●ビットコインの「長期保有者の純ポジション変化(30日累計)」は、過去最大級のプラス圏に達している。これは、長期保有者側に移動したBTCが、長期保有者によって売却されたBTCを大幅に上回っていることを意味する。
●今回の増加は、長期保有者が直近30日間に一斉に買ったことだけを示すものではない。現物ETFや機関投資家、企業財務などによって数か月前に取得され、その後動かなかったBTCが、一定期間を経て長期保有者へ分類された影響が大きい。
●エックスウィンでは、今回の動きを中長期的な供給圧縮につながるポジティブな変化と考える。一方で、この指標だけで短期的な価格上昇を断定することはできず、ETFフローや取引所在庫、短期保有者の取得価格などと合わせて判断する必要がある。
過去最大級となった長期保有者の蓄積

ビットコインのオンチェーンデータに、非常に興味深い変化が表れている。
CryptoQuantの「Bitcoin: Long-Term Holder Net Position Change – 30D Sum」、日本語では「ビットコイン:長期保有者の純ポジション変化(30日累計)」を見ると、足元の数値は大幅なプラス圏に達している。
チャートの緑色の部分は、長期保有者が保有するBTCが30日間で純増したことを示す。反対に、赤色は長期保有者の保有量が純減し、市場にBTCが放出されたことを表している。
今回、緑色の棒は過去の主要な蓄積局面と比べても極めて高い水準にある。報道ベースでは、2026年5月に30日間の純増が約129万BTCに達したとされ、少なくとも過去6年間で最大級の増加となった。
単純に考えれば、「長期投資家が大量にビットコインを買っている」という強気材料に見える。しかし、この指標を正確に理解するには、長期保有者がどのように定義されているのかを確認する必要がある。
LTHの増加は「今の買い」だけではない
LTHとは、Long-Term Holder、すなわち長期保有者の略称である。
ここで重要なのは、LTHの保有量が増えたからといって、それが必ずしも「直近30日間に新しく買われたBTC」を意味するわけではない点だ。
例えば、2026年1月にETFや機関投資家が購入したBTCが、その後約155日間動かなければ、2026年6月ごろから長期保有者側へ分類され始める。
したがって、現在のLTH純ポジション変化には、次の二つの動きが含まれている。
一つは、実際に長期保有者がBTCを積み増し、そのまま保有していること。もう一つは、数か月前に購入されたBTCが売却されず、時間の経過によって長期保有者側へ移ったことである。
つまり、今回の急増は「いま大量に買われている」というよりも、「過去に吸収された大量のBTCが、その後も売られずに残っている」と読む方が正確である。
最大の要因は現物ETFと機関カストディ
今回の記録的な蓄積を説明するうえで、最も重要なのが米国の現物ビットコインETFである。
米証券取引委員会は2024年1月10日、複数の現物ビットコインETPについて、米国取引所への上場と取引を承認した。これにより、証券口座を通じてビットコインへ投資できる制度的な入口が整備された。
ETFに資金が流入すると、運用主体は原則として、その資金に対応する現物BTCを市場から取得し、カストディ事業者へ保管する。
個人投資家が自分のウォレットで売買する場合とは異なり、ETFの保有BTCは、日々頻繁に別のアドレスへ移動するとは限らない。長期間同じカストディ環境で保管されれば、オンチェーン上では次第に長期保有供給へと分類される。
この構造を象徴するのが、ブラックロックの「iShares Bitcoin Trust ETF(IBIT)」である。ブラックロックの公式データによると、IBITは2026年6月30日時点で約73万4,000BTCを保有していた。7月23日時点では約73万9,000BTCに増えており、単独の商品として極めて大きなビットコイン保有主体となっている。
このようなETF保有分が売却されず、カストディ口座で動かない状態を続ければ、時間差を伴ってLTH供給を押し上げる。
したがって、現在のLTH増加は、ETFへの直近の資金流入だけでなく、過去数か月から1年以上にわたってETFが吸収してきたBTCが「長期保有化」した結果とも考えられる。
企業財務による保有も市場構造を変えた
現物ETFと並んで重要なのが、企業によるビットコイン保有の拡大である。
従来、ビットコインの主要な保有主体は、個人投資家、マイナー、暗号資産ファンド、取引所などだった。しかし現在は、上場企業や資産運用会社が、ビットコインを財務資産や長期投資対象として保有する事例が増えている。
企業財務として取得されたBTCは、短期売買を目的としたトレーディング資産とは性質が異なる。取締役会や財務戦略に基づいて長期保有されるケースが多く、市場価格が変動しても簡単には売却されにくい。
この結果、ビットコイン市場では「価格が上がればすぐ売る保有者」よりも、「制度や方針に基づいて保有し続ける主体」の比率が高まっている。
今回のチャートに「機関投資家による本格採用」「ETF・企業財務による需要拡大」と記載したのは、この保有主体の変化を表すためである。
取引所在庫の減少が供給をさらに細らせる
LTH供給の増加と同時に確認したいのが、取引所に置かれているBTCの減少である。
取引所にあるBTCは、基本的にいつでも売却できる流動性の高い供給である。一方、自己保管ウォレット、機関カストディ、ETF、企業財務などへ移されたBTCは、取引所の板にすぐ売りとして並ぶ可能性が低い。
長期的に取引所在庫が減少し、LTH供給が増える状況は、市場で実際に売買できるBTCが少なくなることを意味する。
この状態でETFや企業、個人投資家から新たな需要が入れば、限られた売り注文を複数の買い手が奪い合うことになる。これが、いわゆる供給ショックにつながる可能性がある。
