IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSは7月3日、パネルセッション「金商法移行のリアル──規制は暗号資産ビジネスをどう変えるのか」を開催した。
登壇したのは、日本暗号資産等取引業協会前会長の小田玄紀氏、金融庁総合政策局暗号資産・ブロックチェーン・イノベーション参事官の今泉宣親氏、アンダーソン・毛利・友常法律事務所パートナー弁護士の河合健氏。上智大学法学部教授の森下哲朗氏がモデレーターを務めた。

日本の暗号資産業界は、資金決済法から金融商品取引法(金商法)への移行という大きな転換点を迎えている。暗号資産が決済手段だけでなく投資対象として広がるなか、利用者保護、情報開示、セキュリティ、無登録業者への対応はどう変わるのか。金融庁・業界団体・弁護士の視点で話し合われた。
金商法移行が暗号資産ビジネスにもたらす影響

金商法移行と聞くと、暗号資産ビジネスが一気にやりにくくなると受け止める向きもある。
6月30日まで日本暗号資産等取引業協会の会長を務めた小田氏は、まずその見方に釘を刺し、「金商法になったら、日本で暗号資産ビジネスが全くできなくなると思っている方もいるかもしれないが、僕はそうは思っていない」と述べた。むしろ、明確なルールができることによって、事業者が何をすべきかが見えやすくなる点が大きいという。
小田氏は、資金決済法から金商法への移行をめぐる議論に業界側として関わってきた。国の根幹に関わる制度を変えるには時間がかかる。そこは改めて実感したとしつつ、金商法への移行によって既存事業者の事業が止まることのないよう、金融庁側とも相当な議論を重ねてきたという。
小田氏は、金融庁側にも柔軟に考えてもらったとしたうえで、「金商法になると、ガチガチで何もできなくなると思う人がいるかもしれないが、僕はすごく前向きに、日本のマーケットは良くなると思っている」と語った。
小田氏は、今回の移行を規制強化としてだけではなく、業界が次の段階に進む機会と捉えている。2018年ごろ、暗号資産交換業者は流出事件や行政処分を受け、金融機関としての自覚を求められた。小田氏は、その経験を踏まえ、金商法移行にも業界は対応できるとの見方を示した。
1400万口座の市場が「大人の世界」に入る

今泉氏は、今回の法改正の背景として、暗号資産の使われ方の変化を説明した。暗号資産はかつて「仮想通貨」と呼ばれていたように、制度上は決済手段として規制されてきた。しかし現在は、個人利用者を中心に投資対象として使われるようになっている。日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)によると、国内暗号資産交換業者の設定口座数は2026年5月末時点で約1423万口座だった。グローバルでも、ETFなどを通じて機関投資家のポートフォリオに入る動きが広がっている。
決済手段としての制度から、投資対象としての制度へ。その実態に合わせて、金融商品を扱う金商法の枠組みに移すのが今回の改正だ。
今泉氏は、暗号資産を使った詐欺、投資助言、IEO時の情報開示、セキュリティなどを課題として挙げた。利用者保護を図るため、無登録業者への対応強化や情報開示の充実も盛り込まれている。
法案は4月に国会へ提出され、6月に衆議院を通過した。成立・公布後、暗号資産規制の主要部分は公布の日から1年以内に施行される。仮に7月中に成立・公布されれば、2027年7月ごろまでに施行される見通しだ。既存の暗号資産交換業者には経過措置が設けられ、施行後6カ月以内に、金商法上の登録または変更登録を申請する必要がある。河合氏は、この変化を「若者の世界から大人の世界に入ってきた」と表現した。
これまで暗号資産は、仕組みを理解した一部の投資家が取引する市場にとどまっていた。しかし、そこに普通の人も投資できるようにするには、別のルールが必要になる。
河合氏は、今回の改正について、「国としては非常に大きな根本法を、根幹から変えた初めてのケースではないか」と指摘した。そのうえで、暗号資産を決済制度から投資制度へ移す今回の改正を「歴史的実験」と位置付けた。
暗号資産交換業者はオンチェーン金融の基盤へ
では、金商法移行後の暗号資産交換業者は、何を担うことになるのか。
まず小田氏が挙げたのは、電子決済手段・暗号資産サービス仲介業や電子決済手段等取引業だ。今から暗号資産交換業に参入するのは簡単ではない。一方で、暗号資産交換業者や電子決済手段等取引業者と組み、仲介業の登録を受ければ、自社で利用者の暗号資産を管理しなくてもサービスを提供できるようになる。
小田氏は、こうした枠組みについて「十分にできるチャンスがあるんじゃないか」と語った。海外では、オンチェーン金融を使った新しい金融ビジネスも生まれているという。
今泉氏が注目したのは、暗号資産交換業者がすでに持っているノウハウだ。暗号資産ETFを組成するには、誰かが暗号資産を保管しなければならない。既存金融機関がステーブルコインやトークン化された有価証券を扱う場合にも、ブロックチェーン特有の署名管理が必要になる。
「そのノウハウを日本全体で見る時に、誰が持っているのか。それは暗号資産交換業者なのではないか」
今泉氏はそう語り、交換業者の機能が、さまざまな金融商品がオンチェーン化されていく時代の「インフラ的な機能」になり得るとの見方を示した。

