米国の暗号資産規制が、大きな転換点を迎えようとしている。
米証券取引委員会(SEC)は8月18日、暗号資産を対象とした新たな規則案「Regulation Crypto Assets」を正式に提案した。402ページに及ぶ今回の提案は、単に暗号資産への規制を緩和するものではない。
これまで米国で長く続いてきた「このトークンは証券なのか、非証券なのか」という二者択一の議論から一歩進み、「トークンそのもの」と「その販売時に形成される投資契約」を分けて考える制度へ移行しようとしている。
これは米国の暗号資産政策における大きな構造転換といえる。
トークンそのものと「投資契約」を分離する
今回の提案を理解するうえで最も重要なのが、「暗号資産そのものが証券とは限らない」という考え方だ。
例えば、あるプロジェクトがトークンを販売し、
「チームがネットワークを開発する」
「利用者を増やす」
「プロジェクトを成長させる」
といった努力によってトークン価値が上昇すると購入者が期待している場合、その販売スキーム自体がHowey Test上の「investment contract(投資契約)」となる可能性がある。
しかし、ネットワークが十分に成熟し、開発者による本質的な経営努力が終了すれば、その投資契約とトークンを切り離せる可能性がある。
つまり、
「トークンを販売した時点では投資契約だったから、そのトークンは永久に証券」
という考え方から、
「資金調達時には投資契約が存在しても、ネットワークの成熟によって終了できる」
という考え方への転換である。
これを制度化しようとしているのが今回のRegulation Crypto Assetsだ。
500万ドルと7,500万ドルの資金調達ルート
今回の提案では、暗号資産プロジェクト向けに証券法(Securities Act of 1933)の登録義務からの適用除外が2種類用意されている。
1つ目は、最大4年間で総額500万ドルまで調達できる一回限りの適用除外(Startup Exemption)。もう1つは、12カ月ごとに最大7,500万ドルまで調達できる適用除外だ。
いずれの適用除外を利用する場合も、発行体は投資家に対して原則ベースのナラティブ開示を行うことが求められる。加えて、7,500万ドルの適用除外を利用する発行体は、財務諸表の提供と継続的な報告義務も課される。
これは、米国内でトークンを使った資金調達を行うプロジェクトにとって大きな変化となる可能性がある。特に500万ドルの適用除外は、初期段階のWeb3プロジェクトにとって、いわば「規制されたトークン・シードラウンド」のような位置付けになり得る。
一方、7,500万ドル規模になるとSECによる手続きや財務情報の開示、継続報告なども必要になるため、かつてのICOのような自由な資金調達が復活するわけではない。
重要なのは、「規制なしのICO」ではなく、「ルールの中でトークンを使って資金調達できる道」をSECが作ろうとしている点だ。
「Form TR」がトークンの転換点になる
もう一つ重要なのがSafe Harborの仕組みである。発行者が約束していた主要な開発や経営努力を完了、または永久に終了し、SECへ「Form TR」を提出すると、SECの行政上、その暗号資産を投資契約から切り離せる仕組みが提案されている。
イメージすると、
資金調達
↓
プロジェクト・ネットワーク開発
↓
ネットワーク成熟
↓
主要な経営努力の終了
↓
Form TR提出
↓
投資契約からトークンを切り離す
というライフサイクルだ。
これまで暗号資産業界では、「いつまで証券なのか」「いつ非証券になるのか」という明確な出口が存在しなかった。今回の提案は、その出口を制度として作ろうとしている。これはトークン発行企業だけではなく、VCや暗号資産取引所にとっても非常に重要だ。
米国へトークンビジネスが戻る可能性
この制度が最終化されれば、米国のWeb3産業に与える影響は大きい。これまで米国のプロジェクトは、トークン発行に伴うSECの執行リスクを避けるため、海外で法人や財団を設立したり、米国投資家への販売を制限したりするケースが少なくなかった。
Regulation Crypto Assetsによって明確な資金調達ルートが作られれば、米国内でトークンビジネスを立ち上げるハードルが下がる可能性がある。VCにとっても、株式投資だけでなく、トークンを含めた資本政策を設計しやすくなる。
取引所にとっても、トークンが投資契約から離脱する明確なプロセスができれば、上場審査における法的不確実性が低下する可能性がある。
SECが今回目指しているのは、単なる規制緩和というより、海外へ流出してきた暗号資産の資金調達とイノベーションを米国へ戻す「オンショア化」だと見ることができる。
それでもCLARITY Actは必要
ただし、ここで重要なのはRegulation Crypto AssetsがCLARITY Actの代わりになるわけではないことだ。
SECのPaul Atkins委員長自身も、8月18日の声明で議会による立法は依然として不可欠との考えを示している。
理由は明確だ。
今回SECが決められるのは、基本的に既存の証券法の範囲内に限られる。
SECとCFTCの管轄分担や、暗号資産現物市場全体の監督、取引仲介業者の制度、DeFiの扱いなど、市場構造全体を恒久的に定めるには議会による法律が必要になる。
CLARITY Actは2025年7月に下院を294対134で通過したものの、上院では議論が停滞しており、2026年8月休会前の採決も実現しなかった。
つまり現在の米国では、
SECが既存法の中で先にルールを作る
一方で、
議会がより恒久的な市場構造法を整備する
という二つの動きが同時進行している。
Regulation Crypto Assetsは、CLARITY Actが成立するまでの「橋渡し制度」と見るのが適切だろう。
「SECが暗号資産を非証券にした」わけではない
今回のニュースを「SECが暗号資産を証券から外した」と理解するのは正確ではない。
むしろ重要なのは、
「トークン」と「投資契約」を分け、
開示
↓
資金調達
↓
ネットワーク開発
↓
ネットワーク成熟
↓
投資契約終了
という一連のライフサイクルを制度化しようとしていることだ。
これは2017年のDAO Report以降続いてきた米国の暗号資産規制において、大きな政策転換になる可能性がある。
ただし、今回発表されたものはあくまで「提案」であり、最終規則ではない。Federal Register掲載後には60日間のコメント期間が設けられ、その後SECによる修正や最終採決が行われることになる。
Safe Harborや州証券法の一部preemptionについては訴訟リスクも残っている。
だからこそ、今後の焦点は二つだ。
SECがRegulation Crypto Assetsをどこまで現在の形で最終化できるのか。
そして、上院で停滞するCLARITY Actを含む市場構造法が再び動き出すのか。
米国の暗号資産政策は、「規制するか、しないか」という議論から、「どのようなルールの中で産業を成長させるか」という次のフェーズへ入り始めている。今回のSEC提案は、その転換を象徴する重要な一歩といえるだろう。
ショート動画
SECが暗号資産ルールを大転換?500万ドル・7,500万ドルの新制度
https://www.youtube.com/shorts/Z2vJdDZl24U


