ステーブルコインやオンチェーン金融の社会実装が進むなか、「決済」のあり方も変わり始めている。
その変化は、カードからステーブルコインへ、銀行口座からウォレットへと、単純に新しいものへ置き換わるという話ではない。ウォレット機能が既存のアプリに組み込まれ、新しい決済手段が既存の金融インフラと接続するなか、顧客接点、資産管理、本人確認、不正対応などの役割を、誰がどのように担うのかが新たな論点になっている。
法人向けブロックチェーンビジネスコミュニティ「N.Avenue club」は9月17日、第4期3回目のラウンドテーブルを開催した。テーマは「『決済』の主役は誰になるのか──ウォレット・カード・企業が挑む新しい顧客接点」。
登壇したのは、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の福井崇人氏、au Coincheck Digital Assetsの笠井道彦氏、ジェーシービー(JCB)の松溪新氏。規制、新しい顧客接点、既存の決済インフラという3つの立場から、ウォレットとステーブルコインが広がることで「決済」がどう変わるのかを議論した。
「ノンカストディアルなら自由」ではない:福井崇人氏

福井氏は、カストディアルウォレットとノンカストディアルウォレットの制度上の違いから議論を始めた。ポイントとなるのは、「誰が利用者の資産を動かせる状態にあるのか」だ。
例えば、マルチシグやスマートコントラクトを利用する場合も、秘密鍵を誰が持っているか、だけではなく、事業者が単独あるいは関係事業者と共同して資産を移転できるかによって、カストディに該当するかどうかの判断が変わり得るという。
また、ノンカストディアル型であっても、法定通貨との交換や送金、カード、融資などの機能を組み合わせれば、それぞれに既存の金融規制との接点が生まれる。
ウォレットが新たな金融サービスの入口になるほど、「ノンカストディアルで顧客の資産を預からないから規制されない」という単純な整理ではなく、提供する機能ごとに制度と責任を考える必要があると説明した。
ウォレットは「アプリ」ではなく「機能」になる:笠井道彦氏

笠井氏は、ステーブルコイン市場が急速に拡大する一方、実際の商品・サービス購入などに使われる決済用途はまだ一部にとどまると指摘した。
米国では暗号資産(仮想通貨)やDeFi(分散型金融)の普及を背景に、ステーブルコインを保有するユーザーが増え、その資産を送金や決済にも利用する流れが生まれている。一方、日本では異なる普及ルートをたどる可能性があるという。
その一つが、既存のポイントや決済サービスだ。
KDDIグループでは、Pontaポイントを使ってビットコインの値動きを体験できるサービスを展開している。暗号資産そのものを購入するよりも心理的なハードルが低く、デジタル資産への入口になる可能性があるという。
ウォレットについても、独立したアプリだけが顧客接点になるとは限らない。既存のアプリやサービスの中にウォレット機能が組み込まれ、ユーザー自身が「ウォレットを使っている」と意識しない形で普及する可能性を示した。
※編集部注:9月30日、KDDI、au Coincheck Digital Assets、HashPortの3社は、au PAYアプリ内のミニアプリとして、暗号資産(仮想通貨)ウォレット「αU wallet」の提供を開始すると発表した。まさに暗号資産を扱うノンカストディアルウォレットを既存のサービスに融合させた。
カード会社は「新しいマネーを受け入れる側」へ:JCB 松溪新氏

JCBの松溪氏は、同社が現在、ステーブルコインとAgentic Commerceを重要なテーマとして研究・事業開発を進めていると説明した。
VisaやMastercardといったカードのグローバル大手に加え、Stripe、Circleなどの動向を分析するなかで、決済をめぐる競争はカードやステーブルコインといった単一の手段ではなく、ウォレット、ブロックチェーン、AIなどを含めた領域へ広がっていると指摘。JCB自身は、流通するステーブルコインを企業や加盟店が受け入れられる環境をつくることに注目していると述べた。
社会実装の初期市場としては、B2Bやインバウンドなど、ステーブルコインの特性を活用して、新たな決済体験やユースケースを創出しうる領域に可能性があるとした。
また、ステーブルコインが既存のカードビジネスを侵食する可能性についても、変化を避けるのではなく、新しい決済市場を取りに行く姿勢を示した。
「誰が勝つか」ではなく「誰が何を担うか」

後半のグループディスカッションでは、登壇者を交え、参加者が「デジタルマネーが最初に広く普及するのはどの領域か」「自社はこの変化にどう関わることができるか」をテーマに議論。国内の日常的なB2C決済については、普及にはまだ時間がかかるとの見方が出た一方、B2B、クロスボーダー、インバウンドなどは、ステーブルコインの特性を活かしやすい領域として挙げられた。
今回の議論を通じて見えてきたのは、「カードかステーブルコインか」「銀行かウォレットか」という二者択一ではない。
ウォレットが既存サービスに埋め込まれ、新しい決済レールが既存インフラと接続していけば、顧客接点を持つ企業と、資産管理や交換、本人確認、不正対応などを担う企業は、必ずしも同じではなくなる。
「決済」の次の競争は、誰か一社が主役になることではなく、分解された機能を誰が担い、どうつなぐかをめぐる競争へと移りつつある。
N.Avenue clubでは、ラウンドテーブルへの参加に加え、各登壇者の講演やQ&A、参加者ディスカッションを詳しく整理した会員向けレポートを提供している。
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