IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWSは7月2日、パネルセッション「決済か、利回りか──分岐点に立つステーブルコイン」を開催した。
登壇したのは、Circle(サークル)カントリーマネージャーの榊原健太氏、JPYC代表取締役の岡部典孝氏、大阪デジタルエクスチェンジ代表取締役社長の朏仁雄氏、野村ホールディングス デジタルアセット戦略推進部 Executive Directorの日髙恵美氏。モデレーターはAKINDO Founderの金城辰一郎氏が務めた。

議論の軸になったのは、米ドル建てステーブルコイン「USDC」と日本円建てステーブルコイン「JPYC」だ。決済インフラとしての実用性と、利回り商品との接続可能性。そのどちらに軸足が向かうのかが話し合われた。
ステーブルコインは「価値移転」のインフラへ
ステーブルコインは、暗号資産取引の待機資金や送金手段として使われてきた。近年は国際送金や企業間決済だけでなく、トークン化資産の決済や担保管理など、オンチェーン金融を支えるインフラとしての役割も広がっている。

サークルの榊原氏がまず示したのは、ステーブルコインを「価値を瞬時に届ける」インフラとして捉える見方だ。
榊原氏は、インターネットが情報の摩擦を減らし、瞬時に情報を届けられるようにしたことを引き合いに出し、「その情報の代わりが、価値を瞬時にお届けするというところ」と語った。ステーブルコインは、情報ではなく価値を低コストかつ高速に移転するための基盤になるという。
サークルはUSDCの発行体として知られる。規制準拠型としては世界最大級で、対応チェーンは34に上るという。榊原氏は、サークルが単なる発行体にとどまらず、チェーン間の相互運用性やトークン化資産との接続を支えるインフラ企業へと立場を強めていると説明した。
24時間365日使え、低コストで高速に送金できる。それがこれまでのステーブルコインの強みだった。榊原氏はここに、AIとの相性という新しい軸を加えた。AIが価値移転を扱うようになれば、0.0001セント単位のナノペイメントや、同時高速処理のようなユースケースが広がっていく。人が都度操作する決済とは違う頻度と粒度で、AI同士が価値をやり取りする時代には、ステーブルコインが扱いやすい手段になるという。
JPYCが重視する「パーミッションレス」

榊原氏の発言を受け、岡部氏は「ステーブルコイン」という言葉の幅広さに触れた。ステーブルコインは一種のマーケティング用語で、裏付け資産を持たないアルゴリズム型もあれば、USDCやJPYCのように国債や預金で裏付けられたものもあるという。岡部氏は、サークルとJPYCが取り組んでいるのは、米国でいうペイメントステーブルコイン、日本の法律でいう電子決済手段にあたる領域だと整理した。
JPYCが重視するのは「パーミッションレス」という性質だ。岡部氏は、本人確認をしていない外国人旅行者でも受け取り、支払うことができる点を挙げ、「デジタル現金のような性質」があると話した。預金やクレジットカードでは実現しにくかった新しいユースケースを生み出せる可能性があるという。
あわせて、利用者が自分の財産を管理し、自分で運用する「セルフカストディ」にも触れた。金融機関が資産を預かって運用するこれまでのモデルとは異なる形が、そこに生まれつつあるという。
「ポイ活勢」が動かすオンチェーンの流動性
JPYCは現在、Polygon、Kaia、Avalanche、Ethereumの4チェーンに対応しており、直近ではKaia上での流通が伸びているという。岡部氏が注目するのが「ポイ活勢の上位層」だ。
JPYCは決済手段として、チケット販売のチケボや、お好み焼き店の千房などで使われている。ただ、岡部氏によると、現状の利用は決済だけではない。DeFiやNFTトレード、アービトラージ取引でも使われているという。
特にKaia上では、ウォレット内のインセンティブが流通を押し上げている。LINE NEXTが提供するweb3ウォレット「Unifi」では、友達紹介などJPYCを活用したリワードプログラムも始まっている。
JPYCは、日本円建ての決済手段であると同時に、DeFiやNFT、インセンティブ設計とつながるオンチェーン上の流動性としても使われ始めている。
T+2決済を変えるステーブルコイン
企業や機関投資家にとって、ステーブルコインは単なる送金手段にとどまらない。大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)の朏氏は、機関投資家の行動原理を「究極の投資の効率性」だと表現した。

「1日寝てイールドがつきません、というのは機関投資家の世界ではあまり許されない」。朏氏はそう話し、資金を動かした翌日から別の商品で利回りを取れることが、機関投資家にとっては自然な感覚だと説明した。ステーブルコインやオンチェーン商品を行き来する投資のあり方は、その感覚に合っているという。
朏氏が代表を務めるODXは、SBIホールディングスと大和証券の出資を受け、業界を挙げてセキュリティトークン(ST)のセカンダリーマーケットを作ってきた。株式の取り扱いも任され、1日の取引代金は1500億〜2000億円に上る。STの発行累計額は約3500億円。不動産と社債が中心で、今扱っている銘柄は8つ、利回りはおおむね4%前後だという。
ただ、その決済の仕組みには、朏氏自身も苦笑する弱点がある。ブロックチェーン側の決済と、銀行預金側の決済が分かれているのだ。取引日から2営業日後に決済するT+2が今も残る。
「信じられないでしょ。何なんこれって、社外取締役に言われましてね」。朏氏はそう明かした。この非効率を埋める手段になり得るのが、オンチェーン上で価値移転が完結するステーブルコインだという。ODXはすでにシンガポールのADDXと提携し、オンチェーンでの取引拡大を進めている。
朏氏は、ステーブルコインとトークン化MMF(マネー・マーケット・ファンド)の間で流動性が高まれば、「実質決済しているのに近いこと」が起きると見ている。

また、野村ホールディングスの日髙氏は、昨年までは暗号資産ETFを出すかどうかが大きな論点だったが、今年は「オンチェーン金融」に話題が移っていると感じたという。
一方で、制度の壁も残る。株式や債券をオンチェーン化するには、「社債、株式等の振替に関する法律(振替法)」などの整理が必要になる。ステーブルコインについても、銀行規制などの実務上はキャッシュ同等物として扱われにくい場面があり、日髙氏は、こうした課題も含めて議論を重ねながら2030年を迎えたいと語った。
決済か、利回りか──4人の答え
では、ステーブルコインはどのように使われ、普及していくのか。決済手段として広がるのか、それとも利回りを生む資産として保有されるのか。
セッションの最後、モデレーターの金城氏が4人に一言で答えを求めると、榊原氏は「決済です」とし、ステーブルコインは、オンチェーン金融を「疎結合」でつなげていくものだと続けた。
一方、朏氏は、ステーブルコインとトークン化MMFの間で流動性が高まれば、「実質決済しているのに近いこと」が起きると見ている。そうなれば、ステーブルコインを実質的な利回り商品として捉える時代が来る可能性がある。
岡部氏は「決済は利回りを生む」と答えた。決済手段として使われることで流動性が生まれ、その流動性がDeFiやインセンティブ設計を通じて利回りにつながる、というJPYCの現在地を端的に示す言葉だった。
日髙氏は「決済で」と一言で答えた。決済は単なる送金ではなく、あらゆる資産がオンチェーン化していく時代の基盤になる。4人の答えは分かれたようでいて、ステーブルコインが決済と利回りの境界をつなぐ存在になりつつあることを示していた。
|取材・文・撮影:平木 昌宏


