NADA NEWSがプロデュースする「IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWS」で7月1日、パネルセッション「AIとオンチェーン金融で再び『日出る国』へ」が開催された。
セッションには、自民党「次世代AI・オンチェーン金融構想プロジェクトチーム(PT)」座長の木原誠二衆議院議員、三井住友フィナンシャルグループ執行役専務グループCDIOの磯和啓雄氏、HashPort代表取締役CEOの吉田世博氏が登壇。KDDI渉外・広報本部政策調整部レギュラトリーエキスパートの黒田千春氏がモデレーターを務めた。
AIエージェントが商品の選択や契約、決済、資産管理まで担うようになれば、金融インフラにもリアルタイム性や自動化への対応が求められる。セッションでは、ステーブルコイン、トークン化預金、国債のオンチェーン化、AIウォレットをめぐり、政策と民間実装の両面から議論が交わされた。
日本の通貨主権を取られてはならない

議論の出発点となったのは、自民党「次世代AI・オンチェーン金融構想PT」の提言だ。同PTは提言を取りまとめ、5月19日に自民党政調審議会で了承された。同PTで座長を務めたのが、今回登壇した木原氏である。
提言では、AIエージェントの普及により、選択、購入、支払い、契約、融資などの経済活動が連結化・自動化・24時間365日化する時代を見据え、ブロックチェーンを活用したオンチェーン金融の推進を掲げている。
木原氏は、マウントゴックス破綻時から暗号資産をめぐる政策課題に携わってきた。暗号資産税制などの議論が一区切りついた後も、米国政権交代やダボス会議などを通じて、ステーブルコインやオンチェーン金融をめぐる国際的な動きが加速していることに危機感を持ったという。

木原氏は、PT立ち上げの目的について「日本の金融主権、通貨主権を取られてはならない」と表現した。AIが24時間365日、人間の介在なしに経済活動を担うようになれば、その基盤となる決済や金融の仕組みを誰が握るのかが重要になるためだ。
PT座長就任の経緯についても、木原氏は舞台裏を明かした。依頼したのは、自民党のweb3政策を長く主導してきた平将明氏だった。平氏は自民党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム座長として、web3ホワイトペーパーの取りまとめなどに関わってきた人物だ。
木原氏によると、平氏が2月に木原氏のもとを訪れ、PT座長の就任を依頼した。骨太方針や成長戦略への反映を見据え、ゴールデンウィーク明けまでに党としての意思決定を行う必要があったため、短期間で集中的に議論を進めたという。
「ゴールデンウィークはほぼこれを書くのに自分の時間を使いました。全部自分で書いたので、かなり重い提言です」
木原氏はそう振り返ったうえで、今回の提言は完成版ではないとも強調した。年末に向けて第2弾をまとめる考えで、民間側にも具体的な論点の提示を求めた。
「年末に向けて第2弾を出そうと思っています。利用すべきところ、足りないところを見ていただければと思います」
なかでも木原氏が重視するのは、決済サイドと資産サイドの双方をオンチェーン化することだ。ステーブルコインやトークン化預金だけでなく、RWA(現実資産)もオンチェーン化されることで、日本全体にAIを実装できる金融基盤をつくる狙いがあるという。
ステーブルコインやトークン化預金は単体で完結するテーマではない。契約、物流、貿易、証券、国債などの資産や業務プロセスと接続されて初めて、AI時代の金融インフラとして機能すると木原氏は位置付けた。
「遅々として」進む3メガ共同ステーブルコイン

民間側の議論で中心になったのが、3メガバンク共同ステーブルコインだ。
三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3行は6月10日、3行共同発行ステーブルコインについて、2026年度中の実取引開始を目指すと発表した。
3行を共同委託者とし、信託銀行などを受託者とする信託契約に基づいて発行するステーブルコインを想定しており、運営やガバナンスなどを共同で検討する協議会の設置に向けても基本合意している。
今回登壇した磯和氏は、SMBCグループでデジタル戦略を担う執行役専務グループCDIOだ。SMBCグループでは、2020年ごろから海外事例の調査やPoCを進めてきたという。
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今回のセッションで、磯和氏は3メガ共同ステーブルコインの進捗について、こう表現した。
「一言で言うと、遅々として進んでいます」
磯和氏は、実際に3行で進めてみると、「ここが違う」「そこが違う」「ここで大丈夫か」といった論点が次々に出てくると説明。「3行でケチをつけ合いまくりますんで」と、共同で進める難しさを率直に語った。
ただ、磯和氏はそれを後ろ向きには捉えていない。「そういうやり取りがあることは非常に大事」と述べ、銀行インフラとして実装するためには、むしろ各行が細部まで確認し合うプロセスが欠かせないとの見方を示した。
同氏はまた、複数のステーブルコインやデジタル決済手段が並び立つことにも肯定的な見方を示した。キャッシュレス決済の初期にも、複数のサービスや方式が乱立したが、最終的にはユーザーが用途に応じて使い分けるようになった。ステーブルコインやトークン化預金も、信託型、預金型など複数の形が出てきたうえで、最終的には利用者が選ぶとの考えだ。
一方で、現在の課題として挙げたのが「アセット側」の遅れである。磯和氏は、決済側の取り組みは進みつつある一方、その決済手段を使う運用商品や資産側の整備が遅れていると指摘した。
実証実験で止まるのが日本の弱み

