【独占】実需なきチェーンは「精算される」──Canton創設者が語った、伝統金融が求める”資産のコントロール権”
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伝統金融とブロックチェーンの融合が加速するなか、世界の機関投資家からひときわ高い注目を集めるネットワークがある。米Digital Asset(デジタルアセット)社が開発元の「Canton Network(カントンネットワーク)」だ。

Cantonは、単一チェーン上ですべてを処理する従来型のパブリックチェーンとは異なり、金融機関がそれぞれ独立したルールや台帳を維持したまま相互接続できることを特徴とする。 すでに米証券大手のDTCC(デポジタリー・トラスト・クリアリング・コーポレーション )やJPモルガン、Visaなどが参画しているが、日本国内の知名度はまだ高くない。

そんな中で今年4月には、大きなニュースがあった。金融庁が主導する決済高度化プロジェクト(PIP)支援のもと、みずほフィナンシャルグループや野村ホールディングスらが、日本国債(JGB)を活用したデジタル担保管理の実証実験の基盤として同ネットワークを採用すると発表した。 

このプロジェクトをDigital Asset社CEOで、Cantonの共同創設者であるユヴァル・ルーズ(Yuval Rooz)氏はどう見ているのか。なぜ、世界の金融インフラはCantonを選ぶのか。

NADA NEWSは5月28日、緊急来日したルーズ氏を都内で直撃。 イーサリアム(Ethereum) など既存パブリックチェーンとの違いや日本国債のトークン化への期待、金融の未来について聞いた。

金融機関がEthereumではなくCantonを選ぶ理由 

──今回、来日した目的は。

ルーズ氏:金融庁と日本銀行、国内の主要な金融機関のリーダーたちと直接会い、対話を深めるためだ。

Man in a white T-shirt speaks and gestures with his hands while seated at a glass-walled table, notebook and phone in front of him.

4月にDigital Assetは、みずほフィナンシャルグループ、野村ホールディングス、日本証券クリアリング機構(JSCC)らと、日本国債を活用したデジタル担保管理の実証実験を行うことを発表した。

これは現行の振替法や多層口座構造といった日本の法規制・商習慣を維持したまま、Cantonを活用して24時間365日の即時クロスボーダー取引の実現を目指すものだ。 

Cantonがその基盤に採用されたことを受け、このプロジェクトの商用化を加速させるために急遽来日した。

──あらゆる資産がオンチェーン上で取引されるようになれば、主役となる基盤チェーンはイーサリアムだという声が根強いが、伝統金融の世界ではCantonが強力な存在感を示している。 ただ、国内での知名度はまだ高くない。

ルーズ氏:知名度にギャップがあるのは当然だ。なぜなら、我々はこれまでリテール(一般投資家)向けのマーケティングではなく、伝統金融の「裏方のインフラ」を構築することに徹してきたからだ。

多くの人が「イーサリアムが本命だ」と言うが、現実を見るべきだ。

今この瞬間、伝統的なトップ金融機関がイーサリアム上で実際のビジネスを運用している例は、一つとして起きていない。イーサリアムは彼らが求める条件を満たしていないからだ。Cantonとの決定的な違いが3つある。

1つ目は「高度なプライバシー」。金融機関には規制上、すべての取引データをパブリックに開示できないという制約がある。Cantonは「必要な情報だけを選択して開示する」仕組みを持っている。

2つ目は「資産のコントロール権」。既存のパブリックチェーンやアービトラム(Arbitrum)などのレイヤー2では、スマートコントラクトのバグや見知らぬ他者の手によって、自分たちの資産が凍結されるリスクが常に伴う。

Man in a white T-shirt sits at a table, hands near his chest, with a lamp and mirrored geometric wall behind him.

日本の金融機関や政府が、そのようなリスクを受け入れるわけがない。Cantonでは、資産の発行体が100%のコントロール権を保持し続ける。

3つ目は「中立なガバナンス」。Cantonはオープンソースであり、開発元である我々Digital Asset社が支配しているわけではない。ガバナンスを担う「Canton Foundation」の議長は、DTCCや国際証券決済機関であるEuroclear(ユーロクリア)といった伝統金融の巨頭が数年ごとに交代で務める、極めて中立な組織だ。

だからこそ、JPモルガンやHSBC(香港上海銀行)、Visa、Nasdaqといった世界のトッププレーヤーが採用している。

世界が注目する「日本国債のトークン化」

──4月に発表した実証について聞きたい。日本国債のトークン化は、オンチェーン金融における重要なユースケースになるだろうか。 

ルーズ氏:日本国債のトークン化は、グローバルなオンチェーン金融における最重要ユースケースの一つだ。 

世界の国債市場では、米国債に次いで規模が大きいのが日本国債だ。銀行同士が資金を調達し合う「レポ市場」でも、日本の1日あたりの取引量は約1.5兆ドルに達し、世界2位の流動性を持っている。

進捗は非常に順調で、手応えも強く感じている。

我々がこのプロジェクトで目指しているのは、単に国債をデジタル化することではない。

「24時間365日、仲介業者を通さずに国債へアクセスし、リアルタイムでそれを担保として別の資産を調達・決済する」という、金融インフラそのものの変革だ。Cantonだからこそ、この巨大な流動性を、規制に準拠した形で安全にオンチェーンへ移行させることができる。

