「金融にブロックチェーンって、本当に必要なのか?」──同じ週に見た、2つの景色【編集長コラム】

「オンチェーン金融」という言葉を、このところよく使っている。

ステーブルコイン、トークン化預金、セキュリティ・トークン(デジタル証券)、トークン化された国債やMMF──。これまで別々に見えていた動きが、少しずつつながり始めている。その変化を表す言葉として、「オンチェーン金融」がしっくりくると思っていた。

ところが今週、その言葉を少し考え直すことになった。

きっかけは、まったく雰囲気の異なる2つの集まりに参加したことだった。

一方では、金融をオンチェーンに移していくための、具体的な技術やシステムの話を聞いた。

もう一方では、金融や決済に長く携わってきた専門家たちから、そもそも「なぜ金融をオンチェーンにする必要があるのか」という根本的な問いが投げかけられた。

ブロックチェーンである必要は?

後者の議論で最も考えさせられたのは、非常に単純な問いだ。

「ブロックチェーンでなければ、できないことなのか?」

24時間365日の決済、証券と資金を同時に受け渡すDvP(Delivery versus Payment)、条件に応じて資金を自動的に動かすプログラマビリティ。これらは、ブロックチェーンのメリットとして挙げられ、オンチェーン金融が実現することとして、しばしば紹介されている。私もそう書いている。

だが、24時間決済もDvPもブロックチェーンでなくても実現できる。プログラムに従って資金を動かすことも、従来型のシステムでできないわけではない。

さらに議論は、もう一段深いところに進んだ。

金融システムとは、ITシステムの話ではない。銀行や証券会社などの仲介者がいて、顧客の本人確認を行い、信用を管理する。法律によって権利関係が定められ、問題が起きたときに責任を負う主体がいる。

そうした制度や仕組み全体が「金融システム」であり、データをブロックチェーンに載せただけで、金融システムが新しくなるわけではない、と。

ブロックチェーンの可能性に触れつつも、手厳しい議論が展開された。だが、「Why Blockchain?」は、依然として根源的な問いであり続けていた。

東大の講座でも考えたこと

この議論を聞きながら、東京大学の「金融×ブロックチェーン」スタディグループ(SG)で考えたことを思い出した。

以前、このコラムで「金融って、結局は台帳なの?」と書いた。銀行預金も、株式も、債券も、突き詰めれば「誰が何をどれだけ持っているか」という記録によって成り立っている。

その意味では、金融は確かに台帳の世界だ。だが、SGを受けていくうちに、当然ながら金融は台帳だけではないことも見えてきた。

その台帳に記録された残高や権利を、社会がなぜ信用するのか。誰がその正しさを保証するのか。間違いが起きたとき、誰が修正するのか。

金融は、台帳だけでなく、法律、制度、信用、監督、オペレーションの蓄積によって支えられている。「台帳をブロックチェーンに載せれば金融が変わる」という単純な話ではない。

それでも、オンチェーン化しようとしている

面白いのは、その数日前に参加した集まりで、まさにその現実を見たことだった。そこで語られていたのは、「ブロックチェーンに資産を載せれば終わり」という話ではなかった。むしろ、その逆だった。

金融機関がデジタル資産を扱う際には、ブロックチェーン上で移転しただけでは足りない。

顧客から預かっている資産はいくらなのか。ブロックチェーン上の残高と、自社の元帳は一致しているのか。取引記録を監査できるのか。不正な送金を止められるのか。誰が取引を承認できるのか。秘密鍵をどう管理するのか──。

既存金融が長い時間をかけて作ってきた仕組みが、オンチェーンになった瞬間に不要になるわけではない。むしろ、それらを維持しつつ、新しい台帳やネットワークとどう接続するかが重要だ。

目指しているのは、「銀行を置き換える」「金融を非中央集権化する」といった世界ではない。

銀行は依然として存在する。証券会社、清算・決済機関も存在する。本人確認も、監査も、権限管理も依然として必要だ。

だが、その前提のもとで、資産と資金の動き方を変えようとしている。

「オンチェーン金融」は既存金融の進化形

考えてみれば、今「オンチェーン金融」と呼ばれているものの大部分は、既存金融とは異なる場所で生まれたわけではない。

トークン化国債には、当然ながら国債が必要だ。トークン化MMFにはMMF、トークン化預金には銀行預金、トークン化株式には株式が必要だ。

主なドル建て、円建てのステーブルコインは、その価値を安定させるために預金や国債など既存金融の資産を裏付けとしている。

つまり、今進んでいる「オンチェーン金融」は、既存金融を置き換えて、新しい金融をゼロから作るというものではない。既存金融を土台として、その上で新しい資産の持ち方や動かし方を実現しようとしている。

ここは、数年前に「Web3」や「DeFi」が描いていた世界とは少し違う。既存金融の外側に新しい金融を作るのではなく、既存金融の中にブロックチェーンを取り込もうとしている。

個々の機能だけを見れば、ブロックチェーンでなくてもできることは多い。

だが、証券、資金、担保など、これまで別々のシステムに置かれていた資産を、ブロックチェーンというひとつの基盤(正確には、さまざまなブロックチェーンが存在するので、決して「1つ」ではないのだが)で扱い、それらを直接つなぎ、取引後の照合や清算、決済まで含めてプロセスを組み替える。

そこに、オンチェーン化の意味があるのだろう。

「オンチェーンでなければ解けない問題」は何か

もちろん、それで「ブロックチェーンでなければ、できないことなのか?」という問いに、すべて答えたことにはならないだろう。

既存金融とオンチェーンをどう接続するのか。異なるネットワーク間の流動性をどう確保するのか。そして、問題が起きたとき、誰が責任を負うのか──。

金融がオンチェーンになっても、こうした問いは消えない。むしろ既存金融とつながればつながるほど、重要になる。

「オンチェーンでなければ解けない問題は何なのか」

オンチェーン金融を取材するとき、これからはまず自分自身に、その問いを投げかけてみたい。

【次に読む】
» 「金融って、結局は台帳なの?」──東大「金融×ブロックチェーン」講座を受けてみた【編集長コラム】 
» 株を買ったのに、なぜ受け取るのは2日後なのか──「T+2」で考えたオンチェーン金融【編集長コラム】
» すでに電子化されているのに、なぜ国債をオンチェーン化するのか──Progmat齊藤達哉氏に聞く

|文:増田隆幸
|画像:生成AIで作成

NADA NEWS Mail Magazine banner with logo, green header, and devices displaying a newsletter; includes Japanese slogan and a yellow signup CTA bar reading “メルマガ登録はこちらから >>”