Nasdaq、Kraken親会社に1億ドル出資──上場企業が関与するトークン化株式「NET」と、まだ示されていない議決権の扱い【MCB FinTechカタログ通信】

2026年9月10日、米Nasdaqと、暗号資産取引所Krakenの親会社であるPaywardが、トークン化株式を巡る提携の拡大を発表しました。今回の発表は、Nasdaq Venturesによる1億ドルの出資、両社が進める「Nasdaq Equity Token(NET)」の枠組みづくりの継続、市場監視の契約の3つからなります。

今回は、株式を発行している上場企業が関与しないまま広がってきたトークン化株式の現状を確認したうえで、NETがそこに何を加えようとしているのか、株主の議決権はどのように扱われるのかについて解説します。あわせて、SECが3月に承認したNasdaq本体のトークン化取引との関係についても見ていきます。

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上場企業が関与しないまま広がったトークン化株式

まずは、Paywardが提供するトークン化株式「xStocks」がどのようなものかを見ていきましょう。xStocksは米国に上場する株式やETFに連動するトークンで、公式サイトによると、2026年9月時点で715銘柄を扱い、1ドルから小数単位で購入でき、24時間取引することができます。

xStocksを発行するのはジャージー島の法人で、株式を発行している上場企業とは資本関係がありません。販売はPaywardのバミューダ法人、欧州向けはキプロス法人が担っています。発行体の開示資料を見ると、xStocksは株式ではなく、原資産の値動きに連動する「Certificate」という種類の証券に分類されていることが分かります。

Paywardは2025年12月に、このxStocksの発行を担ってきたBacked Finance AGの買収に合意し、2026年1月に完了しています。これにより、発行から取引・決済までを自社で手がける形になりました。

注意しておきたいのは、xStocksの保有者が株主としての権利を持っていないという点です。Kraken上のリスク開示には、保有者は裏づけとなる株式の所有権を持たず、議決権も、配当を受け取る権利も、その株式に対する法的な請求権も持たないことが明記されています。

同じ開示は、株式を発行している上場企業がxStocksの募集・販売に関与せず、保有者に対して何の義務も負わないとも述べています。目論見書でも、投資家が持つのは株主の権利ではなく、xStocksの発行体に対する債権者としての権利であるとされており、償還も現金で行われ、株式そのものが引き渡されることはありません。

こうした設計のまま、xStocksの規模は伸びています。Paywardによると、累計取引高は2026年3月時点の250億ドル超から9月1日時点で400億ドル超に、保有者も8.5万超から20万超に増えました。ただし、xStocksは米国・カナダ・英国・オーストラリアでは提供されておらず、米国証券法上も登録されていません。

1億ドルの出資と、2027年に始めるNETの分担

ここからは、今回の発表の内容を見ていきましょう。Nasdaq Equity Token(NET)は、上場企業の株式をトークンの形にしたもので、Nasdaqが2026年3月9日に構想を発表していたものです。xStocksと異なるのは、株式を発行している上場企業自身が関与する設計だという点です。同社は、トークンの形になった自社株についても上場企業がより強い管理権限を持てるようにし、株式分割や配当の手続きや議決権の扱いを含めて、上場企業と投資家の関係を見直すとしています。

Nasdaqはこれに先立つ2025年9月、上場している株式をトークンの形でも取引できるようにする規則の変更をSECに申請しており、2026年3月18日に承認を得ています。NETはこの申請を踏まえた構想で、承認の内容については後ほど詳しく見ていきます。

今回の発表では、NETの投入を2027年第2四半期に予定していることが示されました。両社の発表文には、出資に伴う持分比率や企業価値についての記載はありません。

Paywardが担うのは、NETをNasdaqの外に広げる役割です。同社の説明によると、xStocksの仕組みを使ってNETをパブリックチェーン上で扱えるようにし、対象国での取引の決済を当初の一定期間引き受けます。利用者の本人確認とマネーロンダリング対策は、B2B部門のPayward Servicesが担当します。

