暗号資産(仮想通貨)を巡る規制・法整備が、主要国・地域で相次いで進んでいる。米国では市場構造を定めるクラリティ法案の審議が続き、欧州連合(EU)は包括規制「MiCA」をすでに本格運用している。日本でも暗号資産規制を金融商品取引法(金商法)へ移す改正法が成立した。
一方、中国本土は暗号資産関連業務の禁止姿勢を維持するのに対し、香港ではステーブルコイン発行者の免許制度が始動した。ロシアも8月に新たな包括法を公布したほか、ナイジェリアや南アフリカでも規制整備が進んでいる。
暗号資産を市場に取り込むのか、利用範囲を限定するのか、原則として禁止するのか。各国・地域で進む規制の内容と違いを整理する。
米国|ステーブルコイン法制が先行、クラリティ法案の審議入り手続きは9月へ

米国では、暗号資産市場を連邦レベルのルールの下に置く法整備が進んでいる。2025年7月には、決済用ステーブルコインの発行や準備資産などを定めた「GENIUS Act(ジーニアス法)」が成立した。ただし、法律はまだ施行されておらず、現在は施行に向けた下位規則の整備が進められている。
一方、暗号資産市場全体の構造を定める「Digital Asset Market Clarity Act(デジタル資産市場明確化法案、クラリティ法案)」は、デジタル資産の規制上の位置付けや、米証券取引委員会(SEC)と米商品先物取引委員会(CFTC)の監督範囲などを明確にすることを目指している。2025年7月に下院を294対134で通過し、2026年5月14日には上院銀行委員会も15対9で承認した。
その後、8月8日にはJohn Thune(ジョン・スーン)上院多数党院内総務が、クラリティ法案の審議入り動議に対するクローチャー(討論終結)動議を提出した。
米上院の公式日程では、同動議は9月15日14時15分(米東部時間)に採決可能となる。可決されれば、法案の審議入りに向けた手続きが進む。
EU|MiCAは「制度づくり」から運用・見直しへ

欧州連合(EU)では、暗号資産市場規制法「Markets in Crypto-Assets Regulation(MiCA)」がすでに運用されている。MiCAは暗号資産の発行者やサービス事業者を対象に、情報開示や利用者保護、市場の不正行為などについてEU共通のルールを定めた包括規制だ。
MiCAは2023年に発効し、ステーブルコインに関する規定の先行適用を経て、2024年12月30日に全面適用された。既存の暗号資産サービス事業者には移行措置が設けられていたが、最長の期限も2026年7月1日に終了し、EUではMiCAの本格運用に入っている。
さらに欧州委員会は5月20日、MiCAが現在の市場や政策環境に適しているかを検証するため、制度見直しに向けた意見募集を開始した。運用状況や暗号資産市場の変化を踏まえ、必要な制度変更を検討するもので、意見募集は9月30日まで行われる。
中国本土・香港|禁止と規制下での活用に分かれる

中国本土では、暗号資産関連業務を禁止する姿勢が続いている。中国人民銀行や中国証券監督管理委員会など8当局は2月6日、2021年の通知を置き換える新たな通知を公表し、暗号資産や現実資産(RWA)のトークン化に関する規制を改めて示した。暗号資産の交換や取引仲介、トークン発行による資金調達などを引き続き違法な金融活動と位置付け、海外の事業者が中国国内向けに暗号資産関連サービスを提供することも禁止した。
RWAのトークン化も中国本土では原則禁止する一方、当局の承認を得て特定の金融インフラ上で行う場合は例外とした。また、中国国内の資産を使って海外でRWAトークン化を行う場合は、事業内容に応じて当局の同意や届出を求める。人民元に連動するステーブルコインについても、関連当局の同意なしに海外で発行することを認めていない。
一方、香港では中国本土とは異なり、ステーブルコイン発行者の免許制度を運用している。香港金融管理局(HKMA)は4月10日、Anchorpoint Financial(アンカーポイント・フィナンシャル)とHSBC(香港上海銀行)に初の発行者ライセンスを付与した。
8月12日にはアンカーポイントが香港ドル建てステーブルコイン「HKD At Par(HKDAP)」のベータ提供を開始しており、現段階では機関投資家や企業、プロ投資家などを対象としている。
ロシア|国内決済は禁止、越境利用を制度化

