ステーブルコインはカードを壊すのか──決済レールが変わっても「信用」は残る【編集長コラム】

今週、HashPort主催の「AI・オンチェーン金融サミット」に参加した。

いくつかのセッションの中で特に気になったのが、クレジットカードのセッションとステーブルコインのセッションだ。特に前者の議論の中核は、「ステーブルコイン決済はカード会社にとって脅威か、それとも新たな事業機会か」だった。

各社それぞれの戦略や考え方は興味深かった。だが、聞いているうちに、そもそも「クレジットカードか、ステーブルコインか」という問い自体が、もはや過去のもののように感じた。

カード会社の機能は「決済」だけではない

印象に残ったのは、クレジットカードには「信用を与える」という機能がある、という話だった。

ステーブルコインは、基本的には持っている価値を移す。一方、クレジットカードは、手元に資金がなくても、カード会社が「この人なら後で払える」と判断すれば使うことができる。

考えてみれば当たり前だが、「クレジット=信用」という名前の通りだ。

新しい決済手段が登場しても、誰に、どれだけ信用を与えるのかという機能が変わるわけではない。むしろ面白かったのは、資産のオンチェーン化が進めば、信用の判断、いわゆる「与信」のやり方も変わるかもしれないという話だった。

つまり、本人の同意を前提に、オンチェーン上に保有するデジタル資産を確認しながら、よりリアルタイムに与信を判断する──そんなやり方も考えられるという。

ステーブルコインをめぐる議論を聞きつつ、逆にクレジットカードが持つ「信用」という機能を改めて意識した。

電子マネーもQRコードも消えなかった

またクレジットカード会社は、自社のカードのみならず、新しい決済手段が出てきたら、それを既存の決済端末や加盟店システムで使えるようにし、複数の決済手段をまとめて処理している。電子マネーやQRコード決済が広がったときも、そうやって対応してきたという。

電子マネーが登場した。QRコード決済が登場した。そのたびに、「クレジットカードはいらなくなるのでは」と言われた。だが、実際にはどれか1つに置き換わったわけではない。店側は複数の決済手段を受け入れ、利用者も使い分けている。 

そんな話を聞きながら、先日記事にした「HIVEX」のことを思い出した。

海外のBinance Payユーザーが、日本のPayPay加盟店で支払いできるようになった。利用者はBinance Payを使い、加盟店はこれまで通り日本円で受け取る。その間をHIVEXがつないでいる。

ここでも、利用者や加盟店が新しい仕組みを強く意識する必要はない。それぞれが使い慣れた決済サービスを使い、その裏側で異なるネットワークが接続されている。

HIVEXは一例にすぎないが、これからの決済の姿を先取りしているようにも見える。

ステーブルコインは「使うこと」が目的ではない

ステーブルコインのセッションでは、「ステーブルコインはあくまでソリューション」という趣旨の発言もあった。ステーブルコインを使うこと自体が目的ではなく、利用者にとって便利だから、結果として使われる。極端に言えば、本人が意識しないうちに、裏側で使われている。そんな姿の方が自然なのではないか、という話だ。

これは、最近ずっと考えていることとも重なる。

ブロックチェーンゲームでも「ブロックチェーンを使っています」「NFTを使っています」と前面に出すプロジェクトは姿を消した。金融でも、「オンチェーンにすれば便利」というだけでは足りない。

決済も同じだろう。

ステーブルコインを使うこと自体が目的ではない。当たり前だが、使うことにどんなメリットがあるか、インセンティブが働くか、だ。

AIが勝手に選ぶ?

クレジットカードのセッションでは、将来、ウォレットの中にカードやステーブルコインなど複数の決済手段が入り、AIがその場で最適なものを選ぶようになるのではないか、という話も出た。

手数料、為替、ポイント、残高、与信枠……。それらを見ながら、AIが有利な条件を判断して決める。利用者はスマートフォンをかざすだけ。そうした世界が実現したら、「カードで払う」「ステーブルコインで払う」という意識すら薄くなる。AIの今の進化スピードを考えると、そう遠くない未来だろう。

このコラムでは最近、似たようなことを書いているように思う。

ブロックチェーンやステーブルコインが普及するとは、みんながそれを意識して使うことなのか。それとも、意識しないところで当たり前に動いている状態なのか。

新しい決済手段が増えても、その裏側には「つなぐ」「信用を与える」「安全に動かす」という仕事が残る。

クレジットカードか、ステーブルコインか。どちらが勝つのか。そんな話よりも、新しい決済レールが登場したとき、それらを誰がつなぎ、誰が信用を与え、誰が安全に動かすのか。そちらの方が、これからは面白くなりそうだ。

【次に読む】
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» SBI、国内初の法人向けクリプトカードを発行

|文:増田隆幸
|トップ画像:生成AIで作成

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