AIエージェントが人に代わって商品やサービスを選び、決済まで自律的に行う「Agentic Commerce」が現実味を帯び始めている。AIが経済活動の主体となる時代には、ウォレットやステーブルコイン、デジタルID、認証・権限管理などの金融インフラも大きく変化すると考えられるが、それぞれどのような役割を担うようになるのか。そして、人間はAIにどこまで「お金を使う権限」を委ねられるのか。
法人向けWeb3ビジネスコミュニティ「N.Avenue club」は7月23日、4期第1回ラウンドテーブルを開催した。テーマは「AIは“お金”を使い始めるのか──エージェント時代の決済・ウォレット・金融インフラ」だ。
登壇したのは、Mastercard Asia Pacificで暗号資産・デジタルアセット領域を担当するジェシー・ギルド氏(オンライン)と、コインチェック専門役員 Head of Productの澤村周平氏、ストライプジャパン パートナーソリューションズアーキテクトの池田尚史氏。グローバル決済、暗号資産、決済インフラという異なる立場から、AIエージェント時代の金融インフラのあり方が語られた。
AIエージェント時代に必要なのは「決済」と「信頼」:Mastercard ジェシー・ギルド氏

ギルド氏は「When the Buyer Is a Machine」と題して、オンラインで講演。AIエージェントが人間に代わって検索や比較だけでなく、商品の購入や決済まで行う「エージェンティックコマース」が現実になりつつあると説明。その世界では、AI同士がAPIを介して直接サービスを利用し、マイクロペイメントを繰り返すため、新たな決済基盤が必要になると述べた。
一方で、AIがお金を扱う世界では、「誰がAIを信用するのか」という課題も避けて通れない。ギルド氏は、支出上限や本人確認、加盟店認証などを組み合わせた「Agent Pay for Machines」を紹介し、AIに決済を任せるためには、決済手段だけでなく、認証や権限管理など「信頼」のレイヤーが不可欠との考えを強調した。
「カード」と「ステーブルコイン」は役割が異なる:コインチェック 澤村周平氏

続くメインセッションでは、まず、コインチェック専門役員 Head of Productの澤村周平氏が、「AIは“お金”を使い始めるのか」と題してプレゼンテーションを行った。
澤村氏は、「機械がお金を使うこと自体は新しい話ではない」と指摘。株式のアルゴリズム取引や暗号資産のボットトレードは以前から存在しており、LLMの登場によってAIが現実世界に近い複雑な判断を伴う購買まで行えるようになったことが大きな変化だと説明した。
決済手段については、「クレジットカードは信用を移転する仕組み、ステーブルコインは価値そのものを移転する仕組み」と整理。人間の代理としてAIが行動する場面ではカードが適している一方、AI同士が直接取引する世界ではステーブルコインが主役になるとの見方を示した。
さらに、コインチェックはKomLockと共同で、支出上限や承認フローなどの「ガードレール」の整備に向けて研究中であると紹介した。
AIエージェントは「新たな顧客」になる:ストライプジャパン 池田尚史氏

次にストライプジャパン パートナーソリューションズアーキテクトの池田尚史氏が、「Stripeが考えるエージェンティックコマース」と題して講演を行った。
池田氏は、エージェンティックコマースを3つ──「Agent to Consumer」「Business to Agent」「Agent to Agent」──に分類。今後はAIエージェント自身がサービスを利用し、決済を行う新たな経済圏が形成されるとの見通しを示した。
その実現に向けてStripeでは、OpenAIと共同開発したAgentic Commerce Protocol(ACP)をはじめ、AIエージェント向けウォレットや安全な決済基盤を整備しているという。
また、ステーブルコインは越境ECや海外送金、給与支払いなどですでに実用化が進んでおり、AI時代の決済インフラとして重要性がさらに高まるとの認識を示した。
池田氏は、「AIエージェントは人間の仕事を奪う存在ではなく、新たな顧客になる存在だ」と述べ、人間とAIが共存する新しい商取引の可能性を展望した。
AIに「お金」を任せるための条件とは:ディスカッション
後半は参加者がテーブルごとに分かれ、「AIがお金を使い始める上で、乗り越えるべき課題は何か」「もっとも社会的インパクトのあるユースケースは何か」をテーマにディスカッションを行い、澤村氏、池田氏もそれぞれテーブルに分かれて参加した。
グループディスカッションを振り返って、澤村氏は、各テーブルで最も議論になったテーマとして、「AIが悪いことをしたとき、誰が責任を負うのか」という責任の所在を挙げ、「この分野について話せる人はまだ多くない。非常に楽しい議論だった」と述べた。
池田氏も、責任分界点と認証がディスカッションの中心だったと振り返った。そのうえで、AIエージェントによるマイクロトランザクションはすでに現実のサービスで始まっていると説明。「エージェンティックコマースは米国で盛り上がり始めている。日本でもぜひ広げていきたい」と期待を語った。
今回のラウンドテーブルでは、決済、暗号資産、決済インフラという異なる立場から議論が行われたが、3者に共通していたのは、「AIがお金を使う」ことが現実味を帯びるなか、「AIにどうお金を使わせるか」が重要になるという認識だった。
支出権限の管理や本人確認、責任の所在など、「信頼」の仕組みをどう設計するかが、AIエージェント時代の金融インフラの鍵になりそうだ。
なお今回のラウンドテーブルは、4期1回目という節目。ディスカッション終了後には参加者が交流する時間が設けられ、ブロックチェーン分野の政策立案や産業振興に取り組んでいる自民党の神田潤一衆議院議員(金融調査会事務局長、デジタル社会推進本部事務局次長)がゲストとして参加した。
神田議員は、自民党内で進むオンチェーン金融の議論に触れ、「金融のど真ん中の人たち」がこの領域の政策を議論する体制が整ってきたと説明。これまで距離のあったクリプト業界と既存金融が「手をがっちり組んで」、新たな金融インフラを構築する段階に入ったと述べた。

N.Avenue clubの次回・4期第2回ラウンドテーブルは、8月19日に「オンチェーン金融」のテーマで行われる。
|文:瑞澤 圭
|編集:NADA NEWS編集部
|写真:多田圭佑


