CoinGeckoによると、予測市場の名目取引高は2026年第2四半期に1138億ドルとなり、2025年通年の635億ドルの約1.8倍に達した。
かつては暗号資産分野におけるニッチな実験にすぎなかった予測市場だが、現在では世界中のトレーダーが、地政学的紛争や中央銀行の政策判断、企業業績、主要なスポーツイベントに至るまで、あらゆる出来事に価格を付けている。
しかし、市場の成長に伴い、金銭的利害を伴う結果確定を巡る紛争も増加した。そこで繰り返し浮上するのが、「予測市場の結果が争われたとき、何が真実なのかを誰が決めるのか」という問題だ。

予測市場業界では現在、結果確定の仕組みが大きく異なる2つのモデルに分かれている。
Polymarketは、争いのある結果の判定をUMAの分散型オラクルに委ね、トークン保有者が最終結果に投票する。
一方、Kalshiは、米商品先物取引委員会(CFTC)の監督下で運営される中央集権的な社内手続きを通じて、市場の結果を確定している。
どちらの方式も論争を招いており、それぞれ異なるリスクを抱えている。トークンを利用するシステムでは資本が一部に集中するリスクがあり、中央集権型のシステムでは不透明な裁量判断が行われる可能性がある。
こうした状況を背景に、Lituus財団は、「フォーク・エコノミクス」を通じてこの問題を解決しようとする最初期の試みの一つを復活させようとしている。
これは、真実を正確に報告するよりも、真実を操作する方が高くつくように設計された仕組みだ。
本インタビューでは、エグゼクティブディレクターのフィル・モナスティルスキー氏が、ゲーム理論に基づくインセンティブが、分散型投票や中央集権型の裁定者よりも拡張性の高い予測市場の紛争解決の枠組みになり得ると考える理由を語った。
オラクル問題と情報の非対称性
質問1:Augurは2016年から存在している。このプロジェクトが提供するものをどのように定義しているのか。また、なぜ10年近くたった今になって注目を集めているのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
初期のAugurは、誰が勝者なのかを中央集権的な管理者が決めない予測市場だった。
誰でも現実世界の出来事を対象とした市場を作成し、取引できた。出来事が終了すると、REP保有者がトークンをステークして結果を報告し、報告された結果に異議を申し立てた。
最終的に誤りと判定された結果にステークされたREPは没収されるため、不正確な報告には直接的な金銭的コストが発生した。
現在はLituus財団がプロジェクトを管理しており、私たちはこの仕組みを「Augur Lituus」として再構築している。
Augur Lituusは、予測市場やその他のアプリケーションが、自らのプロダクトの基盤として利用できる結果確定レイヤーとして開発されている。
アプリケーションは、明確に定義された質問を手数料とともに提出し、実際に何が起きたのかを反映した回答を受け取る。その回答は、経済的インセンティブによって裏付けられる。
現在注目を集めているのは、業界がようやく追いついてきたからだ。
予測市場は広く注目される金融商品となり、結果確定を巡る争いも、公の監視や検証の対象となるようになった。
大規模な市場の結果が争われた場合、トレーダーはいまだに、最終決定権を持つ人物や組織を信頼し、その判断に委ねなければならない。
Augur Lituusは、初期のAugurが掲げた原則を、より広範な結果確定レイヤーへと発展させるものだ。つまり、虚偽の回答を作り出すためのコストが、それによって誰かが得られる利益を上回るようにするという考え方だ。
質問2:一般的な予測市場の参加者にとって、どのような行為がオラクル攻撃に当たるのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
暗号資産分野で「攻撃」という言葉を聞くと、多くの人は、誰かがスマートコントラクトのコードを悪用する行為を思い浮かべる。
オラクル攻撃にはそうした行為も含まれ得るが、多くの場合は、現実世界で何が起きたのかをスマートコントラクトに伝えるプロセスを操作することを意味する。
コードが書かれたとおりに正確に実行されていても、入力された回答が改ざんされていれば、誤った側に資金が支払われる可能性がある。
一般的には、1人の保有者や連携した集団が投票を支配できる場合や、結果確定のルールが曖昧で、取引開始後に回答を都合のよい方向へ誘導できる余地がある場合に発生する。
