AIが経済主体になる日は近い?「エージェント経済圏」はどこまで来たのか【コインチェック×Komlock lab】

AIが商品を探し、予約し、そのまま支払いまで行う。そんな「AIエージェント経済」は、どこまで現実になっているのでしょうか──。

本連載では、コインチェックとKomlock labが進める共同研究をもとに、AIが経済活動に参加することで、消費者行動や企業、金融・決済がどう変わるのかを考えていきます。

第1回のテーマは、「なぜ今、AIエージェント経済なのか」。

AIに商品を探してもらう。AIにホテルを予約してもらう。そして、その先でAIに自分のお金を使ってもらう。

そんな世界を、私たちは本当に受け入れるのでしょうか。

ここ数年で、生成AIに任せられる範囲は急速に広がっています。文章作成や検索だけでなく、ソフトウェア開発や調査、業務の自動化まで。その先にあるのが、AIが情報を提示するだけでなく、自ら外部サービスを利用し、予約や購入、取引まで進める世界です。

本連載では、こうしたAIが人間や企業の代理として経済活動に参加する世界を「エージェント経済圏」と呼びます。

生成AIから「エージェント経済圏」へ

4段階で変化するAI経済の図。1) 生成AIが質問へ回答する様子、2) AIエージェントが情報収集と判断・行動を行う場面、3) AIが商品検索・比較・予約・購入を実行、4) エージェント経済圏として企業連携・決済・取引・データ利用が広がるイメージ。
図表作成:Komlock lab

こうした動きは、すでに一部の先進企業だけの実験ではなくなりつつあります。VisaやMastercard、Stripeといった世界的な決済企業も、AIエージェントが人間に代わって商品やサービスを選び、取引することを前提とした取り組みを始めています。

重要なのは、個々の技術や決済方式そのものではありません。

これまで「人間が画面を操作すること」を前提に作られてきた経済活動の一部を、AIが担うことを前提に大企業も動き始めているという点です。

AIが何を選ぶのか。企業はAIにどう見つけてもらうのか。人間はどこまでAIに任せるのか。そして、企業はどのように変わる必要があるのか。

エージェント経済圏は、技術だけのテーマではなく、消費者と企業の関係そのものに関わるテーマになり始めています。

コインチェックおよびKomlock labは「エージェント経済圏共同研究会」を通じて、AIが経済活動へ参加することで、企業や金融、決済がどう変わっていくのかを共同で検証しています。

今回は、両社のコラボレーションを通じて、いま見えているエージェント経済圏の現在地について、コインチェック専門役員/ Head of Product 澤村周平氏とKomlock lab CEO 布目雅登による対話をお届けします。

※両社の取り組みは研究段階のものであり、現時点において特定のサービス提供を目的とするものではありません。

なぜ今、AIエージェント経済なのか

——AIエージェント経済が、遠い未来ではなく現実的なテーマになったと感じたのは、どのような変化がきっかけでしたか?

澤村:僕はもともと、新しいマーケットが好きなんです。まだやっている人が少なくて、既存の力関係やルールが固まりきっていない市場に面白さを感じます。

新しい市場というのは、技術があるだけでは生まれないと思っていて。技術と市場側のニーズが同じタイミングで立ち上がったときに、初めて大きなマーケットになる。

ビットコインも、その一つだと思っています。ビットコインを支える暗号技術自体は、ビットコインの誕生以前から存在していました。でも、技術があるだけではビットコインの市場は立ち上がらなかった。

リーマンショックなどを背景に金融市場への不信感が高まって、トラストレスに価値を扱うことへのニーズと技術が重なった。そのタイミングで、一気に市場として立ち上がった部分があると思っています。

AIエージェントにも、それと近いものを感じています。

LLM自体が進化して、決まった形式の入力だけではなく、いろいろな情報を受け取って柔軟に処理できるようになった。さらにChatGPTのようなサービスによって、エンジニアやビジネスパーソンに加えて人々が日常生活で普通にAIを使うまでになりました。

もう一つ大きいのがコストです。

安価なモデルが増えて、APIを利用するコストが下がると、今までは採算が合わなかった使い方も成立するようになります。一回質問して終わりではなくて、AIに定期的に何かを観測させて、判断させて、必要なら行動させる。

そういうものを動かし続けられるようになると、AIがより主体的に動いているような世界に近づいていくと思います。

布目:澤村さんも言うように、生活者側から見たAIの普及速度も大きいと思っています。

最近、自動車整備士をしている友人と話していたら、その友人も普通にAIを使っていたんですよ。私たちはAIやテクノロジーの業界にいるので、周りがAIを使っているのは当たり前に見えるじゃないですか。でも、全然違う業界でももう使われ始めている。

一方で、「AIを使っているのはまだ一部の人だけ」と思っている人も結構いると思います。

実際に起きていることと、それを認識している人の間に、かなりギャップがある。

「AIが普及したら社会が変わる」という未来の話をしている間に、もう社会の中には入り始めているんですよね。

A man in a white T-shirt sits at a table with a laptop, smiling, in a modern office with blue chairs and glass patterned wall behind him.
コインチェック専門役員/ Head of Product 澤村周平氏

「AIに買い物を任せる」は、思ったより早く当たり前になる

──検索や文章作成をAIに任せることと、買い物や取引まで任せることには、かなり大きな差があるようにも思います。本当にそこまでAIへ任せるようになるのでしょうか?

