日本円ステーブルコイン「JPYC」の社会実装が、少しずつ進んでいる。商品を買う、ウォレットで送る、企業の業務に組み込む。制度や技術について語る段階から、実際の利用を通じて可能性を確かめる場が広がり始めた。
筆者は10月17日、恵比寿のアステリア本社で開催された「ステーブルコインから始まる、新しいデジタル金融体験|OrbsCafe#26」に、エックスウィンとして登壇した。アステリアの「JPYC Gateway」、Bitget Wallet、JPYC、そして「エックスウィンキャピタル」が集まり、トークに加えて操作や活用方法に触れる体験の時間も設けられた。
今回、私が伝えたいのは、JPYC単体の普及だけではない。企業の業務、個人のウォレット、オンチェーンの金融サービスが接点を持つことで、日本円から始まる金融体験を変えようとする動きが生まれていることだ。
日常で使う取り組みが広がり始めた
今回のイベントとは別に、東銀座では10月17日から18日にかけて、「ヒガギン秋祭り」に合わせた第2回JPYCマルシェが企画された。9月には渋谷でも、JPYCを使った買い物体験が行われている。
また、8月6日にはローソン高輪ゲートウェイシティ店で、関係者を対象にHashPort WalletとJPYCを使うPOS連動の店頭決済実証が実施された。こうした実践が、JPYCを日常で使うための課題を明らかにしている。
Orbs──JPYCと利用者をつなぐ学びと体験の場
今回のOrbsCafeを展開するOrbs Japanは、Web3に関心のある人が学び、交流できる場づくりに取り組んでいる。JPYCについても、岡部典孝代表をこれまで複数回OrbsCafeに迎え、2025年9月の大阪開催でもステーブルコインについて解説いただくなど、理解を広げる活動を続けてきた。
今回の企画は、JPYCという通貨の仕組みに加え、企業での利用、ウォレットの操作、オンチェーン金融への接続を一緒に考えられる構成となっている。
社会実装には、技術やサービスの開発に加えて、利用者が疑問を解消し、実際に触れられる機会も必要だ。OrbsCafeのように事業者と利用者が直接接する場は、JPYCを「知っている」から「使ってみる」へ進める役割を担うと考えている。
JPYC Gateway──企業の日常業務に組み込む
まず、企業側の利用を支えるのが、アステリアの「JPYC Gateway」だ。
2026年4月に提供を開始した企業向けのJPYC入出金管理サービスで、送金指示、残高照会、取引履歴の確認などに対応する。データ連携製品「ASTERIA Warp」を介し、既存の会計・基幹システムなどと接続できる点も特徴となっている。
企業がJPYCを利用する際には、送金できるだけでは足りない。誰に、いくら支払い、どの取引に対応するのかを確認し、会計や監査につなげる必要がある。
例えば、取引先への支払いにJPYCを使う場合でも、送金のたびに別の画面を開き、取引履歴を手作業で転記するようでは、便利さを実感しにくい。既存の業務と自然につながることが重要になる。
JPYC Gatewayは、ブロックチェーン上の日本円と企業の業務システムをつなぐ接続基盤と捉えられる。企業が普段の仕事の中で使いやすくなることは、JPYCの利用を継続的に広げる条件の一つだろう。
JPYC Gateway
https://jpycgateway.com/
Bitget Wallet──受け取ったJPYCを使える体験へ
個人の入口となるのが、Bitget Walletのようなセルフカストディ型ウォレットだ。利用者自身が資産を管理し、送金やトークン交換、対応するオンチェーンサービスへの接続に利用する。
ただし、初心者には「JPYCを受け取ったのに、その先へ進めない」という壁がある。代表例が、ブロックチェーンの利用手数料であるガス代だ。送金のために別の暗号資産を準備する必要があると、それだけで操作を諦めてしまう人もいるだろう。
Bitget Walletの公式案内では、Polygon上の送金・スワップでガス代の無料枠を利用できる仕組みが紹介されている。ネットワークの混雑などによって利用できない場合はあるが、使い始める際の負担を軽くする取り組みといえる。なお、交換手数料や価格への影響などは別途確認が必要だ。
利用者にとって重要なのは、ウォレットにJPYCが表示されることだけではない。受け取った後に、送りたい相手へ送り、使いたいサービスで使えることだ。ウォレットの使いやすさは、JPYCの可能性を実際の体験へ変える役割を持つ。
Bitget Wallet
https://web3.bitget.com/
エックスウィンキャピタル──日本円からオンチェーン金融へ
筆者が紹介するエックスウィンキャピタルは、事業者が利用者の資産を預からない、非カストディ型のオンチェーン資産運用サービスである。暗号資産のポートフォリオ管理や、リバランス・積立の自動化に取り組んでいる。
JPYCとの接続を通じて目指したいのは、日本円に慣れた利用者が、オンチェーン金融の仕組みを理解し、活用を検討しやすくすることだ。
これまで、オンチェーン金融を使うには、暗号資産の購入、ウォレットへの送金、交換、サービスへの接続といった複数の操作が必要になりやすかった。日本円を起点とした導線を整えることで、こうした負担を減らせる可能性がある。
JPYCとの具体的な接続は、対応チェーンや交換経路、流動性、制度面などを確認しながら進める取り組みだ。JPYCから各運用商品へ直接利用できる機能が、すべて実装済みということではない。
また、JPYCを保有するだけで運用益が生まれるわけでもない。交換先や運用先に応じて、為替、暗号資産価格、スマートコントラクトなどのリスクが生じる。使いやすさとともに、利用者が運用の仕組みとリスクを理解できることを重視したい。
エックスウィンキャピタル
https://xwin.capital
荒澤の視点──それぞれのサービスが、金融体験を変えていく
JPYC Gatewayは企業業務への接続を支え、Bitget Walletは個人の利用入口となり、エックスウィンキャピタルはオンチェーン運用への接続を目指す。そしてOrbsCafeは、こうした取り組みを知り、体験し、事業者と対話する機会をつくっている。
それぞれの役割は異なる。しかし、JPYCを起点に、お金を送る、使う、管理する、運用を検討するといった行動を変えようとしている点では共通している。
もちろん、これらが一つの完成された連携サービスになっているわけではない。だからこそ、利用者がどこで迷い、どの操作に負担を感じるのかを共有し、改善を積み重ねることに意味がある。
私は、JPYCの社会実装は、少しずつ、しかし具体的な形で進んでいると考えている。次に問われるのは、一度体験できたかだけでなく、「もう一度使いたい」と思えるかどうかだ。
企業にも個人にも、便利さと安心を実感できる場面を増やしていく。その積み重ねが、日本円ステーブルコインを新しいデジタル金融の入口へ育てていくと考えている。
ショート動画
JPYCで金融体験が変わる!企業決済からウォレット・資産運用へ
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