第1部|ビットコイン市場分析
今週の市場は、「強気期待が先行する中で、本当に現物の買い手が広がっているのかを確認する一週間」だった。
ビットコインは週前半、8万2,000〜8万5,000ドル前後で上下し、円建てでは一時約1,305万円まで下落した。その後は買い直しが入り、10月に入ると8万5,000ドル台を回復。円建てでも一時約1,376万円まで上昇した。
しかし、その後は高値圏で利益確定売りが強まり、足元では約1,334万円まで急速に押し戻されている。週後半の上昇をそのまま維持できず、上値では売り圧力が依然として強いことも確認された。
値動きだけを見ると、一時は「再び上昇トレンドに戻った」と考えたくなる場面だった。一方、直近の下落だけを見て「上昇が終わった」と判断するのも早い。今週の市場でより重要だったのは、価格そのものではなく、誰が買い、その買いがどこまで広がっているのか。そして高値で出てくる売りを、その需要が吸収できるのかという点だった。
9月24〜30日の7日間では、6日でBTCが取引所から純流出し、累計では約1万8,000BTCが取引所外へ移動した。一般的に、取引所からBTCが引き出されることは、すぐに売却される可能性のある供給が減るという意味で、需給面ではプラス材料になりやすい。
一方で、米国の現物BTC ETFは9営業日連続で約31億ドルの純流入を記録した後、約1.5億ドルの純流出へ転じた。つまり、機関投資家による買いが消えたわけではないが、一方向に資金が入り続ける局面はいったん一服したと見る必要がある。
今週、私が最も評価しているのは、買い手がETFだけではなく、複数の現物市場へ広がり始めたことである。
これまではETFや一部の大口投資家が市場を支える一方、Coinbase Premiumの弱さや小口投資家の参加不足が課題だった。
しかし足元では、BinanceやOKXでもBTCの現物買いが強まっているとの分析が出ている。Coinbaseだけではなく、複数の市場で買い圧力が確認され始めた点は、需給構造を見るうえで重要な変化だ。
さらに、直近の価格調整では現物市場の売りより、先物市場で短時間に大きな売りが出たとの分析もある。これは、価格が下落したからといって、長期保有者や現物保有者が一斉に市場から退出したわけではない可能性を示している。
一方で、Coinbase Premiumは依然として弱い。
つまり、世界的な買い需要には改善が見られるが、米国の現物市場が全面的なRisk-onへ戻ったとはまだ言えない。
ここが今週の一番重要なポイントだと考えている。
市場心理は明らかに改善している。
BTCが再び8万5,000ドルを上回ったことで、「10月は強いのではないか」「このまま上昇するのではないか」という期待が市場に広がりやすくなっている。
ただ、行動ファイナンスの観点では、こうした局面ほど注意が必要だ。
人は直近の値動きを将来へ延長して考えやすい。価格が上がり始めると、「もっと上がる」と考え、乗り遅れへの不安、いわゆるFOMOが強まりやすい。
しかし、実際の市場内部を見ると、すべての投資家が同じ方向を向いているわけではない。
一部の大口投資家は安値から積み上げてきたロングポジションの利益確定を始めているとの分析もある。また、BTCには資金流入が見られる一方、ETHや一部のアルトコインでは資金流出が確認されている。
つまり現在は、「市場全体が全面的に強気」なのではなく、「資金が選別されながら動いている」状態に近い。
この違いは重要だ。
今週、BTCを支えたもう一つの要因が、米国債利回りの低下である。
2年、5年、10年、20年と複数の年限で米国債利回りが低下し、前週まで市場を苦しめていた金利上昇という逆風がやや緩和した。市場では10月FOMCでの追加利上げ観測も後退しており、金融環境への警戒は一時的に和らいでいる。
9月のISM製造業PMIも市場予想をやや下回った。
ただし、景気後退を示す水準ではなく、依然として50を上回る拡大圏にある。一方で雇用関連指標には底堅さも残っており、米国経済が急速に悪化しているわけでもない。
ここで難しいのは、景気が強すぎても弱すぎてもBTCには不安定要因になり得ることだ。
景気が強すぎれば追加利上げ観測が高まり、金利が上昇する。逆に景気が急激に悪化すれば、リスク資産全体から資金が逃げる可能性がある。
さらに、原油価格は再び100ドル台へ上昇している。原油高がインフレ期待を押し上げれば、せっかく低下した金利が再び上昇する可能性もある。
したがって、BTCは依然として完全な安全資産ではなく、マクロ流動性の影響を強く受ける資産であることは変わらない。
来週確認したいのは三点である。
第一に、8万4,500〜8万6,000ドル付近の抵抗帯を、現物需要を伴って突破できるか。
第二に、ETFの単日純流出が一時的なものなのか、それとも機関投資家の買いが本格的に鈍化するのか。
第三に、BinanceやOKXへ広がり始めた現物買いが継続するのかである。