布目:僕は、思っているより早く(AIがエージェント取引をすることに、人間が)慣れるんじゃないかと思っています。ソフトウェア開発でもそうでした。

AIにコードを書かせ始めた頃は、「本当にここまで任せていいのか」と思っていたんですよね。AIが自分でファイルを書き換えたり、コマンドを実行したりするようになると、最初は怖いじゃないですか。

でも、その感覚がかなり短期間で変わりました。以前なら一つひとつ確認していたような作業でも、今はある程度任せるようになっています。AI自体の性能が上がってきたことで、「ここまでは任せても大丈夫」という範囲も広がってきました。

人間の生活様式って、そんなに簡単には変わらないと言われると思うんです。

でもAIについては、慣れるまでのスパンがこれまでよりかなり短いんじゃないかと思っています。

今は「AIに買い物やお金を任せるのは怖い」と感じるかもしれない。でも、便利な体験が実際に出てくれば、結局慣れていくんじゃないかと。

ここで一つ伝えたいのは、「人は慣れる」ということですね。

澤村:完全に全部を任せるかどうかは、また別の話ですよね。

一定以上の金額なら確認するとか、何かあったら人間が見るとか。最初から全部をAIに渡すわけではなくて、任せる範囲が少しずつ広がっていくんだと思います。

布目:そうですね。AIの性能が上がるほど、「自分でやる必要があるところ」と「任せていいところ」の境界も変わっていく。

経済活動でも、同じことが起きる可能性はあると思います。

Person in a blazer speaks and gestures during a meeting at a conference table with a laptop and cityscape window behind them? (informative)
Komlock lab CEO 布目雅登氏

AIが「顧客」になると、企業はどう変わるのか

──顧客の代わりにAIが商品やサービスを探し、選び、利用するようになると、企業側にはどのような変化が起きるのでしょうか?

澤村:今のWebサービスって、基本的には人間が画面から使うことを前提にしていますよね。APIを公開していないサービスもかなり多い。

でもAIエージェントが自律的に動くのであれば、エージェント側からサービスを利用できる必要があります。

だから今後、企業がAPIを提供すること自体が、もっと当たり前になっていく可能性はあると思います。

人間がWebサイトを開いて、ログインして、ボタンを押す。AIエージェントが使うなら、そういう体験をそのまま再現する必要はないんですよね。

布目:企業側からすると、顧客の入口自体が変わる可能性がありますよね。今までは人間に見つけてもらうために、Webサイトを作って、広告を出して、比較してもらっていた。

でも、その間にAIが入るようになる。AIが自分の代わりに比較するなら、企業側も「AIにどう理解してもらうか」を考えないといけなくなると思います。

澤村:データも重要になりますよね。

エージェントが何かを判断するときに、価値のあるデータをどう提供するのか。企業が持っている情報自体を、AIが使える形で提供するビジネスも増えていくと思います。

布目:そうなると、今あるビジネスをAIで効率化するだけではなくて、AIがいるから初めて成立する新しいビジネスも出てくるはずです。

企業としては、既存の市場の中でAIを使うのか、それとも新しい市場を作る側に回るのか。自分たちがどこにいるのか、どこなら有利なのかを考える必要が出てくると思います。

Man in a white T‑shirt speaks during a meeting across a wooden table, with a person blurred in the foreground.

ライセンスを持つ事業者とスタートアップが連携

布目:エージェント経済圏は、ベンチャーだけで作れるものではないと思っています。金融や決済、規制の領域では、ライセンスや既存の仕組みを持っている企業が必要になります。

Komlock labのようなベンチャーには、特定の領域を深く掘って、スピード感を持って試していける強みがあります。

一方で、それを実際の社会や金融の仕組みにつなげていくためには、コインチェックのようなプレイヤーと一緒に進めていく必要がある。

新しい技術を作る側と、既存の金融やライセンスを持つ側が一緒に進めていく。コインチェックと研究会をやっている意味も、そこにあると思っています。

澤村:実際にやってみないと分からない問題も多いですよね。

まずサービスを作って、使ってみる。そうすると、「ここはどうするのか」「こういうケースでは何が必要なのか」という問題が出てくる。その問題に対して、必要なルールや仕組みを作っていく。

今はそういうフェーズだと思います。

布目:まだすぐに大きな市場が出来上がる段階ではないと思っています。

だからこそ、今のうちからいろいろな企業を巻き込みながら実証して、どんなルールや仕組みが必要なのかを考えていくことが重要だと思っています。

技術を作る側だけでなく、金融・決済などの既存インフラを持つ企業とも連携しながら、エージェント経済圏を成立させるための土台を作っていきたいですね。

まだ「正解」がないからこそ面白い

——AIエージェント経済が今後どのような形になるのかは、まだかなり不透明だと思います。その中で、今取り組む意味をどう考えていますか?

