木曜日、私は高輪ゲートウェイシティにあるローソンへ向かった。国内初となる、POSレジでのステーブルコイン決済の実証実験を取材するためだ。
実際にJPYCでの決済を体験してみると、驚くほど普通だった。
スマートフォンに表示したバーコードをレジで読み取るだけ。認証ボタンを押すひと手間はあるが、普段使っているQRコード決済とほとんど変わらなかった。
「これなら使える」
そんな感想を抱きながら店を出て、ふと、前日にNADA NEWSに掲載したニュースを思い出していた。
Cloudflareがステーブルコイン対応ウォレットを発表した、というニュースだ。その瞬間、ローソンの店頭で見た風景が、まったく違って見えてきた。
インターネットが“お金”を持ち始める
2025年11月18日、世界中でXやChatGPT、Spotifyなどの人気サービスでアクセス障害が相次いだ。
原因は、Cloudflareのシステム障害だった。Cloudflareは多くの人に知られる企業ではないが、現代のインターネットを支える存在だ。
そのCloudflareが今度は、ステーブルコイン対応ウォレットに乗り出した。AIエージェントが自律的に支払いを行う決済機能にも対応するという。
インターネットは、情報を運ぶことには極めて優れている。テキストも画像も動画も、一瞬で世界中へ届けられる。
しかし、お金を動かそうとすると、銀行やカード会社、決済事業者といった、インターネットの外側に存在する金融インフラと接続する必要があった。
Cloudflareが示したのは、その前提が変わり始めたということだ。インターネットそのものが、ステーブルコインを扱えるようになろうとしている。
ローソンとCloudflareが見る“同じ未来”
ローソンとCloudflare。一見すると、2つのニュースには関連性はない。
一方は世界中のWebサービスを支えるインターネット企業。もう一方は、日本を代表するコンビニエンスストア。だが、どちらも同じ方向を向いている。
Cloudflareは、インターネットにステーブルコインを組み込もうとしている。
ローソンは、日々の買い物の場にステーブルコインを組み込もうとしている。
どちらも、「ステーブルコインに特化した新しい世界」を作ろうとしているわけではない。すでに存在するインフラが、ステーブルコインを受け入れ始めている。
ステーブルコインは「主役」ではなくなる
Cloudflareが見据えるのは、AIエージェントが活動するインターネットの世界。
ローソンが実証しているのは、誰もが利用するコンビニのPOSレジだ。
ステーブルコインそのものではなく、それを受け入れるインフラが整い始めている。
インターネットはもはや私たちの日常を支える必須のインフラだ。コンビニエンスストアも同様。
そうしたインフラがステーブルコインを当たり前に扱う世界が登場しようとしている(ローソンはまだ実証実験であり、本格導入の具体的な時期は示されていないが)。
意識しないことが、本当の普及
ステーブルコインの普及、マスアダプションというと、「どれくらいの人がウォレットを持ったか」「発行高がどれくらいになったか」といった数字に目が向きがちだ。
もちろん、それも大切な指標だ。
だが、本当に普及したとき、人はステーブルコインを使っていることを意識しなくなるだろう。
コンビニでは、いつものレジで支払う。AIエージェントは、必要なサービスへ自動的に支払う。
その裏側でステーブルコインが動いている。利用者はそれを意識しない。
5日のCloudflare、6日のローソン。
この2つの出来事は、ステーブルコインが「新しいお金」から、「社会インフラの一部」へ変わり始めたことを示しているように思う。
インターネットは、情報だけでなく、お金も扱うようになる。
コンビニは、現金やカードだけでなく、ステーブルコインも扱うようになる。
ステーブルコインのために新しい世界が作られるわけではない。私たちが毎日使っているインフラの中へ、静かに組み込まれていく。
その変化は、思っているよりずっと静かに、そして着実に進んでいる。
|文:増田隆幸
|画像:生成AIで加工


