよ」
では、どこに課題が残っているのか。
狙いは「集中清算の外側」
齊藤氏が指摘したのが、中央清算の仕組みに直接参加できない市場参加者との取引だ。
例えば、取引相手が海外のヘッジファンドや金融機関であれば、必ずしも日本国内の振替機関に直接口座を持っているとは限らない。
中央清算の対象外になると、ポストトレードには途端にアナログな部分が残りやすくなるという。
「集中清算の効率化された世界の外で営まれている機関投資家同士の取引は、インフラが届ききっていない。そこに関しては、権利記録装置としてDLTを含む新しいインフラがあったら解決できるかもしれないという期待値が非常に強い」
特にペインが大きいのが、クロスボーダー取引だ。
齊藤氏によると、日本国債(JGB)を担保に資金を貸し借りする「レポ取引」では、中央清算で処理されているのは大まかに6割程度。逆に言えば、4割程度は集中清算の外側に残っているとのことだ。
日本国債のレポ市場全体が数百兆円規模であることを考えれば、その一部だけでも大きな市場になる。
JGBを担保に、必要な外貨を「必要な時だけ」
そして、オンチェーン化によるメリットがより分かりやすくなるのが、資金調達の場面だ。
金融機関は、巨額の資金を日中に何度もやりくりしている。例えば数時間後に資金が必要になる場合、現在の仕組みでは、資金不足に備えてあらかじめ余裕を持って資金を積んでおく必要があるケースもある。
しかし証券と決済手段が同じDLT上にあり、24時間365日、DvPで即時に決済できれば、必要なタイミングで保有証券を担保に差し入れ、必要な資金だけを調達することが可能になる。
齊藤氏はこれを「ジャストインケース」から「ジャストインタイム」への変化として説明した。
必要になるかもしれない資金をあらかじめ多めに積んでおく(ジャストインケース)のではなく、本当に必要になった時(ジャストインタイム)に調達する。
そうなれば、バランスシート上で余分に確保している資金や資本を減らし、資金・資本効率を高められる可能性がある。
「円」よりも「外貨」のニーズ
そして齊藤氏が、より大きな需要があるとみているのが外貨調達だ。
「トークン化されたJGBを担保に出して、今この瞬間に必要な外貨をクロスボーダーで持ってこられることは、ニーズとしては結構大きいのではないか」
国内の円資金だけであれば、日本銀行の仕組みを通じて日中の流動性を融通する制度もすでに存在する。
一方、海外の金融機関やグローバル・カストディアンが絡み、「すぐに円が必要、ドルが必要」といった状況になると、既存インフラだけでは摩擦が残る。
JGBをオンチェーンで担保として動かすことができれば、必要な外貨を必要なタイミングで調達できる可能性が出てくる。
その際、決済手段はステーブルコインに限らない。トークン化預金、将来的にはトークン化された中央銀行当座預金なども選択肢になり得るという。
決済手段について齊藤氏は、取引主体によって使いやすい決済手段が異なるため、「キャッシュレグ」と呼ばれる資金側については広く構える必要があると話した。
「資産のトークン化」から「市場のオンチェーン化」へ
これまで日本のST市場では、新しい金融商品を個人投資家へ届けることが大きなテーマだった。一方、国債や投資信託のオンチェーン化が狙うのは、まったく別の世界だ。
1件数十億円規模で取引する金融機関や機関投資家。国内外の銀行、証券会社、ヘッジファンド、グローバルカストディアン。その間を動く国債や資金。
そこでは、新しい金融商品を作ることよりも、既存の巨大な金融市場の「取引後」をどう効率化するかが問われている。
すでに高度に電子化された国内金融市場をブロックチェーンで置き換えるわけではない。既存インフラが十分に届いていない領域を、資産とお金が同じレールを流れるオンチェーンの仕組みでつなぐ。
国債や投資信託のトークン化が目指しているのは、「証券をトークンにする」ことの先にある、金融市場そのもののオンチェーン化と言える。
なお、「国債レポのオンチェーン化」など、最新の取り組みについて、齊藤氏はnoteで積極的に発信している。齊藤氏のnoteは、こちらから。
|文:増田隆幸
|画像:生成AIで作成


