● CLARITY Actは、暗号資産が証券かコモディティかを整理し、SECとCFTCの役割分担、取引所や仲介業者の登録制度、投資家保護、DeFi、自己保管などを包括的に整備する米国の市場構造法案である。
● 2026年7月18日時点では、下院と上院銀行委員会を通過しているものの、上院本会議の日程は決まっていない。上院農業委員会の別法案との一本化や、利益相反・倫理規定を巡る政治交渉も残されている。
● 法案が成立すれば、米国内で取引所、カストディ、トークン発行、RWA、ETF、DeFiなどの事業を展開するための予見可能性が高まり、機関投資家や金融機関の参入を促す可能性がある。
エックスウィンアメリカのリサーチアナリストのデリアさんが、7月18日付の記事で寄稿した。
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テーマは、現在の米国暗号資産業界で最も注目されている市場構造法案「CLARITY Act」の最新状況である。
市場ではここ数週間、「法案成立が近い」「上院で間もなく可決される」といった期待が広がっている。しかし、デリアさんが議会資料や委員会資料、SEC、CFTCなどの一次情報を確認したところ、現在の状況はそれほど単純ではない。
2026年7月18日時点で、CLARITY Actはまだ成立していない。
下院では2025年7月にH.R.3633が可決され、2026年5月14日には上院銀行委員会でも修正版が15対9で可決された。法案は上院本会議での審議を待つ段階にあるが、正式な採決日程はまだ設定されていない。
さらに、上院農業委員会では「Digital Commodity Intermediaries Act」という別系統の市場構造法案が進められている。最終的な成立には、上院銀行委員会が扱うCLARITY Actと、農業委員会側の法案を一本化する作業が必要になる。
したがって、現在地を正確に表現すれば、「成立目前」というよりも、「法案の骨格は見えてきたが、本会議に向けた政治交渉と制度調整が続いている段階」といえる。
CLARITY Actは何を変えるのか
CLARITY Actの本質は、暗号資産の価格を押し上げるための政策ではない。
米国の暗号資産市場に、事業者、投資家、金融機関が共有できる「共通ルール」をつくるための法律である。
これまで米国では、あるトークンが証券に当たるのか、それともコモディティとして扱われるのかが明確でないケースが多かった。
証券であればSECが中心となり、コモディティであればCFTCが監督する。しかし、その境界が不明確だったため、事業者はサービスを開始する前に、どの登録が必要なのか、どの開示義務を負うのかを判断しにくかった。
法的な予見可能性が低い市場では、企業は長期投資を行いにくい。
取引所は新規銘柄の上場に慎重になり、トークン発行企業は米国での事業展開を避け、金融機関はリスク管理やコンプライアンスの承認を得られない。結果として、技術や人材、資金が海外へ流出する要因にもなってきた。
CLARITY Actは、こうした不確実性を減らそうとしている。
法案の柱は、大きく五つに整理できる。
第一は、暗号資産の分類基準である。
トークンの機能、発行方法、ネットワークの分散化、ブロックチェーンの成熟度などを踏まえ、証券とデジタル・コモディティを区分する考え方が示されている。
第二は、SECとCFTCの役割分担である。
証券性の判断や発行時の開示はSECが中心となり、一定のデジタル・コモディティの現物市場については、CFTCの監督権限を拡大する方向が議論されている。
第三は、取引所や仲介事業者の登録制度である。
暗号資産取引所、ブローカー、ディーラー、カストディ事業者などが、どの当局に登録し、どのような顧客資産保護、情報開示、記録保存を行うべきかを整理する。
第四は、市場の公正性と投資家保護である。
市場操作、詐欺、インサイダー取引、顧客資産の分別管理などについて、連邦レベルのルールを整備する。
第五は、DeFi、開発者、自己保管に関する扱いである。
利用者の資産を預からないソフトウェア開発者や非管理型プロトコルを、中央集権型取引所と同じように規制するのか。個人が自分でウォレットと秘密鍵を管理する権利を、どこまで保護するのか。この部分は、オンチェーン金融の将来を左右する重要な論点である。
つまりCLARITY Actは、個別の暗号資産を認可する法律ではない。
暗号資産が発行され、売買され、保管され、決済や運用に利用されるまでの「市場全体の設計図」をつくる法律である。
最大の争点は制度論から政治論へ
