・米国の議員らは、FRB(連邦準備制度理事会)が個人向け中央銀行デジタル通貨を発行することを、2030年12月31日まで禁止する法案で合意した。
・この動きにより、米国では民間発行のドル裏付け型ステーブルコインが、優先的なデジタル決済戦略として位置付けられることになる。一方で、主要国の多くは引き続きCBDCの導入を進めている。
・中国のデジタル人民元「e-CNY」は、これまでに2兆3,000億ドル超の取引を処理している。ただし、中国政府は最近、商業銀行への依存度を高める形で同システムを再設計した。
ステーブルコインの存在感が高まる中、米議会がデジタルドル発行に4年間のモラトリアム
米議会は、FRBが個人向け中央銀行デジタル通貨(CBDC)を発行することを、2030年12月31日まで禁止する法案について、超党派で合意に達した。
この措置は、最新の住宅関連法案の第1001条に盛り込まれている。内容は、FRB理事会および地区連邦準備銀行に対し、デジタルドルを直接または間接的に発行、創設、試験、またはその実現を可能にすることを禁じるものだ。規制対象には、個人向けCBDCと「実質的に類似する」と判断されるデジタル資産も含まれる。
この措置は、ワシントンで政府発行のデジタル通貨に対する懐疑論が強まっている流れに沿うものだ。また、トランプ政権、プライバシー擁護派、暗号資産業界の間で支持が広がっている立場を明文化する動きでもある。
FRB当局者はこれまで繰り返し、議会の明確な承認と行政府の支持がなければ、中央銀行としてCBDCを発行することはないと述べてきた。
今回の4年間のモラトリアムは、民間部門による決済イノベーションに規制上の予見可能性を与えるものだ。特に、ドル裏付け型ステーブルコインが急速に成長している状況を踏まえれば、その意味は大きい。業界の支持者らは、ステーブルコインによって決済を近代化し、ドルの優位性を強化し、政府管理の取引ネットワークを作らずに金融アクセスを広げられると主張している。
一方、トム・エマー下院議員やケイトー研究所などの政策団体を含む批判派は、リテール型CBDCが導入されれば、前例のない取引監視、支出先や使途をプログラムによって制限する仕組み、個人の金融活動に対する政府の監督拡大が可能になりかねないと指摘している。
ステーブルコイン発行企業にとって、この法案は、少なくとも2030年末まで、政府発行のデジタルドルと直接競合する可能性を事実上取り除くものとなる。
米国は国際的に異例の立場に──中国と欧州はCBDC計画を前進
米国の判断は、世界的な潮流とは鮮明な対比をなしている。Atlantic CouncilのCBDC Trackerによると、世界GDPの98%超を占める146の国・通貨圏が、現在、中央銀行デジタル通貨を検討している。そのうち77の法域は、開発、実証実験、本格導入を含む高度な段階に入っている。
米国を除くすべてのG20経済圏は、何らかの形でCBDCに関する取り組みを進めている。すでに18の経済圏では、高度な実証実験が運用されている。
中国は、最大かつ最も進んだ事例であり続けている。2025年後半までに、中国のe-CNYは34億件超、金額にして約16兆7,000億元、ドル換算で約2兆3,000億ドルの取引を処理した。デジタル人民元は複数の省で導入され、交通システムに組み込まれたほか、行政関連の支払いや小売取引にも使われている。
欧州中央銀行(ECB)もデジタルユーロの実現に向けて前進している。政策担当者らは、数年間の試験と法的審査を経て、2029年ごろの導入を視野に入れている。
CBDCの支持者は、CBDCによって決済効率を高め、金融包摂を促進し、国境を越えた決済の摩擦を減らせると主張している。ただし、米国ではFRBの即時決済サービス「FedNow」が2023年に全国規模で開始されており、ドル建ての民間ステーブルコインも国内で足場を築いている。さらに、2026年時点で、ドル建てステーブルコインは世界のステーブルコイン取引量の99%を占めている。そのため、多くの米政策担当者は、個人向けCBDCについて、国内で解決すべき課題が現時点では明確でないとみている。

CoinMarketCapの2026年6月17日時点のデータによると、世界のステーブルコイン時価総額は約3,170億ドル近辺で推移している。市場ではTetherのUSDTとCircleのUSDCが首位を占め、Daiが3位を維持している。また、トランプ氏側が支援するUSD1が上位5銘柄に入っている。
中国のCBDC方針転換、米国の批判派が長年指摘してきた銀行リスクを浮き彫りに
e-CNYは累計で2兆3,000億ドル超の取引を処理しているものの、中国全体のデジタル決済市場に占める割合は依然としてごく一部にすぎない。アナリストは、デジタル人民元がAlipayやWeChat Payといった主要プラットフォームの取引量に占める割合は、およそ0.2%にとどまると推定している。
より重要なのは、中国の政策担当者が最近、米国の議員らが提起してきた懸念と重なる形で、デジタル人民元の設計を見直したことだ。
2026年1月1日ごろから、中国は個人向けe-CNY残高の扱いを、純粋な「デジタル現金」モデルから切り替え、商業銀行および認可を受けた決済事業者の負債として再分類した。
当初の枠組みでは、e-CNYは中国人民銀行の直接債務として機能していた。批判派は、金融不安が起きた際に、預金者が商業銀行からCBDCウォレットへ資金を急速に移し、銀行システムから流動性が流出しかねないと指摘していた。
改定後の仕組みでは、このリスクが抑えられる。商業銀行は現在、e-CNY残高に利息を支払い、準備金要件を維持し、従来の融資や信用創造を通じてその資金を活用する能力を保っている。預金保険による保護も維持される。
e-CNYの再設計は、中国人民銀行がホールセール向けの基盤インフラを管理し、商業銀行が顧客向けサービス、コンプライアンス、ウォレット配布を担うという既存の二層構造を維持するものだ。
その結果、世界最大の2つの経済大国は、大きく異なる戦略を進めることになる。中国は国家主導のデジタル通貨を改良し続ける一方、米国は2030年末までのデジタルドル革新に向けた優先ルートとして、民間ステーブルコインを事実上選んだ形だ。



