「IVS2026 CRYPTO」が終わって約2週間。この間も、暗号資産やブロックチェーンを巡るニュースは相次いだ。
そのなかで、私はひとつのニュースを見過ごしていた。
JPモルガンが6月29日に発表した「Blockchain Deposit Accounts(ブロックチェーン預金口座、BDA)」の対応通貨拡大だ。
もちろん、NADA NEWSは取り上げていた。ただ、私個人は、IVSの準備に追われ、しっかりフォローできていなかった。
内容は、JPモルガンのBDAが、米ドルだけでなく、日本円、豪ドル、香港ドル、中国人民元、シンガポールドルを追加し、合計8通貨に対応したというものだ。
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IVS CRYPTOで、ステーブルコインやトークン化預金、金融資産のオンチェーン化などを議論してきたが、このJPモルガンの動きは「オンチェーン金融」がすでに実現していることを示している。
金融インフラは、すでに次のフェーズへと進み始めていることを示す、大きな転換点だった。
ブロックチェーンで預金口座は何が変わるのか
「ブロックチェーン預金口座(BDA)」と聞くと、「銀行預金をトークン化したもの」と考えたくなる。
しかし、本質は少し違うと捉えている。
BDAは法的にも会計的にも、従来の銀行預金と変わらない。利用者から見れば、JPモルガンに預けた預金であることに変わりはない。変わったのは、「預金そのもの」ではなく、「預金を動かす仕組み」だ。
従来の銀行口座は、営業時間や締め時間など、既存システムの制約に縛られてきた。
一方、BDAでは、24時間365日に近い資金移動、オンチェーンでの外貨交換、条件を満たせば自動的に支払いを実行するプログラマブルな決済などが可能になる。
つまり、JPモルガンが変えたのは銀行預金ではない。預金を動かす金融インフラだ。
主役は「ブロックチェーン」ではなく「金融インフラ」
このニュースが重要なのは、JPモルガンだけに留まらないからだ。
7月9日には、SWIFT(国際銀行間通信協会)が、三菱UFJ銀行を含む世界17行とともに、トークン化預金を利用した国際決済の試験運用を進めると発表した。
ここでも興味深いのは、「既存システムを置き換える」のではなく、「既存の金融システムに共有台帳を組み合わせる」という発想だった。
銀行口座が持つ信頼性やコンプライアンス機能、リスク管理はそのまま活用しながら、24時間365日に近い資金移動やリアルタイム性を実現しようとしている。
これもまた、「ブロックチェーンで銀行を置き換える」のではなく、「ブロックチェーンで銀行を進化させる」というアプローチだ。
始まったのは「標準」を巡る競争
さらに視野を広げると、この流れは銀行だけではない。
VisaやMastercardはステーブルコインへの対応を急ぎ、決済ネットワークとしての役割をオンチェーン時代へ拡張しようとしている。
CircleやStripeも、それぞれ異なる立場から次世代の金融ネットワークを構築しようとしている。
少し前までは、「Crypto vs 銀行」という構図で語られることが多かった。
しかし、いま見えているのは、単純な対立構造ではない。
銀行、決済ネットワーク、ステーブルコイン、ブロックチェーン企業が、それぞれの強みを生かしながら、「オンチェーン金融」の標準を競い合う時代が始まっている。
競争しているのは、誰がブロックチェーンを持つかではない。
誰が、次の金融ネットワークの中心になるのか、だ。
IVSで語られた未来は、すでに動き始めている
IVS2026 CRYPTOでは、「オンチェーン金融」という言葉が何度も登場した。そのときは、未来の話として受け止めた人も多かったかもしれない。
しかし、JPモルガンのBDA、SWIFTの共有台帳、そして世界中の金融機関による取り組みを見ると、それは未来予想図ではなかった。
すでに現実の金融インフラは、静かに組み替えられ始めている。
私が見過ごしていたのは、JPモルガンのニュースではなかった。その背後で静かに始まっていた、金融インフラ再編そのものだった。
|文:増田隆幸


