クジラは買い始めたのに、米国投資家は動かない──ビットコイン上昇を阻む「Coinbase Premium」の弱さ【エックスウィン】

ビットコイン市場で、興味深い現象が起きている。大口投資家、いわゆる「クジラ(Whale)」によるビットコインの蓄積が回復する一方、米国の現物市場における買い圧力は依然として弱い。価格は8万ドル台を維持しているものの、市場全体が一斉に買い始めたとは言い難い状況だ。

この需給のねじれを示しているのが「Coinbase Premium Index」である。

Bitcoin: Coinbase Premium Index chart showing daily premium bars (green positive, red negative) and the price line for 2026, with right axis in USD and Japanese captions indicating negative premium.

CryptoQuantのデータによると、直近のCoinbase Premium Indexは約マイナス0.14%。米国の主要取引所Coinbaseにおけるビットコイン価格が、Binanceの価格を下回る状態が続いている。

なぜ、大口投資家は買っているのに、米国市場では強い買いが確認できないのだろうか。

クジラの蓄積は明確に回復している

まず、オンチェーンデータから確認したい。

CryptoQuantに掲載されたエックスウィンの分析では、1,000〜10,000BTCを保有する大口投資家の60日間の残高純増減が、マイナス6万2,600BTCからプラス5,230BTCへ改善した。

つまり、それまで保有量を減らしていた大口投資家が、再び蓄積する方向へ転じている。さらにCryptoQuantの10月13日付レポートでは、取引所やマイニングプールを除いたクジラの保有残高が303万BTCに達し、2025年11月以来の高水準となった。

Chart showing Bitcoin total whale holdings and 30-day percent change alongside price and total balance lines; includes notes about fastest monthly balance growth since February and highest whale balance since Nov 21, 2025.

これは、ビットコインの中長期的な価値に対する大口投資家の評価が改善している可能性を示している。

しかし、重要なのは、クジラによる蓄積と市場全体の買い需要は同じではないという点だ。

大口投資家が保有量を増やしていても、それを上回る売り注文が別の市場に存在すれば、価格は上昇しない。さらに、オンチェーンの残高増加は、必ずしも同額の新規資金流入を意味するわけではない。

なぜ米国の現物需要は弱いのか

私は、主に3つの要因があると考えている。

第一に、米国のマクロ経済環境である。

米国ではインフレ圧力が再び意識されている。9月の消費者物価指数は前年同月比3.74%となり、前月の3.40%から加速した。さらに中東情勢を背景とした原油価格の高騰が、インフレの長期化に対する警戒を強めている。

米国10年債利回りも5%台という高水準にある。こうした環境では、安全性の高い債券から相応の利回りを得られるため、投資家が価格変動の大きいビットコインの保有を積極的に増やす動機は弱まりやすい。

大口投資家が長期的な価値を見据えて買う一方、短期的な金利や価格変動に敏感な投資家は様子見を続けている可能性がある。

第二に、資金流入が一部の機関投資家に集中していることである。

米国現物ビットコインETFを見ると、10月19日にはBlackRockのIBITに約6億6,520万ドルが流入した。ETF全体でも約5億2,670万ドルの純流入となった。これは明確な好材料だ。

しかし、同日には他の一部ETFから資金が流出しており、翌20日のETF全体の暫定値も小幅な純流出となっている。つまり、大規模な買い手は存在しているものの、資金流入が幅広い投資家へ安定的に広がっているとまでは判断できない。

また、ETFを通じた購入や機関投資家の相対取引は、CoinbaseのBTC/USD市場に必ずしも直接的な買い注文として現れるわけではない。

そのため、Coinbase Premiumのマイナスだけを理由に、米国の機関投資家が買っていないと断定することもできない。

第三に、価格上昇の一部がデリバティブ市場によって生み出されていることである。

10月20日のビットコインは8万3,000ドル付近まで反発したが、CryptoQuantの分析では、その上昇にはショートポジションの清算が大きく影響していた。売りポジションの買い戻しによる上昇は、必ずしも新たな長期投資家の参入を意味しない。

価格が反発してもCoinbase Premiumがマイナス圏から脱却できなかったことは、現物市場の買い需要が十分に追随していない可能性を示している。

それでも下値が支えられる理由

一方、現在の市場を悲観的に捉えすぎる必要もない。

クジラの蓄積回復は、中長期的な売却圧力を吸収する動きとして評価できる。

しかし、短期的なリスクも残る。直近の取引所へのBTC流入は週間で約8,428BTCの純流入となり、短期保有者の利益確定状況を示すSTH-SOPRは約0.998と、損益分岐点の1をわずかに下回っている。

これは、一部の短期投資家が小幅な損失を確定している状況と整合的だ。大口投資家が蓄積していても、短期保有者の売却が続けば、上値が抑えられる可能性がある。

エックスウィンの見解──次の上昇に必要なのは「買い手の広がり」

私は、現在のビットコイン市場を「大口投資家による蓄積が回復する一方、現物需要の広がりを待っている段階」と捉えている。

今後の上昇が持続的なものになるかどうかを判断するには、3つの変化が重要になる。

一つ目は、Coinbase Premiumがゼロ付近まで回復し、プラス圏で安定すること。二つ目は、米国現物ETFへの純流入が一部銘柄だけでなく、継続的かつ幅広く確認されること。そして三つ目は、デリバティブ主導ではなく、現物需要を伴った価格上昇が確認されることである。

ただし、Coinbase PremiumはUSDとUSDT建て価格の比較でもあり、両通貨の価格差による影響を受ける。したがって、単独ではなく他の需給指標と合わせて判断する必要がある。ビットコイン市場では、大口投資家が先に動き、その後に幅広い投資家が参加する局面が過去にも見られた。しかし、今回も同じ展開になる保証はない。

重要なのは、クジラが買っているかどうかだけではない。その買いに、次の買い手が続くかどうかである。

現時点では底固めの兆候が見える一方、持続的な上昇相場への移行を判断するには、米国現物需要の回復という最後の確認が必要だと考えている。

ショート動画

クジラは買っているのに、なぜビットコインは上がらない?米国現物需要の弱さ

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