両社はさらに、規制市場とパブリックチェーンのあいだでトークン化株式を行き来させる仕組み(equities transformation gateway)も設計するとしています。この仕組みを使えるのは、xStocksが提供されていて、かつPaywardが免許を持つ国に限られ、行き来した先で株主の権利がどう扱われるのかはまだ示されていません。

もう一つの発表内容である市場監視の契約は、Paywardが運営する暗号資産や株式、トークン化株式、先物などの各取引所に、Nasdaqの売買審査システムを導入するものです。売買審査とは、不公正な取引を検知するために取引を監視する仕組みを指します。

提携の狙いについて、PaywardのArjun Sethi共同最高経営責任者は決済のコストを挙げています。同氏によれば、米国では1日2兆ドル超の株式取引が清算システムで処理され、買いと売りを相殺した残りに対して清算機関が担保を預かったうえで、決済まで1日待つ構造になっています。2024年に待ち時間を2日から1日に短縮した際には拘束される担保が30億ドル減っており、オンチェーンでの決済はこの待ち時間そのものをなくすというのが同氏の説明です。

実際、DTCCが業界団体と連名で公表した移行後の検証報告でも、清算機関NSCCの清算基金が移行前3か月平均の128億ドルから98億ドルへ、23%減ったことが示されています。一方で、待ち時間をなくすことは、約定を相殺してから受け渡すという前提を外すことでもあり、相殺が効かなくなる分、証券と資金をあらかじめ用意しておく必要は増えると考えられます。

議決権の意向を出せる仕組みと、株主名簿に載るのは誰か

議決権については、今回の提携より先に動きがありました。2026年8月5日、BroadridgeとPayward Servicesは、xStocksの保有者が議決権行使の意向を出せるようにする協業を発表しています。具体的には、対象となる保有者がProxyVote.comにWeb3認証でログインし、裏づけとなる株式の議案資料を閲覧したうえで、議決権行使の意向を画面から提出するという流れです。

ただし、発表で使われている言葉は一貫して意向の提出であり、株主名簿に載る名義人が誰で、その意向がどの段階で実際の議決権行使になるのかについては書かれていません。

この点は、xStocksの仕組みから推測することができます。裏づけとなる株式は規制下にある保管機関(カストディアン)が保有しており、保有者が持つのはxStocksの発行体に対する債権です。つまり、株主として扱われるのはトークンの保有者ではなく、その手前にいる発行体か保管機関の側だと考えられ、保有者の意向はその名義人を通さなければ議決に届かないことになります。

こうした名義人(日本の制度では名義株主)の役割は、国内の既存の仕組みを見ると分かりやすくなります。株式会社日本取引所グループが説明する議決権電子行使プラットフォームでは、投資家にあたる指図権者が議案情報を閲覧して投票の指図を行います。その情報は名義株主の議決権行使の一部として株主名簿管理人へ伝えられます。

会社法で議決権を行使できるのは株主名簿に記載された株主であるため、プラットフォームの運営者は名義株主から委託を受けて手続きを代行する立場にあるという整理です。このプラットフォームを運営する株式会社ICJは、株式会社東京証券取引所とBroadridgeが半分ずつ出資する会社でもあります。

xStocks向けの仕組みが同じ構造だとは発表されていませんが、投資家が出すのは指図で、行使するのは名義人だという分担は、トークン化株式でも同じように必要になると考えられます。NETについては、NasdaqもPaywardも、株主の権利は損なわれないという説明にとどめており、誰が名義人になり、意向がどこで行使に変わるのかは現時点では公表されていません。

SECが承認したNasdaq本体のトークン化取引

先述した規則の変更について、SECの承認命令を見てみましょう。トークン化された株式は、従来の株式と同じ市場で、同じ優先順位のルールに従って売買が成立します。ただし、それが認められるのは、両者が互いに交換でき、同じ銘柄コードと識別番号を持ち、株主に同じ権利を与える場合に限られます。

この仕組みでは、別のトークンを新たに発行するわけではありません。参加者が注文の時点でトークン化された形での決済を選ぶと、DTCC傘下で米国株式の保管・決済を担うDTC(The Depository Trust Company)がその指定に従って決済を行います。つまり、この規則が扱うのは、既存の株式をどの形で決済するかの選択です。

