Binanceのコンプライアンス体制に再び焦点──ロシア撤退後も顧客データ提供か

・暗号資産取引所のBinance(バイナンス)は、ウクライナ関連団体への寄付を巡るテロ資金供与事件の証拠として使われた顧客データを、ロシアの捜査当局に提供したと報じられた。
・バイナンスが2023年にロシア事業から完全撤退したと発表していたなか、ブルガリアの居住許可を持つ人物の個人情報が提供されたことで、EU一般データ保護規則(GDPR)上の問題が浮上している。
・バイナンスは英国市場への復帰を準備しているとされ、英金融行動監視機構(FCA)の新たな暗号資産規制に基づく認可申請は、2026年9月30日に受け付けが始まる予定だ。

バイナンス、ウクライナへの寄付事件でロシア当局に顧客データを提供か

バイナンスは、ウクライナ軍および関連団体への暗号資産による寄付を理由に、ロシア当局からテロ資金供与の疑いをかけられたロシア人IT専門家について、取引データと個人識別情報をロシア当局に提供したと報じられた。ロイターによると、捜査当局は2025年9月に拘束されたYuri Belenkiy(ユーリー・ベレンキー)氏に対する刑事手続きで、これらの情報を使用したという。

ロイターが確認した文書によると、ロシアの捜査当局はバイナンスに対し、ベレンキー氏の取引履歴の提出を求めた。バイナンスはその後、クレムリン批判派のArkady Babchenko(アルカディ・バブチェンコ)氏が寄付を呼びかけていた資金調達活動に関連する暗号資産ウォレットへの送金者が、ベレンキー氏であることを示す記録を提供したとされる。

提供された記録には、ベレンキー氏の取引履歴、生年月日、住所、電話番号、パスポート情報、ロシア旅券の写し、ブルガリアの居住許可証が含まれていたという。

ロシアの捜査当局は、ベレンキー氏が2023年1月から2024年3月にかけて、ウクライナ軍関連組織に700ドルを超える資金を送ったと主張している。文書によると、これらの取引はその後、テロ資金供与罪での訴追を裏付ける証拠として組み込まれた。

今回報じられた情報提供が注目される理由の一つは、バイナンスが2023年9月にロシア事業から完全撤退したと発表していたことだ。同社は当時、ロシアで事業を継続することは自社のコンプライアンス戦略と両立しないと説明していた。

一方、ロイターによると、バイナンスは撤退後も、ロシアの法執行機関が情報提供を要請できる窓口を維持していたという。

ベレンキー氏がブルガリアの居住許可を持っていたことから、今回の事案ではGDPR上の問題も指摘されている。ロイターが引用した暗号資産規制専門の弁護士、Mike Bystrov(マイク・ビストロフ)氏は、ベレンキー氏がバイナンスにEU居住者として登録されていた場合、GDPRの適用対象となり、適切な法的手続きを経ずに個人情報をロシアへ移転することが制限される可能性があるとの見解を示した。ロイターは、同氏がEU顧客として登録されていたかは確認できなかったとしている。

これに対しバイナンスは、当局による情報の利用方法を同社が決めているとの前提に異議を唱えた。そのうえで、適用されるプライバシーおよび規制上の要件に従い、法執行機関からの適法な要請に協力していると説明した。

ロイターは、バイナンスが暗号資産を通じて寄付したほかの人物についても、ロシア当局に情報を提供したかどうかを独自に確認できなかった。ロイターが確認した文書は、ベレンキー氏の事件に関するものだけだったという。

過去のコンプライアンス体制が問われるなか、バイナンスは英国市場への復帰を目指す

ロシア当局への情報提供が報じられたのは、バイナンスが英国で導入予定の暗号資産規制に基づく認可の取得を目指しているとされるなかでのことだ。

FCAによると、新制度は2027年10月25日に施行され、規制対象となる暗号資産サービスを提供する事業者は同日からFCAの認可を取得する必要がある。認可申請期間は2026年9月30日から2027年2月28日までとなる。

The Telegraph(テレグラフ)が8月15日に報じたところによると、新制度では従来より大幅に厳しい規制環境が整備される。CAは事業者に対し、ガバナンス、オペレーショナル・レジリエンス(業務継続・復旧能力)、財務基盤などに関する認可基準を満たすよう求めている。

バイナンスが英国市場に復帰すれば、同社の国際的なコンプライアンス体制が改めて厳しく審査されることになる。FCAは2021年、バイナンス傘下の英国法人Binance Markets Limitedに対し、FCAの事前の書面同意なしに規制対象業務を行うことを禁止した。その後バイナンスは、金融プロモーション規制への対応により、2023年10月から英国の新規ユーザーの受け入れを停止した。

バイナンスは2023年11月、銀行秘密法(BSA)違反、送金事業者としての未登録、国際緊急経済権限法(IEEPA)違反を巡り、米司法省などの米当局との間で総額43億ドル超の包括的解決に合意した。同日、創業者のChangpeng Zhao(チャンポン・ジャオ)氏も、実効的なマネーロンダリング対策プログラムを維持しなかった罪を認めてCEOを退任し、Richard Teng(リチャード・テン)氏が後任に就いた。

バイナンスは2026年時点でも、世界最大の暗号資産取引所である。同社が7月に発表した創業9周年の声明によると、登録ユーザー数は3億2300万人に達した。バイナンスのデータでは、世界の暗号資産保有者数は推計7億4100万人で、登録ユーザー数はその43%に相当する。

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