●井林辰憲氏の国土交通大臣就任から約1カ月。自動物流道路や地域交通など、国土交通分野のデジタル化が着実に進んでいる。
●筆者が次の可能性として注目するのは、こうした交通・物流インフラと円建てステーブルコインの接点だ。決済の自動化は、新たな社会実装のテーマになり得る。
国土交通省が変われば、日本の決済も変わる
2026年9月23日、筆者はNADA NEWSに「井林国交相で動き出す国土交通DX──『ETC×ステーブルコイン』は次の社会実装になるか」という記事を寄稿した。
井林辰憲氏が国土交通大臣に就任したことを受け、道路、物流、建設、不動産などの分野で、ブロックチェーンが果たせる役割を考察したものだ。筆者にとって井林氏は、高校時代に野球部でともに汗を流した友人でもある。しかし、今回注目しているのは、そうした個人的な関係だけではない。
国土交通省での実務経験を持ち、金融やデジタル技術にも理解のある政治家が、巨大な社会インフラを所管する立場に就いたことの意味である。就任から約1カ月。国土交通省の公表資料を改めて確認すると、興味深い変化が見えてくる。
それは、交通や物流の自動化が進むほど、その裏側にある「お金の移動」も変わる必要があるということだ。
自動物流道路が示す「人を介さない経済」の未来
10月20日、国土交通省は「自動物流道路」の社会実装に向け、10月28日から実証実験を開始すると発表した。自動物流道路とは、道路空間に物流専用スペースを設け、無人化・自動化された輸送手段で荷物を運ぶ新しい物流システムである。ドライバー不足や物流コスト、脱炭素といった課題への対応が期待されている。
ここで筆者が注目したいのは、車両の自動化そのものだけではない。モノの移動が自動化されるなら、その対価の支払いも、より自動化できるのではないか。
例えば将来、物流システムが荷物の輸送完了を確認し、契約条件に従って輸送料金を精算する。あるいは、道路や設備の利用実績に応じて、事業者間の支払いを自動的に処理する。
こうした仕組みは、スマートコントラクトとステーブルコインを組み合わせることで実現できる可能性がある。もちろん、今回の自動物流道路の実証にステーブルコインが採用されると発表されたわけではない。これは筆者による将来像の提案である。
しかし、交通の自動化と決済の自動化を別々に考える時代は、いずれ変わるのではないだろうか。
円建てステーブルコインは、すでに実際の決済へ
この構想を単なる未来予想で終わらせない理由が、日本円建てステーブルコインの進展だ。JPYC株式会社によると、日本円ステーブルコイン「JPYC」は2026年9月18日時点で累計発行額100億円を突破した。
さらに10月9日には、実店舗などでの利用拡大を背景として、公正取引委員会への情報提供と、JPYC決済に対する割引などの優遇施策に関する同社の考え方を公表した。ステーブルコインの議論は、暗号資産取引所やDeFiだけにとどまらなくなっている。
重要なのは、単にデジタルのお金が登場したことではない。既存のシステムと連携しやすく、あらかじめ定めた条件に応じた資金移動を設計できることにある。
国土交通分野には、多くの事業者が関わる料金徴収や精算業務が存在する。道路料金、輸送費、港湾利用料、設備使用料、工事代金などだ。こうした業務には、円建てステーブルコインの特徴を生かせる余地があると筆者は考えている。
ETCの先にある、もっと大きな可能性
前回の記事で提案した「ETC×ステーブルコイン」も、その一つだ。現在のETCは、高速道路料金を効率的に徴収する仕組みとして広く定着している。
筆者が提案したいのは、ETCを全面的に置き換えることではない。車両認証や料金計算といった既存の仕組みを生かしながら、事業者間の精算部分に新しい決済手段を取り入れることだ。
例えば、物流事業者が保有する複数車両の道路利用料金を一括で処理する。あるいは、輸送契約と料金支払いを連動させ、確認や照合作業を減らす。さらに自動運転が普及すれば、人が決済操作を行うことを前提としないサービス設計も考えられる。
これからの交通インフラに必要なのは、「人が便利に支払える仕組み」だけではない。「システム同士が安全に精算できる仕組み」なのかもしれない。
もちろん、実際の導入には、法令への適合、本人確認、セキュリティ、障害対応、返金処理、既存システムとの連携など、多くの課題が残る。だからこそ、全国一斉の導入ではなく、対象事業者と利用範囲を限定した実証から始めることが現実的だろう。
国土交通DXの次の焦点は「決済」ではないか
すでに国土交通省は、港湾物流の手続きを電子化する「Cyber Port」や、3D都市モデルを活用する「PLATEAU」などを推進している。
Cyber Portの港湾物流分野では、2026年2月時点で利用登録社数が1,000社を超えた。交通・物流・都市に関わる情報のデジタル化は、着実に進んでいる。
一方、金融の世界でも、円建てステーブルコインを実際の支払いに利用する環境が少しずつ整ってきた。
筆者が期待しているのは、この二つの流れが交わることだ。
情報だけがデジタル化されても、その後の請求、支払い、照合が従来どおりでは、業務効率化には限界がある。逆に、データと決済が連動すれば、物流や交通のサービス設計は大きく変わる可能性がある。
井林大臣の就任後、国土交通省がステーブルコインの具体的な導入方針を決定したと確認できるわけではない。しかし、だからこそ今、議論を始める価値がある。
筆者、荒澤の視点──次の社会実装は、暮らしを支えるインフラから
ブロックチェーン業界では、価格や投資商品の話題に注目が集まりやすい。しかし、筆者が以前から重要だと考えているのは、技術そのものよりも、それによって社会の何が便利になるのかという視点である。
高速道路を走る。荷物を運ぶ。港で貨物を受け渡す。公共交通を利用する。私たちの日常には、多くの移動と、それに伴う支払いが存在している。これらを支える仕組みが少し変わるだけでも、社会全体への影響は大きい。
ブロックチェーンを導入すること自体が目的ではない。既存の仕組みよりも安全で、効率的で、利用者や事業者に利益があるならば、採用を検討する価値がある。
井林大臣には、現場を知る政治家として、こうした新しい可能性にも目を向けてほしい。そして、行政、金融機関、道路・物流事業者、ブロックチェーン業界が、それぞれの専門性を持ち寄ることに期待したい。
日本円ステーブルコインの次の舞台は、金融の世界だけとは限らない。その可能性は、私たちが毎日利用する道路や交通、物流の現場にこそ広がっているのではないだろうか。
ショート動画
次に動くのは「交通とお金」か? 国交省DXとステーブルコインの未来
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