「現時点で、当社がUSDCを日本国内で取り扱うことや、特定のステーブルコインを用いたサービスを開始することを決定しているものではありません」
野村ホールディングスの広報担当者は、NADA NEWSの取材にそう答えた。
今週は、日本で初めて信託型の円建てステーブルコイン「JPYSC」の発行が始まった。SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長が「2026年度第1四半期でのローンチ」と明言していたこともあり、関係者と当局の間で調整が続いたことだろう。
このビッグニュースの後に続いたのが、もう一つのビッグニュースだった。野村ホールディングス(HD)が米Circle(サークル)と提携し、オンチェーン金融分野で協業すると発表した。
いよいよSBIに続いて、野村も本格的にステーブルコインに乗り出す──。
そう思ったのだが、野村のリリースには「ステーブルコイン」の文字はあるものの、サークルが手がける米ドル建てステーブルコイン「USDC」は一言も触れられていなかった(サークル社を説明する文章には載っている)。
ステーブルコインは「送金」だけではない
これまでステーブルコインは、送金コストの削減や国際送金の高速化という文脈で語られることが多かった。もちろん、それも重要なユースケースだ。
だが、海外ではすでに次の段階へ進みつつある。
ブラックロックのトークン化MMF「BUIDL」、JPモルガンのKinexys、Canton Networkなど、金融機関はステーブルコインを「決済手段」ではなく、「オンチェーン金融」を構成するインフラとして使い始めている。
担保管理、証券決済、資金管理、流動性供給──。
ブロックチェーン上で金融取引全体を完結させるための基盤として位置付けられ始めている。
野村が見据えるもの
今回の野村HDとサークルの提携も、この流れの延長線上にある。
広報担当者は「現時点で、特定のユースケースを最初に実施すると決定しているものではありません」としながらも、「当社の強みである資本市場領域に近い、オンチェーンでの為替取引、担保管理、DVP、などは、有力な検討領域と考えています」と明らかにした。
さらに、今年2月の伝統的資産の取引・権利移転・決済の実証、4月の国債のデジタル担保管理の実証を踏まえ、サークルのステーブルコインやブロックチェーンインフラの知見を取り込みながら、オンチェーン金融の実装可能性を検討すると述べた。
浮かび上がるのは、ステーブルコインそのものではなく、それを組み込んだ金融インフラを構想しているという姿だ。つまり、単にUSDCを使った送金サービスを検討しているわけではない。
資本市場そのものをブロックチェーン上で高度化する構想と見るべきだろう。
日本でも「オンチェーン金融」の競争が始まる
SBIグループは、円建てステーブルコイン「JPYSC」を初日に100億円相当(100億JPYSC)の規模感でスタートさせた。
100億円という数字は「グループ内の資金移動ではないか」との見方もあった。これに対してJPYSCの流通を担うSBI VCトレードは、「実際のお客さまからの発行依頼およびJPYSCに対する資金需要を踏まえた結果」とNADA NEWSに述べた。
一方、野村HDは「CantonやArcといったグローバルなネットワークについても、将来的な活用可能性や事業機会を検討していきます」とさらなる取り組みを示唆している。
アプローチは異なる。しかし、目指しているのは、「ブロックチェーン上で金融取引を完結させる」という共通の方向性だ。
もっとも、その実装はまだ始まったばかり。JPYSCをめぐっては、現時点での流通のあり方や制度上の位置付けについて指摘する声もあり、野村HDも具体的なユースケースは今後の検討課題としている。
それでも、日本でも「オンチェーン金融」という新たな金融インフラをめぐる競争が、本格化に向けて動き出したことは間違いない。
今後の焦点は、「どのステーブルコインが勝つか」だけではない。銀行、証券会社、資産運用会社、決済事業者──。
誰が次世代の金融インフラを構築し、その標準を握るのか。ステーブルコインを巡る競争は、いま「決済」から「オンチェーン金融」へと、その舞台を移し始めている。
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このテーマは、7月1日から京都「みやこめっせ」で開催される「IVS2026 CRYPTO ZONE Powered by NADA NEWS」でも主要テーマのひとつとなる。
SBIとともに「JPYSC」に取り組むStartaleの手塚孝氏が1日14時からの「『インターネット時代のお金』をつくるのは誰か──金融の主役が入れ替わる日は来るか?」に登壇する。nom

また野村ホールディングスの日髙恵美氏が2日12時15分からの「決済か、利回りか──分岐点に立つステーブルコイン」に登壇する。

京都で会いましょう!
|文:増田隆幸



