伝統金融の知見とWeb3をどう繋ぐか ──米Circle「Arc」のノード構築を手がけたSCSKが語る共創と実装の壁

NADA NEWSを運営するN.Avenueが手がける、ブロックチェーンを軸に企業の共創・協業を促す法人向けコミュニティ「N.Avenue club(エヌアベニュークラブ)」の会員企業を紹介する本シリーズ。第1回となる今回は、SCSK株式会社の取り組みに迫る。

住友商事グループの総合ITサービス企業SCSKは昨今、ブロックチェーンやデジタル金融の領域への注力を強めている。同社の強みは金融犯罪対策だ。AIを活用したマネーロンダリング対策システム「BankSavior(バンクセイバー)」は、銀行や証券会社など全国で80社以上に導入されている。

子会社のSCSK RegTech Edgeは、bitFlyerやセブン銀行などとともに、金融機関と暗号資産(仮想通貨)取引所が連携してAML対策を進める一般社団法人日本金融犯罪対策協会に設立時から参画している。一般消費者の目に触れる機会は少ないが、SCSKは長年、金融取引の裏側をシステムで支えてきた企業だ。その同社が、ブロックチェーンを基盤に取引や決済を自動的に行うオンチェーン金融にも力を注ぎ始めている。

USDCを発行する米Circleが手がける独自のレイヤー1ブロックチェーン「Arc(アーク)」の稼働が9月、始まった。ステーブルコインによる決済や送金、外国為替取引、トークン化資産の取引に向けて設計されたチェーンだが、創設バリデーターとして日本からはSBIグループと住友商事が名を連ねた。この住友商事の参画にあたり、ノードの構築を担ったのがSCSKだ。

NADA NEWSは10月8日、同社で金融・公共事業管掌統括本部 事業・投資推進部 事業推進課のプロジェクトリーダーを務める服部来希氏に、オンチェーン金融へのかかわりを強める理由や今後の展望を聞いた。

「新しい金融」を届けるために

──伝統的金融の安全な取引を支えている企業が、オンチェーン金融の領域に本格参入している理由は。 

服部氏:私たちはシステムインテグレーターとして、長らく金融機関にシステムやソリューションを提供してきた。中でも得意としているのが金融犯罪対策で、金融を安心・安全に届ける基盤を担ってきた自負がある。 

そうした中、ブロックチェーンを基盤とした金融市場が急速に拡大してきた。

新しい金融の形として登場した「オンチェーンの金融」も、私たちが安全性を担保しながらカバーすべき領域だと捉えている。 オンチェーン金融の社会実装に貢献するには外から眺めるのではなく、 まずこれまでのWeb3の業界の中に入っていかなければならない。

そのうえで、「私たちが何を成し遂げたいか」を発信していく必要があると考えた。

──「オンチェーン金融」の可能性と課題をどう考えているか。

服部氏:伝統的な金融、特に銀行を中心とした仕組みは、これまでクローズドな環境で取引が行われてきた。一方、ブロックチェーンは取引をオープンにする特徴を持つ。 

Asian man in a black blazer sits at a desk with a silver laptop, hands clasped, looking thoughtful in a conference room setting as a meeting proceeds.

ただ、従来の仕組みと大きく異なるため、消費者にとっても企業にとっても理解度や運用の面でまだ高い壁があると感じている。その利点を誰もが安全に享受できる形に落とし込むことこそ、 私たちの担える役割だと考えている。

「日本固有」の課題に、既存金融の知見で挑む

──これまで伝統金融領域で培った強みを、どう生かしていきたいのか。

服部氏:一つは金融犯罪対策。アンチマネーロンダリング(AML)や不正対策だ。当社はこれまで地方銀行を中心に、AMLシステム「BankSavior」を提供し、国内80社以上の金融機関に導入されている。さらに為替取引分析業のライセンスを取得し、専門子会社「SCSK RegTech Edge」も立ち上げている。 

取引の広がりとともに不正対策が急務となっているオンチェーンの世界にも、この金融犯罪対策の知見を展開していきたい。 

──具体的には、どのようなシナジーを見込んでいるのか。

服部氏:オンチェーン上の不正取引を追跡するKYT(Know Your Transaction)ツールは、すでに海外ベンダーが先行している。 トランザクションを追跡する部分は、すでに提供している会社がある。

ただ、日本の法制度や商慣習に合わせた「疑わしい取引の届出」への対応や、オンラインとオフライン(既存金融)のKYC情報の突合や連携という点では、まだうまくいっていない部分があると感じている。