インセンティブの構造は単純だ。誤った結果を押し通す方が利益になるのであれば、オラクルは攻撃対象になる。
質問3:ホワイトペーパーでは、オラクルを攻撃するコストを、真実を伝えるコストよりも高くすることが目的だと繰り返し述べている。この原則の経済的な論理を説明してほしい。
フィル・モナスティルスキー氏:
人を正直者にすることはできない。
そのため、この設計では、私たち自身を含め、誰も正直であるとは想定していない。
すべての参加者は、自分にとって最も利益になる行動を取る。そうすると、問題は結局、単純な損得勘定に帰着する。
嘘にはいくらのコストがかかり、どれだけの利益を生むのかという問題だ。
真実を伝えることが、利益の出る選択でなければならない。嘘を押し通すことは、自らを破滅させる選択でなければならない。
だからこそ、私たちが中心的な指標としている「セキュリティーマージン」では、攻撃者が取り戻せない損失だけをコストとして計算している。
すべての回答は資本によって裏付けられる。
意見の対立がエスカレートするにつれて、嘘を維持するための費用はラウンドごとに高くなる。そして、負けた側から没収された資本が勝者に支払われる。
現実に起きたことは、互いに連携していない正直な人々でも、それぞれ独立してたどり着ける唯一の回答だ。
そのため、真実を支持する資金は低いコストで大量に集まる。一方、誤った回答には自然な支持基盤がなく、その回答を支持する資金はすべて買い集めなければならない。
つまり、攻撃者が投じた資金そのものが、防御側の資金になる。
それでも誰かが、防御側の資金をすべて上回るほどの金額を投じる意思を持っている場合、仕組みは決着をつけようとすることをやめ、分岐する。
結果ごとに別のバージョンのシステムが作られ、保有者は、自分が真実だと考える側に資本をコミットする。そして、どちらのバージョンが価値を維持するのかを市場が決める。
誤った側に投入された資本は、そのバージョンに取り残されると見込まれる。
損失は罰金として課されるのではなく、市場参加者がそのバージョンから離れ、価値が失われることで発生する。そのため、不服を申し立てる余地もなければ、損失を取り戻すための資金プールも存在しない。
この仕組みは、真実を報告することが強支配戦略となる均衡を成立させる。
オラクルを腐敗させるためには、「オラクルが正確であり続けること」に価値のすべてを依存している資産を大量に集めなければならない。
質問4:ホワイトペーパーでは「客観的な真実」という表現が頻繁に使われている。客観的な真実を形式的にどのように定義しているのか。具体的には、物理的に起きたこと、規制当局が認定したこと、裁判所が最終的に判断したこと、またはあらかじめ定められた情報の基準時点までに検証できることのうち、どれを指しているのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
最も近いのは、最初の「物理的に起きたこと」だ。ただし、ホワイトペーパーでも明確にしている注意点がある。
実際に使用している用語は「グラウンドトゥルース」だ。
この言葉は、用いる前に明確に定義している。「客観的な真実」という表現は単純に聞こえるが、「誰がそれを確認するのか」と尋ねた瞬間に、単純ではなくなるからだ。
すべてを見通せる観察者が記録するような現実は、確かに存在する。
しかし、誰もそのような全知の観察者の視点を持つことはできない。裁判所にも、私たちにも、その視点はない。
そのため、ホワイトペーパーでは意図的に控えめな定義を採用している。
グラウンドトゥルースとは、根底にある真実について、市場が実現可能な範囲で導き出せる最善の近似を意味する。
目標は、物理的に何が起きたのかを突き止めることだ。
重要なのは、質問で挙げられたすべての判断基準も、私たち自身も、根底にある真実を近似することしかできないと率直に認めることだ。
裁判所や規制当局が関係するのは、質問がそれらを判断基準として指定した場合だけだ。
例えば、「ある期日までに裁判所がXという判断を下すか」という市場であれば、裁判所の判断そのものが対象となる出来事であり、その判断を追跡する。
一方、「Xが起きたか」という市場であれば、後日、裁判所がXについてどのような判断を下しても、実際に何が起きたのかは変わらない。
質問文が対象となる出来事と参照する情報源を定め、オラクルは書かれた質問にそのまま回答する。