これまで、CLARITY Actを巡る最大の論点は、SECとCFTCの権限分担や、DeFiをどこまで規制対象にするかだと考えられてきた。
しかし、足元で法案の行方を大きく左右しているのは、利益相反と倫理規定である。
7月16日、エリザベス・ウォーレン上院議員は、トランプ大統領に対し、暗号資産関連の保有や関与を含む最新の資産開示を求めた。
民主党側は、大統領、高官、議員本人、その家族が暗号資産を保有したり、関連事業へ関与したりする場合、制度整備によって政治家自身が利益を得る可能性があると問題視している。
そのため、「暗号資産市場のルールを整備するのであれば、政治家の利益相反を防ぐ仕組みも同時に導入すべきだ」という要求が強まっている。
共和党は、米国企業の競争力回復や規制の明確化を優先し、法案を早期に成立させたい立場にある。
これに対し民主党は、投資家保護、AML、倫理規定を強化しなければ十分な法案ではないと主張している。
現在の議論は、「暗号資産をどのように規制するか」という制度設計だけではなく、「制度拡大によって誰が利益を得るのか」という政治的な問題へ移っている。
この点は、法案の成立時期を考えるうえで非常に重要である。
なぜ上院の60票が重要なのか
上院で通常の手続きにより法案を前進させるためには、議事妨害を終わらせるためのclotureで、原則60票が必要になる。
現在の共和党は53議席であるため、共和党議員が全員賛成したとしても、少なくとも7人程度の民主党系議員の協力が必要になる。
上院銀行委員会では、一部の民主党議員も賛成し、法案は超党派で前進した。しかし、委員会での可決と本会議で60票を確保することは同じではない。
今後、共和党が民主党側の支持を得るためには、利益相反規定、AML、投資家保護、ステーブルコイン報酬、DeFiの規制範囲などについて、一定の妥協が必要になる。
デリアさんは、現時点のシナリオとして、夏季休会前の上院可決を20%、秋以降に持ち越して成立する可能性を50%、交渉停滞による不成立を30%と評価している。
私も、夏季休会前の成立には高いハードルがあると考えている。
上院本会議の日程がまだ設定されていないことに加え、銀行委員会案と農業委員会案の調整、民主党票の確保、下院との文言一致が残っているからだ。
ただし、夏季休会前に成立しないことと、法案そのものが消えることは同じではない。
財務省、SEC、CFTC、主要暗号資産企業の多くは、市場構造を明確にする必要性について、おおむね一致している。したがって、短期的に延期されても、修正案として秋以降に再浮上する可能性は十分にある。
成立すれば、暗号資産市場にどのような影響があるのか
CLARITY Actが成立した場合、短期的には暗号資産価格や関連株にポジティブな反応が出る可能性がある。
しかし、より重要なのは価格上昇そのものではない。
最大の影響は、米国で暗号資産事業を行うための予見可能性が高まることである。
まず、取引所にとっては、新規銘柄の上場基準や登録先が明確になる可能性がある。
これまでは、上場した暗号資産が後から証券と判断され、規制当局による執行対象となるリスクがあった。分類基準が明確になれば、取引所は法的リスクを一定程度評価したうえで、上場やサービス開発を進めやすくなる。
次に、トークン発行企業にとっても、米国市場への参入判断がしやすくなる。
発行段階ではどのような情報を開示し、ネットワークの成熟後にはどの制度へ移行するのかが整理されれば、従来よりも合法的な発行ルートを設計しやすくなる。
また、金融機関や機関投資家にとっては、コンプライアンス上の障壁が下がる可能性がある。
銀行、証券会社、資産運用会社、年金基金などが暗号資産関連商品を扱う際には、資産の法的分類、保管方法、取引相手、価格形成、市場監視などを明確にする必要がある。
市場構造法が整えば、暗号資産ETF、カストディ、レンディング、トークン化商品、RWAなどについて、社内審査やリスク管理を進めやすくなる。
ビットコインやイーサリアムは、制度整備の中でベンチマーク資産としての地位をさらに強める可能性がある。
一方、主要アルトコインやRWA関連トークンは、証券該当性の不確実性が低下すれば、相対的に大きな恩恵を受ける可能性がある。
これまで米国で事業展開を控えてきたプロジェクトが、再び米国市場へ戻る動きも考えられる。
VC投資、M&A、トークン発行、取引所上場、開発者採用などが米国内で活発になれば、CLARITY Actは「暗号資産価格を上げる法律」というより、「暗号資産産業を米国へ呼び戻す法律」として機能することになる。
DeFiへの影響は法案の文言次第
CLARITY ActがDeFiに与える影響は、単純に「プラス」または「マイナス」とは言い切れない。
