東証グロース上場のイオレが、大きな変貌を遂げている。グループ向け連絡ツール 「らくらく連絡網」の運営やネット広告事業で知られた同社は現在、AIデータセンター事業とオンチェーン金融事業を新たな成長の柱に据え、「AIエージェント時代のインフラ企業」への転換を進めている。
同社が描くのは、AIが人に代わって経済活動を担う未来だ。その実現には、AIを動かす計算基盤と、AI同士が価値をやり取りするための金融基盤が欠かせないという考えから、AI推論やビッグデータ解析などに強みを持つGPUサーバーの販売事業と「Neo Crypto Bank構想」を掲げるオンチェーン金融事業を一体で展開している。
この事業転換を主導するのが、昨年6月に社長に就いた瀧野諭吾氏。同社の時価総額は現在約240億円と、就任前から約10倍へ拡大。一部の投資家の間では「テンバガー(10倍株)」として注目を集めるまでになった。
NADA NEWSは7月8日、瀧野氏と、先月に専務取締役兼上級執行役員に就任した元アニモカブランズジャパン代表取締役社長CEOの天羽健介氏に話を聞いた。
初年度100億円の「GPUサーバー販売」
2001年創業のイオレは、サークルやスポーツチームなどグループ内のコミュニケーションに利用できる「らくらく連絡網」の運営で知名度を高めた。その後はインターネット広告やHR(人材)関連事業を展開し、2017年に東証マザーズ(現グロース市場)へ上場している。

しかし現在、同社が扱う事業は大きく様変わりしている。現在の柱に据えるのが、「AIデータセンター事業」と「オンチェーン金融事業」の2つだ。
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AIデータセンター事業では、GPUサーバーの販売を進める一方、オンチェーン金融事業ではステーブルコインなどを活用した次世代金融インフラの構築を見据える。
大きな転換点となったのが、瀧野氏の社長就任だった。瀧野氏は、事業再生案件を手掛ける中で、独立系VCの日本アジア投資を通じてイオレと出会ったと明かした。
当時のイオレは抜本的な経営再生と新たな成長戦略を模索しており、 既存事業だけに依存しない経営への転換が課題となっていた。
そうした中、PEファンドなどで企業再生の実績を有する瀧野氏に声がかかった。瀧野氏は、自らが構想していたGPU事業と同社の事業再生を一体で進められると判断し、社長就任を決断した。

瀧野氏はこの1年を「普通の会社の数倍のスピードで事業転換を進めた」と振り返った。同社はわずか半年のうちに累計100%を超える株式希薄化を伴う約160億円規模の新株予約権の発行を敢行。調達資金でGPU事業への参入やビットコイン(BTC)の大量購入など、複数の大型施策を短期間で打ち出した。
「市場環境の追い風も味方した」と瀧野氏は分析するが、同社の時価総額は就任1年で急拡大。事実、業績を牽引するGPUサーバー販売は大きく伸びており、昨年度は約100億円規模だった売上高が、今年度は約200億円規模まで拡大する見通しだという。
海外に「首根っこをつかまれている」
同社がAIデータセンター事業に乗り出した背景について瀧野氏は、日本のAIインフラを巡る強い危機感を挙げた。AI基盤を海外企業に依存する現状について、「首根っこをつかまれている状態」と危機感を示した。

国内でもChatGPTなど生成AIの利用が急速に広がる一方、その多くは米国企業が提供するクラウド基盤の上で動いている。クラウド利用料や海外SaaSへの支払いが積み重なることで、日本から海外へ資金が流出する「デジタル赤字」の拡大も懸念されている。
「クラウドを握っているのはアメリカと中国。AIも同じ構図になろうとしている」と瀧野氏は危惧する。
こうした問題意識は、長くデジタル業界で経営者としてキャリアを重ねる中で感じた想いに基づいているという。
「正直なところ、以前はこうした日本の構造的な課題について深く考えることはありませんでした。しかし、経営者としてキャリアを重ねる中で、日本にAIインフラが不足し、海外に資金が流出してしまう谷間(デジタル赤字)の現状に甘んじて、ただ見過ごすわけにはいかないと強く思うようになりました。 AI産業は今後、インターネット以上に極めて重要なものになります。将来、日本という国が豊かであり続けるために、国内でのインフラ構築は絶対にやらなければならない。それが、私がこの事業に取り組む最大の理由です」
瀧野氏はこう語った。だからこそ同社は、AIデータセンターを「次の社会インフラ」を構築する中核と位置付け、国内での基盤確保を急ぐ。
すでに確保したGPU約5000枚規模の活用を進めているほか、発電設備と一体化した「電源併設型」の大規模AIデータセンターの開発プロジェクトも推進している。まずは海外AI企業などへの提供を通じて収益を確保しながら、国内のAIインフラ整備を進めていく考えだ。
瀧野氏は「日本はAIを使うだけの国になってはいけない」と力を込めた。
AIがお金を扱う時代へ
AIを支える計算基盤を整備する一方で、同社がもう一つの柱として進めるのがオンチェーン金融事業だ。AIエージェントがサービスを選んで契約を結び、代金を支払う時代には、AIがお金をやり取りするための金融基盤も欠かせないと同社は考えている。