Nasdaqの説明では、対象はサービス開始時点のラッセル1000指数の構成銘柄(開始後に加わった銘柄も含みます)と、S&P 500やNasdaq-100などの主要指数に連動するETFです。DTCの試験運用の期間に限った措置でもあり、この規則はDTCが必要な基盤と決済サービスを整えた時点で発効します。

そのDTCは2026年7月、30社超が参加する本番取引で担保の差入れや証券貸借、株式の受渡などを処理しており、サービスの立ち上げは2026年5月に公表した計画のとおり2026年10月を予定しています。同じ設計の届出はNYSEも行っており、2026年4月に提出された規則変更は、対象銘柄も発効の条件もNasdaqの承認内容とほぼ重なります。

こうして見ると、米国内では、既存の権利と決済インフラを維持したままトークン化する取り組みが、10月の稼働を待っている状態にあることが分かります。上場企業が関与する新しい枠組みであるNETは、この上に別途設計され、パブリックチェーン側のxStocksと行き来させる構想だといえます。

考察

今回の一連の動きは、トークン化株式が規制の下へ移り始めていることを示していると考えられます。24時間365日の取引や決済までの待ち時間の短縮は、Sethi氏の説明にもあるとおり引き続き焦点の一つです。それに加えて、これまであまり問われてこなかった株主の権利の扱いが表に出てきた点が、今回の特徴といえます。

xStocksのようなトークン化株式は、国境を越えて誰でも参加できるオンチェーンの世界で先に広がりました。そこで求められていたのは、株式の値動きに24時間、少額から、暗号資産と同じ口座で触れられることであり、議決権や配当を受け取る権利といった株主としての権利は特に重視されてきませんでした。上場企業との関係を持たない設計のまま累計取引高が400億ドルに達したことが、それを示しています。

一方で、規制の下にある市場でトークン化株式を扱おうとすると、こうした権利を切り離したままにはできません。Nasdaq本体のトークン化取引は、株主に同じ権利を与えることを承認の条件にしています。NETが上場企業を中心に置くと説明されていることも、Broadridgeが議決権の意向を出せる仕組みをxStocksに用意したことも、いずれも権利をトークンに載せるための動きと読むことができます。

ただし、その具体的な設計はまだ示されていません。上場企業が関与する枠組みで議決権をどう扱うかは公表されておらず、1億ドルの出資と2027年第2四半期という時期が先に決まり、権利をどう扱うかの設計はこれからという段階です。

日本でも、規制の下でトークン化株式を扱うための整理が進んでいます。Progmatが主催するデジタルアセット共創コンソーシアムは、2026年4月に「トークン化株式」の中間整理を公表しました。作業部会には資産運用会社や金融機関、証券会社など47組織が参加しています。

この中間整理では、米国の状況を、上場企業が関わらない暗号資産側の経路と、上場企業が関わって取引所市場とつながる経路に分けたうえで、後者が主流になりつつあるとしています。今回の提携のうちNETは、この後者にあたります。

議決権についても整理されており、単元未満株にあたる受益権の保有者を含めたすべての受益者に権限を付与しつつ、行使は「持株会方式」を基本形とする方針です。持株会と同じく名義人を通してまとめて行使する形であり、Broadridgeが用意した意向の提出と同じ構図といえます。

日本で想定されているのは、株式を小口化して預託証券の形にし、株式会社証券保管振替機構を介した振替証券として上場させることです。既存の振替制度に載せる以上、権利の整理を先に済ませてから取引の高度化へ向かう順序になります。出発点は違っても、オンチェーンで先に広がった取引を規制の下に取り込む際に権利をどう載せるかという問いは、米国と共通しています。

今後の動きとしては、まず10月に予定されるDTCのサービス開始で、規制市場側のトークン化が実際に稼働します。その次の焦点は、2027年第2四半期のNETが、その上に上場企業の関与を加えられるかどうかです。日本の事業者にとっては、小口化した預託証券の案件がどこまで進むかと、分散型台帳上の記録に法的な効力を認める立法が動くかどうかが、同じ時期の判断材料になりそうです。

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