IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSで7月3日、パネルセッション「トークンでビジネスは変わるのか、トークンは新しい顧客接点になるのか」が開催された。
登壇したのは、BACKSEAT代表取締役社長の林政泰氏、コインチェック共同創業者・執行役員・CBDOの大塚雄介氏、NOT A HOTEL DAO代表取締役CEOの渡邊亮氏。森・濱田松本法律事務所パートナー/立教大学大学院人工知能科学研究科客員教授の増田雅史氏がモデレーターを務めた。

NFTブームやIEO(Initial Exchange Offering)を経て、トークンを使った事業は数多く登場した。一方で、トークンを発行すること自体が目的化し、継続しなかった例も少なくない。宿泊、ゲーム、ポイント、ファンコミュニティ。セッションでは、IEOや企業向け支援を手がけてきたコインチェック、組み込み型金融を展開するBACKSEAT、NOT A HOTEL DAOの事例をもとに議論が交わされた。
事業が先、トークンは手段
国内では2021年7月、コインチェックがHashPaletteのパレットトークン(PLT)の購入申し込みを受け付け、国内初のIEOを実施した。その後、GMOコインやDMM Bitcoin、coinbook、bitFlyer、BitTradeなども参入し、ゲームやスポーツ、アイドル、地方創生、エンターテインメントなど、さまざまな事業を対象としたIEOが行われてきた。
一方、発行されたトークンが事業や顧客体験に根付き、継続的に使われているかは別の問題だ。
これまでに発行されたトークンは、実際にどこまで社会実装されているのか。コインチェックでのIEOを通じて企業によるトークン活用を見てきた大塚氏は、「そんなにないですよね」と率直に答えた。
ただし、それは過去の取り組みを否定する言葉ではない。大塚氏は、これまでの10年を「チャレンジの時期だった」と振り返った。各社が「これだったらいけるんじゃないか」と考えて挑戦し、その中で「ここはうまくいかないんだな」「ここは変えなきゃいけないんだ」と繰り返し学んできたという。
大塚氏は、数学や物理などの学術研究が先人の研究成果を踏まえて次に進むように、トークンビジネスも過去の試行錯誤を学びながら積み上がっていくものだと説明した。うまくいかなかったプロジェクトがあるから「もうダメだ」という話ではなく、失敗を含めて次の挑戦につなげていく段階だったという見方だ。
だからこそ、続けることが重要になる。大塚氏は、暗号資産市場で何度も「冬の時代」を経験してきたとし、今のような「凪」の時期にもやり続けている人や企業は、再び市場が盛り上がった時に恩恵を受けやすいと話した。
一方で、大塚氏は、トークンを出すこと自体が目的になっている案件には慎重な姿勢を示した。コインチェックには、日頃からIEOを実施したいという相談も多く寄せられる。その中には、キャンペーン的にトークンを発行すれば「こんな魔法みたいなことが起こるんだ」と期待しているケースも少なくないという。
しかし、大塚氏によると、そうした案件はうまくいきにくい。理由は、事業とトークンの「主従」が逆になっているためだ。
大塚氏は、うまくいくプロジェクトでは、主になるのはあくまでベースの事業だと説明した。まず事業があり、その中に課題がある。その課題を解決する方法として、他の手段よりもトークンやブロックチェーンが向いている場合に、トークンを使う意味が出てくる。
実際に相談を受ける際も、大塚氏は「これ、本当にトークンやNFTを出す必要がありますかね」と問い返すことがあるという。そこで、なぜNFTやトークンでなければならないのかを説明できる場合は、プロジェクトとして検討しやすい。一方で、トークンを出すことが先にあり、後から無理にユーティリティを考えるような形では続きにくい。
大塚氏は、AIを使えば何でも解決するわけではないのと同じように、トークンも目的や仕組みを理解したうえで使う必要があるとの見方を示した。
NOT A HOTEL DAO、体験と資金調達をどうつなぐか

BACKSEATの林氏は、NFTやトークンがマーケティング施策として効いた時期には、あらゆるものをトークン化しようとする動きがあったと振り返った。
しかし市況が落ち着くと、事業者は改めて「本当にトークンじゃないとできないことは何だったのか」「ブロックチェーンじゃないとできないことは何だったのか」という問いに戻っているという。
この論点を具体例として示したのが、NOT A HOTEL DAOの渡邊氏だ。

NOT A HOTEL DAOは、NOT A HOTELの利用体験とトークンを結びつける取り組みを進めている。渡邊氏は、直近では「実態のあるプロダクト、実態のある価値」に紐づく形でトークンの設計が進んでいると説明した。
同社の場合、その価値はNOT A HOTELに泊まる体験だ。トークンは単なる売買対象ではなく、宿泊体験や利用権と結びつく。渡邊氏は、リアルな不動産や利用体験と紐づいている点が、従来のNFTやトークンとの違いだと話した。
NOT A HOTELは2022年、毎年決められた日に宿泊でき、宿泊先が3カ月前に知らされる会員権NFTを販売した。渡邊氏によると、このNFTの販売額は7億円を超え、購入者の約8割は初めてNFTを買う人だったという。NFTを買いたかった人ではなく、NOT A HOTELに泊まりたい人が結果としてNFTを購入した形だ。
一方で、このモデルには限界もあった。NOT A HOTELは実際の建物を使うサービスであり、供給をすぐに増やせるわけではない。空室を前提にNFTを販売しても、オーナーが増え、空室が減れば、追加で同じような商品を出し続けることは難しくなる。
そこで生まれたのが、NOT A HOTEL DAOの仕組みだ。宿泊したい人がいる一方で、提供できる施設には限りがある。NOT A HOTEL DAOでは、トークンの販売で得た資金を物件の取得や運用に充て、トークンを貸し出した保有者に宿泊権を付与する。
この循環がうまく回れば、トークンの保有者も増え、提供できる施設も広がる。渡邊氏は、宿泊ニーズと施設供給を同時に伸ばしていく狙いだと説明した。
トークンという言葉が消える未来

では、5年後、10年後、トークンを活用したビジネスは社会にどう浸透しているのか。
渡邊氏は、お金の機能を「価値の保存」「交換手段」「価値の尺度」に分けて説明した。ビットコインは「デジタルゴールド」として価値保存の役割を持ち得る一方、価格変動が大きいため、日常的な価値尺度としては使いにくい。そこでステーブルコインのように価格が安定したトークンが、交換手段や価値尺度に近い役割を担っていく可能性があるとした。
一方、大塚氏は、将来は「トークン」という言葉自体が使われなくなるのではないかと語った。
「僕らは今インターネットを使っていて、TCP/IPプロトコルで連絡しましょうとは言わないじゃないですか」
トークンも同じだという。利用者が「トークンを使っている」と意識する必要はない。価値をやり取りするためのプロトコルとして裏側に入り、ユーザーが意識しないものになっていくという。
林氏も、大塚氏の見方に同意した。今後、AIエージェントが決済や資産運用を担うようになれば、利用者がトークンを直接操作する場面は少なくなる。買い物の決済でも、資産運用でも、AIがその時々で適した手段を選び、その裏側でステーブルコインやトークン化された株式などが使われていくという。
|取材・文・撮影:NADA NEWS編集部