天羽氏は、同社がこれまで「暗号資産金融事業」と呼んできた事業について、現在の言葉で表現するなら「オンチェーン金融」だと説明した。暗号資産の保有やレンディング、キャピタルゲインの獲得が目的ではなく、ブロックチェーンを基盤とした新たな金融インフラを構築することが本質にあるとする。
AIが商品を購入したり、契約を結んだりする時代では、 人間向けに設計されたクレジットカードや銀行送金システムでは不十分だと天羽氏は指摘。 APIによる接続性の限界や少額決済に対応できないことといった課題を挙げた。
クレジットカードや銀行送金は、人が利用することを前提に発展してきた。一方、AIエージェント同士が自律的に取引する世界では、システム同士が直接接続し、少額決済を瞬時に何度も繰り返せる仕組みが求められる。
そのため同社では、「AIエージェント時代のインフラをつくる」という構想のもと、暗号資産を金融システムの裏付けとなるアセットとして位置付ける。天羽氏は、暗号資産を「ブロックチェーン利用のためのガス代や金融システムの裏付けとなるバックアセット(原資産・担保)」として自社で保有していると説明した。
同社が暗号資産レンディングサービス「らくらくちょコイン」の提供を始めたのも、この発想の延長線上にある。
瀧野氏は「銀行が、預金を集めることから事業を始めたのと同じ発想 」と説明。まずはレンディングを通じて暗号資産を預かり、ユーザーとの接点をつくる。レンディング事業そのものがゴールではなく、AIが価値をやり取りする時代に向けた金融基盤を段階的に整備するための「入口」だと説明した。
目指すのはAIエージェント時代の金融ハブ
2027年度に向けて同社が掲げるのが、次世代の金融インフラ 「Neo Crypto Bank構想」だ。もっとも、銀行免許を取得して既存の銀行業務を展開するという意味ではない。
天羽氏はライセンスの有無が本質ではないとしたうえで、目指すのは「AIエージェント時代の金融取引を支えるハブになること」だと述べた。
AIエージェントが経済活動を担うようになれば、決済や資産管理、送金といった金融機能も、人ではなくシステム同士が利用することを前提に再設計される。そうした変化を見据え、同社は、金融サービスがブロックチェーン上に載るオンチェーン金融を次世代の金融インフラとして育てたい考えだ。
その中核を担うと期待するのが、ステーブルコインだという。法定通貨に連動したステーブルコインが普及することで、AIエージェント同士が日常的に価値をやり取りする世界が現実味を帯びるとみている。
一見すると、GPUサーバー事業とオンチェーン金融事業は異なる領域に映る。しかし、瀧野氏と天羽氏の構想では、AIを動かす計算基盤とAIがお金を動かす金融基盤は、AIエージェント時代を支える一つの社会インフラとして結び付いている。

GPUサーバー販売の拡大などを背景に、同社は2027年3月期に営業利益11億円超と大幅な黒字化を見込む。オンチェーン金融では、DATや暗号資産レンディングに続く新規事業の検討も進めている。
AIとオンチェーン金融を軸に「AIエージェント時代の金融ハブ」を目指す新生イオレ。その挑戦に、市場の注目が集まっている。
|文・取材・撮影:橋本祐樹
|トップ写真:イオレ代表取締役社長兼CEOの瀧野諭吾氏