質問5:結果確定時に、参加者全員が同じ情報を持っていることはほとんどない。信頼できる仲介者に依存せず、Augurはどのように情報の非対称性を抑えるのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
Augurは、情報の非対称性をなくそうとはしていない。
そもそも予測市場が存在するのは、参加者が異なる情報を持っているからだ。その非対称性こそが予測市場の燃料になる。
この設計が提供するのは、より正確な情報によって誤った報告を覆せる結果確定プロセスだ。
十分な情報と行動する理由を持った参加者が1人いればよい。
ルールと証拠は公開されており、異議申立期間が設けられているため、正確な情報を持つ参加者には対応する時間が与えられる。
異議申立てを繰り返すたびに、前回よりも多くの資本が必要になる。
これにより、誤った結果を訂正した参加者には報酬が与えられ、双方が自らの確信を資本によって裏付けることを求められる。
このプロセスは、分散して存在する知識を、徐々にコストが増していく、公に可視化された資本のコミットメントへと変換する。
最終的なフォークの段階では、将来の利用者、開発者、プラットフォーム、流動性提供者が、どの結果を引き続き正当なものとして認識するかが問われる。
これは、取引段階におけるインサイダー取引とは別の問題だ。インサイダー取引は、どのようなオラクル設計でも解決できない。
オラクルの役割は、何が起きたのかを確定することだ。その出来事に関する情報をいち早く得て取引した者を取り締まることは、市場運営者の役割になる。
一度きりの投票よりもエスカレーションゲームが優れている理由
質問6:Augurのモデルでは、一度きりの投票の代わりに、複数回のステーキングとエスカレーションゲームを採用している。この仕組みがどのように機能し、なぜ繰り返し行われるエスカレーションが、即時のトークン保有者投票よりも経済的に優れているのか説明してほしい。
フィル・モナスティルスキー氏:
はしごを想像してほしい。
ある出来事が終了すると、誰かが少額の保証金を預けて「Yes」と報告する。それが暫定的な回答になる。
保証金が少額なのは意図的だ。大半の回答は単純に正しいからだ。
異議がある参加者は、直前にステークされた額の2倍を「No」にステークできる。そうすると暫定回答が反転し、異議申立期間の時計が再び動き始める。
この倍増は、どちらか一方が追加資金を投じて争うことをやめるまで続く。
誰も異議を申し立てるための資金を支払わないままラウンドが終了すると、最後の回答が正式な結果になる。
敗者のステークのうち、80%は正しい回答を支持した参加者に分配される。そのうち最初に正しい回答を支持した参加者は、報告手数料も受け取る。
残りの20%はバーンされる。
これにより、自分が行った報告に自ら異議を申し立てて手続きを引き延ばす行為には、高いコストがかかる。
ステーク額が倍増する仕組みによって、紛争が必ず終了することも保証される。
幾何級数的に金額が増えるため、どれほど裕福な参加者がいたとしても、数十ラウンド以内に上限へ達する。
この上限がフォークしきい値であり、トークン総供給量に対する一定の割合として設定されている。しきい値に達した後の次の段階がフォークだ。
一度きりの投票は、投票者にほとんど負担を求めない代わりに、有益な情報もほとんど引き出せない。
小規模なトークン保有者にとって、個々の質問が自分の資産に与える影響は小さく、回答を調査するだけの動機が生まれにくい。
そのため、合理的な行動は、自分で真実を調査することではなく、多数派が選びそうな側に投票することになる。
しかも、正しいか間違っているかにかかわらず、勝った側はトークンを保持できる。正しい答えを知っていること自体には、報酬が支払われない。
一度きりの投票には、もう一つの問題がある。
投票が短時間で終了するため、真実を守るための資金を集める時間が足りない。
エスカレーションゲームでは、攻撃者は公開されたラウンドを何度も経ながら、長期間にわたって攻撃を継続しなければならない。
その時間があるからこそ、世界中の誰からでも資金を募り、防御側を支援できる。
真実を守るための資金は、比較的集めやすい。
真実とは、誰もが「ほかの人もこの答えを選ぶだろう」と予想する回答であり、各自が自分で確認できるからだ。
さらに、実際に人々を参加させるのは利益だ。
誤った回答を訂正すると、投じた資金に対しておよそ40%のリターンを得られる。
「1+1=2」という結果に資金を投じるだけで、40%の利益を得られるとしたらどうだろうか。
