国債をブロックチェーン上で扱う「トークン化国債」の議論が、机上の検討から、実際にシステムを動かす段階へ移ろうとしている。
Progmat(プログマ)が事務局を務めるデジタルアセット共創コンソーシアム(DCC)は10月22日、「トークン化国債・オンチェーンレポ ワーキング・グループ(WG)」の中間整理を公表した。
2026年5月から銀行や証券会社、保険会社など69組織で検討してきた結果をまとめたもので、今月11月からは検証用の環境(サンドボックス)で実際にシステムを動かす「実機検証フェーズ」に移る計画だ。
NADA NEWSは10月28日、Progmat代表取締役 Founder and CEOの齊藤達哉氏を迎え、Xスペースの第2回を開催した。第1回の「なぜオンチェーン化するのか」に続き、今回は国債を「どうやって」トークン化し、何に使うのかを聞いた。
米国の方式は「そのまま」使えない
齊藤氏は、国債トークン化の動きは米国発の「外圧」から始まった面が大きいと話す。
米国では、日本の証券保管振替機構(ほふり)にあたるDTCと親会社のDTCCが、既存の証券を性質を変えずにトークン化する仕組みを打ち出した。米国では国債のトークン化が金額面でインパクトが大きく、日本でも国債が「最も機関投資家向けの事例を作りやすい」と同氏はみる。
米国の投資家が持っているのは、厳密には証券そのものではなく「証券に対する権利」だ。米国の法律(Uniform Commercial Code)では、この権利が証券と同じもの(Security Entitlement)として扱われる。
日本ではそうはいかない。「証券に対する権利」は証券ではなく、ただの請求権(債権)になってしまうと齊藤氏は説明する。
そのため日本では、今の国債の管理方法はそのままに、ブロックチェーン(分散型台帳、DLT)と連動する新しい管理方法を「オプションとして横に置く」形を目指す。
全員が一斉に乗り換える必要はなく、使いたい金融機関から選択的に使えるので実現しやすい、というのが同氏の見立てだ。
円の日中資金には「困っていない」日本
米国では、トークン化した国債を使ったレポ取引(国債を担保にした資金の貸し借り)が広がっている。背景にあるのは、資金の調達のしにくさだ。
齊藤氏によると、米国の証券会社は中央銀行に口座を必ずしも持っておらず、日中に必要な資金を銀行から高い金利で借りている。手元の米国債を担保に、市場から直接ドルを借りられれば、そのコストを抑えられる。
一方、日本では証券会社も日本銀行に口座を持っている。
日銀の口座上で保有している国債などを担保として、その日のうちに返す条件で、日銀から無利息で資金を借りられる仕組み(日中当座貸越)もある。
つまり国内の大手金融機関は、円の資金繰りにはあまり困っていない。齊藤氏は、これを「良くも悪くも恵まれているところ」と表現する。
ただし同氏は、この状況がいつまでも続くとは限らないとも話す。
日銀はすでに金融緩和政策を転換し、バランスシートを縮小させているため、日銀が資産として保有している国債などの売却とあわせて、負債側の「金融機関が日銀に預けているお金(当座預金)」も政策的に減らしていくからだ。
必要金額を無利息で調達できるほど資金が市中に“余っている”環境は、既に変化しつつある。
また、保険会社や投資信託、海外のヘッジファンドなど、そもそも日銀に口座を持たない参加者もいる。しかも日銀の仕組みで借りられるのは円だけで、ドルなどの外貨は借りられない。
こうした「日銀の仕組みの外側」にいる参加者や、外貨が必要な場面では、ブロックチェーンを使った新しいレポ取引のほうが有利になる可能性があると同氏はみている。

「振替国債そのもの」しか残らなかった
では、国債をどうやってブロックチェーンに載せるのか。中間整理は3つの方式を比べた。
今の国債の大半は「振替国債」と呼ばれるものだ。日銀を頂点に、銀行や証券会社がそれぞれ口座の記録を管理し、その記録で「誰がどれだけ持っているか」が決まる。
候補は、この振替国債をそのままブロックチェーンで管理する方式のほか、日銀の名簿で管理する「登録国債」を使う方式、振替国債を受け取る権利を別にトークンにする「紐付権利」方式だ。中間整理は、振替国債をそのまま使う方式を主案とした。