今、期待しすぎるべきではないのは、「10月だから上がる」「8万5,000ドルを超えたから新しい上昇相場が確定した」という考え方だ。
季節性は参考にはなるが、それだけで資金が流入するわけではない。
反対に、短期的な下落だけを見て「やはり弱気相場に戻った」と判断するのも早い。
現在の市場は、ETFだけに頼った上昇から、複数の現物市場へ買いが広がることができるのかを確認する局面にある。
価格そのものよりも、誰が買い、その買いがどこまで広がるのか。
そこを確認することが、次の市場フェーズを判断するうえで最も重要だと考えている。
第2部|アルトコイン市場の現在地
ケーススタディ:ストロングホールド(SHX)
── 値動きの活発化だけでは見えない、プロジェクトの実像
第1部では、ビットコイン市場について、現物需要やETF、大口投資家の動き、そしてマクロ環境との関係を整理した。
一方、足元では資金がBTCだけでなく、アルトコインにも広がり始めている。その中で今週、価格変動の大きさから市場参加者の関心を集めた銘柄の一つがストロングホールド(SHX)である。
SHXは10月1日13時30分時点で前日比約27%上昇、前月比では約90%以上の上昇を記録した。
ただし、本稿は特定銘柄の購入を推奨するものではない。ここでは今後の価格予想ではなく、「なぜ現在SHXへの関心が高まっているのか」「どのようなプロジェクトなのか」という点に焦点を当てたい。
国内での取り扱い開始が認知拡大の契機に
足元でSHXへの関心が高まった一つの契機が、国内暗号資産交換業者であるBitTradeでの取り扱い開始である。
日本国内の正規の暗号資産交換業者で取り扱われることで、これまでSHXを知らなかった投資家にも認知が広がったと考えられる。
また、日本市場では暗号資産の取り扱いに一定の審査や規制対応が求められる。そのため、国内での取り扱い開始そのものが、投資家にとってプロジェクトを知る一つの材料となった可能性もある。
Stronghold社とは何をしている企業なのか
Stronghold社は、米国カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とする決済・フィンテック企業で、ブロックチェーン技術を活用した決済ネットワークや金融インフラを提供している。
特徴は、Web3の世界だけで完結するのではなく、企業向けのリアルタイム決済や加盟店支援など、実社会での利用を重視していることにある。
その中核の一つが、米国の主要な銀行間電子決済ネットワークであるACHをAPIとして企業向けに提供する仕組みだ。
企業はこのAPIを自社サービスに組み込むことで、決済機能を提供できる。
Stronghold社によれば、過去5年間で同社の決済サービスを利用したユーザーは累計320万人に達している。また、導入加盟店では売上が34%増加し、平均注文金額も現金決済と比較して68%高くなったというデータも示されている。
外部機関からの評価
Stronghold社は、これまで複数の外部機関から評価を受けている。
2022年には「Forbes Fintech 50」に選出。2024年には米国のACHネットワークを運営する非営利団体Nachaから、ACH ExperienceおよびISO 20022分野における「Preferred Partner」に認定された。
さらに2025年には、米国の急成長非公開企業を対象とする「Inc. 5000」にも選出されている。
価格だけでなく、決済事業者としての実績が積み上がっていることは、SHXを理解するうえで重要なポイントである。
SHXは何に使われるのか
SHXは、Stronghold社が2018年に発行したユーティリティ・ガバナンストークンである。
加盟店向けのリワードプログラムでは、実際の決済取引量に応じてSHXを活用した報酬が付与される仕組みが用意されている。
また、SHX保有者が流動性を提供することで、Strongholdの決済エコシステムを支える仕組みも設計されている。
つまりSHXは、単なる投機対象としてではなく、現実世界の決済インフラとトークン経済圏を接続する役割を目指している。
今週のSHXから何を見るべきか
価格が短期間で大きく上昇すると、人は「さらに上がるのではないか」という期待に引っ張られやすい。
これは行動ファイナンスでいうFOMOの典型でもある。
しかし、アルトコインを見る際に重要なのは、価格上昇だけではない。
そのプロジェクトに実際のサービスがあるのか。利用者は存在するのか。トークンがエコシステムの中でどのような役割を持っているのか。
こうした点を確認することが重要になる。
SHXの場合、国内での取り扱い開始による認知拡大に加え、Stronghold社が決済事業として積み上げてきた実績がある。
短期的な価格変動とは切り分けながら、実社会での利用とトークンエコシステムがどのようにつながっていくのかを見ていきたい。
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