10月7日付の日本経済新聞デジタル版、そして10月8日付の紙面に、ビットコイン市場についてコメントをさせていただきました。
今回の記事では、「ETFや企業によるビットコイン購入が、これまでになかった構造的な現物需要を生んでいる」こと、そして年末相場について、「ETFへの資金流入が再び強まれば10万ドルを目指す可能性が高まる」ことをコメントしています。
今回、私が特に注目しているのは、単純に「ビットコイン価格が上がっている」ということではありません。なぜ、これだけ米国の金利が高いにもかかわらず、ビットコインが崩れないのか。ここに現在のビットコイン市場を考えるうえで重要な変化があると考えています。
高金利なのに、ビットコインが底堅い
9月の米10年国債利回りは4.7%台から5.2%台へ上昇し、足元では5.3%台という非常に高い水準にあります。
本来であれば、金利を生まないビットコインにとって金利上昇は逆風です。安全資産である米国債から5%を超える利回りが得られるのであれば、リスク資産を保有する相対的な魅力は低下するからです。
ところが、9月のビットコインはむしろ上昇しました。
私は、この背景にはビットコインの買い手そのものが変化してきたことがあると考えています。以前の暗号資産市場は、暗号資産取引所を中心とした個人投資家やレバレッジ取引の影響を非常に強く受けていました。
現在はそこに、現物ビットコインETF、上場企業の財務戦略、機関投資家など、従来とは異なる資金の入り口が加わっています。
日経新聞にもお話しした、「構造的な現物需要」という言葉には、この市場構造の変化という意味を込めています。ETFと企業が「継続的な買い手」になった象徴的なのが現物ETFです。
日経新聞の記事にもある通り、8月下旬以降は米国の現物ビットコインETFへの資金流入が目立ち、9月21日には1日で10億ドルを超える資金が流入しました。さらに企業による購入も続いています。
Strategyは10月1〜4日に334BTCを購入。Metaplanetも7〜9月期に1,000BTCを追加取得し、Striveも2日までに2,000BTCを購入しています。重要なのは、これらが短期的なデリバティブ取引とは性質が異なることです。
ETFや企業財務を通じてBTCを保有する主体が増えることは、現物市場に継続的な需要が生まれると同時に、市場で売買されるBTCの需給にも影響を与える可能性があります。
CryptoQuantにも現れている「現物需給の改善」
今回、私たちは価格だけではなく、CryptoQuantのデータから市場内部の動きも確認しました。特に注目しているのが、Spot Taker CVDです。直近1週間の90日Spot Taker CVDでは、「Taker Buy Dominant」となる日が複数確認された一方、「Taker Sell Dominant」となる日は確認されませんでした。これは、少なくとも足元では、現物市場における積極的な売り圧力が後退し、買い手側へ需給が改善していることを示唆しています。

さらに興味深いのが先物市場です。
CryptoQuantのOpen Interest(未決済建玉)は、9月下旬に約290億ドルまで膨らんだ後、足元では約255億ドルまで減少しています。ピークから約12%の縮小です。それにもかかわらず、ビットコインは8万ドル台半ばを維持しています。ここは非常に重要です。もし今回の上昇が、レバレッジを積み上げた先物主導だけで起きているのであれば、価格上昇とともにOpen Interestが急拡大する動きがより警戒されます。今回はむしろ、デリバティブ市場では過剰なポジションが整理されながら、現物市場の需給が改善している。
これが現在の底堅さを考えるうえで、一つの重要なポイントだとみています。ただし「米国機関投資家が全面的に買っている」とまでは言えない一方で、強気材料だけを見るのも危険です。
CryptoQuantのCoinbase Premium Indexを見ると、10月6日時点でマイナス0.0119と、まだマイナス圏です。つまり、Coinbaseを中心とした米国市場で、他市場を大きく上回るほど強い現物買いが発生している、とまでは言えません。ただし、その「方向」は非常に興味深いものになっています。