齊藤氏は、国債を担保にお金を借りるのは大手の機関投資家だと指摘する。今持っている国債と法律上も経済上も同じものでなければ、機関投資家は使わない。そうでなければ「国債トークン」と呼びながら、実は国債ではない「謎のデジタルアセット」になってしまうからだ。
決め手の1つは税金だ。振替国債なら、金融機関などが受け取る利子から税金が源泉徴収されない仕組みがある。齊藤氏によると、登録国債はすでに全体の「1%未満」にとどまり、機関投資家が扱うのは事実上振替国債だけだ。
「正本」は24時間動く新システムに
新しい仕組みを足すと、帳簿が複数できる。そこで問題になるのが、どの帳簿を「正式な記録(正本)」とするかだ。
今ある金融機関のシステムを正本にすると、ブロックチェーン上でトークンが動いても、そのシステムが書き換わるまで国債の持ち主は変わらない。
そして今のシステムは、平日の日中しか動いていない。24時間動かそうとすれば、つながる周りのシステムまで改修が必要になり、時間もコストもかかる。
「既存のシステムを24時間化するのだったら、冷静に考えたらDLTを使わなくてもできた、という話になる」と齊藤氏は話す。
そこで中間整理は、24時間365日動き、ブロックチェーンと常に連動する新しいシステムの記録を正本とする案を示した。
ただ、ブロックチェーンにすべての情報を載せるのも難しい。ブロックチェーンは一度書き込んだ情報を消せないため、個人の名前などを記録すると、欧州の一般データ保護規則(GDPR)が定める「忘れられる権利」などとぶつかりかねない。
齊藤氏によると、ブロックチェーンには顧客の番号(ID)だけを載せ、その番号が誰なのかは各社のデータベースで管理する。この2つを合わせて正本とみなせば、今のシステムが止まっている夜間や休日でも取引を確定できると同氏は説明する。
最有力は「クロスカレンシーレポ」
こうして載せた国債の使い道として想定されているのが、レポ取引だ。
金融安定理事会(FSB)が26年2月に公表したレポートによると、日本の国債レポ市場は250兆円超と試算する。世界全体(2500兆円超)の約1割にあたる規模だ。
ただ齊藤氏は、国内の金融機関同士で円を貸し借りする場面への期待は「薄い」と話す。先に見たとおり、そこには大きな不便がないからだ。
期待が大きいのは、海外の機関投資家が相手になる取引だ。日本国債の即時決済ができるのは、日本時間の朝から夕方まで(コアタイム)に限られる。
ロンドンやニューヨークの機関投資家は前営業日のうちに指示を出しておく必要があり、日中にその場で取引することは難しい。

そこで齊藤氏が「最強のユースケース」と呼ぶのが、クロスカレンシーレポ(通貨をまたぐレポ取引)だ。トークン化した日本国債(JGB)を担保に差し出し、デジタル化されたドルを、24時間いつでも、しかも「何時から何時まで」と時間単位で借りる使い方を想定する。
同氏は、24時間化だけでは足りないとも話す。
借りる時間を細かく指定し、それを毎日のように繰り返すには、手続きを自動化する必要がある。電話やメールでやり取りしていては、事務の手間がかかりすぎて現実的ではないからだ。
第1回で同氏が語った、使うかもしれないお金を前もって多めに用意しておく「ジャストインケース」から、必要な時に必要な分だけ調達する「ジャストインタイム」への転換も、手元の画面で操作できて初めて現実味を帯びる。
サンドボックスで「本当の使い手」が触る
今月始まる実機検証では、ProgmatがCanton Network(カントン・ネットワーク)というDLT上に、試験用の環境(サンドボックス)を用意する。
検証用のトークン化国債やトークン化預金、ステーブルコインを発行でき、国内外の複数のレポ取引・担保管理の基盤とも順次つなぐ予定だとしている。
齊藤氏は、手元で本当に簡単に操作できるかどうかは「物を見ないと分からない」と話す。こうした検討の窓口は各社の企画部門であることが多いが、本当の使い手は、日々の資金運用やその事務を担う担当者だと同氏は指摘する。
DCCは2027年春に、改めて中間整理を公表することを目標にしている。
では、何をもって成功とするのか。齊藤氏は、証券会社などの売り手側(セルサイド)と、運用会社などの買い手側(バイサイド)の両方から「実用化する価値がある」という声が集まり、実用化に進めれば「100点」、そうした声が多いほど「120点」に近づくと話す。
そこまで届かなくても、実用化に必要な条件を洗い出し、業界として実装のめどを立てられれば「及第点」だとした。
Cantonを選んだ最大の理由として、齊藤氏は海外の機関投資家とのつながりやすさを挙げる。
国をまたいで決済するには、相手と同じ規格を使っている必要がある。
機関投資家同士の国債取引で「今のところ一番“最大公約数“になりやすい規格の名前」がCantonだったという。同ネットワークは、取引の参加者ごとに見せる情報の範囲を決められる設計をうたっており、26年10月にローンチしたDTCCの「Tokenization Service」でも規格の1つとして採用されている。
既存の仕組みが届かない場所へ
国内の円の資金繰りについては、今の仕組みがすでに十分に機能している。トークン化国債が狙うのは、その仕組みが届かない夜間や休日、日銀に口座を持たない参加者、そして外貨だ。
既存の制度を置き換えるのではなく、その横に新しいレールを足す。中間整理で描いた設計が実務の現場で通用するかどうかは、今月から始まる実機検証で確かめられることになる。
なお、齊藤氏は中間整理の詳しい内容を、自身のnoteでも解説している。
|文:栃山直樹
|画像:生成AIで作成


