三菱UFJアセットマネジメント、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、三菱UFJ信託銀行、Progmatは9月3日、日本で初めて、国内籍のトークン化投資信託を実際に設定し、実運用環境での実証を開始したと発表した。
4社は8月31日、実証を目的とした国内籍の投資信託を設定。運用、受託、権利管理、トークン化基盤といった一連の機能を、実運用環境で動かす。外部の機関投資家や個人投資家への募集・販売は行わない。
では、そもそもなぜ投資信託をトークン化するのか。株式や投資信託はすでに電子的に管理されている。なぜそこに改めて「トークン」という仕組みを持ち込む必要があるのか。
Progmat代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏は同日公開したnoteで、トークン化投資信託の狙いを、単なる24時間売買ではなく、ステーブルコインやトークン化預金などのデジタルマネーと接続し、運用、決済、担保利用をつなぐことにあると説明している。
短期国債に投資、2億円で実際に運用
実証するのは、残存期間3カ月以下の短期国債に投資する円建ての投資信託だ。日々購入・解約できる設計とし、自己資金2億円をシードマネー(運用開始時の元手)として拠出し、実際に運用する。
4社は2025年12月から、国内籍のトークン化投資信託の商品化に向け、法的整理や商品スキーム、業務フロー、基盤整備を進めてきた。今回、その次の段階として実際のファンドを設定し、金融商品として継続的に運営するための実務を検証する。
齊藤氏はnoteで、今回の特徴について「単に画面上でトークンを発行してみるだけの技術検証ではない」と説明する。
投資信託では、設定後も資産運用や基準価額の算定、追加設定・解約、収益分配、受益権管理など多くの業務が続く。今回はそうした一連のプロセスを実環境で動かし、実務上の課題を洗い出す。
国内では、外国籍ファンドを使ったトークン化の取り組みも先行している。三井住友トラストグループは7月、英領ケイマン諸島で組成する米ドル建てマネー・マーケット型ファンドをイーサリアム上でトークン化する実証を発表した。背景には、国内籍投信では制度面の制約が残るため、まず外国籍ファンドでグローバル標準の仕組みを検証する狙いがあった。
今回のMUFGの取り組みは、制度上の制約が残る国内籍投信を実際に設定し、現行制度の中でどこまでオンチェーン化できるかを検証するものだ。
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海外では「運用商品」から「使える資産」へ
海外では、米国債やMMF(マネー・マーケット・ファンド)のトークン化が急速に広がっている。代表例の1つが、BlackRockのトークン化ファンド「BUIDL」だ。
こうした商品が注目される理由は、投資信託を単にブロックチェーン上で管理できるからではない。
齊藤氏によると、オンチェーン上にある待機資金を運用しながら、必要になったときには決済手段や担保へ機動的に切り替えられる点に実需がある。つまり、トークン化投信は「利回りを得る運用商品」であると同時に、オンチェーン上で利用できる流動性資産になり始めている。
日本でも、円建てステーブルコインやトークン化預金など「お金側」のオンチェーン化が進みつつある。だが、決済手段だけが存在しても、使う場所がなければ市場は広がらない。
国債、社債、株式、投資信託など、オンチェーン上で保有・運用・担保利用できる「アセット側」も必要になる。
ステーブルコインとつなぐ
今回の実証も、投資信託の原簿をブロックチェーンで管理することだけを目指しているわけではない。4社は今後、外部投資家への提供に加え、ステーブルコインやトークン化預金とのシームレスな連携を検証していく方針だ。
例えば、余剰資金をトークン化投信で運用しておき、決済が必要になったときにステーブルコインやトークン化預金へ切り替える。投資信託を担保として差し入れ、必要な資金を調達する。証券の受け渡しとデジタルマネーによる支払いをDvP(Delivery versus Payment)で同時に決済する。
将来的に、こうした使い方が実現できれば、投資信託は単なる運用商品ではなく、オンチェーン金融の中で「使える資産」になる。
齊藤氏は、トークン化の本質的な価値は、権利、資金、担保、業務指図をプログラム可能な形で連携できる点にあると説明する。
ただし「紙」の問題が残る
一方、国内でトークン化投資信託を広げるには制度上の課題がある。今回のファンドでは、投資信託受益権そのものは「受益証券」という券面で表示することを前提とし、誰が何口を保有しているかを記録する原簿をオンチェーンで管理する。
つまり、現段階では、ブロックチェーン上でトークンを移転すれば、それだけで法的な受益権の移転まで完結するわけではない。
日本の投資信託では、受益権を「受益証券」という券面で表示することが法律上の前提になっている。株式や社債のように、恒久的に券面を発行しない制度は整っていない。
そのため、原簿をオンチェーン化できても、トークンそのものを法的な権利の唯一の記録として扱うには課題が残る。
齊藤氏は、「原簿をオンチェーンで管理すること」と「トークン移転だけで法的な権利移転が完結すること」は同義ではないと強調している。
「実証」と「制度整備」を同時に
今回の実証は、この制度問題が解決するまで待つのではなく、現行制度でできるところから実際に動かしてみる取り組みでもある。実運用を通じて課題を洗い出し、法改正や業界ルール、システム設計に戻していく。
齊藤氏は、実運用と制度整備を「往復運動」として進める必要があるとする。
今回設定されたファンドは外部投資家が購入できる商品ではなく、トークン化投信の商品化もまだこれからだ。それでも、実際の投資信託を設定し、運用・受託・権利管理まで実環境で動かし始めた意味は小さくない。
ステーブルコインやトークン化預金など「お金側」の整備が進むなか、それと接続する「資産側」をどうつくるのか。国内初のトークン化投資信託は、日本のオンチェーン金融が次に越えるべき実務と制度の課題を具体化する一歩になりそうだ。
|文:増田隆幸
|画像:リリースより


