ドル円相場が急速に動いている。9月1日に1ドル=約160.17円だったドル円は、一時152.89円まで低下した。わずか1週間ほどでドル円は約4.5%下落し、円の価値でみれば約4.8%上昇したことになる。
今回の円高を考えるうえで重要なのは、単純な「ドル全面安」ではないという点だ。背景にあるのは、日銀の追加利上げ観測と、それによって積み上がっていた円売りポジションや円キャリートレードが巻き戻されている可能性である。
そして、この動きはビットコイン市場にとっても無関係ではない。結論から言えば、短期的にはBTCにとってマイナス要因となりやすく、特に日本の投資家が見る円建てビットコイン価格には「BTC下落+円高」という二重の下押し圧力がかかる可能性がある。
日銀の利上げ観測が円買いを加速
今回の円高の最大のきっかけは、日銀の金融政策を巡る市場の見方の変化だ。市場では9月17~18日の日銀金融政策決定会合で、政策金利が1.0%から1.25%へ引き上げられるとの観測が強まっている。
高田創審議委員も「機動的な利上げが必要な局面」との認識を示しており、0.25%の追加利上げを市場がかなり織り込み始めている。これまで「主要国の中で金利が低い通貨」として売られてきた円に対する前提が、少しずつ変化している。
膨らんでいた円売りポジションが逆回転
もう一つ重要なのが、投機筋のポジションだ。投機筋による円売りポジションは9月1日時点で約10.2万枚まで再び膨らんでいた。
こうした状況でドル円が155円を下回ると、円売りを続けていた投資家の損切りや買い戻しが発生しやすくなる。円高になったから新たに円を買うだけではない。これまで円を売っていた投資家が一斉に円を買い戻すことで、円高がさらに円高を呼ぶ構造が生まれる。
ここに今回の為替変動の速さを見ることができる。
BTC市場が警戒すべき「円キャリートレード」
暗号資産市場にとって最も重要なのは、円キャリートレードの巻き戻しである。円キャリートレードとは、低金利の円で資金を調達し、それを米国株や債券、暗号資産など、より高いリターンが期待できる資産へ投資する取引だ。
円安が続いている間は機能しやすい。しかし円高になると状況が逆転する。借りた円を返済する際に必要となる円の価値が上昇するため、投資家は保有する外貨建て資産を売却し、円を買い戻す必要が出てくる。
つまり、
円高 → キャリートレード縮小 → リスク資産売却 → 円買い
という連鎖が起こり得る。
海外からの円借り入れは3月時点で約360兆円と過去最大規模に達しているとされる。もちろん、この360兆円すべてが投機的なキャリートレードに使われているわけではない。しかし、それだけ円が世界の金融市場で資金調達通貨として大きな役割を担っていることは無視できない。
円建てBTCは為替だけでも大きく動く
日本の投資家にとって、もっと直接的なのが円建てBTC価格への影響だ。
基本的な関係は、
BTC円価格 = BTCドル価格 × ドル円
となる。
BTC価格を78,500ドルで固定すると、
ドル円 BTC円価格
・160.17円 約1,257万円
・153.81円 約1,207万円
・150円約1,177万円
BTCのドル価格がまったく変わらなくても、為替が160円台から153円台へ円高になるだけで、円建てBTCは約50万円下落する計算になる。これは日本の投資家にとって非常に重要なポイントだ。
米ドル建てBTCチャートだけを見ていると「価格はそれほど変わっていない」と感じても、円建ての資産価値は為替だけで数%低下する可能性がある。
2024年8月の再現になるのか
ここで思い出されるのが、2024年8月の市場急落だ。当時も日銀の金融政策変更と急速な円高を背景に、円キャリートレードの巻き戻しが強まり、世界の株式市場や暗号資産市場に急激なリスクオフが広がった。
BTCやETHも大きく売られ、円市場で始まった変化が世界のリスク資産へ波及した象徴的な局面となった。ただし、現時点で2024年8月と同じ状況になったと判断するのは早い。
BTCは現在も約78,000ドル台で推移しており、今のところ円高による影響は「世界的なBTC売却」よりも、「円建てBTC価格の低下」に強く表れている。
オンチェーンでは、2024年8月型の投げ売りはまだ見えない
この違いはオンチェーンデータからも確認できる。CryptoQuantのビットコイン短期保有者の使用済みアウトプット利益率(STH-SOPR)を見ると、2024年8月の急落局面では1を大きく下回る動きが確認された。

