●中間選挙の最大の争点は暗号資産ではなく、インフレや経済政策です。
ただし、CLARITY Actは接戦州や若年層の投票行動、政治資金を通じて選挙へ一定の影響を与える可能性があります。
●共和党は選挙前の法案成立を成果として訴えたい一方、民主党は利益相反や消費者保護などの修正を求めています。選挙が近づくほど党派対立が強まり、法案成立のハードルは高まる可能性があります。
●仮に共和党が敗北しても、暗号資産規制が後退するとは限りません。
今後は法案の成立可否だけでなく、規制内容やオンチェーンデータの変化を総合的に見ることが重要です。
米国では現在、暗号資産市場の将来を左右するCLARITY Act(暗号資産市場構造法案)の審議が続いています。市場では「法案は成立するのか」という点に注目が集まっていますが、実際にワシントンで起きている議論を見ると、焦点は法案そのものだけではありません。
むしろ、2026年11月3日に予定されている中間選挙が近づくにつれ、政治日程そのものが法案の行方を左右する最大の要因になりつつあります。
現在の世論調査では、下院の一般投票で民主党が共和党をリードする調査も出ています。一方、上院では共和党が53議席を維持しており、民主党が多数派を奪還するためには4議席の純増が必要です。
このため、現時点では「下院だけ民主党が奪還する」というシナリオが最も現実的と考えられています。ただし、米国の選挙制度では選挙区ごとの事情が大きく影響するため、全国支持率がそのまま議席数へ反映されるわけではありません。現段階で選挙結果を断定することはできません。
中間選挙の争点は暗号資産ではない
今回の中間選挙で有権者が最も重視しているのは、暗号資産ではありません。生活費の上昇、インフレ、雇用、ガソリン価格、経済政策、安全保障や外交問題などが主要テーマとなっています。
つまり、CLARITY Actだけで選挙結果が決まる可能性は極めて低いと言えます。一方で、暗号資産業界が選挙に全く影響を与えないわけではありません。若年層の投票率、業界関係者による政治献金、Super PACによる広告、ベンチャーキャピタルからの資金などを通じて、接戦州や接戦区では一定の影響力を持つ可能性があります。
暗号資産は「選挙の主役」ではありませんが、「接戦を左右する一票」に影響を与えるテーマへと成長している点は注目すべきでしょう。
共和党が成立を急ぐ理由
共和党にとって最も理想的なのは、中間選挙前にCLARITY Actを成立させることです。
法案が成立すれば、
・暗号資産市場のルールを明確化した
・SECとCFTCの役割分担を整理した
・米国企業の海外流出を防いだ
・顧客資産保護を強化した
という成果を有権者へ示すことができます。さらに共和党は、CBDC(中央銀行デジタル通貨)への慎重姿勢も政策の柱に据えています。
政府が個人の資産管理へ過度に関与することを避け、民間によるイノベーションを重視するというメッセージは、保守層やリバタリアン層から一定の支持を得ています。
仮に法案が成立しなかった場合でも、「民主党がイノベーションを妨げた」と主張することは可能ですが、一方で倫理規定の修正を拒めば、「大統領や政権関係者の利益を守るための法案だった」と民主党から批判されるリスクも抱えています。
そのため共和党にとっては、「成立させること」だけでなく、「超党派で成立させること」が選挙戦略としても重要になっています。
民主党は本当に暗号資産に反対なのか
SNSなどでは「民主党は暗号資産に反対している」という単純な見方もあります。しかし、実際の議会を見ると、その見方は正確ではありません。
下院では複数の民主党議員がCLARITY Actへ賛成票を投じており、上院銀行委員会でも民主党議員の一部が法案に理解を示しています。
民主党が求めているのは、
・利益相反規制の強化
・マネーロンダリング対策(AML)
・消費者保護
・州政府の監督権限維持
などです。
つまり、「暗号資産市場を制度化すること」には賛成しながらも、「規制が十分ではない」という立場を取る議員が少なくありません。民主党内部でも、厳格な規制を求めるグループと、イノベーションを維持しながら制度整備を進めたいグループが存在しており、そのバランスが今後の交渉を左右することになります。
選挙が近づくほど成立は難しくなる
CLARITY Actには二つの相反する力が働いています。
一つ目は「時間との戦い」です。