──CFTC(米商品先物取引委員会)をはじめ、各国の規制当局や中央銀行と対話する機会も多いと聞いている。伝統金融がブロックチェーンを導入する上で、最も慎重になる点は何か。 

ルーズ氏:暗号資産(仮想通貨)業界には「既存金融を破壊する」「規制は不要だ」と主張する人も多い。しかし我々は、世界が無規制であるべきだとは全く思っていない。 

規制当局や中央銀行が最も懸念しているのは、「テクノロジーの不確実性」と「システミックリスク」の2つだ。

私はCFTCだけでなく、金融庁、日本銀行、シンガポール、香港、英国、欧州の中央銀行と日々対話を重ねているが、一番危険なのは、当局が技術のニュアンスを理解しないまま「間違った規制」を作ってしまうことだ。

だからこそ我々は、彼らにプライバシーやコントロール権をどう担保していくのかといった技術の仕組みを正しく理解してもらい、既存の強固な金融システムとどう「融合」させるかを最も重視している。

Cantonが最重視する実需と利用率

──過去のインタビューで、「実需や経済活動を伴わないチェーンは、バリュー・ギャップの清算に直面する」と話していた。Cantonが最も重視している指標は何か。

ルーズ氏:私が最も重視している指標は「Usage(実需・利用率)」。つまり「人々がその技術を使うために、どれだけ手数料を払っているか」という点だ。

株式市場で、「世界を変えてみせる」と大言壮語する会社があったとして、毎年顧客がゼロ、売上もゼロだったら、誰も投資しないだろう。それは「詐欺だ」と呼ばれる。

しかし、今の暗号資産市場では、実際の経済活動やキャッシュフローがほとんどないにもかかわらず、将来の約束だけで100億ドルもの時価総額がついているスマートコントラクトチェーンがあふれている。

これは経済の原則を無視した、おかしな状態だ。市場が変調すれば、こうしたバリュー・ギャップは必ず清算される。

クリプト界隈ではTVL(預かり資産)を重視するが、これは単に資金が「置いてある」だけで、金融の効率性を表していない。その点、Cantonがネットワーク上で生み出している実際の取引手数料の収益は、すでにイーサリアムやソラナを上回る規模に達している。

例えば、実需で手数料を生み出しているDeFiプラットフォームの「Hyperliquid」などは非常に優れたモデルだと言える。

──ミームコインについてはどう思うか。実需がないと指摘されることが多い。

ルーズ氏:余談になるが、私は「ミームコイン」は否定していない。むしろ、ミームコインは市場で最も「正直」だとすら思っている。

なぜなら彼らは、「癌を治す」とか「金融インフラを改革する」といった嘘をつかないからだ。単に「デジタルなポケモンカード」のように存在し、人々は投機を楽しんでいる。約束を裏切らないという意味で、実需のない一部のハイテクチェーンよりもよほど誠実かもしれない。

目指すは「金融のインターネット」

──2026年後半に向けて、Cantonが達成したい最大の目標は。

ルーズ氏:最大の目標は、これまで発表してきた超大型のプロジェクトを確実に「実運用に載せる」ことだ。業界はすでに「提携発表ブーム」を終え、実際の経済効果を問われるフェーズに入っている。

Smiling man with arms crossed standing in front of a brick building with trimmed trees.

決定的なマイルストーンとして、2026年10月に、世界最大の証券決済機関である米DTCCのプロジェクトがCanton上で本格稼働する。これは世界の金融の歴史において、巨大な転換点になるだろう。

現在でも、金融インフラプロバイダーのBroadridgeが、Canton上で毎日3400億〜4000億ドル規模のレポ取引を実際に処理しており、手数料収益のスケール化が始まっている。

やるべきことが多すぎる毎日だが、これらを完遂することが2026年後半のすべてだ。また近いうちに、もう一つ非常に大きな発表を控えているので楽しみにしていてほしい。

──Cantonは単一チェーンというより、「ネットワーク同士を接続するレイヤー」に近いと感じる。長期的にはどのような役割を目指しているのか。

ルーズ氏:最も重要なのは「ネットワークの接続性」だ。Cantonはそのために「金融のインターネット」になることを目指している。

世界中の金融取引を、単一のレイヤー1チェーンだけで処理することは不可能だ。 物理の法則が許さない。地政学的な観点から見ても、各国政府は自国の金融インフラのコントロール権を他国に渡したがらない。ウクライナ戦争でロシアがSWIFTから排除されたことで、世界は「単一インフラへの依存リスク」を痛感した。

実はCantonという名前は、スイスを構成する26の州と準州を意味するKanton(カントン)に由来している。 スイスでは、州ごとに言語も法律も税率も異なるが、それぞれが独立した個権を持ちながら、一つの連邦として機能している。

金融の未来も全く同じだ。

日本には日本の、米国には米国のルールがあり、それぞれの国や金融機関が自分たちのチェーン(インフラ)を100%管理し続けるべきだ。しかし、それらが孤立しサイロ化しては意味がない。

Cantonの役割は、それぞれの独立性を保ったまま、資産を安全に相互運用できるように「繋ぐレイヤー」になることだ。インターネットが世界中の独立したサーバーを繋いだように、Cantonはグローバル金融ネットワークを繋ぐ「共通言語」になることを目指している。

インタビュー・文|橋本祐樹
写真|NADA NEWS編集部

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