STH-SOPRは、短期保有者がBTCを移動させた際に、取得価格に対して利益が出ているか損失が出ているかを見る指標で、1を下回るほど損失確定が優勢になっていることを示す。一方、2026年9月の足元では、STH-SOPRは1付近からやや上で推移する場面もあり、2024年8月のような極端な下振れは確認されていない。
つまり、為替市場では円高が急速に進んでいるものの、それが現時点で短期保有者のパニック的な損切りにまで波及しているとは言いにくい。 これは今回と2024年8月との大きな違いである。
今後、円高がさらに加速する中でSTH-SOPRが明確に1を割り込み、短期保有者による損失確定が増え始めるのであれば、キャリートレードの巻き戻しがBTC市場内部にまで波及し始めたシグナルとして警戒する必要がある。
逆に、ドル円が150円方向へ進んでもSTH-SOPRが安定しているのであれば、今回の動きは少なくとも現段階では「世界的な暗号資産市場のデレバレッジ」ではなく、「為替変動による日本円ベースの価格調整」という側面が強いと判断できるだろう。
今後は「150円」と市場内部の変化を注視
今後のポイントは、日銀が利上げするかどうかだけではない。市場はすでに0.25%程度の利上げをかなり織り込んでいる。重要なのは、実際の日銀の判断が市場予想よりタカ派なのか、ハト派なのかである。
通常通りの利上げにとどまり、その後の追加利上げについて慎重な説明がなされれば、「材料出尽くし」で円高が反転する可能性もある。その場合、円建てBTCには為替面から反発圧力がかかる。
一方で、日銀が予想以上にタカ派となり、ドル円が152.89円を明確に割り込み、150円方向へ速いペースで向かう場合には注意が必要だ。キャリートレードの解消が本格化すれば、米国株だけでなく、BTCやETH、そして流動性の低いアルトコインにも売りが波及する可能性がある。
さらに現在は、米国でも強い雇用や原油高などを背景に高金利環境が長引く可能性が意識されている。
つまり現在の市場は、
「日銀は引き締め方向、米国も高金利が続く可能性」
という、暗号資産にとって決して楽観できない組み合わせになっている。
今回は2024年8月と何が違うのか
現時点で整理すると、2024年8月との最大の違いは、円高そのものではなく、円高がリスク資産市場へどこまで波及しているかにある。
2024年8月は、
円高
↓
キャリートレード解消
↓
世界的なリスクオフ
↓
BTC下落
↓
短期保有者の損失確定
という連鎖がオンチェーンにも明確に表れた。
一方、今回は今のところ、
円高
↓
円建てBTC価格の低下
という段階にとどまっている。
この先、
STH-SOPRの低下、取引所へのBTC流入増加、先物建玉の急減
などが同時に発生するかどうかが、2024年8月型のキャリー巻き戻しへ発展するかを判断する重要なポイントになる。
BTCを見るなら「価格」だけでなく「資金調達通貨」を見る
暗号資産市場を分析するとき、私たちはETFへの資金流入、オンチェーンデータ、クジラの動き、デリバティブの建玉などを注視する。しかし世界の金融市場では、それ以前に、「どの通貨で資金が調達されているのか」という視点も重要である。
円は長い間、世界の投資家にとって代表的な資金調達通貨だった。その円の金利が上昇し、同時に円高が進むということは、世界のリスク資産を支えてきた一つの資金循環が逆回転する可能性を意味する。
現時点では、オンチェーンデータを見る限り全面的なキャリートレード崩壊とは言えない。むしろ、為替市場が先に動き、BTC市場はまだ比較的冷静さを保っていると見ることができる。
しかしドル円が150円へ近づき、その過程でSTH-SOPRが悪化し始めるのであれば、市場の視点は単なる「円高」から、「世界のレバレッジがどこまで縮小するのか」へ移っていくだろう。
ビットコイン投資家にとって今後数週間は、BTCチャートだけを見るのではなく、ドル円、日銀、そしてオンチェーン上の短期保有者の行動を同時に確認する必要がある局面に入っている。
ショート動画
円高でビットコイン急落? 2024年8月の再来をオンチェーンで検証
https://youtube.com/shorts/heSVl-cheq8
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