予測市場は集合知か博打か──誰でも市場を作れる分散型「Augur(オーガー)」復活の中心人物に聞く

今年に入り、日本でも話題に上ることが増えた「予測市場」。選挙結果や株価動向など将来起きる出来事の結果を予想し、その的中に応じて対価を得られるようにした仕組みを示す言葉だ。

今年はサッカーワールドカップの開催もあり、世界的に予測市場に巨額の資金が流入したことが注目を集めた。米国の報道によれば、W杯開幕を含む6月には、米大手のKalshi(カルシ)やPolymarket(ポリマーケット)など主要プラットフォームの月間取引高が合計500億ドル(約8兆円規模)を超えたという。予測市場は、2030年に年間取引高1兆ドル規模に達するとも予測される巨大市場だ。

国内でも動きがある。自民党の「デジタル先端金融議連」は10月20日、予測市場をテーマにした勉強会を開いた。KalshiとPolymarketの幹部が来日し、米国での状況を説明した。日本では賭博罪との関係が最大の論点で、適法性の確保が課題となっているが、与党の議連が予測市場を検討テーマとして扱った意義は小さくない。

にわかに注目を高めている予測市場の歴史は、実は古い。その起点は約40年前、米国の大学が選挙結果の予測精度を検証するために始めた学術研究プロジェクトだとされる。その後、予測市場を扱う民間企業も登場したが、のちに破綻した例もある。

そして2018年には、イーサリアム上のスマートコントラクトによって動く分散型のAugur(オーガー)が稼働を始めた。初期のICO(新規暗号資産公開)で資金を調達したオーガーは、確率を示す予測市場に加え、結果を判定するオラクルの仕組みを備えていた。

KalshiやPolymarketは、利用者が市場を提案することはできても、掲載するかどうかは運営会社が決める。これに対しオーガーは、運営会社の判断を介さず、誰でも市場を作成できる設計だった。ただ、2020年ごろにはイーサリアムの手数料が高騰し、利用者が離れた過去がある。

このオラクルの仕組みを再興し、次世代版の開発を率いるのが、Lituus財団の共同創業者兼エグゼクティブディレクターのPhill Monastirsky(フィル・モナスティルスキー)氏だ。NADA NEWSは9月下旬、来日した同氏に単独取材を実施。オーガーとの関りや予測市場が社会にもたらす価値、日本市場に対する見解を聞いた。

予測市場は「賭け」ではなく「情報技術」

―まず、あなたの役割から教えてほしい。オーガーとLituus財団の関係は。

モナスティルスキー氏:私はLituus財団の共同創業者で、エグゼクティブディレクターを務めている。財団は、オーガーをもう一度動かすための資金を集めた組織だ。

オーガーは、初期のICOの一つとして多額の資金を集めて始まった。予測市場と、その結果を確定させるオラクルを一体で備えていたのが特徴だった。私自身がオーガーに関わり始めたのは2020年からだ。

―予測市場は「賭けごと」と見られがちだが、あなたはどう捉えているのか。

モナスティルスキー氏:スポーツや政治の賭けを思い浮かべる人が多いが、それは予測市場のごく一部に過ぎない。私は、予測市場は「情報技術」だと考えている。賭けるという行為は、情報を生み出すための仕組みに過ぎないのだ。

Man in teal T-shirt sits at a wooden table, gesturing with his hands as if explaining something, with a wall and signs behind him.

その情報とは「予測力」。社会は、将来の出来事が起きる確率を知る必要がある。旅行の前に天気予報を見る。住宅ローンを組む前に金利が上がる確率を気にする。企業ならプロジェクトが予算内に終わるか、政府なら政策でGDPが伸びるか。あらゆる場面で確率が要る。

確率を知る方法はこれまで、専門家に聞くか、街頭で人々に尋ねるかが主だった。予測市場は、その「第三の手段」になり得る。参加者が競い合い、当てた人の影響力が増し、外した人の影響力は減る。学歴や資産、話のうまさではなく、「当たったかどうか」だけで評価される実力主義の仕組みと言える。

参加しない人も恩恵を受けられるのが良いところだ。明日の天気を知りたいからといって、天気に賭ける必要はない。市場に出ている確率を見ればいい。これまで才能を発揮する場がなかった「予測の天才」を見つけ出せる効果もあると思う。

―予測市場は、いわゆる「集合知」を引き出す仕組みということか。

モナスティルスキー氏:その通り。瓶に入ったビー玉の数を当てる例がわかりやすい。専門家が数える方法も、重さから計算する方法もあるが、大勢に予想させて平均を取るのが、どの方法より真の数字に近づくと言われている。誰もが意見を言える状態にするほど、真実に近づくわけだ。