Hands cupped around a glowing AML/CFT hub with floating security and finance icons (bank, scales, books, shield) representing anti-money laundering and countering financing of terrorism.
〈Adobe Stockより〉

こうした日本固有の課題に対しては、私たちが既存の金融で、銀行の商慣習を理解しながらAMLに取り組んできた経験を、うまく掛け合わせられるのではないかと考えている。

また、金融犯罪はいま非常に多様化している。ブロックチェーンに加えてAIなどの技術発展もあり、私たちだけでサービスを提供して解決できるものではない。金融機関はもちろん、金融庁をはじめとする官公庁や金融犯罪対策協会とも一体となって、金融犯罪をなくしていくアプローチを仕掛けていきたい。伝統的な金融もDeFi(分散型金融)もどちらもカバーできる金融犯罪対策を提供していきたい。

約1カ月でArcのノード環境を構築 

──Circle社が主導するArcには住友商事がバリデーターとして参画しているが、ノードの構築をSCSKが担当したことはあまり表に出ていない。

服部氏:まず、これまでの経緯を話したい。SCSKには、私たち金融のグループとは別に、先端技術開発を担う部隊がある。昨年度、彼らが住友商事と共同でイーサリアムをはじめとして実際にノードを運用する技術検証や事業性の検証を行っていた。

主要チェーンであるイーサリアムだけでなく、ほかのチェーンも比較しながら、それぞれの特徴やノード運用の収益性をはじめとした事業としての価値を検証していた。

その中で、住友商事にCircle社の「Arc」への参画打診があった。私たちには金融機関向けの基盤構築の知見がある。そこに昨年の別チェーンでのノード構築や運用の知見を掛け合わせることで、参画を実現できると考えた。金融グループとしてブロックチェーン領域に積極的に取り組んでいく考えもあったため、私たちが主体となってプロジェクトがスタートした。

ローンチまでの期間は短かったが、これまでの知見を活かし、体制づくりもスピーディーに進めることができた。結果として、約1カ月という非常に短い期間で環境構築が一旦完成し、実際の運用に動き出せたのは大きかったと思う。

──グループが一枚岩というか、スムーズに連携しないと1カ月での環境構築は難しいだろう。

服部氏:SCSKが住友商事の完全子会社となり、共同研究という枠組みで柔軟かつスピーディーに動けたことが功を奏した。 

Professional man in a black blazer with a lanyard, seated at a table with a silver laptop open in front of him in an office setting

私たち金融グループ単体ではブロックチェーンノードに対する運用知見は不足していたが、グループ内の知見を持つチームと連携することで補い合えた。USDCを手がけるCircle社の重要チェーンにおいて、グループの一体感を持って迅速に成果を出せたことは、オンチェーン金融への足がかりとして大きな実績になった。 

ステーブルコインの社内実証で見えた、企業実装の壁

──海外経費の支払いをステーブルコインで行う社内実証(PoC)も進めていると聞く。現場ではどのような課題が見えてきたか。 

服部氏:従来の銀行間送金をステーブルコインに置き換えた際、企業の業務フローやコスト、為替管理にどのような影響が出るかを検証している。 実際に企業が導入・実装しようとしたとき、どんな課題にぶつかるのかを確かめることが一番の目的だ。

似たような送金の検証は、複数の企業がすでに行っていると思うが、今回の特徴は経理・財務の実務担当者を巻き込んでいる点だ。 彼らの目線で「実際にやるにはどんな観点がないとできないか」というフィードバックをもらいながら進めた。

例えば、暗号資産交換業者の口座開設やウォレット管理は、それ自体が会計実務に新たな負荷をかける。海外拠点側で現地の取引所口座を開設しようとすれば、親会社の審査を含めて日本以上に厳格なチェックが求められる。 そうした点が少しずつ見えてきた。

ステーブルコインはクロスボーダーの取引で有益だとよく言われるが、実際に環境を整えようとすると、ウォレットを一つ立てるだけでも非常に時間がかかるものだ。一方で、ワークフローは仕組みを変えれば、あるいは項目を追加すれば対応できる部分もあり、ポジティブな面も見えている。

この結果から、ステーブルコインで取引するメリットは、よく言われるコストや送金時間だけではなく、プログラマビリティによりフォーカスするほうがいいのではないかという気づきを得た。今後は、次のフェーズの検証や社内でのサービス開発を考えていくことになるだろう。