9月30日にはマイナス0.0807だった指数が、10月6日にはマイナス0.0119まで改善しました。まだプラスではありませんが、Coinbase側のディスカウントが大きく縮小し、米国市場の相対的な売り圧力が後退していることが分かります。
したがって、今の相場を私は、「巨大な新規買いが一気に入っている相場」というより、「ETFや企業という構造的な買い手が存在する中、デレバレッジが進み、現物市場の売り圧力が弱まったことで需給バランスが改善している相場」と捉えています。
これは大きな違いです。
相場は、買いが急増したときだけ上昇するわけではありません。売りたい人が減れば、同じ買い需要でも価格は上がりやすくなります。
現在のビットコインでは、この変化が起き始めている可能性があります。Bitgetの不正流出でも、市場全体には波及しなかったもう一つ、今回の日経新聞の記事で取り上げられたのが、9月25日に発覚したBitgetからの不正流出です。記事によると被害額は3.8億ドルに上りました。過去の暗号資産市場であれば、大手取引所で大規模な不正流出が発生すると、「暗号資産そのものへの信用不安」へ発展し、BTC価格が大きく下落するケースがありました。
しかし今回は市場全体への波及が限定的でした。これも市場の成熟を考えるうえで重要だと思います。ETF、企業保有、複数の取引所、カストディなど、ビットコインを保有・取引する経路が以前より多様化しています。そのため、一つの取引所で起きた問題と、Bitcoinネットワークそのものの問題が区別されるようになってきた。
市場参加者の認識も、市場インフラも、以前とは変わってきています。
では、年末10万ドルはあるのか
私は日経新聞に対して、年末に向けて8万8,000〜10万ドルを一つの想定レンジとしてお話ししました。ただし、10万ドル到達を無条件に予想しているわけではありません。
ここから最も重要になるのは、やはり現物ETFへの資金フローです。直近では純流入がみられる一方、その勢いには鈍化もみられます。今後、週5億ドル以上の純流入が継続的に確認できるようになれば、10万ドルを目指すシナリオの確度は高まると考えています。
反対に、同程度の純流出が継続するようであれば、現物需給の下支えが弱まり、下方向への警戒が必要になります。したがって、年末相場を見るうえでは「10万ドルに行くかどうか」だけを見るのではなく、
ETFへの資金流入が継続するか。
現物市場の買い圧力が維持されるか。
デリバティブ市場で再び過剰なレバレッジが積み上がらないか。
そして米国の金利・財政問題を市場がどう評価するか。
この4点を継続的に確認する必要があります。
ビットコインは「金利だけ」で説明できない市場へ
今回の日経新聞の取材を通じて改めて感じたのは、現在のビットコイン市場を、従来の常識だけで説明することが難しくなっているということです。
「金利が上がればビットコインは下がる」
「取引所がハッキングされれば市場全体が売られる」
「先物の投機資金が相場を作る」
以前はこうした説明が当てはまりやすい市場でした。
しかし現在は、現物ETF、企業財務、機関投資家、オンチェーン上の需給、デリバティブ市場、そして米国の財政問題まで、複数の要因が重なり合っています。
だからこそ、価格だけではなく、「誰が買っているのか」「どこから資金が入っているのか」「レバレッジなのか現物なのか」「売り圧力は増えているのか減っているのか」をデータで確認することが重要です。
NADA NEWSでは引き続き、CryptoQuantを中心としたオンチェーンデータやETFの資金フロー、マクロ環境を組み合わせながら、ビットコイン市場の変化を追っていきたいと思います。
ショート動画
【次に読む】
» メタプラネット、ビットコイン運用事業の売上減止まらず──3四半期連続で減収
» JPモルガンが助言、ソラナ財団が金融機関向け決済基盤を発表
» ビットコイン恐喝疑い、ランサム集団「キリン」中心メンバーを日本で拘束=報道