ただ、人は必ずしも本音を言わない。相手が聞きたいことを言ったり、波風の立たない意見を選んだりする。集合知は全員が正直だという前提で成り立つが、現実は違う。そこで、お金を賭けてもらう。間違えば損をするとなれば、人はずっと正直になる。不正直な人はいずれ資金を失い、市場から退場する。最後には、正直な人の予測だけが残る。

オラクルの役割とオーガー失速の背景

―オラクルとは何か説明してほしい。

モナスティルスキー氏:ブロックチェーンは、チェーンの中で起きたことしか知らない。日本円の価値も、今日雨が降ったかも、どちらのチームが勝ったかも知らない。だから、現実の世界で何が起きたかをブロックチェーンに伝える役割が必要で、それがオラクルだ。

予測市場では、結果を確定させて勝った人に支払うために、オラクルが欠かせない。ただ、1社に結果の判断を任せるのは危険だ。ウソをついて得をする金銭的な動機があるから。誰か一人を信頼しなくても結果が確定できる、頑丈な仕組みが必要となる。

オーガーが生まれた当時は、予測市場を作るにはオラクルも自分で作るしかなかった。車を作るなら、まず道路から作らないといけない時代だ。今は業界が成熟し、予測市場だけを作って、オラクルは他のものを使うこともできる。

―オーガーは2020年ごろに利用が落ち込んだと聞く。何が起きたのか。

モナスティルスキー氏:DeFi(分散型金融)ブームでイーサリアムの手数料(ガス代)が跳ね上がった。オーガーはイーサリアム上で動いているので、賭けるだけで30ドル前後かかった。50ドル賭けるのに30ドルの手数料では、誰も使わない。

Man in a teal shirt sits at a wooden table, gesturing with his hands while talking in a meeting room setting.

そこへ出てきたのがポリマーケット。Polygon(ポリゴン)という別のチェーンに移って手数料を安くし、一気に利用者を集めた。これは良いことだと思っている。ただ、オラクルの部分は作らなかった。

私にとっては悲劇だった。オーガーは予測市場もオラクルも美しい設計だったのに、予測市場が失敗したせいで、オラクルまで道連れになった。だから、オラクルをもう一度立ち上げようと思ったのだ。

(編集部注:ポリマーケットは、UMA(ユーマ)という外部プロジェクトのオラクルで結果を確定している)

次の一手は「オラクル・アズ・ア・サービス」

―現在のLituus財団は何を目指しているのか。

モナスティルスキー氏:2025〜2026年から取り組んでいる新しいLituusでは、予測市場とオラクルを切り離した。私たちは予測市場を運営するのではなく、オラクルだけを担う。ポリマーケットやカルシ、Limitless(リミットレス)のような予測市場に、結果確定の部分を提供する「オラクル・アズ・ア・サービス」という企業向けの事業だ。

どの会社も予測市場としては良い仕事をしているが、優れたオラクルは持っていないと見ている。だから、ポリマーケットにはこう伝えるつもりだ。「あなた方は予測市場に専念してほしい。結果の確定は私たちに任せてほしい。何か問題があれば、私たちのせいにしてもらって構わない」と。ポリマーケットが予測市場を担い、オーガーのオラクルがその結果を確定する。そういう形を目指している。

―Lituusは4月から、意見が割れたときに仕組みを分岐させて決着をつける「フォーク」の実証実験を進めた。現在の状況は。

モナスティルスキー氏:フォークは、オラクルの仕組みを実証する重要なテストだった。結果は大成功。仕組みは計画どおりに動き、参加者同士の調整もうまくいった。今後フォークが起きたときの対応手順(プレイブック)もできた。

いまは3つの開発チームで、Lituusの製品を作っている。ホワイトペーパーも研究も、フォークのテストも終わり、開発と実装に集中する段階だ。

中央集権型との違い、胴元のいない収益構造

―カルシやポリマーケットのような中央集権型と、オーガーのような分散型は予測市場として何が異なるのか。

モナスティルスキー氏:誰でも市場を作れるかどうか、だ。カルシやポリマーケットは、どの市場を載せるかを運営側が決定する。オーガーは、確率のダッシュボードに何を載せるかを誰かが決めるべきではない、という考えで作られた。だから誰でも、好きな市場を作ることができた。もちろん、作った市場が取引されるかどうかは、流動性と参加者次第になるのだが。

(編集部注:カルシとポリマーケットでも利用者は市場を提案できるが、掲載するかどうかは運営会社が決める)

―胴元がいない中で、どう収益を得るのか。

モナスティルスキー氏:まず、ギャンブルと予測の違いから説明させてほしい。カジノには必ず勝つ胴元がいる。1ドル賭けると95セントしか戻ってこないように設計されていて、客は必ず負ける。ブックメーカーも同じで、自分でオッズを売り、参加者全員から利益を取る。

