日本国内におけるデジタル証券(セキュリティ・トークン、ST)市場は、発行総額の急増とともに新たな発展期を迎えている。これまでは信頼性の確保や規制遵守の観点から、あらかじめ参加者を限定したコンソーシアム(企業共同管理)型ブロックチェーンを用いた運用が主流であったが、今やグローバルな投資家層へのアクセスや国境を越えた決済の効率化に向け、パブリックブロックチェーンの相互運用性を活かそうとする地殻変動が起こり始めている。
この市場の次なるステップを議論すべく、NADA NEWSを運営するN.Avenueは8月4日、「国内STはグローバルにつながるか──パブリックブロックチェーン活用実証から見えた、クロスボーダー流通の可能性」と題したオンラインイベントを開催した。
日本初となるイーサリアムおよびステーブルコインのUSD Coin(USDC)を組み合わせたクロスボーダー業者間決済の実証実験について、検証プロセスや直面した制度的課題が報告された。
登壇したのは、BOOSTRY CEOの平井数磨氏と同社COOの周藤一浩氏、SBI証券で商品企画部ST業務室長を務める有吉哲男氏、SBIデジタルプラクティスCOOの水頭健太郎氏、大和証券のデジタルアセット推進室長の斉藤貴裕氏、Penguin Securities CEOの川辺健太郎氏。MCは一般社団法人日本セキュリティトークン協会の代表理事の増田剛氏が務めた。
拡大期を迎える公募市場、パブリックチェーンが拓く相互運用性
BOOSTRYの平井氏はまず、国内ST市場の現状を整理した。2026年7月31日時点で公募市場の発行総額は3490億円、発行件数は87件に達し、直近の大型案件も含めると約3700億円規模と市場は明確な拡大期に入っているという。

平井氏は、2020年の改正金融商品取引法の施行を契機に立ち上がった国内市場の発展を評価しつつ、これまで主流だったコンソーシアム型やプライベート型に対し、今後はグローバルな相互運用性を持つパブリック型の強みを活用することが重要だと指摘した。
市場のさらなる発展に向けて、商品・アセット、ステークホルダー、市場機能、市場圏という4つの多様化を推進する必要性を提起し、本実証がその具体的な第一歩となると語った。アセットとしては、不動産や社債に加え、プライベートエクイティやベンチャーキャピタルファンド、海外資産、知的財産コンテンツなどがトークン化されていく展望を示した。

国境を越えるDVP決済、イーサリアムとUSDCによる業者間取引スキーム
同社の周藤氏は、本実証プロジェクトの取引スキームと実務的な成果を解説。今回の実証は、国内アセットの海外販売と海外アセットの国内導入という、双方向の流通モデルの実現可能性を検証するために実施されたと説明した。
スキームでは、個人投資家が直接取り引きするのではなく、日本とシンガポールの証券会社が業者間の店頭取引を行う決済インフラとしてパブリックチェーンを活用するモデルを採用。決済手段には米ドル連動型ステーブルコインであるUSDCが使用され、証券と資金の同時受け渡し決済が検証されたという。
周藤氏は、パブリックチェーンにおける「規制の名宛人(管理責任者)が不在であること」に対し、コンソーシアム型と連携させる独自のブリッジ技術を提示。パブリックチェーン上の取引履歴をリアルタイムに追跡することで、万が一チェーンが消滅してもコンソーシアム側で権利を完全に復元し、権利を保全できる管理体制を構築したと説明した。

また、送金手数料であるガス代を補填するメタトランザクション技術の開発や非居住者への所得税課税などの複雑な税務論点についても、整理を完了したと報告した。
不動産からファンドへ、USDC決済を契機とした海外展開
SBI証券の有吉氏は、同社の事業軌跡と本実証の意義を語った。同社では不動産STに加え、今年3月に大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)での取引に対応したSTART債による債券、今年1月には日本初のプライベートファンドSTを世に送り出し、3つの柱を構築している。
有吉氏は第4の柱の創出に向け、先行投資としてのデジタル通貨や同時受け渡し決済、クロスボーダー取引にまたがる取り組みとして本プロジェクトを位置づけているという。

実証では、同社が市場供給用に保有していたSTART債の一部をシンガポール側へ移転し、大和証券を経由して現地で受け渡して買い戻すプロセスが想定された。税制上の譲渡制限などにより実際の移転は見送られたものの、プロセスを具体化して課題を洗い出した意義は大きいと強調した。
また、シンガポール側の受け皿となったSBI Digital Marketsを統括してきた、SBIデジタルプラクティスの水頭氏は、現地でキャピタル・マーケット・サービス・ライセンスを保有しカストディ(資産保管)業務を展開する強みを紹介。高級ワインのトークン化などの事例を踏まえ、USDC決済を活用したグローバル展開への強い期待を示した。

名簿管理の課題を解消する、ibet for Finとイーサリアムの連携
大和証券の斉藤氏は、かつてイーサリアム上でのST発行を検証した際、国内法で義務付けられた「投資家名簿」の作成にあたって、匿名アカウントと顧客情報を個別に突合し続けなければならない実務的課題があったと振り返った。
斉藤氏は、本プロジェクトがこの課題をクリアする大きなブレイクスルーになったと解説。実証では、イーサリアム上の移転情報をibet for Fin上へコピーするスキームを採用し、原本管理人はibet for Finを一元的に確認するだけで容易に名簿作成できる仕組みを構築した。

同氏はこれを、現状の株式に類似した、カストディアンの間接保有を介したグローバルな管理体制と表現。実務の効率化に確かな手応えを示した。
取引相手を務めたPenguin Securitiesの川辺氏は、シンガポールでSTを扱うライセンス要件の実態を指摘しつつ、今後は業務自動化による手数料無料化やST担保の効率的な資金調達などパブリックチェーンがもたらす広大な将来展望を語った。

ブロックチェーン消滅時の権利復元、ガバナンスが描く次なるロードマップ
イベント後半に行われた質疑応答セッションでは、実務に踏み込んだ活発な議論が交わされた。
パブリックチェーン消滅時の資産保全について周藤氏は、移転履歴をリアルタイムにコンソーシアム側へロックし直す仕組みにより、問題なく履歴を復元し、権利を保全可能であると技術的対策に自信を示した。初期コストの懸念については、プレイヤーの増加によりコストは構造的に下がっていくとの見通しを共有した。

また、現状でも海外証券を取引できる中で本ブロックチェーンスキームが持つ独自の価値について、斉藤氏は、24時間365日の取引やデジタル通貨決済によって、グローバル取引がより滑らかに行える新市場の構築であると説明した。
参加者からは、パブリックチェーンへの完全移行が進むのかという問いも上がった。
これに対し周藤氏と斉藤氏は、金融実務においてはガバナンスの確保が不可欠で、すべてがパブリックチェーンに置き換わるわけではないと回答。国内取引はコンソーシアム型、グローバル取引はパブリック型といったように、今後は用途に応じて最適なブロックチェーンを選択する「マルチチェーン」環境が力強く発展していく未来像を共有し、セッションを締めくくった。
|文・画像:NADA NEWS編集部