重要なのは、管理型サービスと非管理型プロトコルの境界がどのように定義されるかである。
利用者の資産を預かり、取引を管理し、手数料やサービス内容を中央主体が決めている場合は、金融仲介として一定の規制を受けることが合理的だ。
一方で、単にコードを開発しただけの開発者や、資産を管理しない分散型プロトコルに、中央集権型取引所と同じ登録義務を課せば、イノベーションを大きく阻害する可能性がある。
セルフカストディについても同様である。
個人が自分の資産を自分で保管する権利が明確に守られれば、非カストディ型ウォレットやDeFiサービスにとって追い風になる。
しかし、AMLや制裁対応の観点から、フロントエンド運営者や一定の管理主体に広い義務が課されれば、サービス設計は大きく変わる。
したがって、DeFi市場にとっては法案成立そのものよりも、「誰を仲介者と定義するのか」「誰が利用者資産を管理していると判断されるのか」が重要になる。
今後、何を確認すべきか
今後のCLARITY Actを考えるうえで、私は五つのポイントが重要だと考えている。
一つ目は、上院指導部が本会議入りのための日程を設定するかどうかである。
正式なmotion to proceedや採決日程が示されなければ、成立期待だけが先行している可能性がある。
二つ目は、上院銀行委員会案と農業委員会案の一本化である。
SECとCFTCの権限が関係するため、両委員会の制度設計を整理しなければ、最終法案にはならない。
三つ目は、60票を確保するための民主党との妥協内容である。
倫理規定、利益相反、AML、投資家保護がどこまで追加されるかによって、法案の実務的な意味は変わる。
四つ目は、DeFiと自己保管に関する最終文言である。
非管理型プロトコルやソフトウェア開発者が適切に保護されるのか、それとも広い規制対象になるのかは、オンチェーン金融の成長を左右する。
五つ目は、法律成立後の規則策定である。
法律が成立しても、すべてが直ちに決まるわけではない。SECとCFTCが具体的な分類基準、登録要件、開示内容、移行期間を定める必要がある。
市場参加者にとっては、法案成立がゴールではなく、そこから始まる規則策定こそが実務上の本番になる。
日本市場にとっても重要な転換点
CLARITY Actは米国だけの問題ではない。
日本でも暗号資産を金商法の枠組みに移し、投資家保護や市場監視を強化する制度改革が進んでいる。分離課税、日本版暗号資産ETF、RWA、セキュリティトークン、DeFiなどの議論も、今後さらに具体化していくと考えられる。
米国がSECとCFTCの分担によって市場構造を整理し、日本が金商法を中心に制度を整える場合、両国は異なる方法で暗号資産を既存金融へ組み込むことになる。
米国の制度が明確になれば、日本の金融機関も米系取引所、カストディ、分析会社、RWA基盤との連携を検討しやすくなる。
また、米国でどのトークンがどのように分類されるかは、日本における商品設計、リスク評価、上場判断にも影響を与える可能性がある。
日本版ビットコインETFや暗号資産を組み込んだ金融商品を考えるうえでも、米国での制度整備は重要な参照軸になる。
エックスウィンの見方
エックスウィンでは、CLARITY Actを単なる暗号資産業界の規制法案とは捉えていない。
これは、暗号資産を既存金融の外側に置くのではなく、取引所、カストディ、ETF、RWA、DeFi、ステーブルコインを含むオンチェーン金融を、正式な金融市場へ組み込むための基盤整備である。
成立すれば、米国市場では機関投資家と金融機関の参入がさらに進み、暗号資産市場は個人投資家中心の市場から、規制された金融インフラへと一段進む可能性がある。
一方で、法案に対する期待だけで価格を判断するのは危険である。
本当に見るべきなのは、上院本会議の日程、民主党票の確保、二つの委員会案の統合、DeFiと自己保管の最終文言、そして成立後のSEC・CFTCによる規則策定である。
市場では「成立したか、しなかったか」という二択が注目されやすい。
しかし、長期的な影響を決めるのは、どのようなルールで成立したかである。
CLARITY Actの最大の意味は、暗号資産を一時的な投機市場として扱うのではなく、米国の金融制度の中に恒久的な市場として位置付けようとしている点にある。
この法案の行方は、米国だけでなく、日本を含む世界の暗号資産規制、ETF、RWA、DeFi、オンチェーン金融の将来を考えるうえで、非常に重要な分岐点になると考えている。
ショート動画
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