クレカとは別の決済ルート──Binance PayをPayPay加盟店につなぐ「HIVEX」とは

海外のBinance Payユーザーが、日本全国のPayPay加盟店で支払いできるようになる。

PayPayは9月30日、クロスボーダー決済ネットワーク「HIVEX」を通じて、暗号資産(仮想通貨)取引アプリ「Binance」の決済機能「Binance Pay」との連携を開始した。

対象となる海外ユーザーは、日本のPayPay加盟店で飲食や買い物、宿泊などの支払いにBinance Payを利用できる。しかも、加盟店は暗号資産を受け取るのではなく、売上代金を日本円で受け取る。日本居住者のBinance Japanユーザーは対象外だ。

今回のニュースで注目したいのは、Binance Payだけではない。PayPayが2023年から接続しているクロスボーダー決済ネットワーク「HIVEX」だ。HIVEXを通じて、PayPayはこれまで台湾や中国、香港などの海外決済サービスを加盟店網につないできた。今回、そのネットワークにBinance Payが加わった。

海外のウォレットと各国のローカル決済ネットワークを接続し、国境を越えてそのまま支払いに使えるようにする。VisaやMastercardなどの国際カードブランドとは異なる、新たな決済ルートが広がり始めている。

海外ウォレットをPayPay加盟店につなぐ

HIVEXは、米シリコンバレーを拠点とするTBCASoftが開発するクロスボーダー決済ネットワークだ。

2023年に商用展開を開始し、銀行アプリやモバイルウォレットを、他の加盟店ネットワークにつなぐ仕組みを提供している。TBCASoftはHIVEXを、参加する決済サービスがそれぞれのブランドや顧客関係、コンプライアンス体制を維持したまま、異なる決済圏を相互接続する「中立的な相互運用レイヤー」と位置づけている。

例えば台湾のE.SUN Bankは2023年からHIVEXに参加し、同行のウォレット利用者が日本のPayPay加盟店でそのまま決済できるようになった。HIVEX側によれば、参加事業者は一度ネットワークに接続すれば、個別に各加盟店網とシステム統合することなく、複数市場へ展開できる。

今回、そこに約4800万人の利用者を持つBinance Payが加わった。

「ウォレット対ウォレット」ではなく「ネットワーク対ネットワーク」

HIVEXが狙うのは、個々の決済サービスを1対1で接続するのではなく、各社が持つ利用者・加盟店ネットワークを相互接続することだ。

Binance Payはユーザーとの関係やKYC、AML、取引監視などを担い、HIVEXと各地域の決済事業者が加盟店側の受け入れや清算を担う。TBCASoftは8月にBinance Payとの提携を発表しており、日本での展開を最初のユースケースとして準備していた。

つまり、Binance Pay → HIVEX → PayPay → 加盟店、というルートが構築されたことになる。

国際カードブランドとは別の道

海外旅行先で日常の支払いをする手段としては、これまでVisaやMastercardなどの国際カードブランドが一般的だった。銀行やカード会社が発行したカードを、国際カードブランドのネットワークを通じて世界各地の加盟店で使う。

一方、HIVEXが目指しているのは、それとは異なる形だ。

各国ですでに普及しているQRコード決済や銀行アプリ、暗号資産ウォレットを、そのまま他国の加盟店ネットワークにつなぐ。利用者は普段使っているアプリを変える必要がなく、加盟店側も新しい決済端末を導入したり、海外ウォレットごとに契約したりする必要がない。

HIVEXはこの仕組みを「一度接続すれば、複数市場へ展開できる」ネットワークとして設計している。QRコードだけでなく、既存カードレールを利用したNFC決済にも対応する方針を掲げているため、国際カードブランドを単純に置き換える仕組みではないが、クロスボーダー決済に新たな選択肢を加える存在にはなり得る。

さらに今回、Binance Payでは、ユーザー側のウォレットが暗号資産・ステーブルコインとつながっている。「暗号資産を持つ海外ユーザー」と「日本円で売上を受け取りたい日本の店舗」の間を、既存のPayPay加盟店網を変えることなく接続する。

Web3と既存決済をつなぐHIVEXの役割が、これまで以上に見えやすい事例と言える。

PayPay加盟店網が「海外ウォレットの受け皿」に

PayPayにとっても、HIVEXは単なるインバウンド向けの追加機能ではない。HIVEXとの接続によって、PayPayの加盟店網そのものが、海外のさまざまなウォレットや決済ネットワークを受け入れる共通インフラになりつつある。

2023年に台湾系ウォレットとの接続から始まり、WeChat Pay、Octopus、UnionPay App、そしてBinance Payへと対象は広がってきた。

これまでクロスボーダーのリテール決済では、国際カードブランドが強力なネットワーク効果を築いてきた。

一方、各国でQRコード決済やスーパーアプリ、暗号資産ウォレットが巨大なユーザー基盤を持つようになったことで、「それぞれの決済圏を直接つなぐ」という新しいモデルも現実味を増している。

|文:増田隆幸