多くの見知らぬ人々が参加するはずだ。ここで損失を出すのは、答えを間違えた場合だけだ。
一度きりの投票とエスカレーションゲームでは、攻撃された際の崩れ方も異なる。
投票は、ある一時点、ある価格で乗っ取ることができ、ヘッジすることも可能だ。
一方、エスカレーションのはしごには、そのような決定的な一瞬は存在しない。
異議申立てが行われるたびに時計が再び動き始め、攻撃者は数週間にわたり、倍増し続けるコストを負担しながら、公開された状態で攻撃を続けなければならない。
そして、防御側への報酬は、攻撃者自身が預けたステークから支払われる。
上限まで到達しても、攻撃者が何かを得られるわけではない。ただフォークが始まるだけだ。
フォークで誤った側に投入された資本は、そこまでに投じられたまま取り残され、損失になる。
争いがなければ安価に利用できるが、攻撃された場合は、必要なだけ高コストになり得る。そして、いずれの場合も敗者が費用を負担する。
質問7:十分に裕福な攻撃者であれば、最終的にはどのような経済的セキュリティーモデルでも圧倒できるという批判がある。Augurの紛争処理とフォークの仕組みは、理論上無制限の資本を持つ攻撃者にどのように対抗するのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
多くのシステムについては、批判する人々の指摘が正しい。
資金力を競うゲームによって結果が決まる仕組みでは、最終的に最も多くの資金を使った者が勝つ。パラメーターをどれだけ調整しても、その事実は変わらない。
そこで、この設計では、資金力によって勝敗が決まるまさにその時点で、競争そのものを終了させる。
資金をつぎ込めば、エスカレーションのはしごを最後まで上ることはできる。
しかし、その頂上にあるのはフォークだけだ。
フォークが発生すると、プロトコルが複製され、考えられる結果ごとに別のバージョンが作られる。
その後、一方向にしか移動できない移行期間が設けられ、すべての保有者がどちらか一方を選ぶことを求められる。
これによって、裕福な攻撃者が本当に必要としているものが失われる。
それは、すべての参加者が受け入れざるを得ない、単一の共通結果だ。
正直な保有者は、真実を反映したバージョンへ移行し、攻撃者の資金規模にかかわらず、自らが保有する価値を維持できる。
一方、攻撃者は、ほかの誰も利用しない別のバージョンを所有することになる。
REPの価値は、将来得られる手数料に由来する。
手数料は、オラクルに接続する市場やアプリケーションから発生し、それらは真実を反映したバージョンについていく。
ホワイトペーパーでは、最終局面について明確に説明している。
攻撃者は、誤ったユニバースのフォーク競争に勝利することはできる。しかし、その報酬はすべて、価値のないトークンで支払われる。
攻撃を繰り返しても、優位性が蓄積することはない。
各フォークの後には供給量を回復する仕組みがあり、正直な側の供給量が再構築される。
そのため、市場から見捨てられ、価値を失ったユニバースで支配的な地位を買い集めても、再び攻撃するには、改めて正規の価格で資産を集め、一からやり直さなければならない。
フォークの経済設計:市場が現実を決めるとき
質問8:フォークはAugurのセキュリティー設計の中心にある。フォークはどのように機能し、なぜ単純に投票数を数えるよりも、経済的な移行を強制する方が安全なのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
先ほどのはしごを思い浮かべ、そのはしごが上限に到達した場面を想像してほしい。
誰かが紛争をフォークしきい値まで押し上げた状態だ。フォークしきい値は、REPの総供給量に対する一定の割合として設定されている。
この時点で、プロトコルは議論を決着させようとすることをやめる。
代わりに、自らを複製する。考えられる回答ごとに、別々のユニバースが作られる。
その後、数週間にわたる移行期間が始まる。
移行は一方向にしか行えず、すべての保有者は、自分のREPを将来も価値が残ると考えるユニバースへ移さなければならない。
誰も自分のトークンの価値を失いたくないからだ。
将来価値を持つのは、今後も利用者と手数料収入を得られるユニバースだ。
そして、それは真実の結果と一致するユニバースになる。予測市場やプロトコルが今後も使い続けるのは、そのユニバースのトークンだからだ。
移行されなかったREPは、その後二度と報酬を得られない。