──実証を通して、国内の制度面や会計ルールについては何を感じたか。 

服部氏:これは私たちだけではなく、住友商事との議論の中でも出てくる話だが、日本国内における資金移動業の「100万円の上限規制」は、企業間決済の実務において大きな制約になる。日本でも信託型のステーブルコインが登場し、選択肢は広がりつつあるが、グローバル取引を見据えた際には依然として課題だ。 

ほかには会計面。ステーブルコインは「電子決済手段」という独立した勘定科目になるため、これまでの預金とは違う科目になる。管理項目や口座が1つ増えるだけでも、経理担当者の心理的・実務的負担は増大する。

これは制度で解決するより、企業への浸透という文化面で解決していくアプローチになると思う。企業側のオペレーションや受容性をどう作るかという工夫が必要だと感じた。 

「大企業の実装課題」を共有できる場を求めて 

────社内実証で得た課題感は、多くのエンタープライズ企業が直面する壁でもある。 そんな中、当社の「N.Avenue club」を共創コミュニティの場に選んだ理由は。

服部氏:「大企業特有のリアルな課題」を共有し、解決策を模索できる場を求めていたからだ。 

入会前にイベントにも参加したが、業界を問わずブロックチェーン領域の最前線で取り組む大手企業の担当者たちが、法務や会計、社内認証の壁といった同じ課題感を抱えていることを知った。 

もちろん、金融領域ではない方もいるが、実務レベルのディスカッションができる環境は非常に示唆に富んでいる。特に一定の規模を持つ企業の担当者からは、有益な示唆を得られる。

Person wearing a black blazer and white shirt, smiling while using a laptop in an office setting with a blue lanyard around the neck.

同時に、Web3ネイティブの企業と話すと、私たちが困っている部分の解決策について、これまでにない視点からヒントを得られることもある。そうした密接なやり取りができる点が大きい。

──今後に展開したい事業構想や一緒に取り組みたいパートナー像は。

服部氏:繰り返しになるが、ステーブルコインをはじめとするブロックチェーン領域の市場の広がりには、強く注目している。

これまで取り組んできた金融犯罪対策と、Swiftとの連携支援をはじめとする国際決済領域。この大きな2つの領域を見定めながら、安心・安全な金融サービスを、従来の金融だけでなく新しい金融の領域でも提供していきたい。

パートナー像としては、ノードの話などで少しずつブロックチェーン領域の知見は得られてきている。だが今年度から本格的に始めたばかりで、知見の面ではまだ「1年生」だ。

そのため、これまでWeb3ネイティブでやってきた企業と一緒に取り組みたい。私が中心に進めている「社内にきちんと実装していく」取り組みでは、同じような属性の大企業の課題感も、私たちとは別の視点から見えてくるだろう。そうした企業との協業も視野に、同じ志を持つパートナーがいれば、ぜひ協業したい。

問われるインフラの主権性

──「Swiftとの連携支援」とは、具体的にどのような取り組みなのか。

服部氏:国際送金や貿易取引を支えるSwiftの領域で、ソリューションを提供している。メッセージの作成・管理から、関連する文書の処理までを一元化できるのが特徴だ。

メガバンクをはじめ多くの金融機関に導入いただいており、長年にわたって安定的に運用してきた実績が強みになっている。今後は、Swift APIを活用して、顧客体験を革新する取り組みを進めていきたい。

ステーブルコインが「発行」から「流通」へとフェーズを移していく中で、私たちが長年培ってきた「社会実装の力」を発揮したい。さまざまな業種・業態で企業のIT構築を支えてきた知見は、言い換えれば社会実装を進めていく力そのものだ。

Web3の先端企業は優れた技術力を持っているが、それを実際の社会実装に落とし込まなければ浸透しない。自社でのステーブルコイン送金実証でも抵抗感があったように、現場のオペレーションに着実に近づけていかなければ普及は難しい。その橋渡しの面で最も貢献したいと考えている。

技術的に優れたパートナーと組むことはもちろん、普及に向けたアプローチやルールづくりの場など、これまで私たちが踏み込めていなかった領域にも共に取り組みたい。

もう一点、ノード運用を支えるインフラ面も見逃せない。海外事業者が主導するケースが多い中、最近はインフラのソブリン性(主権性)が問われ始めている。インフラを足元から支える「守り」の部分を担うことも、私たちの重要な使命だと考え始めている。

流通・利用のアプリケーション面と、それを下支えする運用・インフラ面。その両面で私たちにできることは多く、今後もその枠組みを広げていきたい。

|取材・文:橋本祐樹
|トップ写真:SCSK 金融・公共事業管掌統括本部の服部来希氏
|撮影:平木昌宏

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