共和党は議会構成が変わる前に法案を成立させたいと考えており、業界も規制の不透明さを早期に解消したいと望んでいます。
一方で、選挙が近づくほど党派対立は強まり、互いに譲歩しにくくなります。民主党は倫理規定で妥協しにくくなり、共和党も自党に不利となる修正を受け入れにくくなります。
さらに銀行業界や暗号資産業界も政治献金や広告を通じて、それぞれ有利な条文を求めるため、交渉はより複雑になります。
現在、市場関係者の間で法案成立確率がやや低下しているとの見方がある背景には、この「時間切れ」と「党派化」が同時に進んでいるためです。
共和党が敗北した場合はどうなるのか
現時点で最も現実的とみられているのは、「共和党が下院を失い、上院は維持する」というシナリオです。
この場合、上院で法案が可決されたとしても、民主党が主導する下院では倫理規定やAML、SECの権限などについて追加修正が求められる可能性があります。
結果として、法案成立までにさらに時間を要する可能性があります。
仮に上院も民主党が奪還した場合には、法案は全面的な再設計を求められる可能性が高まります。
さらに上下両院とも民主党となれば、現行CLARITY Actの成立可能性は大きく低下し、新たな民主党案として作り直される展開も想定されます。
ただし、その場合でも大統領の拒否権という壁があるため、民主党案が直ちに成立するとは限りません。つまり、選挙結果によって重要なのは「暗号資産規制がなくなること」ではなく、「どのような規制になるのか」が変わるという点です。
レームダック会期が最後の勝負
仮に共和党が中間選挙で議席を減らした場合、選挙後から新議会が始まるまでの「レームダック会期」が現行法案成立の最後のチャンスとなる可能性があります。共和党は委員会支配を失う前に成果を残したいと考え、業界も法案の再交渉を避けたいという思惑があります。
一方で、敗北した与党が大型法案を急いで成立させることへの批判も予想され、限られた会期の中では予算や安全保障法案も優先されます。そのため、レームダック会期で成立を目指すのであれば、選挙前の段階で超党派が受け入れられる修正案を事実上まとめておくことが不可欠です。
オンチェーンデータが示すもう一つの注目点
政治だけでなく、オンチェーンデータにも興味深い変化が見られます。

過去4回(2014年、2018年、2022年)の米国中間選挙とビットコインのアクティブアドレス数を重ねてみると、選挙が近づくにつれてネットワーク利用が落ち着く傾向が確認できます。市場参加者が政治や規制の行方を見極めようとする中で、積極的な取引や資金移動が一時的に減少している可能性があります。
2026年もアクティブアドレス数は約100万件近い水準で推移していますが、過去のピークと比較するとやや低い水準です。これは、投資家がCLARITY Actや中間選挙など、今後の政策イベントを見極めようとしている可能性も考えられます。
もちろん、このチャートだけで「中間選挙がアクティブアドレス数を減少させる」と結論づけることはできません。アクティブアドレスは価格動向、相場サイクル、ETF資金流入、マクロ環境など複数の要因で変動します。
しかし、政治イベントとオンチェーンデータをあわせて観察することで、市場参加者のセンチメントや行動の変化をより多角的に捉えることができます。
今後注目すべきポイント
投資家として注目すべきなのは、「法案が成立するか、しないか」だけではありません。
今後は、
・追加の民主党支持議員が現れるか
・倫理規定の修正が進むか
・SECとCFTCの役割分担が整理されるか
・CFTCの監督体制強化が進むか
・選挙日程の中で採決スケジュールが確保されるか
といった点が重要になります。
暗号資産市場は、価格だけではなく制度によって成熟していく市場です。
CLARITY Actは単なる一つの法案ではなく、今後の米国デジタル資産市場の競争力を左右する重要な制度設計と言えるでしょう。
中間選挙まで残り約3か月。政治の動きだけでなく、オンチェーンデータや市場参加者の行動も合わせて分析することで、より本質的な市場の変化が見えてくるはずです。今後も、議会の動向と市場データの両面から注目していきたいと思います。
ショート動画
中間選挙でビットコインはどうなる?CLARITY Actの行方
https://youtube.com/shorts/LMfi8Zz5MIw