布目:今は答えがないからこそ面白いと思っています。良い技術や良い商品が必ず勝つとも限らない。

過去の規格競争でも、技術的に優れているものがそのまま標準になったわけではないですよね。だから、「これが絶対に正解です」と言うより、自分たちはどこにベットするのかを考えないといけない。

この先どうなるかは分からないですけど、AIによって新しい産業が生まれるのであれば、そこを作る側に入りたいと思っています。

澤村:市場ができてから参加するのと、市場ができる前から関わるのでは全然違いますよね。

今はまさに、どの仕組みが標準になるのかを作っている途中だと思います。

Two men sit with laptops at a long conference table in a modern office meeting room with a large wall-mounted screen behind them.

AIエージェント経済は「未来の話」ではなくなり始めている

今回の対談から見えてきたのは、AIエージェント経済が単なる遠い未来の話ではなくなりつつあるということです。

AIの性能は上がり、利用コストは下がり、業界を問わずAIを使う人も増えています。そして、AIへ任せることに対する人間の感覚も、想像以上の速さで変わっています。

今は「AIに買い物やお金まで任せるのは怖い」と感じていても、その感覚が数年後も同じとは限りません。

そのとき企業は、人間だけではなくAIから利用されるサービスをどう作るのか。

AIが顧客との接点になったとき、企業自身の役割はどう変わるのか。

そして、まだ標準が決まっていない市場の中で、自社はどこに参加するのか。

エージェント経済圏は、完成された市場ではありません。

むしろ今は、新しいプレイヤーが参加し、ルールや標準を作っている途中です。

企業にとって重要なのは、未来を完璧に予測することではなく、AIが経済活動に参加することを前提に、自社のビジネスがどう変わるのかを今から考え始めることなのかもしれません。

次回:AIエージェントは、どうやってお金を使うのか

第2回では、エージェント経済圏を成立させるための「経済インフラ」に焦点を当てます。

AIが企業のサービスやデータを直接利用するようになれば、現在一般的なSaaSの課金モデルはどう変わるのでしょうか。

「1ユーザーあたり月額○円」というモデルから、AIがサービスを利用するたびに料金を支払う形へ移る可能性もあります。

そのとき、AIはどのように支払うのか。

クレジットカードなのか、銀行なのか、それともステーブルコインなのか。

さらに、決済ができるだけでは経済圏は成立しません。

AIは誰を代理しているのか。相手をどう信用するのか。誤発注や不正利用が起きた場合、誰が責任を負うのか。

本人確認、レピュテーション、チャージバック、AML・KYC、オンランプ・オフランプなど、人間の経済圏で積み上げられてきた仕組みを、AIの世界でどう実現するのかという課題もあります。

Two men pose in a modern room: one in a white T‑shirt with printed text, the other in a dark suit, standing beside a glass wall and beige cabinets with a TV to the right.
澤村周平氏と布目雅登氏

対談者プロフィール

澤村周平(コインチェック株式会社・専門役員 / Head of Product)
大学卒業後、2020年に新卒でコインチェック入社。マーケティング部においてデータ分析業務、自社ポジション管理およびWeb広告運用をはじめとする新規ユーザー獲得業務、新規通貨取扱い業務、取引所のサービス改善など幅広い業務に従事。 2023年9月執行役員、2024年9月執行役員CPO(最高プロダクト責任者)を経て、2026年6月より専門役員 / Head of Product。

Coincheck logo: teal diamond emblem to the left of the dark wordmark Coincheck.

アクティブユーザー数国内No.1*の暗号資産取引サービス「Coincheck」などを展開。

 

布目雅登(Komlock lab株式会社・代表取締役)
CryptoGames株式会社のToB事業部長を経て、2024年にKomlock lab株式会社を設立。ブロックチェーン×AI Agentが実現する新しい経済圏を目指す組織を率いる。2026年5月にPacific Metaグループへ参画し、AI Agent向けの自律決済基盤「Kova」をはじめ、その実現に向けて取り組んでいる。家では三つ子の父として睡眠を削られている。

Komlock logo with a blue circular wave icon and Pacific Meta Group text beneath it on a dark background, black font for the brand name and brown subtitle text.

「ブロックチェーン×AI Agent」が実現する、自律的な経済圏の創出を目指す組織。

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|文:小原 冬威(Komlock lab)
|トップ画像:Komlock lab