● CryptoQuantの番組「Unbiased」に、Capriole Investments創業者のチャールズ・エドワーズ氏が出演し、ビットコイン市場の構造変化について語った。
● 今回のサイクルでは、半減期よりも、現物ETF、デジタル資産トレジャリー企業、AI関連株への資金移動などが価格形成に大きな影響を与えている。
● エドワーズ氏は、量子コンピューターへの対応が進まないことを、ビットコインにとって過去最大級の潜在的リスクと指摘した。
● 一方、企業が借入や株式発行によってビットコインを取得するDATモデルについても、レバレッジの拡大と持続可能性に注意が必要だとしている。
CryptoQuantは7月10日、対談番組「Unbiased」の第3回を公開しました。
今回のゲストは、暗号資産ヘッジファンドCapriole Investmentsの創業者であるチャールズ・エドワーズ氏です。エドワーズ氏は、オンチェーン指標の開発や定量分析でも知られており、今回の対談では、マクロ経済、ビットコインの市場サイクル、デジタル資産トレジャリー企業、AI、量子コンピューターなどについて幅広く語りました。
対談の中心となったのは、「今回のビットコインサイクルは、過去と同じ構造なのか」という問題です。これまで、ビットコイン市場では約4年ごとの半減期が、価格サイクルを形成する重要な要因と考えられてきました。
しかしエドワーズ氏は、現在ではマイナーが新たに供給するビットコインの量が市場全体に占める割合は小さくなっており、半減期そのものの価格への影響は低下していると指摘しています。
代わって重要になっているのが、現物ビットコインETFや、ビットコインを財務資産として保有する企業による資金フローです。
ビットコインはすでに時価総額が1兆ドルを超える規模の資産となり、銀行、ヘッジファンド、年金基金などの大規模なポートフォリオに組み込まれるようになりました。その結果、金利、マネーサプライ、株式市場、金、原油、半導体株など、伝統的な金融市場との関係が以前よりも強くなっています。
エドワーズ氏は、ビットコインを分析する際には、オンチェーンデータだけではなく、マクロ環境や他の資産との相対的な強さも確認する必要があると説明しています。
AI市場に資金を奪われたビットコイン
今回のサイクルを過去と異なるものにしている要因の一つが、AI関連市場の急成長です。過去のビットコイン弱気相場では、暗号資産以外に世界中の投資家の関心を一気に集める巨大な成長テーマは、現在ほど明確には存在していませんでした。
しかし今回は、半導体、データセンター、メモリー、AIインフラなどに大量の資金が流入しています。エドワーズ氏は、AIを数十年に一度の規模の投資テーマと位置付け、これがビットコインへの資金流入を弱めた一因だと分析しています。
特に直近では、半導体株がビットコインを大きく上回るパフォーマンスを記録してきました。そのため、ビットコインの価格だけを見るのではなく、AI関連株に対してビットコインが相対的に強くなっているかを確認することも、資金循環を把握するうえで重要になります。
従来のオンチェーン指標だけでは不十分
エドワーズ氏は、MVRVやMayer Multiple、NVTなど、従来から利用されてきたオンチェーン指標の有効性を認めています。

ただし、過去の数値をそのまま現在の市場に当てはめることには注意が必要だとしています。ビットコインの時価総額が拡大するにつれて、価格上昇率や指標の極端な振れ幅は小さくなってきました。
過去の強気相場では、オンチェーン指標が歴史的な過熱水準まで上昇しましたが、今回のサイクルでは、多くの指標が過去と同じ極端な水準に到達しないまま市場が反転しています。
このため、指標の絶対値だけを見るのではなく、変化率を確認することが重要です。需要がプラスなのかマイナスなのかだけではなく、需要の減少速度が弱まっているのか、拡大方向へ転換しようとしているのかを見る必要があります。
また、現物ETFやDATなど、以前は存在しなかった新しい投資主体のデータも組み合わせなければなりません。市場が変化すれば、分析方法も変化させる必要があります。
DATは新しいETFなのか
対談では、デジタル資産トレジャリー、いわゆるDATについても詳しく議論されました。DATとは、株式や社債などを発行して資金を調達し、その資金でビットコインなどの暗号資産を購入する企業モデルです。
エドワーズ氏は、このモデル自体は新しい金融イノベーションではないと指摘しています。
1930年代にも、借入や株式発行によって株式を購入する「投資信託会社」が多数存在しました。DATが株主に価値を提供するには、1株当たりのビットコイン保有量を増やし続ける必要があります。
企業の株価が保有するビットコインの価値を上回っている間は、新株を発行してビットコインを追加購入できます。しかし、株価のプレミアムが低下すると、新株発行による拡大が難しくなります。
その場合、企業は社債や優先株などを通じて借入を増やし、ビットコインの購入を継続しようとします。エドワーズ氏が問題視しているのは、この競争によってDAT各社のレバレッジが徐々に高まることです。
保守的な企業が借入を行わなくても、競合企業が借入によってビットコイン保有量を増やせば、投資家はより高い成長率を示す企業へ移ります。
そのため、DAT各社にはレバレッジを高めるインセンティブが働きます。現時点では、DAT全体の負債比率が直ちに大規模な清算を引き起こす水準ではないとしています。