つまり、何もしないという選択は、時間をかけて自分のトークンを焼却することと同じだ。
移行したREPを最も多く集めたユニバースが、形式上の勝者となる。
しかし、本当の判断が下されるのは、その少し後だ。
オラクルを利用する市場やアプリケーションが、どちらのプロトコルへ再接続するのかを決めるからだ。
では、なぜこれは投票数を数えるよりも優れているのか。
投票とは何かを考えてほしい。
投票では、自分が何を信じているのかを表明しても、結果にかかわらず、自分の資金は手元に残る。
しかし、移行では、意見と資金を切り離すことができない。
自分の資金そのものが投票用紙になる。
集計結果は、人々が何を信じていると主張したのかを示す世論調査ではなく、保有するREPのすべてを、どのユニバースに置いたのかを示す地図になる。
そして、私が本当に優雅だと感じる部分がある。
この仕組みは、真実を多数決から切り離す。
投票システムでは、正直な保有者であっても、敗れた側にいれば、異論を唱えたとしてスラッシングされる。
質問9:移行を行わなかった利用者はどうなるのか。ウォレットへのアクセスを失ったり、移行期間中に活動を停止したりする利用者もいる。REPを恒久的に廃止扱いとし、報酬を得られない状態にすれば、無関係な利用者にも損失が及ぶ可能性がある。代替手段は検討しているのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
移行されなかったREPは、廃止扱いとなった親ユニバースに残り、その後二度と報酬を得られなくなる。
秘密鍵を紛失した場合も、単に注意を払っていなかった場合も、結果は同じだ。
ブロックチェーン上では両者を区別できず、どちらも「選択を行わなかったトークン」として扱われる。
プロトコル上、本人に代わってREPを移行できる者はいない。異議を申し立てる手段も存在しない。
この厳格さこそが、セキュリティーの源泉だ。
計算は1対1で成り立つ。
正直な保有者が1REPを正しい側へ移行するたびに、攻撃者は追いつくために、自分のREPを1つ購入して破壊しなければならない。
そのため、攻撃コストは、供給量のうちどれだけが実際に移行へ参加するのかによって決まる。
フォークに参加せず眠ったままのトークンが増えるほど、オラクルを腐敗させるコストは少しずつ低くなる。
休眠保有者を救済する仕組みを作れば、攻撃コストはさらに低くなる。
多数派へ自動的に追随する受動的なREPは、多数派を乗っ取った攻撃者にとって、追加コストなしで使える武器になるからだ。
そのため、フォークでは、自らの意思で選択された資本だけを数える。
移行すること自体がREPというトークンの効用であり、フォーク時に移行することは、REPを保有するという行為の一部だ。
機関投資家は分散型の結果確定を信頼できるのか
質問10:機関投資家が信頼するためには、結果確定の仕組みはどのような条件を満たす必要があるのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
実績、法的地位、規制をいったん除外し、純粋に技術的な観点から答える。
機関投資家は、実際には何かを「信頼」するのではなく、そのリスクを価格に織り込んでいる。
したがって、問題は「どのような結果確定の仕組みなら、そのリスクを価格に織り込めるのか」ということになる。
資金が動く前に、ルールが固定されていなければならない。
ルールが厳しくても、奇妙であっても、企業はそれを前提にシステムを構築できる。
しかし、裁量判断だけは前提にできない。
人の気分には、将来価格を示すフォワードカーブが存在しないからだ。
セキュリティーは、数値として示される必要がある。
この仕組みでは、オラクルを腐敗させるコストを、公開されているシステムの状態から計算できる。リスクを抱える者は誰でも、そのセキュリティーマージンの変化をリアルタイムで確認できる。
最終確定には、明確な期限が必要だ。
結果が取り消せなくなる時刻があらかじめ分かっており、異議申立てによって期限が延長される場合も、公開されたルールに従わなければならない。
1年後に、いかなる委員会も結果を再び審議できるようであってはならない。
理想的には、結果確定の仕組みが、特定企業のバランスシートに依存していないことが望ましい。
結果を確定する企業は取引相手となり、信用リスクを抱える。また、その企業は、所在法域を通じて外部から圧力をかけられる可能性もある。
プロトコルを利用すれば、そうしたリスクを、コードとトークンエコノミクスに固有のリスクへと置き換えられる。