ロシアでは8月4日、暗号資産の流通や取引を包括的に規定する「デジタル通貨およびデジタル権利に関する連邦法」(282-FZ)が公布された。同法は9月1日に施行され、既存の金融機関に加え、暗号資産交換所やデジタル資産の権利を記録する機関などを規制対象とする。
一般の非適格投資家は、テストに合格したうえで、仲介業者1社当たり年間30万ルーブルまで流動性の高い暗号資産を購入できる。一方、適格投資家もテストが必要となるが、暗号資産の種類や取引額に上限は設けられない。
ただし、国内で商品やサービスの代金として暗号資産を使うことは引き続き禁止する。一方、輸出・輸入企業による越境決済では金額の上限なく利用でき、規制対象の仲介業者を通すだけでなく、ウォレットを使った直接決済も認めるとしている。
ロシアは暗号資産を国内通貨の代替として広げるのではなく、国内決済を禁止しつつ、投資や国境を越えた取引を規制の枠内に取り込む制度設計とした。
日本|暗号資産規制を金商法へ移管

日本では7月15日、暗号資産取引に関する規制を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移す改正法が成立した。暗号資産を株式などの有価証券とは異なる「金融商品」として金商法に位置付け、投資者保護や市場の公正性を強化する。
主要な規定はまだ施行されておらず、7月23日の公布から1年以内に政令で定める日から施行される。
背景には、暗号資産が決済手段だけでなく投資対象として広く利用されるようになったことがある。
改正法では、暗号資産取引業者に情報公表を求めるほか、特定暗号資産の募集・売出しを行う発行者にも情報公表義務を設ける。暗号資産取引業者には第一種金融商品取引業に相当する規制を適用する。また、暗号資産を対象とする投資運用・投資助言やレンディングも規制対象とし、インサイダー取引規制も新設する。
米国が暗号資産市場向けの新たな市場構造法の制定を目指し、EUが専用の包括規制MiCAを運用するのに対し、日本は既存の金融法制である金商法に暗号資産を組み込む形を選んだ。
ナイジェリア・南アフリカ|暗号資産規制の整備進む

ナイジェリアでは7月17日、Bola Tinubu(ボラ・ティヌブ)大統領が暗号資産規制の調整を目的とする大統領令に署名した。中央銀行(CBN)や証券取引委員会(SEC)などで構成する「Virtual Asset Council(暗号資産評議会)」を設置し、複数の規制当局にまたがる監督体制の調整を進める。
大統領令は新たな規制当局を設けるものではなく、既存当局の役割分担や連携を明確にする内容だ。証券性を持つデジタル資産はSEC、決済や送金、保管など証券に該当しない暗号資産サービスはCBNがそれぞれ所管する。
一方、南アフリカでは財務省と南アフリカ準備銀行(SARB)が8月3日、暗号資産の越境取引に関する「暗号資産マニュアル」の草案を公表した。国内の認可事業者から海外の事業者や非カストディアルウォレットへ暗号資産を移転する場合などを越境取引として報告対象とする。
現時点では、認可事業者を通じて暗号資産を国外へ移転できるのは個人に限るとしている。今回の草案は、国境を越えた暗号資産取引を監視・報告の対象とし、不正な資金移動などへの対応を強化する狙いがある。

各国・地域で暗号資産を法制度の中に位置付ける動きは進んでいるものの、その方向性は大きく異なる。
EUや日本が金融規制の中への取り込みを進める一方、中国本土は関連業務の禁止姿勢を維持する。ただ、香港ではステーブルコイン発行者の免許制度が運用され、ロシアも国内決済を禁止しながら投資や越境利用を規制の枠内に取り込んでいる。
また、ナイジェリアでは規制当局間の役割分担や連携を整理し、南アフリカでは暗号資産の越境取引に関する監視・報告ルールの整備が進む。
米国でもクラリティ法案の審議が続くなか、今後は暗号資産を規制するか否かだけでなく、どの活動を認め、誰が監督し、どこまで制限するのかという制度設計の違いが、各国・地域でさらに鮮明になりそうだ。
|文:平木 昌宏
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