ただし、価格下落が長期化すれば、利払い、償還、配当のために保有ビットコインを売却する企業が増える可能性があります。DATは強気相場では強力な買い手になりますが、弱気相場では継続的な売り手に変わる可能性があるのです。
エドワーズ氏は、現在200社近く存在するDATが、今後5年から10年で統合され、最終的には数社から十数社程度に集約される可能性があると予想しています。
最大の懸念は量子コンピューター
今回の対談で最も注目すべきテーマは、量子コンピューターによるビットコインへの脅威です。
量子コンピューターが十分な性能を持つようになると、現在ビットコインで使用されている暗号技術の一部が破られる可能性があります。
特に、公開鍵がすでに明らかになっている古いアドレスや、長期間動いていないビットコインが攻撃対象となることが懸念されています。
エドワーズ氏は、主要な量子コンピューター企業や研究者の開発予測を踏まえ、今後4年から9年程度の間に現実的なリスクが発生する可能性があると主張しています。
ただし、問題は実際に攻撃が発生することだけではありません。量子コンピューターによってビットコインが攻撃される可能性が市場で広く認識されれば、実際の被害が出る前に投資家がリスクを価格へ織り込み始めます。
エドワーズ氏は、量子リスクが現在のビットコイン価格を約30%押し下げる要因になっている可能性があると述べています。これは同氏独自の試算であり、市場全体の統一見解ではありません。
しかし、機関投資家がビットコインへの長期投資を検討する際、数年後の暗号技術の安全性は無視できない論点です。エドワーズ氏によると、イーサリアムでは量子耐性に向けた研究チームやロードマップの検討が進んでいます。
一方、ビットコインでは、量子耐性への移行が最優先課題として十分に共有されていないことを問題視しています。仮にBitcoin Coreの主要な開発者が、量子耐性を導入する具体的なロードマップを示せば、市場は大きく安心する可能性があります。
実際の実装が完了していなくても、開発者間の合意と明確な工程表が示されるだけで、長期的な不確実性の一部は解消されるでしょう。
次の強気相場に必要なもの
エドワーズ氏は、次の本格的な強気相場を確認する材料として、いくつかの条件を挙げています。一つは、ビットコイン価格が重要な抵抗線を上回り、明確な上昇トレンドを形成することです。
ファンダメンタルズが完全に改善する前に、価格が先行して変化を織り込む場合もあります。もう一つは、ETFやDATの資金フローが再び純流入へ転じることです。
機関投資家による購入量が、新たに採掘されるビットコインの供給量を上回る状態では、過去にも大きな価格上昇が発生してきました。
さらに、量子耐性へのロードマップ、DATの負債削減、金融緩和、マネーサプライの増加、地政学リスクの低下なども重要な材料となります。米国政府による戦略的ビットコイン準備の実際の購入が始まれば、大きな需要要因になる可能性もあります。
ただし、現時点では、どの材料が最初に市場を動かすかを正確に予測することは困難です。
エックスウィンの見解
今回の対談が示しているのは、ビットコイン市場を従来の4年サイクルだけで説明することが難しくなったということです。
これからの市場では、オンチェーンデータ、ETFフロー、企業財務、マクロ経済、株式市場、技術開発を横断して分析する必要があります。特に重要なのは、指標の絶対値ではなく、需要や資金フローの変化率を見ることです。
需要がまだマイナスであっても、減少速度が急速に弱まっていれば、市場は底打ちに近づいている可能性があります。反対に、価格が上昇していても、現物需要が伴わず、レバレッジだけが増えている場合は、持続性に注意が必要です。
また、DATによるビットコイン購入は短期的には需要を生み出しますが、負債を伴う購入は、将来の潜在的な売却圧力にもなります。
単に企業の保有量を見るのではなく、どのような資金で購入しているのか、負債を返済するためのキャッシュフローがあるのかまで確認する必要があります。
量子コンピューターについても、直ちにビットコインが危険になると断定する段階ではありません。しかし、長期的な信頼を維持するためには、技術的な課題を否定するのではなく、早期に議論し、具体的な移行計画を示すことが重要です。
ビットコイン市場は成熟しました。その結果、分析すべき要素も増えています。
過去のサイクルや一つの指標だけに依存するのではなく、需要、価格、レバレッジ、技術、マクロ環境を組み合わせて判断することが、これまで以上に求められています。
YouTube(英語)
CryptoQuantの番組「Unbiased」:Capriole Investments創業者のチャールズ・エドワーズ氏対談
https://youtu.be/vjzuKG-iXL8?si=R7EFxuwYrWSQGojc
ショート動画(日本語)
ビットコイン最大のリスクは量子コンピューター?専門家が警鐘
https://youtube.com/shorts/q_TXDqJkUQ0
オンチェーン指標の見方
NVT Golden Crossは、ビットコインの時価総額(Network Value)とオンチェーン取引量(Transactions)のバランスを、短期・長期の移動平均で比較した指標です。短期的にネットワーク価値が取引量に比べて過大評価・過小評価されているかを判断できます。2.2を超えると過熱感が強く、相場の天井圏を示すシグナルとして注目されます。-1.6を下回ると割安感が強く、底値圏や売られ過ぎを示すシグナルとされています。MVRVやNUPL、SOPRなど他のオンチェーン指標と組み合わせることで、市場サイクルをより精度高く分析できます。