予測市場には胴元がいない。誰でも参加できるオープンな注文板があり、参加者同士が売り買いする。運営は、取引のたびに0.2〜0.3%程度の手数料をもらうだけだ。オッズは取引する人たちから生まれるもので、胴元が示すものではない。カジノとは発想が逆なのだ。

―日本では自民党の議員連盟が、予測市場をテーマの一つに勉強会を開く。日本市場についてどう見ているか。

モナスティルスキー氏:私は日本に限らず、あらゆる市場に関心を持っている。予測が得意な人なら誰でも、その力を発揮してお金を稼げる機会を持つべきだと思う。

カルシが日本で何を話すのかは分からない。ただ、予測市場は「ギャンブルではなく価値のあるもの」だということが伝わってほしい。予測市場は、個人が自分の運命を自分で動かす力になるし、確率という「使える情報」を社会にもたらす。こうした議論が始まったこと自体は歓迎している。予測市場は誰にとっても役に立つ道具だと、私は信じているからだ。

―ただ、前回の取材でも触れたように、日本では予測市場は賭博罪のリスクもある。

モナスティルスキー氏:規制当局に「こうしてほしい」と言うつもりはない。ただ、あらゆる視点から理解してほしいとは思っている。予測市場への偏見は間違っていて、それが、社会に大きな利益をもたらしうる美しい技術に損害を与えている。

予測市場は賭博ではなく、予測であり、リスクの見積もりだ。

朝起きてから、私たちは常にリスクを減らす判断をしている。道を渡るのもリスクを取る行為。起業も、小さくて速い車か、大きくて安全だが燃料代がかかる車かを選ぶのも、リスクとリターンを見比べているだけで、賭博とは呼ばれない。賭博とは、自分が負けることで利益を得る誰かがいる仕組みだ。カジノやスポーツ賭博は、長く続けるほど必ず負ける。私はそう考えている。予測市場は、自分の自律のもとで、自分のリスク許容度に従ってリスクを取る場。勝つ時も負ける時もある、それが人生だろう。

この視点を規制当局にも考えてもらいたいし、カルシがそれを伝えて説得してくれることを期待している。

「サイファーパンク」が語るブロックチェーン観

―最後に視点を変えて。あなたにとってブロックチェーンとは何か。

モナスティルスキー氏:私は自分自身をサイファーパンクで、リバタリアンだと思っている。暗号資産は、自由のための道具だ。社会にある腐敗や嘘、操作の根っこには「中央集権」がある。権力は集中すると必ず腐敗する。権力は、さらなる権力を呼ぶからだ。暗号資産は、腐敗を規制で取り締まるのではなく、権力が集中できる仕組みそのものを取り除こうとする。それを実現するのが、分散型の技術なのだ。

ブロックチェーンの柱は3つある。

1つ目は「パーミッションレス」。何かをするのに、誰の許可もいらないこと。許可が必要なら、その相手に支配されているということ。2つ目は「トラストレス」。私はゲーム理論の専門家として、人は皆、自分の利益で動くと考えている。誰かを信頼するというのは、裏切ったほうが得になる日が来るかもしれないのに、裏切らないでほしいと頼むこと。それも一つの権力構造だから、信頼そのものをなくしてしまう。3つ目は「分散性」。つまり誰にも止められないこと。銀行が強い権力を持っていても、利用者に選べる代替手段があれば、無茶はできない。ただ、銀行は暗号資産をつぶしたいだろうから、止められない仕組みにする必要がある。

暗号資産の世界に警察はいない。誰かを逮捕することはできず、使えるのは経済、つまりお金だけだ。だから設計がとても難しく、暗号技術やハッシュ、ゲーム理論、マクロ経済学が組み合わさって形になるまでには時間がかかった。人々に代替手段を与えるのは、とても強力なことだと思う。

私がイーサリアムを好きなのは、ビットコインが銀行という仕組みの代替手段を示したのに対し、スマートコントラクトで「合意の仕組み」の代替手段を示したからだ。普通は、契約書を交わして、守られなければ訴え、場合によっては刑務所に入る。

イーサリアムでは、チェーン上で契約を結べば、約束を守らなくても、合意した内容が自動で履行される。信頼も許可も、第三者の強制も要らない。ビットコインが金融システムを変えたとすれば、イーサリアムは合意やビジネスのやり方を変えた。それがとても美しいと感じて、ファンになった。

|取材・文:橋本祐樹
|トップ画像:「予測市場は賭けではなく情報技術」と語ったLituus財団のフィル・モナスティルスキー氏

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