ネイルサロン「FASTNAIL」を運営する東証グロース上場のコンヴァノは5月、ビットコイン(BTC)保有戦略を主導してきた東大陽取締役が、2026年3月期に計上したBTC評価損に係る経営責任を明確化するため、自ら退任を申し出たと発表した。6月27日の定時株主総会終結をもって正式に退任している。
東氏の退任に関して市場の一部では、暗号資産(仮想通貨)の下落相場も相まって、「引責辞任ではないか」という憶測が飛び交った。
真相を確かめるべく、NADA NEWSは7月10日、退任後の東氏に単独インタビューを実施。暗号資産の保有や活用を上場企業が行う難しさやコンヴァノの挑戦の舞台裏、新たにコンサルティング企業の代表として再始動した東氏に迫った。
なおコンヴァノは7月24日、約87億円相当の保有暗号資産の全売却を発表。3カ月以内をめどに売却を終える計画としており、東氏の退任に続き、暗号資産事業から撤退する姿勢が鮮明になっている。
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退任は自らの申し出
「外から見れば、ビットコイン下落の責任を一人で背負わされたように見えちゃうだろうなとは思っていました。そう見えてしまったのは僕の失敗なんですけどね」
取材冒頭、「引責辞任」の噂についてストレートに切り込むと、東氏は苦笑しながらも、晴れやかな表情で答えた。一部メディアやSNSの見方を、本人は明確に否定した。
退任の経緯を尋ねると、東氏は複数の理由を挙げた。1つ目は事業フェーズの変化。本業であるネイル事業の立て直しや、東氏が仕込んできたヘルスケアなどの新規事業が一定の形になり、会社は「0から1の立ち上げ」から「1から10の拡大」フェーズにシフトするタイミングを迎えていたという。

立ち上げを得意とする自分から、拡大が得意な人材へバトンを繋ぐのは経営戦略として当然の判断だとした。
2つ目に挙げたのが、上場企業としての説明責任だ。ビットコインに対する自身の長期スタンスは今も変わっていないとしつつも、上場企業である以上は四半期ごとに結果が問われる立場にあると説明。「何かしら責任を取ったほうがいいだろう」と自ら判断したという。取締役会の1カ月ほど前に自身から退任の意向を伝え、社内調整を経て次期取締役の選任に至ったとし、「後悔は一切ない」と説明した。
株主総会でも「なぜ辞めるのか」「一人に責任を負わせているのではないか」という趣旨の質問が出たというが、その場でも同様の説明をしたという。
PLの含み損と資金調達力のギャップ
東氏は2024年にコンヴァノに参画。2025年6月には取締役に就任すると同時に、同社のビットコイン戦略の舵取りを担う「BTC保有戦略室」の室長に就いた。
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同社が暗号資産の保有や活用を進めるようになってから約1年。上場企業がこうした「デジタルアセットトレジャリー(DAT)戦略」を主導する中、最も難しかった点は何だったのか。
東氏に尋ねると、会計上の評価損と実際の資金調達力とのギャップを指摘した。
同社もPL(損益計算書)上で含み損は発生したものの、同じ株式の希薄化率でもともと60億円だった資金調達力が102億円規模まで拡大できたと説明した。
東氏は「私の認識では、同程度の希薄化でより多くの資金を調達できたことは、財務基盤の強化という観点では一定の成果だったと考えている」とし、「これはBS(貸借対照表)の観点から見れば、圧倒的にポジティブな成果」だとした。
そのうえで、「私個人としては、短期的な株価や会計上の評価だけではなく、その時に得られた資金を将来の成長にどう活用するかという視点も重要だと考えていた」と振り返った。
また、当時は東証グロース市場の上場維持基準も経営上の重要な検討事項の一つだったという。
「経営には様々なリスクを想定した上で資本政策を考える必要があるとし、その観点も踏まえて意思決定を行っていた」と東氏。「選択肢が少ない会社は、自分たちに不利でも生き延びるための選択を迫られやすい」としたうえで、BTCの保有を始めたことで時間を確保できたからこそ、腰を据えて新規事業に取り組むことができたと明かした。
田端信太郎氏との対談
同社のBTC保有戦略を巡っては、アクティビスト投資家として知られる田端信太郎氏と今年1月に行った対談も話題になった。
田端氏から、「コンヴァノは、ビットコインを買わなくてもいいのでは」という指摘が動画であったことを聞くと、東氏は「1月時点で考えれば、その通りかもしれない」としつつ、「去年の夏の時点では状況が違った」と説明した。
新規事業が軌道に乗った今なら「なくても良かった」と言えるものの、BTCの保有を始めた当時は新規事業がまだ軌道に乗るかどうか分からない段階で、上場廃止リスクを頭に入れながら純資産を積み増す必要があったと強調した。

新規事業という「次の有力な投資先」が社内に育ったことを受け、同社は東氏の在任中である2025年11月、IRで公表した通り、当初計画していた2万1000BTCの保有計画を見直した。東氏は「事業環境の変化に応じて、資本配分を柔軟に見直すことは合理的な判断だったと考えている」と振り返った。
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また、値動きの激しい暗号資産を上場企業が持つことへの懸念に対しては、「実はリスクのブレ幅で言えば、新規事業の方がよっぽど激しい」と指摘。「失敗すれば文字通りゼロになるし、BTCの値動きどころじゃない損失になることもある」とする。
ただ、新規事業のリスクは人件費や固定費の中に隠れてしまうため、財務諸表上ダイレクトに見えにくいと指摘。「BTCは評価差損が四半期ごとに、ダイレクトにPLにヒットして開示されてしまう。だから問題になりやすい」とし、「本質的なリスクの性質は、新規事業に投資するのもBTCを買うのも同じだと考えている」と明かした。
コンヴァノの経験生かし、新たな挑戦へ
四半期ごとに評価を求められる上場企業とBTCの評価損益は相性が悪く、DAT戦略を行う上での難しさがうかがえた。上場企業では短いスパンで取締役の合意を取り、IRを通じて株主や市場の信任を維持し続けなければならない。
上場企業が暗号資産の保有や活用を進めるうえでの「壁」はどこにあるのか。他の企業へのアドバイスを求めたところ、東氏の見解はシンプルだった。
東氏は制度や会計基準以上に、社内でDAT戦略を自分ごととして推し進める人材がいるかどうかが分かれ目になると指摘。「取締役会の決定で担当者に割り当てられただけでは続かない。自分で推進できる人がいるかどうかだ」と強調した。
退任後、東氏はすでに新会社「テークオフ」を設立し代表に就任している。

現在は経営・業務コンサルティングを複数社に提供しているほか、もう一つの柱として、暗号資産を保有する企業向けのサービスを開発中だという。暗号資産を保有するだけでなく収益を得られる仕組みや、事業でキャッシュが必要になった際に暗号資産を手放さずに資金化できる枠組みの提供という、2つの課題解決を目指すとしている。
コンヴァノで得た知見を基に、東氏の挑戦は続いている。
※本インタビューにおけるコンヴァノに関する発言は、東氏の在任当時の経験および個人的見解に基づくものであり、現在のコンヴァノの経営方針や将来見通しを示すものではありません。また、特定の有価証券や暗号資産への投資を推奨するものではありません。
|取材・文・撮影:橋本祐樹
|トップ写真:コンヴァノ前取締役で、テークオフ代表の東大陽氏