もちろん、それらにも独自のリスクはある。しかし、少なくとも誰でも内容を確認できる。
質問11:Predictive Labsは、複数の予測市場プラットフォームにまたがる市場データを、同一の出来事ごとに集約する「Meta-Markets(メタマーケット)」の枠組みを提案している。こうした仕組みを市場分析や裁定取引に活用する試みについて、どのように考えているのか。
フィル・モナスティルスキー氏:
市場の不整合は、一般的に裁定取引によって修正される。その修正によって、すべての参加者にとって、より適正な価格が形成される。
予測市場も例外ではない。
同じ質問が異なる取引所で異なるオッズで取引されている場合、プラットフォーム間の裁定取引によって価格差が縮まり、市場の効率性が高まる。
これは良いことだ。
こうした価格差を利用した取引は、トレーダーが従来から行ってきたことだ。
その結果、市場はより良いものになる。
質問12:ゲーム理論以外では、訴訟、専門家による仲裁、規制当局を含むハイブリッド型の監督が、将来の予測市場の結果確定において、より大きな役割を果たすようになると考えているか。
フィル・モナスティルスキー氏:
そう考えている。おそらく、多くの人が予想する以上に大きな役割を担うだろう。
結果を巡る訴訟は、すでに裁判所で係属している。
資産クラスが成熟すれば、必ずその周囲に法的な枠組みが形成される。
重要なのは、訴訟、仲裁、規制が、それぞれどのレイヤーで機能するのかを考えることだ。
それぞれが異なる役割のために設計されているからだ。
裁判所は、人や企業の行為を判断するための制度だ。
詐欺や欺瞞があったのか、市場運営者が顧客を公正に扱ったのかといった問題を判断することに適している。
しかし、出来事の結果そのものを確定する手段としては適していない。
これは裁判所に対する批判ではない。
適正手続きは、意図的に時間がかかるように設計されている。また、管轄権が国境で区切られているのも意図的だ。
一方、市場の結果確定は迅速でなければならず、すべての国で同時に同じ意味を持たなければならない。
裁判所は、胴元が不正をしたかどうかを判断できる。
しかし、試合で誰が勝ったのかを裁判所に判断させることは、5年の遅延があるオラクルとして裁判所を使うようなものだ。
私が避けたいのは、専門家が、最終決定権を持つ委員会という形で入ってくることだ。
委員会とは、最終決定権を持つ少人数の集団である。
最終決定権を持つ少人数の集団は、圧力をかけられる可能性があり、判断を誤る可能性があり、買収される可能性もある。
それこそが、結果確定の仕組みが避けなければならない脆弱性だ。
仲裁人を任命しても、問題を一つ上の階へ移すだけだ。
今度は「その仲裁人を誰が裁定するのか」という問題が生じる。
だからこそ、私が実際に賭けるとすれば、ハイブリッド型だ。
規制下にある市場運営者が、資産の保管と業務上の行為を規制の枠内で管理する。
一方、「実際に何が起きたのか」という問題は、誰も圧力をかけられない中立的な基盤上で処理する。
この役割分担は、規制当局にとっても望ましい。
規制当局の仕事は、現実そのものを裁定することではなく、実際に観察できる市場参加者の行動を検査することになるからだ。
したがって、私が結果確定レイヤーの良しあしを測る際に見るのは、そのレイヤーが裁判所の事件簿にどれだけ登場するかだ。
優れた結果確定レイヤーであるほど、法制度の場でその名前が挙がる機会は少なくなる。
フィル・モナスティルスキー氏について

フィル・モナスティルスキー氏は、Lituus財団のエグゼクティブディレクターを務めている。
ブロックチェーン業界で最も初期に開発された分散型予測市場プロトコルの一つであるAugurの再開発を統括している。
主な活動分野は、オラクルのセキュリティー、分散型ガバナンス、ゲーム理論、紛争解決システムの経済設計だ。
企業で4年間勤務した後、自由を最優先する理念に惹かれ、2016年に暗号資産業界へ参入した。
その後、DAOフォークを機に暗号資産業界を離れ、別のプロジェクトに注力した。
その後、複数のスタートアップを立ち上げ、再び企業で働く一方、その期間中も取引を続けた。2020年ごろから、予測市場分野に本格的に取り組むようになった。
2022年には、分散型予測市場プロジェクト「Elision Network」を設立した。
その後、残されていたトレジャリー資金を活用してAugurを復活させるため、2025年にLituus財団を共同設立した。