ただし、取引所からBTCが出たからといって、すべてが長期投資目的とは限らない。カストディ事業者間の移動や、取引所によるアドレス整理、内部送金が含まれることもある。そのため、取引所在庫とLTH供給を一つの指標だけで判断せず、複数のデータを組み合わせて確認する必要がある。
半減期は主因ではなく、供給圧縮を強める要因
2024年4月に実施されたビットコインの半減期も、今回の蓄積を支える背景の一つである。
半減期によって、マイナーが新たに受け取るブロック報酬は6.25BTCから3.125BTCへ減少した。つまり、市場に新しく供給されるBTCの量が半分になった。
一方で、ETFや企業が購入する規模は、マイナーが毎日生み出す新規供給を大きく上回ることがある。
もっとも、半減期だけでLTHの急増を説明することはできない。半減期は新規供給を減らす制度的な仕組みであり、既存BTCが長期保有者側へ移る直接的な原因ではないからだ。
今回の中心的な要因は、ETFや機関投資家が既存のBTCを吸収し、それを長期間動かさなかったことにある。半減期は、その状況下で市場の供給余力をさらに小さくする増幅要因と考えるべきだろう。
過去の蓄積局面では何が起きたのか
チャートを振り返ると、大幅なLTH蓄積は過去にも複数回発生している。
2014年には、Mt.Gox破綻後の価格低迷局面で長期保有供給が増加した。市場参加者の多くが悲観するなか、一部の投資家が安値圏でBTCを取得し、長期間保有したと考えられる。
2018年末から2019年にかけては、長期的なベアマーケットの底値圏で蓄積が拡大した。2020年には、コロナショック後の金融緩和と企業・機関投資家の参入を背景に、再び大きな蓄積が起きた。
2024年以降は、米国現物ETFの承認によって市場構造そのものが変化した。個人や暗号資産業界内部の投資家だけでなく、証券市場を経由した大規模な資金がBTCを保有するようになった。
そして2026年には、その制度的な保有が時間差を伴ってLTH供給へ反映され、過去最大級の緑色の棒となって表れている可能性がある。
LTH増加は必ずしも直後の上昇を意味しない
今回のデータは中長期的にはポジティブだが、注意も必要である。
LTHの増加は、売られにくいBTCが増えていることを示す一方、短期的な需要の強さを直接示す指標ではない。
仮に大量のBTCが長期保有化していても、ETFから資金が流出し、短期投資家が損失を抱え、現物市場の買い注文が減少していれば、価格はすぐには上昇しない。
また、LTHは過去の市場底値だけでなく、上昇相場の途中の調整局面でも増える。大量蓄積の後に数か月上昇した事例がある一方、1年後には価格が下落していたケースもある。
したがって、この指標は「これから価格が必ず上がる」という売買シグナルではなく、「市場に出てきにくい供給が増えている」という構造的なデータとして利用するのが適切である。
データ提供会社による定義の違いにも注意
もう一つ注意したいのが、CryptoQuantとGlassnodeなど、データ提供会社によってLTHの定義や計算方法が異なることである。
約155日という基準は共通していても、アドレスや投資主体をどのようにまとめるか、内部送金をどう除外するか、LTHへの移行を一日で切り替えるか段階的に処理するかによって、数値は変わる。
そのため、CryptoQuantで約129万BTCの蓄積が表示されても、別の会社の同種指標がまったく同じ数値になるとは限らない。
「過去最大」「史上最大」という表現を使用する場合は、どのデータ提供会社の、どの時点の数値なのかを明確にする必要がある。
今回のチャートについては、「CryptoQuantの当該指標では過去最大級」と表現するのが最も正確だろう。
今後、確認すべき5つのデータ
今回のLTH増加が実際の価格上昇につながるかを判断するには、今後の需要回復を確認する必要がある。
特に重要なのが、米国現物ETFの純流入である。LTH供給が増え、売却可能なBTCが減少している状態でETF流入が再加速すれば、供給圧縮の影響が価格へ表れやすくなる。
次に、取引所のBTC残高である。LTH増加と取引所在庫減少が同時に続けば、「市場に出回るBTCが減っている」という見方が強まる。
そのほか、長期保有者の実現損失、ステーブルコインの供給と取引所流入、短期保有者の平均取得価格も確認したい。
特に、BTC価格が短期保有者の取得価格を上回り、ETFへの資金流入が回復すれば、市場心理と実需の両面で改善が進んだと判断しやすくなる。
エックスウィンの見方
エックスウィンでは、今回のLTH純ポジション変化の急増を、中長期的にはポジティブな構造変化と捉えている。
最大の理由は、単に古参投資家が買い増しているのではなく、ETF、機関カストディ、企業財務などによって取得されたBTCが、売却されずに長期保有化している可能性が高いことである。
これは、ビットコイン市場が短期売買中心の市場から、制度的な長期保有主体が参加する市場へ移行していることを示す。
同時に、取引所在庫の低下と半減期後の新規供給減少が続けば、市場で自由に売買できるBTCはさらに限定される。
一方で、現在のLTH増加は、数か月前に買われたBTCが時間の経過によって分類された結果でもある。直近の買い需要を直接表しているわけではないため、短期的な価格上昇を保証するものではない。
結論として、現在は「価格上昇が確定した局面」ではなく、「次の需要拡大が起きた際に、価格が反応しやすい供給構造が形成されつつある局面」と考えるのが適切だろう。
長期保有者は静かにBTCを蓄積している。しかし、本格的な上昇に必要なのは、減少した流動供給に対して、ETFや現物市場から再び強い需要が流入することである。
ショート動画
【過去最大級】機関投資家は静かに買っている?ビットコイン長期保有者が急増した理由
https://youtube.com/shorts/kaWyiuwge70