その周辺にもビジネスの余地がある。河合氏によると、暗号資産仲介業は、利用者向けのインターフェースを自社で持ちながら、実際のカストディや売買は交換業者側につなぐ仕組みだ。自社で暗号資産を預かったり、売買を成立させたりしないため、交換業よりも規制負担は軽い。スタートアップや非金融企業にとっても「チャレンジできる状態」だという。
一方で、日本には足りないものも多い。河合氏は、安全なウォレットを提供する事業者、外部データを取り込むオラクルを提供する事業者、ノード運用などを担う事業者が国内では十分に育っていないとし、「日本でサービスを提供できる人は、すごく求められている」と語った。金融機関側にも、日本市場に対応できる事業者と組みたい需要がある。
既存金融との接続も広がる。大手証券会社や銀行系のプレイヤーが参入しても、暗号資産を運用するノウハウを十分に持っているとは限らない。暗号資産交換業者や周辺事業者が培ってきた知見は、投資運用やカストディ、既存金融機関との連携にも生かされる可能性があるという。
ルールの中でどうビジネスを作るか

後半では、日本がグローバルな暗号資産ビジネスの中でどう戦うのかも話題になった。
小田氏は、2017年ごろには世界のビットコイン取引の約50%が日本円建てだったと振り返った。その後、流出事件や規制強化を経て、日本の存在感は低下した。それでも、税制改正、暗号資産ETF、金商法移行などが進めば、日本市場のシェアは10〜15%程度まで回復できるのではないかという。
日本の法律は明確であり、ルールの中でどう戦うかが重要になる。規制が厳しいことを言い訳にするのではなく、明確なルールの中でどう戦うかが重要だとした。
一方で、未整理の領域は残る。代表例が分散型金融(DeFi)や分散型取引所(DEX)だ。
今泉氏は、中央集権型取引所(CEX)については、世界的にも規制の方向性が近づきつつあると見る。一方で、DeFiやDEXについては、他の国もまだしっかり整理できていないとし、開発者をどう扱うのか、資産が流出した場合にどう考えるのか、消費者被害やセキュリティをどう捉えるのかといった論点を挙げた。
河合氏も、DeFiやDEXは伝統金融の発想だけでは整理しきれないと指摘した。伝統金融(TradFi)では、責任者を置き、内部管理体制を整えることが前提になる。しかし、DeFiでは同じ発想が機能しない場面がある。河合氏は、利用者の財産を守り、不正な資金流出を防ぐという最終的な目的は同じだとしつつ、「金融庁などの規制当局と弁護士だけで考えても、全然追いつかない」と述べ、広く業界の知恵を集める必要があるとした。
最後に、金商法移行後の市場で、事業者は何をすべきなのかが問われた。
小田氏は、日本の暗号資産市場について「極めて前向き」と話した。日本には、まだ伸ばせる余地がある。重要なのは、業界団体や金融庁だけではなく、実際に会社を経営し、プロダクトを作る人たちが市場を盛り上げることだという。
今泉氏は、暗号資産交換業には新たな展開があるとし、行政側もそれにアジャストしていく必要があるとした。事業者側にも、アイデアや意見を寄せてほしいと呼びかけた。
河合氏は最後に、新しいルールができることは、新しいビジネスチャンスにもつながると語った。ステーブルコインの広がりに加え、今後はトークン化MMFなど、この分野で新たな商品やサービスが出てくる可能性がある。「必要なビジネスは必ずある。ビジネスチャンスをぜひ探していただきたい」と呼びかけ、セッションを締めくくった。
|取材・文・撮影:平木 昌宏


