●2026年7月24日付の日本経済新聞朝刊「ビットコインETF、日本は機関投資家より個人偏重か 3兆円流入試算も」において、筆者による「日本版ビットコインETFは2028年度までに最大3兆円規模へ成長する可能性がある」との試算が紹介された。
●この「3兆円」は、日本の家計金融資産や投資信託市場、米国現物ビットコインETFの成長などを基に試算した強気シナリオであり、将来を保証するものではない。
●本稿では、その試算の根拠と、日本版ビットコインETFが日本の資産運用市場に与える可能性について解説する。
7月24日付の日本経済新聞朝刊では、日本版ビットコインETFの可能性について特集が組まれ、その中で私が試算した「2028年度までに最大3兆円規模へ成長する可能性」が紹介されました。
記事をご覧になった方の中には、「3兆円という数字は大きすぎるのではないか」と感じた方も多かったのではないでしょうか。
確かに、日本では現時点で現物ビットコインETFは認められておらず、制度設計もこれからです。その段階で3兆円という数字だけを見ると、非常に強気な予測のように映るかもしれません。
しかし、この数字は希望的観測ではありません。
日本の金融資産の規模、投資信託市場の拡大、NISA利用者の増加、国内暗号資産市場の実態、そして米国で実際に起きたETF市場の成長を積み上げて試算したものです。
もちろん、3兆円は必ず実現するという予測ではありません。制度、税制、販売体制、市場環境など、複数の条件が整った場合に到達し得る強気シナリオとして位置付けています。
日本の金融資産から見ると「3兆円」は決して大きくない
まず前提となるのが、日本の家計金融資産です。日本銀行によると、2026年3月末時点で家計金融資産は約2,386兆円に達しています。
そのうち現金・預金は約1,126兆円、株式や投資信託などのリスク資産は約563兆円あります。
仮に3兆円がビットコインETFへ向かったとしても、家計金融資産全体では約0.13%に過ぎません。また、リスク資産だけで見ても約0.53%程度です。つまり、日本人全員がビットコインへ投資する必要はありません。資産運用を行う投資家が、ポートフォリオのごく一部をビットコインETFへ配分するだけでも十分到達可能な規模なのです。
さらに、公募株式投資信託市場は300兆円を超えています。この市場全体の約1%がビットコインETFへ向かえば、やはり約3兆円という数字になります。
つまり、日本版ビットコインETFの競争相手は暗号資産取引所だけではありません。日本株ETF、米国株ETF、金ETF、外国株投資信託など、既存の資産運用商品全体が比較対象になると考えるべきでしょう。
米国で起きた変化は、日本でも参考になる
今回の試算で参考にしたもう一つのポイントが、米国市場です。
米国では2024年1月に現物ビットコインETFが承認されました。
その結果、多額の資金が流入しましたが、最も重要だったのは、暗号資産投資家だけではなく、これまで証券会社を利用していた個人投資家や機関投資家が新たに市場へ参加したことです。
実際に、GBTC(Grayscale Bitcoin Trust)を除く現物ビットコインETFの保有量は、承認後約1年半で100万BTC規模まで拡大しました。

このグラフが示しているのは、「ビットコイン人気」だけではありません。ETFという金融商品が誕生したことで、従来の証券市場から新しい資金が流入し、市場全体が拡大したことを意味しています。
つまり、市場が成長した理由は、ビットコインそのものが変わったからではなく、「投資への入り口」が変わったからなのです。日本でも同様に、証券会社や銀行を通じて投資できるようになれば、新たな投資家層が市場へ参加する可能性があります。
もちろん、日本と米国では市場規模や制度は異なるため単純比較はできません。しかし、ETFが新たな資金を呼び込む金融インフラとして機能した事実は、日本市場を考えるうえでも非常に参考になります。
3兆円を支える3つの資金経路
今回の試算では、資金源を大きく三つに分類しました。
第一は、既存の暗号資産投資家です。
ETFが誕生すれば、証券口座で資産を一元管理したい投資家や、法人・相続などを考慮してETFへ移行する投資家が一定数現れるでしょう。さらに、これまで海外取引所や自己管理に不安を感じていた投資家が、新たに市場へ参加する可能性もあります。想定資金は約7,000億円から1兆円です。
第二は、証券口座を利用する個人投資家です。
新NISAの開始以降、日本の投資人口は急速に増えました。仮にNISA利用者の約10%が年間30万円程度をビットコインETFへ配分するだけでも約8,000億円規模になります。NISA対象になるかどうかは現時点では未定ですが、対象外であっても証券会社で購入できること自体が大きな意味を持ちます。想定資金は約8,000億円から1兆円です。
第三は、富裕層・法人・金融機関です。
これまでビットコイン投資には秘密鍵管理やカストディ、会計・税務など多くの課題がありました。ETFであれば、既存の証券・信託インフラを利用できるため、資産配分しやすくなります。想定資金は約8,000億円から1兆円です。
これら三つを合計すると、強気シナリオでは約2.3兆円から3兆円規模という試算になります。
ETFが変えるのは「ビットコイン」ではなく「入口」
私が最も重要だと考えているのは、ETFによってビットコインそのものが変わるわけではないということです。変わるのは、投資家がビットコインへアクセスする方法です。
これまでは暗号資産交換業者で口座を開設し、ウォレットや秘密鍵を管理する必要がありました。
ETFであれば、株式や投資信託と同じ証券口座から売買できます。この違いは非常に大きく、「興味はあるが買い方が分からない」「管理が不安」「法人として保有しにくい」と考えていた投資家が市場へ参加しやすくなります。
「3兆円」は純流入ではなく市場規模のシナリオ
「3兆円」という数字は、「初年度に3兆円の純資金が流入する」という意味ではありません。ETFの運用資産残高(AUM)は、投資家からの純流入だけではなく、ビットコイン価格の上昇によっても増加します。
例えば、純流入が約2兆円であっても、その後ビットコイン価格が上昇すれば、ETF残高は3兆円規模へ達する可能性があります。
逆に、制度整備が遅れたり、販売会社が限定されたり、市場環境が悪化した場合には、1兆円程度にとどまる可能性もあります。
そのため、私の試算では、
• 保守シナリオ:5,000億円〜1兆円
• 基本シナリオ:1兆円〜1.5兆円
• 強気シナリオ:2兆円〜3兆円超
という3段階で考えています。
日本版ビットコインETFの本質は、「暗号資産の商品が一つ増えること」ではありません。証券会社、銀行、資産運用会社、そして個人投資家という、日本の巨大な金融市場とビットコイン市場を本格的につなぐ金融インフラが誕生することにあります。
今回、日経新聞で紹介いただいた「最大3兆円」という試算は、単なる数字遊びではありません。日本には2,386兆円もの家計金融資産があります。そのごく一部が資産分散の一環としてビットコインへ配分されるだけでも、市場構造は大きく変化する可能性があります。
だからこそ、この「3兆円」は未来を断定する予測ではなく、日本の金融資産規模、市場構造、そして米国ETF市場の実績を踏まえて導き出した「実現し得る強気シナリオ」として捉えていただきたいと思います。
もし日本版ビットコインETFが実現すれば、日本の暗号資産市場は新たな成長ステージへ進む大きな転換点となるでしょう。
ショート動画
日経新聞コメントしました。日本版ビットコインETF「184億ドル」試算の根拠
https://youtube.com/shorts/IrgDGpWV_3o