3メガ共同ステーブルコインの話題で木原氏が指摘したのが、日本が実証実験で止まりやすいという課題だ。
この文脈で木原氏は、SBIグループによる信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」にも言及した。SBIグループは6月24日、国内初の信託型円建てステーブルコインとして、JPYSCの先行提供開始を発表している。
木原氏は、JPYSCの登場を大きな一歩と評価した。一方で、3メガバンクの取り組みについては、実証実験段階でとどまることへの懸念を示した。
木原氏は、日本の弱みは「まず実証実験から入るところ」だと指摘する。実証実験という言葉は前向きに聞こえるが、実際にはそこで止まってしまうケースが多い。だからこそ、ステーブルコインについては、実証実験のステージを早く抜けて発行に進むべきだとした。
また、木原氏は、ステーブルコインの発展には、裏側にある資産のオンチェーン化も必要だと指摘した。
米ドル建てステーブルコインは、米ドルに価値を連動させるため、裏付け資産として米国短期国債などを保有することが多い。これにより、発行体は流動性と信用力の高い資産で価値の安定を支え、利用者はオンチェーン上で米ドルに近い価値をやり取りできる。米国でUSDCなどのステーブルコインの信頼性を説明するうえで、米国債を含む流動性の高い裏付け資産は重要な要素になっている。
木原氏の問題意識は、日本でも同じ構造をつくれるかという点にある。円建てステーブルコインを広げるには、決済手段だけでなく、その裏側にある安全性の高い円建て資産や、ステーブルコインで取引される資産の整備が必要になる。国債をオンチェーン化できれば、円建てステーブルコインやトークン化預金のユースケースが広がる可能性がある。
木原氏は、国債のオンチェーン化について、国が主導できる領域だとしたうえで、財務省に検討を促したい考えを示した。
磯和氏も、資産側の整備と決済の仕組みを同時に進める必要性を語った。例として挙げたのがデジタル証券の決済だ。
デジタル証券はブロックチェーンなどを活用して発行・管理される一方で、決済が従来型の仕組みに残れば、証券を買ってから実際に受け渡しが完了するまで時間がかかる。磯和氏は、デジタル証券の決済が現状ではT+2、つまり取引日から2営業日後に完了する形にとどまることに触れ、「誰も使うはずがない」と指摘した。
そこで重要になるのが、DVP(証券の引き渡しと代金の支払いを同時に行う仕組み)だ。証券だけがデジタル化されても、代金決済が遅れればオンチェーン化の利点は十分に生きない。証券の移転と資金の支払いを同時に実行し、取引当日に決済が完了するT+0に近づけることで、ステーブルコインやトークン化預金の意義が高まる。
木原氏も、目指すべき方向はT+0だとの見方を示した。
JCBA「ウォレット・AI部会」設立、AI時代の自主ルールづくりへ

セッション後半では、日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)が7月1日に設立を発表した「ウォレット・AI部会」も取り上げられた。
同部会は、ノンカストディアルウォレットやAI統合ウォレットをめぐる論点を整理し、利用者保護や安全管理に関する自主基準、適格ノンカストディアルウォレットの制度要件、申告分離課税を含む政策提言の取りまとめを進める。部会長はHashPortの吉田氏が務め、副部会長にはKDDIの黒田氏、SMBC日興証券の磯野太佑氏が就任した。

黒田氏は、AI時代のウォレットについて、実務の現場レベルで必要なルールを議論する必要があると説明した。法律などのハードローの整備には時間がかかる。だからこそ、民間側が自主基準やソフトローを整え、技術の進展と利用者保護を両立させることが重要になるという。
木原氏も、今後は送金・決済だけでなく、保険や証券まで取り込む統合型ウォレットが出てくるとの見方を示した。そのうえで、AIが投資判断や融資判断を行った場合、その責任を誰が負うのかを整理する必要があると述べた。
AIが投資や融資の判断に関わるようになれば、その判断が正しかったのか、損失が出た場合に誰が責任を負うのかが問題になる。KYCについても、人間だけでなくAIエージェントを前提にした設計が必要になる。木原氏は、金融のあり方や投資家保護の考え方そのものが変わる可能性を指摘した。
吉田氏は、海外事業者がウォレットを通じて高リスクな取引機能を提供している例にも触れ、国内事業者とのイコールフッティングや、ウォレット全体への規制強化につながるリスクを指摘した。部会では、AIによる取引の責任分界や、ノンカストディアルウォレットに関するルールづくりを進める考えだ。
|文・撮影:平木昌宏



